女装転移者と巻き込まれバツイチの日記。

中谷 獏天

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旅立ち。

転生の書。

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「コレ、この温泉の部分、明らかに神話研究家の転生者とは別の人が関わってるわよね」
《でしょうね、若くして亡くなった女性だったそうで、いくら何でも温泉や保養地の構造にココまで造詣が深いのは違和感が有りますからね》

「転生者を転移者が見付けたか、神々や精霊が協力したか?」
《まぁ、じゃよね。ドイツに現れた転移者が温泉の名手でな、ブルーラグーンの開発に際しその者を見付け、助力したんじゃよね》

「誰かがロウヒになってしまうと分かってたんですか」
《いや、半々じゃよ、じゃから念の為に悪しきロウヒ用はキャラバンに任されておった。じゃが良きロウヒが誕生したで、手紙は焼き払われた》

「前から思ってたんですけど、キャラバンにソロモンさん関わってませんか?」

《まぁ、下半分での加護はしてらしゃる、とは聞きますが。あからさまに介入している、との噂は無いですよ》
《条約違反じゃしねぇ》

「そろそろご挨拶すべきかしら?」
《いえ、寧ろ向こうで目立つ事は控えた方が良いかと、時に一神教の敵は一神教でも有ると聞いているので》

「ぁあ、じゃあお礼をココで祈っておくわ」
《えぇ、是非》

 意外にも早くロウヒとイルマリネンにもお会い出来ましたし、魔道具のドアや鏡、それから通訳の指輪も作って頂けましたし。

「ふぅ、簡潔にと思ったのに長くなっちゃったわ」
《ココも、そろそろフィンランドへ戻りましょう、このまま行けばヘルシンキで船と合流出来ますし》

「ぅう、名残惜しいわ、青い温泉様」
《泥を1樽も頂いたんですし、またドアを使って来ましょう》

「そうね」

 そして夜明けにフィフラに挨拶し、ロウヒの家へ。

《また来て頂戴ね》
「はい、ありがとうございます、また」

 ロウヒの家からワイナミョイネンの家へ、そしてドアを開け、森へ。

《イルマタール、ココら辺でしか採取出来無い植物等はありますかね》
《ふむ、ミエリッキ、豊穣の女神の名を呼ぶと良かろう》



 ココの方って、熊を凄く神聖視してらっしゃるそうで。

 殺した、では無く倒した、倒れていた。
 そう事故死とし、儀式で輪廻転生を願うんだそうで。

『ウチのタピオもそうなんだけど、もう本当、森なら私達って感じで。あ、ソコ、クラウドベリーよ』

「ありがとうございます、私の知ってる民族と似てますね、アイヌと呼ばれてまして」
『あぁ!そうそう、交流が有るわよ』

 なん、だと。

「おしょうゆ漬けのイクラでゴハン食べたいですぅ」
《とうとう限界が来ましたかローシュ、誕生日がいつか教えてくれたらあげますよ》

「秋」

《まぁ、良いでしょう。キャラバンに頼んでありますから、下からの海路で秋には届きますよ》

「どっかの港で引き取りたい」

《何月ですか?》
『まぁまぁ、ほら、コレがグースベリー』
「ありがとうございます」

 まだ時期では無いので、苗として素焼きの植木鉢に頂き、ルツにしまって貰う。
 私の影の中は半ば死の国だから、入れると死滅しちゃうのよね、だからガルムの発酵は止まってる。

 滅菌殺菌出来て便利よね、コレでお刺身食べ放題、イクラ食べ放題。

『ふふふ、そんなにお魚が好きなら、ザリガニはどう?』
「泥抜きが大変そうでは?」
《まぁ、ソレも夏じゃけどね》

 vappuヴァップと呼ばれたり、それこそドイツではワルプルギスの夜とか呼ばれる春を祝うお祭りが少し前に有ったそうで、つまり今は5月ちょっと過ぎた頃。
 うん、3ヶ月はちょっと、ドイツに先に行けば良かったかしら。

『もう住んじゃったら?』
「魅力的なお誘いですけど、どう、住めば良いので?」
《イーの少し端で適当に建てて住めば良かろう、オウルからは直ぐじゃし、水路も使えるでな》

「そんな雑で?」
《海沿いの陸路の整備は攻め入る為なのか知らんが、自称一神教共がやってくれたで、便利じゃからとココの者で無いのも適当に住んどるんじゃよね》
『ほら、皆の土地だと思ってるし、自分達が住まわせて貰ってる感じで居てくれてるから。よっぽどの者で無ければ、特には干渉しないのよ』

《ちょっと良いですかイルマタール、どう整備してました?》
《地図を持っておって、こうじゃっ!って、精巧じゃったで既に道が書かれておったわ》

「ぅわぁ、凄い記憶力のが向こうに居るかもじゃないですかぁ、うわぁ」
《やはり、鎖国しか無さそうですね》
《それか迎撃じゃよね》
『コテンパンにやっつけちゃえば良いのよ』

「そうしたいのは山々なんですが、散らばっててどうにも」
《まぁ、ココには居らんしな》
『面積の割に人は疎らだし道は悪いしで、大きい道路だけ、しかも途中までで引き上げちゃったのよね』

「逆に言えば安全」
《まぁ、そうですね、蚊さえどうにかすればですが》
『窓にはシルクスクリーンと、出入り口にハーブを焚いておけば大丈夫よ』

「うん、そうした魔導具や家の準備が整って、夏になってから考えましょう」
《じゃよねぇ》
『慣れれば楽しいわよ、慣れれば』

《所でローシュ、誕生日月は?》

「9か10」

《何を心配しているんでしょう》
「星座とか」

《ぁあ、神々の加護にも関わるかも知れませんからね》

 と言うかまぁ、うん、そうしておきましょう。



《ローシュ様、前の世界の地図、どれだけ覚えてます?》

 イーまでの水路で、何気なくローシュ様に聞いただけなんだけど。

「ファウスト、常人に道の暗記までは不可能よ」

 兎に角、凄い強敵だって事は分かった。
 でも。

《でも、もう亡くなってる筈ですよね?》
「流石に100年以上前の事だと言ってるけど、ギリギリ生きてるかもなのよ」
《理論上は人間は130までは生きられるそうですよ》

《へー、あー、そっか、そこにエルフの血が入ってたら生きてるかもですもんね》
「確かに、そうなると余裕で生きてそうね」
《最悪はそうかも知れませんね》

「そうなると、やっぱり籠城戦は精神的に凄く悪いわよね」

《はい、残念ですが》
「ゲリラ戦を相手にするのが如何に消耗するか、ルツ、お願いね」

《はい》

 そもそもキャラバンみたいに誰が代表なのか分かっていない、しかも特定の国に住む誰かじゃない事が、迎撃を難しくさせる要因なんだって。

《ぅーん》
「はいローレンス」
『国同士の争いなら、国同士で話し合うか戦争になるか。けどコレもキャラバンと一緒で、同じ目的で繋がっている者同士が共同体となって、各国の意志とは別に秘密裏に動いてたら。国は把握出来無いから抑える事も出来無い、例え把握してても手出しが出来無い』

《でも、地図を持って来て整備した人は、キエフ共和国の者なんですよね?なら神託で》
《悪さをしていないなら、単に一神教を追い詰めるだけになってしまいます》
「何より、神託だけではね、難癖を付けたとされたらコチラが追い詰められてしまう」

《神託は日に1回とする国も有る、しかも介入度合いを調節する為に抽象的であったり。基本的には農作物や川の氾濫等に言及する事が殆ど、そして仮に見張れと言っても多神教の国で悪目立ちする様な事はしないでしょう、神の目の存在は認識しているんですから》

《となると、多神教では無い国で計画してるって事ですよね?》

《ポーランドは既に向こうの世界と同様、神の座が空いてしまい、一神教に制圧されました。そしてオーストリアもクランプスとペルヒタ以外の神話が消し飛び一神教化し、フランク王国も土地の大きさから一神教を推し進めようとする者が国境沿いを行き来している》

 キエフ共和国、ロシア自治区、スロバキアにはスラブ神話が有るので、一神教は受け入れてるけど多神教派。
 それとチェコとハンガリーは建国神話が向こうと同じで根付いてるから、一神教化はしてないって。

 けどユーゴスラビア王国は神話が混ざり過ぎて不安定で、内乱も有って一神教化が進んでるって。

 でもスロベニアはルーマニアと同じで竜を信仰してて、しかも周りに反発して、ある意味で竜とシャモア神教らしい。

《へー》
《スロベニアの都リュブリャナにはZmajskiズメイスキmostモスト、竜の橋が存在しており。ズラトロク、金の角を持ったシャモアが黄金羊と竜と共に地底で眠っているとされているんです》

 そして隣りのモルドバはフィンランドと似た様な状態だったけど、民話だけだから自然崇拝派。
 ブルガリアも民話体系が強いけど、多神教派だって。

《となるとブルガリア、スロベニア、スロバキア。チェコとハンガリーと、キエフ共和国、ロシア自治区が比較的協力国だって事で良いんですよね?》

《それとベルギーはケルト神話が根強いので安定しています、ただスイスは無神論者だとして宗派を表明してはいませんが、微妙な状態ですね》

《ぁあ、大罪が居るって噂ですもんね》
《偽一神教にしてみたら攻めるべき国ですから》

《あ、オランダはどうなんですか?》

《実はオランダとポルトガルは、実質キャラバンの支配国なんですよ》



「えっ、そうなの?」

 ローシュにも黙っていたのは、それこそ褒められたやり方では無かったから、なんですが。

《ポルトガルの神話、ルシタニア神話を守る為、かの女神エポナも奉られた多神教だったので消される前にと。それと、ソチラで一神教を使い日本人すらも奴隷として扱った事、コルクの産地等からキャラバンが率先して支配したんです》

「でも、オランダは寧ろ」
《向こうでは争いに巻き込まれ寛容と受容の国になった、そうして柔軟性が生まれ貿易を発展させた。その事を伝え、神話を守る対価に後ろ盾になって貰ったんです》

「ソロモンさんが?」

《ソロモン神を末裔とする一族が、ですね、表立っては誰もそうだとは言いませんが》

 そして私にも、もしかしたらその血が流れているかも知れない、キャラバン出身な事もあり魔法学校でも噂されていた。
 それは一方には忌み嫌われる情報、片方には歓迎される事なんですが、確定させる要素も無く。

「ウムトも?」
《家系図が敢えて存在していないので、確定では有りませんが、だそうですよ》

「流石、凄い、だからねって感じよね」

《私にも血が流れてたら、どうしますか?》
「え、私で良いのって感じよ、凄い血筋なんだもの」

《嫌では無いんですね》
「ぁあ、一神教にも種類が有るものね、その一方からは確かに悪とされてるでしょうけど。別に、敵対してたら何処もそうなるでしょう、敵は悪なのだし」

《子は止めますか》
「いえ、なら余計にご挨拶したいけど、本来のシルクロード沿いがどうなってるか。何、今更気にしてるの?」

《一応、かなりの巨悪とされてますから》

「ウチの王もだし、別にココのソロモンさんが本当に凄い悪い方だとは、寧ろ明主だと思うけど」
《良いなら良いんです、可能性は無くは無いと言うだけなので》



 ルツ、そんなに気にしてたんだ。

『ローシュの言う通り、凄く悪いって事はそれだけ強いって事なんだし、別に良くない?』
《そうですよ、それだけ強い神様の子孫かもって、凄いじゃないですか?》
『でも、だよファウスト、敵対者が多いって事にも繋がる』
『ですけど、ココでは』
《ふむ、もう着くで、後にした方が良かろう》

 そこからオウルまでは馬車。
 本当に舌を噛みそうになるから、中では黙ったままで、途中のハウキプダスでも普通に休憩して終わり。

 オウルに着いてからも、少し海沿いを行ってからセレッサの海中遊泳で話題が逸れて。

《凄い、海の中、凄い》
「海底探索し放題よねぇ」
《ですが物を持って帰るなら、降りていた方が良いのでは?》

 そう聞いたからか、セレッサが手を広げると。

『ぁあ、また、もうセレッサは何で急に動くんだ』
『持って帰れるぞって事だよね、うん、偉い』
《凄い、便利》

 膜が2つに分かれて、両手じゃなくても大丈夫だって教えてるだけ。
 ローレンスはセレッサが生まれる時に居なかったから、どうにも不安なのかな。

『大丈夫だよローレンス、話さないけどセレッサは賢い子だよ』
《寧ろ賢いからこそ、敢えて話さないのかもですよねぇ》
『沈黙は金とも言うけど、心臓に悪いよセレッサ』

 そう言うと余計に悪ノリしちゃうんだよね、より精霊とか神に近いからか、悪戯好き。
 手を動かして僕らの居る膜を咥えて、更に速度を上げた。

《ほら、ちゃんと聞いてる、ふふふ》
『分かったよセレッサ、だから、君は良い子なんだから安全を1番にしておくれ』
『安全なら好きにして良いよセレッサ、僕は面白いし』

 僕も帰ったら黒海で練習してみよ。



「はぁ、楽しかった」
《ほら、ローシュ様は楽しむ筈だって言ったじゃないですか》
『高いのはダメで水中は良いのかいローシュ』

「ローレンス、泳げないの?」
『寧ろ泳げる方が稀有だからね?』
『練習しようねファウスト』
《はい!ネオスさんも練習しましょうね》
『あの、何処で、川で練習するんですか?』

「そうよね、初めての子は怖いでしょうし、例の温泉地に練習場所を作らせる?」
《良いですね、そうしましょう。出れば、ですけどね》
『もー、疑うなら僕じゃなくて子供の方を疑ってよね』

《そもそも報告すべきでは?》
『だって匂いが変とかも聞いて無いから、単なる不定期に湧く湧き水かなと思ったんだもん』
「まぁまぁ、出る可能性が。そうよ、地図が有れば出るかどうか分かるのよね、温泉」

《道が発展していればほぼ確定でしょうね》

「実質、宝の地図よね、どう得ましょうか」

 キャラバンに頼めばキャラバンが疑われるか、洗脳されてしまう。
 なら。

『俺がスペインに行きますよ、アイルランドよりは地続きのスペインの方が逃げ出す事も楽ですし、言葉も文も出来るのは俺だけですから』

 ローシュに認めて貰うには、実績だけじゃなく歳月も必要。
 なら俺が行くべき、この中で適格者なのは俺だけ。

《最悪は洗脳される可能性も有ります、そうなると無事に戻って来れても》
『隔離も尋問も覚悟してます、それこそ失敗も、けど成果を出すには内部に誰かが入り込まないと。結局は誰がやるか、最悪はネオスがローレンスを引き継いでも良いし、他の誰かが継いでも良いんですから』

《異端審問だと言って拷問する宗派ですよ》
『なので実際に使えるかどうかは別にしても、仕込み毒や魔導具の準備をお願いします、流石に無手は厳しいので』

「その前提で、少し考えさせて」
『はい』

 自分の使い所は、正に今。

 そして命運によってローシュと居られないと決められているなら、きっと失敗する筈。
 けれどもし成功するなら、神々が認めてくれたと少しは思える筈。

 そう信じて、目的を1つにして挑まなければ、きっと本当に洗脳されてしまうだろう。



『ローレンスは、ココで命を掛けるんですね』
『ネオス、羨ましいだろう』

 彼は良く憎まれ口を言う、けれども悪意と言うよりは、気遣いで。
 気に病むなと言ってくれている。

『そうですね、凄く羨ましいです』
『残念だったね、スペイン語を習得して無くて』

『ですね』

 王族としても、コルクを輸出するポルトガルが重要だと考えており、特に書面での取り交わしを重視していた。
 だからこそ、ポルトガルの文なら少しだけで、スペインの文に至っては全く。

 王族として生きようとしていれば、もっとローシュの手助けになれていたかも知れないのに、病と女性を恐れて顔を焼いた。
 王族として最低な行為、王族の責務から逃げ出した。

『歯応えが無いとつまらない、砂か泥を食ってるみたいなんだけど』
『もっと勉強していればと思って、反省してたんです』

『貴族だったにしても十分だと思うけどね、それこそ国婿にしても王族にしてもだ。後は臣下との信頼関係の問題なのだから、全ての国の言語を扱えるなんて、キャラバンの者でも少数なんだし』

『ローシュを守るには、それでも足りないですけどね』

 結局は書面。
 言葉は大事ではあるけれど、最終的な事は全て書面に詰め込まれる。

『こうして人は欲張りになるのだろうね、それともワイナミョイネン神にでもなるつもりかな』
『言葉、文字の神、いらっしゃるんでしょうかね』

『ローシュの国には居るんじゃないか?凄い数が居るのだろう?』

『確かに、そうでしょうけど』
『しかも海で繫がっている、もしかしたら助力してくれるかも知れないよ』

 文字の神。
 私は、何を対価として差し出すべきなのだろうか。
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