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旅立ち。

船を得ました。

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「お疲れ様、アンジェリーク」
『いえ、旅はコレから、先ずは入浴してきますね』
《ならアンジェリークはアナベルの家へ、ネオス、案内を》
『はい』

《私は船の検品へ行きますね》
「お願いねルツ。ローレンスも、お疲れ様」
『いえ、俺も先ずは入浴させて頂きますね』

「はい、行ってらっしゃい」

『船の設備を使わせてあげられたら良かったんだけどね』
「アンジェリークは何も知らないままが1番、はぁ、やっぱり顔を見ると安心するわね」

『優しいねローシュ』
「はいはい、食事の準備をしますよアーリス」

 結局、セレッサが大きくなるより、船の方が先に到着しちゃった。



《あー、到着してたなら教えてくれても良いじゃないですかー》
「お勉強が最優先、お帰りファウスト」

《ただいまローシュ様》
「はい、ローレンスがお風呂に入ってるからそのまま入って来なさい」

《はーい》

 お風呂の後、アナベルやアンジェリーク、ローレンスとも一緒に夕飯を食べる事に。
 仲が良さそうに見えるけど、どう見ても。

『兄弟まで与えて下さって、ありがとうございますローシュ様』

「アンジェリーク、ローレンスの何がダメなのかしら?」
『私には勿体無い方です、私は私を良く理解しました。なので名ばかりの妻にはなれても本当の妻にはなれません、どうかローレンスに良い人をご紹介下さい』

 ローシュ様を信仰するアンジェリークには、流石のローレンスも勝てなかったって。
 使命に燃えてるから何してもダメだったみたい。

「そう、考えておくわね」

 夕飯後、アンジェリークがアナベルの家に行ってからが本番で。

『頑張ったんですけど、教えには勝てませんでした』
「みたいねローレンス、ある意味では安心だけど。あの子には、もう少し夢を持たせるべきだったかしら」
《愛だ恋だと愚かな方が逆に楽な場合も有りますが、アンジェリークの事は、方向性を変えましょう》

「そうね」
『じゃあご褒美を下さいローシュ』

「もう大人でしょうローレンス、爵位も有るんだから」
『じゃあルツ、褒美にローシュを貸して下さい』
《良いですよ》
『僕達からのご褒美ね』

 有無を言わさないでアーリスさんがローシュ様にキスをして、そのままローレンスさんがローシュ様にキスをして。
 竜の体液の効果は数日で切れるみたい。

 だから僕がローシュ様に認めて貰うには、先ずはアーリスさんに認めて貰わないといけない。
 じゃないとキスだけで僕は死んじゃう。

「先ずは話し合いをしましょう」
『船でも出来ますし、出発までは時間も有りますし』
《私達は準備をしないといけませんしね》
『早く寝ようねファウスト』
《はーい》
『おやすみなさいローシュ』

「ちょ」

《ローレンスも知ってしまいましたからね、それなのに目の前で待て、は辛いでしょう》
《爆発されても困りますもんね》
『そうそう、下半身が爆発したら洗濯の手間が増えるだけだし』
『暖かくはなってきましたけど、まだ水は冷たいですからね』

 僕はまだ爆発した事は無いけど、大変らしい。

《ぁあ、寝物語に良い話がありますよファウスト》
《なんですか?》

《男だけに伝わる赤い玉の伝説です》



 知る前と知った後では、全く違う。
 偽りの空腹感と、餓死しそうな空腹感ではワケが違う。

「ローレンス、どうにか他を見てくれないかしら」
『コレからも見に行きますけど、俺が性欲で判断を誤っても良いんですか?』

「右手と左手が居るでしょ」
『全然違うって知ってますよね、それとも教えましょうか』

「いえ、良く知ってるので結構です」
『生憎とアナタしか知らないので、ずっとアナタだけを思って我慢してたんですよローシュ』

「良い人に巡り合えると良いわね」
『ですね、だから俺が判断を誤らない様に、冷静にさせて下さい』

「はいはい」

 ローシュは俺の申し出を断れない。
 死地に送りこんでしまったかも知れないと悩んでいる、そう聞いていたからこそ、ローシュは罪悪感からでも俺に抱かれてくれると思っていた。

 そして狙い通り、受け入れてくれた。

 アンジェリークには全力で愛していると伝えたのだけど、自分よりもローシュを支えて欲しいと言われて、直ぐに諦めた。
 兄弟の様な立場を欲していた彼女には、兄弟として存在する事に。

『結局、結婚はするみたいですよ。俺は同志で兄弟、妾を作る事も受け入れたそうですよ』

「アンジェリークの柔軟性が怖いのだけれど」
『出来る事が限られているからこそ、必死なんですよ』

「そう無茶をして欲しくは無いのだけど」
『アレも俺らと同じ、少し自分より劣ると思える者の方が良いみたいで、キャラバンに連れて行かせた男に少しだけ心を寄せてましたし。向こうで理想の相手に会うまではと、そう決めてしまってるんですよ』

「そう、ルーマニアで子を成そうとしてくれてるのね」
『そしてココへ妾を連れて来ても、誰も何も思わない、俺が居ないなら尚更』

「そうアンジェリークに思わせたんでしょう」
『それが理想的だと話し合いはしましたけど、決めたのは彼女ですよ』

「私が、凄い悪女にしか思えないのだけど?」
『俺や周りがそう仕立ててるだけで、アナタは聖女ですよ、こうして献身してくれてるんですし』

「神性娼婦ね、もう少し若い方が良いでしょうに」
『神々が若い者だけを寵愛するだなんて決め付けは、寂し過ぎるのでは?』

「まぁ、それだと年寄りには夢が無いものね」
『俺は成熟してる方が好きですよ、柔らかくて、征服欲が満たされる気がしますし』

「年を取れば変わるわよ、動いて貰う方が楽だもの、色々とね」
『じゃあもっと頑張りますね』

 恋焦がれる事へ焦がれる方が楽だった。
 本当に恋焦がれるとは、まさに身を焼かれる様な苦痛だった。



《異国の才女の甥が共同制作した新しい帆船、その褒美に賜った帆船を使い、更なる知識の吸収へと美青年が旅立つ。夢を売るのも国の仕事ですよローシュ》

「そう作られた看板だと知るのは、公女様達と僅かな者だけ」

 平民の希望、ローレンス・カサノヴァ子爵。
 そして同じく、海を渡った平民でも貴族となれると知らしめた、アンジェリーク・カサノヴァ。

 才能さえあれば平民でも貴族になれると証明した、アナベル・アシュリー=クーパー勲功爵。

《コレでも不安なんですが、そう長居するワケにもいきませんし》
「後はアンやフランクに頼むしか無いわよね」

《サンジェルマン家も来るそうですし、お任せしましょう》
「そうね、お世話になりました、ブリテン王国」

 木の板バネの馬車、駿馬が2頭、それに川船用の収納式帆船が積まれた外洋用の大型商業帆船。
 見た目は普通ですが、魔法と秘密が詰まっている船。

《さ、案内しますよローシュ》
「是非お願い」

 本来なら魔法と魔道具で2重に封印されている構造部へも入る事が出来る、特別な印章の指輪をローレンスから受け取り、内部を見て回る。

《指輪を、こう、するんだそうで》
「この仕組み素敵、欲しい」

《後で作らせましょうね》

 印章の部分を裏返す事で、単なる簡素な指輪に見える仕組み。
 けれども指輪を外し印章を動かし表にすれば、魔道具としての能力も発動する。

「お願いね、蓋だと毒物が入ってるか疑われてしまうし」
《ですね。この船の型はキャラック船よりも小型のキャラベル船寄りだそうで、操舵の点も小回りが利くんだそうです》

「全然、船の事は知らないのよね」
《コロンブスが乗ったとされるのがキャラック船だそうですよ》

「ぁあ、到達しても良いから絶滅させないで欲しいわ」
《正史派にはそれも踏襲すべき行為なのかも知れませんね》

「絶対に阻止しないと」
《はい》

 神々がローシュを重用するのは、何も多神教だからだけでは無い。
 他の神々や信仰を守ろうとするからこそ、神々に愛される。

「節も歪みも無い、綺麗な骨組み、この知識が有れば」
《もうココに有るんですから大丈夫ですよ、さ、次は客室へ》



 とても小さい個室だけれど、トイレは外に有るし、窓も大きいしベッドがしっかりしてるのが好き。

「アンジェリーク、もう少しだけ我慢してね」
『いえ我慢だなんて、お金を払っても同じ事をしたいって方も居るんですから、私には幸せな事です』

「なら楽しんで、お酒の味も覚えて、良い物を覚えて」
『はい』

 お天気が悪い時や暗くなったらお酒を飲んで、早く寝て。
 それで起きても暗い時はゆっくり食事をして、運動をして。

 体が暖かくなったら温水で体を拭いて、頭を洗って。

 お風呂の事は残念だけど、もう少し暖かくなったら、甲板で水浴びでも良いって。
 寒い時期は陸路、暖かい時期は海路が良いって、確かに本当にそう。

 早く暖かいお風呂に入りたいなぁ。  



「ルツにお世話になっております、ローシュです」

 今回、キャラバンの方達に操舵をお願いしている、その殆どが男性。

 月経だ妊娠だとなれば女性はコスパが悪いし、力仕事はどうしたって男性の方が有利だし。
 男性様々なのよね本当、冗談じゃなくて。

『いえ、寧ろルツがお世話になっているのでしょう。母から聞いています、気難しい子だったと』

 もう本当、エキゾチックが炸裂してるイケメン。
 フェロモンとエロス満載、と言うかもう溢れてる。

《ハンドキスはフリですよ、本当にしないで下さいウムト》

 名前の意味は、希望に満ちている、だそうで。
 でもどう考えてもフェロモンとエロスに満ちてるとしか思えない、ウムト。

『この人に飽きたら、いつでもお相手しますよローシュ』
「ありがとうウムト」
《彼らには十分に賃金を払っていますから、さっさと行きましょうローシュ、じゃないと本当に妊娠させられてしまいますよ》

『アーリスに許可を取れば良いんでしょう』
《私から止めるから無理ですよ、行きましょう》
「お邪魔しました」

 今はどの民族よりも商売上手とされている、シルクロードを越えやって来たキャラバン、青の民。
 あの漫画、ココで書き上がると内容って随分と変わるわよね。

《ウムトはダメですよ、既に5人も奥方が居るんですから》
「あら少ないわね」

《外の事までは関知してませんから》
「アレだけの美形なんだし、揉めないなら良いでしょう」

《ダメですよ、ウムトは、他のにして下さい》
「育てのお母様の言い付け?」

《いえ、ですけど私が下の世話をした子を相手にされるのが嫌なんです、彼の息子がこんな小さい時から面倒を見てたんですよ》
「そう年が変わらない様に見えるのにね」

 ルツの同族、エルフには会えないまま。
 魔女狩りが完全に収まれば、出て来てくれる筈だとは聞いたけれど、それまでに生き残ってくれてるかどうか。

 探しに行こうと思わなかったらしい。
 そこでも混ざり者なのは変わらないから、未だに会う意味も特に分からない、と。

《若いのならローレンスかネオスにして下さい》
「はいはい」

《ローシュ、私にばかり嫉妬させないで下さい》
「エルフの事を考えてたの、その前は物語の事。ウムトには振り回されそうだし無理よ、そんな若くないの、残念でした」

《良いとは思ったんですね》
「見る分にはね」

《もう会わせない様にしますね、甲板に行きましょう》



 指輪を外したまま侍従として乗り込み、港から離れ、甲板で操舵の方法を習っていた時だった。
 周りに他の船は居らず、ローシュが甲板に上がって来たかと思うと。

 セレッサが海へ。

「セレッサ!」

 海に飛び込みそうになるローシュをルツさんが止め、私も思わず駆け寄ったけれど。
 海面には大きくなったセレッサが。

《どうやら、セレッサは海洋生物だっだようですね》
「もー、ビックリした、そうよね。海神様も竜だものね」

 そしてセレッサは先行する様に船の先へと向かい、遠くの魔獣を食らっては大きくなり、あっと言う間に船よりも大きくなってしまった。

『海が良いなら言ってくれれば』
「急かしてもどうにもならないと悟ってたのかしらね」
《それに驚かせるのも好きな様で、誰に似たんでしょうね》

「本当、誰に似たのか」

 そうしてセレッサの加護なのか、予定よりもかなり早く、デンマーク王国のヒアツハルスへと辿り着いた。

『流石、ルツの大事な女性、ローシュの加護ですかね』
「ウムト、奥様方には蜂蜜酒やベリー、エルダーフラワーの瓶がオススメですわよ」

『ルツ、余計な事を言いましたね?』
《事実だけですよ》
「さ、行きましょうネオス」
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