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旅立ち。
アポロン様。
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全く、思いもよらない事は立て続けに起こるもので。
《ネオスを奪わないで》
巫女様、ネオスを皇族様だと知ってて、しかも元の顔が好きだからって。
ジワジワと親密になろうとしてたのに、ワシと言う邪魔が入って。
神託を伝えなければ会いに来てくれるだろう、と。
なのにまぁ、来ない来ない。
だからって椿姫が到来したと噂を広めてたそうで。
「あれ、コレ、私が来たせい?」
《そうよ!アンタみたいな淫乱売女が来たせいで、私は、もう》
神託の私的利用はご法度。
もう既に次の子が選ばれたそうで、アポロン様が謝ってる姿も声も、認識不能らしい。
《ごめんね本当、ウチの子が》
『後にしてくれるかなアポロン』
「ネオス、この子どうする?」
《ネオス》
『無理です、泣いて喚いて騒いで、コッチの気持ちはどうでも良い。だから嫌で、知らなかったんですか、皇族から廃嫡して貰えた理由』
《だって、それは、顔を焼く不始末を》
『女性に襲われて不能になったんです、それこそ最初は母ですらも近寄られては吐いた位で、勿論鏡を見てもですよ。だから焼かせて貰えたし、廃嫡もして貰えた、家族とは会わない関わらないを条件に』
「ごめんな?」
《近寄らないで!何でなのよ!私は》
『知ってると知ってたからです、けど、この人は知らなかった。知らないで尚、普通に優しくしてくれた、まるで痕が無いみたいに。同情でも無く、本当に同じに、普通に侍従として接してくれたんです』
ごめんな、馬車馬の様に働かせて。
普通って言うけど、普通と言うよりも酷使を。
《私は》
『この顔を気にしないで子作り出来るって言いたいんですか?』
《そっ》
黙ったらアカン。
認めるも同義ですわよ。
認めたら、認めたらどうするつもりだネオス。
『じゃあ、コレで諦めてくれますかね』
ネオスちゃん、何をするのかな、と。
横を振り向くと、薬品瓶を開けて、股間に。
「待った待った待った」
あー熱い、痛い、臭い。
『エリスロース』
「この、流れで言うの、躊躇うんだけど。まだ若いんだし、もうちょっと、慣れてみない?あぁ、女性に、じゃなくてもね、良いじゃない。何も逃げる為に、手足を切り落とさなくても、良いんじゃないかな」
『どうして』
「色々、勿体無いじゃない。詳しくは、言えないんだけど、出来たら、有効活用して欲しい。私の為じゃなくて、いつか生まれて来る、大事な子の為に」
クリーナの為、姪っ子の為。
曲げられない計画が有る。
クソ下らないって云われそうだけど、それでも焼くならね、うん。
説得は諦める。
『ネオス、エリスロースは大義の為に君の愚行を止めようとして、失敗してるんだけど。けどね、チャンスを上げる、エリスロースの手と君の陰部を治す。それから話し合ってみてエリスロースの大義を理解出来なかったら、今度は痛み無しで使えなくさせてあげる、どうするネオス』
あぁ、痛い、失神してぇ。
『どうか彼女の手を治して下さい、お願いします、ディオニュソス様』
『うん、どうか笑わないで聞いてあげてね、彼女は本気だから』
転生者、転移者と呼ばれる存在が居る事は知っていた。
けれど。
『アナタが?』
「おう」
『なら、本当の名前は』
「エリスロースやローシュに近い、付いて来るなら教える」
『あ、それで、大義とは』
「笑ったらって言うか、呆れたら本当に殴るからね?」
『美男美女でも侍らせる気ですか?』
「惜しい。姪っ子が転移して来たり、一緒に転移して来た子が転生しても良い様に」
『ように?』
《全人類美男美女計画、ですね》
『姪っ子ちゃん、ローシュやマリッサみたいに外見に自信が無い子だから。底上げして、喜んで転生してくれる様にしたいんだって』
《学力、常識、成熟度も無理なく底上げしつつ。ですね》
『は?』
「あ、君はそのままでも良いのよ、それこそ子孫を残さなくても良い。けど経験と知識がずば抜けてるじゃない?そこが、そこも勿体無いなって。それこそ国に戻った時も私は手を出さないし、出させない、不能だとも皆に伝える。でも、それでも良いって人が出来たら、今度は逆にしたくても出来無いのは辛いかなと」
私、と言うか私の子種が必要だからこそ。
救ってくれた、だけ?
《何故、君を救うべきだとローシュが守ったか。それは私が君の倍を生きてから、やっとローシュに出会えたからです。だから君も、もう少し生きてから、考えても良いのでは?》
『僕は同い年だから大丈夫だよ、この2人はちょっと若く見えるんだ』
『あの』
「30を過ぎてます、とっくに」
『えっ』
「ババァですどうも」
『そ、東洋人は』
「いや、まぁ、其々ですよ其々」
『いや、でも、そんな事で』
「いや、うん、だから次は止めない」
《そんな事、とは言いますが、逆に君の様に苦しむ者を防げるんですよ。君に似た者が増えれば、それだけ注目は集中しなくなる。世界の美の基準をある程度まで引き上げ、他国民の美しさも認めさせ、美しさの幅を広げる》
『薄めて広げて、だね』
『それには何百年と』
《いつか誰かが推し進めなければ、君の様な思いをする者が減る事は無いかと》
「いや、無理に増やすとかじゃなくてね、理不尽に減るのを止めたかっただけ」
『僕はどっちでも良いと思うよ、意外と良い女は居ないって知ってる。ローシュよりも良い女はウチの国内には居なかった、それこそオスマンにもね』
《まぁ、来てみても、嫌になった時は子種も性欲も消える魔法の薬でも飲ませて差し上げますよ》
「あ、探し回らなくても良いからね、好きな様に生きて死んで良いから」
『大丈夫、そこはちゃんと守ってあげる』
《うんうん、頼むよアーリスちゃん》
『アポロン』
《そう、僕がアポロン、そしてコッチは本当にディオニュソス。それと、君の計画には僕も賛成だよ、是非とも頑張って欲しいね》
彫像の様に美しい男性が、デュオニソス様の横に。
急に現れ、ローシュの両手を握り振っている。
明るく理性的な神。
デュオニソス様と対となる存在だと言われる、アポロン様。
すっかりお隠れになった、と。
なのに。
「あの、ネオスは情報量が多くて処理に困っ」
《本当に、君は昔から真面目で真面目で、なのに子供の頃から女に言い寄られて。それもコレもアホでビッチな女や男が疫病を流行らせたせいで、それで神経質になってたのに。朝焼けって良い名前だったのに、新しい、だなんて僕は悲しかったんだよ凄く。守ってあげられなくてごめんね》
アポロ様は、見守って下さっていた。
神に召し上げられたい、と何度思っただろう。
病気で水疱が出来、顔が腐り落ち、果ては死ぬ。
皇宮も都にも、そんな絵や彫刻が溢れていた。
病を広めたのは魔女だ、娼婦だと、そうして女達が焼かれた絵が。
病を移された妻が泣き笑い、怒り狂いながら夫を殺そうとする彫像が、壁画が。
モザイク画が。
舞台上でさえも、全てに病が溢れていた。
愚かな行為を忘れてはならない。
そんな恐怖の中に、唯一、美しいモノが有った。
病に侵され、愛する者の為に身を引いた椿姫の悲劇。
病が流行って直ぐ、椿姫は赤色の椿しか身に付けなくなってしまった、愛する人に移してはいけないからと。
それでも彼は彼女に会い続けた、一切の肉体関係は無くとも、語り合うだけで良かった。
けれども椿姫に症状が出てからは、今度はカーテン越しに会うだけに。
果ては会う事も禁じられ、2人は離れ離れに。
そして彼女が亡くなると同時に、彼の庭に白椿を身に着けた彼女が立っていた。
急いで庭に出た彼が見つけたのは、小さく咲く白椿だけ。
それ以来、白椿の花言葉は<清らかな愛>となった。
本当の愛とは、言葉で育むモノだ、と。
だからこそ、性行為、それこそキス1つすらも怖かった。
赤い椿を身に着けても尚、彼女を求める男の欲が、死ぬと分かっていても抱く愛が怖かった。
愛も病も女も男も、全てが怖かった。
「ネオス。と言うか神様達よ」
《僕も助けたかったよ、本当に、だから巫女に沢山の伝言を託したんだけど》
『当時の巫女の周りも絡んでて、アポロンが何を言っても助けられなかったんだ、本当にごめんよ』
『そんな、今になって』
怖かった。
自分に迫る女も男も、病を持っているのではと。
病を移されるかも知れないと、本当に怖かった。
「そうだそうだ、何か他に方法が無かったのかよ」
《けどだって魔女狩りと疫病が重なって大変だったんだよぉ》
「けど、でも、ですわよアポロ様」
《神託を授ければ神殿、神官達、それらの権力とかが集まるじゃん?上手く動いてくれなくなるじゃん?けど授けないと死んでいくし。って言うか流行り病の原因は転移者と転生者だからね?》
「は?」
凄い馬鹿が、ココに来てた。
だからルツもヴラドも警戒してたのか。
《病を持ち込んだ、若しくは広めたのは転移転生者だと、はい》
「うわぁ、凄い良い迷惑、死。死ぬだけじゃダメだな」
《そこは大丈夫、ちゃんと薬を開発してから死んでくれたから》
『間に合わなかったんだよ、転生者も転移者も、薬だけじゃ間に合わない状態だった。そして救う気が有った神々も精霊も居なかった、苦痛を和らげてやろうとも、何も』
《あ、薬の開発に必要な事は助けてあげたよ、役に立つし。ちゃんと対価の回収は出来たから、苦しみを長続きさせないであげたよ、ね?デュオニソス》
『直接では無いにしろ、人を傷付け過ぎてしまったからね』
「その余波が、ネオスか」
『うん、それはそう。うん、ごめんよ、こうなると分かっていても僕らは手を出せなかった。そしてコレからも、ローシュの様な子にしか、僕らはもう協力出来無いんだ』
『それは、何故ですかデュオニソス様、アポロ様』
《そこもごめんな、言えないんだ》
『ココでは、ね』
「まぁ、知って何か出来るとは限らないのでね、はい休ん」
《いや、ココでどうするか決めておくれ、アナトヘーリオ。悩める時間が有る時に問題が起こるとは限らない、痛み無く使えなくしたいなら今だ、けど彼女の痛みを無駄にする事になる。今までの優しさも、何もかも》
「待て、優しさって」
《君が逃げたせいで、見ない様にしていたせいでローシュは嫌な思いをした。その対価を払うか払わないかは、君が決める事。その後はもう僕らは干渉しない、例え君がどんなに愚かな道を選ぶとしても、もう助けられないんだよアナトヘーリオ。コレが最後だ》
「アポロ様、それは流石に脅迫紛い過ぎでは?」
《仕方無い。守られるのは楽だから、怯えていれば良い、と勘違いさせた事を正してるだけ。ただ、ただ守られるだけ、逃げるだけの人生を送らせる為に見守ったり神託を授けてるワケじゃない。分かっておくれアナトヘーリオ、コレは君が幸せになれる最後のチャンスなのかも知れないんだ》
「ですが、良い女が居るとは限らない、くれぐれも期待しない様に」
《もう、居るじゃないかココに、意地悪さんだね僕のエリスロースは》
「いや、そうでも無い、両方の意味でな」
《いやー、うん、上手。雄弁、ヘルメスの子か何かじゃないの?凄かったよね本当、王の奥方を落とした時、ヘルメスかって》
《何か》
『あぁ、ヘルメス、すまないね。ローシュ、コチラがヘルメスだよ』
《あぁ、アレね、知ってるのと違うって思った?僕とかヘルメス》
《アポロンのは雄弁さでは無く多弁ですね、理性的とは言われていますが、ダプネーやカサンドラにアンカサス。知っていますか、ヒュキントスの》
『ぅうん、ごめんねヘルメス。どうだろうアナトヘーリオ、それともネオスかな、ココで生きるかルーマニアで生きるか、選べそうかな?』
いや、本当、ごめん。
つい、勿体無いなと思って、つい。
「ごめんな、余計な事を」
『あの甘い、温かいワインは飲めますか』
「偶にね、スパイスはウチだともっと高いから、毎日は無理」
植生の問題が有って、地上での量産はまだ制限させてるし。
『この外見でも良いのでしょうか』
「周りが慣れるまでは驚かれるだろうけど、だからって何かする人達じゃないし。けど事故って事にするし、気にされない場所で過ごしてくれて良い、仕事さえしてくれたら構わない」
『もし、好きになったら、祝福してくれますか』
「勿論、似て無い子が生まれても良い。そもそも君の血が残るかどうかは賭けだ、好きになった相手が子供が出来ないかも知れない。それでも祝福する、君の幸せを優先する」
『相手が男でも』
「うん」
『誰かのモノでも』
「そこは、お相手や周りと相談で。私にハーレムを否定する事は不可能なので、適任者に任せる事になる」
『分かりました、宜しくお願いします』
えっ、何で即答。
《はぁ、うん、コレで安心だ》
《どうぞ迷惑料ですローシュ、受け取らないなら送り付けるだけ、手間が掛かるから今受け取りなさい》
「はぃ」
『本当にごめんね、後はもう、ちゃんと楽しんで』
《収穫祭ですね》
『うん』
《では、お先に失礼します、ありがとうローシュ》
《ヘルメス言い逃げして、本当にごめんね。じゃあねローシュちゃん、ありがとうね》
『ありがとうローシュ、じゃあまたね』
「はいどうも、お疲れ様でした」
《では、馬車をお願いできますか、ネオス》
『はい』
「え、マジで大丈夫なの?疲れてない?私は凄い疲れたんですが?」
『お陰様で鍛えられましたので』
「えー、何か嫌味っぽいのが復活してる気が」
ネオスの気持ちにローシュは、気付いて無さそうですね。
『早く乗って下さい、置いて行きますよ』
「アーリスかルツ、前に付き添って」
《では私が、良い天気ですからね》
『任せたー』
「おう、宜しく」
屈託の無い、下心の無い笑顔。
完全に、ネオスの保護者になる気でいますね、ローシュ。
《アレがローシュの本来の姿ですよ、幻滅出来そうですか、ネオス》
『難しいですね、凄く』
《ですが幻想なら、さっさと今芽生えている気持ちは忘れた方が宜しいかと》
『幻想かどうか、どう確認すれば良いんでしょうね』
《嫌になる位に向き合う事です、けど嫌にならないんですよね、どんどん好きになってしまうだけ》
『それこそ、前の顔ならまだしも、無理ですよこの顔じゃ』
《そんな女性だと、まだ思ってるんですか》
『だからこそ、そこが嫌なんだと思います』
《醜い自分を受け入れて欲しくない。ですが、それは外見の事だけ、ですかね》
『いえ、愚かさは、醜さですから』
《ですね》
『本当に、私の倍、なんですか?』
《ローシュには50を過ぎてるとは言っています》
『50前にしても、アレだけ出来るモノなのですか?』
《まぁ、はい》
『本当に、誰にも』
《私の心を動かせたのはローシュだけ、お陰で寂しさも性欲も理解してしまった。ですけど後悔しているかと聞かれれば、全く無いです。寧ろ、知らなかった過去の自分が可哀想に思える程、幸せですから》
『独占出来無くても』
《広大な綺麗な水場を独占しても、虚しいだけでは?》
『水場』
《ブドウ園、ワイン、海。何でも構いませんが、それこそあの巫女の様に神々を独占して富と名声を得られても、この世に君独りしか居なかったら。虚しい、寂しくは無いですか?》
『でもピュティアは』
《あぁ、もう巫女では無いのですから、名前で呼ばれた方が宜しいかと》
『蚊と呼ばれるのを、嫌っていて』
《あぁ、蚊、ですか》
金髪でも無い、黒いワケでも無い、中途半端な焦げ茶色の髪。
そして瞳の色も、肌の色も。
しかもどんくさい、物覚えも悪い、4人姉弟の真ん中。
1番可愛がられたのは末っ子の長男、私は本当に適当に育てられた。
そこでアポロン様の神殿に送られて、前の巫女様から指名を受けた。
そうして王宮に上がった時、初めて恋をした。
綺麗な額に飾られた王子様。
そして直ぐに、ネオスが王子様だと知った。
どうして顔を焼いて廃嫡され、平民として生きていた。
神殿で、私の直ぐ傍で。
神様が機会を与えて下さったのだと思った。
だって神様が、彼がネオスだって教えてくれたんだから。
『クヌピ』
《ぁあ、ネオス》
『神が私の事を教えたのは善意だったそうだ、けど捻じ曲げたのは君だ、と』
《あの女が言ったのね》
『あぁ、うん』
《どうして》
『前の君の方が、まだ、少なくとも控えめで可愛らしい子だったとは思う。けど』
《騙されないでネオス、あの女はマイナデス、碌な女じゃないわ》
『例えば?』
今までも冷たいと思ったけど、それ以上に、冷たい言い方。
《男をとっかえひ》
『してないよ、私にも適切な距離を保って、他の男は近付けない』
《だから、そう見せてるだけで》
『王宮の侍女も付いてるけど、そんな所も見て無いし、暴れる事も無かった』
《でもデュオニソス様の》
『そもそも、デュオニソス様はアポロン様と違ってアリアドネ様一筋、そしてエリスロースも』
《そうやって直ぐに男は》
『私は君が暴れ泣き叫ぶまで、彼女を女として見た事は無いよ』
《何よ、どうせ》
『触れたのはあの時が初めて、彼女が私に触れる事は無かった、私も。そして誘いも一切無かった、だからこそ私は彼女が巫女なのだと信じた』
《じゃあ、何で私じゃ》
『着飾る必要が無いのに着飾って、化粧をして、香水を振り撒いて。彼女は仕事で仕方無く着飾っていただけ、普段は君みたいに臭くないんだよ。甘ったるい気持ち悪い話し方もしないし、ベタベタと触れて来ない。おかしいと思ったんだ、こんな外見の私に、どうしてそうなのか。だから直ぐに神殿の仕事を減らして貰った、そんな時に彼女が来た、それだけだった。なのに、どうして私なんだろうか』
《だって、王子様だし》
『王族を誤解している所も、愚かでも素直で愚直ならまだ可能性が有ったと思うけど、愚かなままで居る限りは一生無い。有り得ない』
《ごめんなさい》
『頑張って学んで、じゃあね』
学べば、いつか振り向いて貰えるんだろうか。
学べば、どうして振り向いて貰えなかったのかが、分かるんだろうか。
学べば、いつか誰かに愛して貰えるんだろうか。
《ネオスを奪わないで》
巫女様、ネオスを皇族様だと知ってて、しかも元の顔が好きだからって。
ジワジワと親密になろうとしてたのに、ワシと言う邪魔が入って。
神託を伝えなければ会いに来てくれるだろう、と。
なのにまぁ、来ない来ない。
だからって椿姫が到来したと噂を広めてたそうで。
「あれ、コレ、私が来たせい?」
《そうよ!アンタみたいな淫乱売女が来たせいで、私は、もう》
神託の私的利用はご法度。
もう既に次の子が選ばれたそうで、アポロン様が謝ってる姿も声も、認識不能らしい。
《ごめんね本当、ウチの子が》
『後にしてくれるかなアポロン』
「ネオス、この子どうする?」
《ネオス》
『無理です、泣いて喚いて騒いで、コッチの気持ちはどうでも良い。だから嫌で、知らなかったんですか、皇族から廃嫡して貰えた理由』
《だって、それは、顔を焼く不始末を》
『女性に襲われて不能になったんです、それこそ最初は母ですらも近寄られては吐いた位で、勿論鏡を見てもですよ。だから焼かせて貰えたし、廃嫡もして貰えた、家族とは会わない関わらないを条件に』
「ごめんな?」
《近寄らないで!何でなのよ!私は》
『知ってると知ってたからです、けど、この人は知らなかった。知らないで尚、普通に優しくしてくれた、まるで痕が無いみたいに。同情でも無く、本当に同じに、普通に侍従として接してくれたんです』
ごめんな、馬車馬の様に働かせて。
普通って言うけど、普通と言うよりも酷使を。
《私は》
『この顔を気にしないで子作り出来るって言いたいんですか?』
《そっ》
黙ったらアカン。
認めるも同義ですわよ。
認めたら、認めたらどうするつもりだネオス。
『じゃあ、コレで諦めてくれますかね』
ネオスちゃん、何をするのかな、と。
横を振り向くと、薬品瓶を開けて、股間に。
「待った待った待った」
あー熱い、痛い、臭い。
『エリスロース』
「この、流れで言うの、躊躇うんだけど。まだ若いんだし、もうちょっと、慣れてみない?あぁ、女性に、じゃなくてもね、良いじゃない。何も逃げる為に、手足を切り落とさなくても、良いんじゃないかな」
『どうして』
「色々、勿体無いじゃない。詳しくは、言えないんだけど、出来たら、有効活用して欲しい。私の為じゃなくて、いつか生まれて来る、大事な子の為に」
クリーナの為、姪っ子の為。
曲げられない計画が有る。
クソ下らないって云われそうだけど、それでも焼くならね、うん。
説得は諦める。
『ネオス、エリスロースは大義の為に君の愚行を止めようとして、失敗してるんだけど。けどね、チャンスを上げる、エリスロースの手と君の陰部を治す。それから話し合ってみてエリスロースの大義を理解出来なかったら、今度は痛み無しで使えなくさせてあげる、どうするネオス』
あぁ、痛い、失神してぇ。
『どうか彼女の手を治して下さい、お願いします、ディオニュソス様』
『うん、どうか笑わないで聞いてあげてね、彼女は本気だから』
転生者、転移者と呼ばれる存在が居る事は知っていた。
けれど。
『アナタが?』
「おう」
『なら、本当の名前は』
「エリスロースやローシュに近い、付いて来るなら教える」
『あ、それで、大義とは』
「笑ったらって言うか、呆れたら本当に殴るからね?」
『美男美女でも侍らせる気ですか?』
「惜しい。姪っ子が転移して来たり、一緒に転移して来た子が転生しても良い様に」
『ように?』
《全人類美男美女計画、ですね》
『姪っ子ちゃん、ローシュやマリッサみたいに外見に自信が無い子だから。底上げして、喜んで転生してくれる様にしたいんだって』
《学力、常識、成熟度も無理なく底上げしつつ。ですね》
『は?』
「あ、君はそのままでも良いのよ、それこそ子孫を残さなくても良い。けど経験と知識がずば抜けてるじゃない?そこが、そこも勿体無いなって。それこそ国に戻った時も私は手を出さないし、出させない、不能だとも皆に伝える。でも、それでも良いって人が出来たら、今度は逆にしたくても出来無いのは辛いかなと」
私、と言うか私の子種が必要だからこそ。
救ってくれた、だけ?
《何故、君を救うべきだとローシュが守ったか。それは私が君の倍を生きてから、やっとローシュに出会えたからです。だから君も、もう少し生きてから、考えても良いのでは?》
『僕は同い年だから大丈夫だよ、この2人はちょっと若く見えるんだ』
『あの』
「30を過ぎてます、とっくに」
『えっ』
「ババァですどうも」
『そ、東洋人は』
「いや、まぁ、其々ですよ其々」
『いや、でも、そんな事で』
「いや、うん、だから次は止めない」
《そんな事、とは言いますが、逆に君の様に苦しむ者を防げるんですよ。君に似た者が増えれば、それだけ注目は集中しなくなる。世界の美の基準をある程度まで引き上げ、他国民の美しさも認めさせ、美しさの幅を広げる》
『薄めて広げて、だね』
『それには何百年と』
《いつか誰かが推し進めなければ、君の様な思いをする者が減る事は無いかと》
「いや、無理に増やすとかじゃなくてね、理不尽に減るのを止めたかっただけ」
『僕はどっちでも良いと思うよ、意外と良い女は居ないって知ってる。ローシュよりも良い女はウチの国内には居なかった、それこそオスマンにもね』
《まぁ、来てみても、嫌になった時は子種も性欲も消える魔法の薬でも飲ませて差し上げますよ》
「あ、探し回らなくても良いからね、好きな様に生きて死んで良いから」
『大丈夫、そこはちゃんと守ってあげる』
《うんうん、頼むよアーリスちゃん》
『アポロン』
《そう、僕がアポロン、そしてコッチは本当にディオニュソス。それと、君の計画には僕も賛成だよ、是非とも頑張って欲しいね》
彫像の様に美しい男性が、デュオニソス様の横に。
急に現れ、ローシュの両手を握り振っている。
明るく理性的な神。
デュオニソス様と対となる存在だと言われる、アポロン様。
すっかりお隠れになった、と。
なのに。
「あの、ネオスは情報量が多くて処理に困っ」
《本当に、君は昔から真面目で真面目で、なのに子供の頃から女に言い寄られて。それもコレもアホでビッチな女や男が疫病を流行らせたせいで、それで神経質になってたのに。朝焼けって良い名前だったのに、新しい、だなんて僕は悲しかったんだよ凄く。守ってあげられなくてごめんね》
アポロ様は、見守って下さっていた。
神に召し上げられたい、と何度思っただろう。
病気で水疱が出来、顔が腐り落ち、果ては死ぬ。
皇宮も都にも、そんな絵や彫刻が溢れていた。
病を広めたのは魔女だ、娼婦だと、そうして女達が焼かれた絵が。
病を移された妻が泣き笑い、怒り狂いながら夫を殺そうとする彫像が、壁画が。
モザイク画が。
舞台上でさえも、全てに病が溢れていた。
愚かな行為を忘れてはならない。
そんな恐怖の中に、唯一、美しいモノが有った。
病に侵され、愛する者の為に身を引いた椿姫の悲劇。
病が流行って直ぐ、椿姫は赤色の椿しか身に付けなくなってしまった、愛する人に移してはいけないからと。
それでも彼は彼女に会い続けた、一切の肉体関係は無くとも、語り合うだけで良かった。
けれども椿姫に症状が出てからは、今度はカーテン越しに会うだけに。
果ては会う事も禁じられ、2人は離れ離れに。
そして彼女が亡くなると同時に、彼の庭に白椿を身に着けた彼女が立っていた。
急いで庭に出た彼が見つけたのは、小さく咲く白椿だけ。
それ以来、白椿の花言葉は<清らかな愛>となった。
本当の愛とは、言葉で育むモノだ、と。
だからこそ、性行為、それこそキス1つすらも怖かった。
赤い椿を身に着けても尚、彼女を求める男の欲が、死ぬと分かっていても抱く愛が怖かった。
愛も病も女も男も、全てが怖かった。
「ネオス。と言うか神様達よ」
《僕も助けたかったよ、本当に、だから巫女に沢山の伝言を託したんだけど》
『当時の巫女の周りも絡んでて、アポロンが何を言っても助けられなかったんだ、本当にごめんよ』
『そんな、今になって』
怖かった。
自分に迫る女も男も、病を持っているのではと。
病を移されるかも知れないと、本当に怖かった。
「そうだそうだ、何か他に方法が無かったのかよ」
《けどだって魔女狩りと疫病が重なって大変だったんだよぉ》
「けど、でも、ですわよアポロ様」
《神託を授ければ神殿、神官達、それらの権力とかが集まるじゃん?上手く動いてくれなくなるじゃん?けど授けないと死んでいくし。って言うか流行り病の原因は転移者と転生者だからね?》
「は?」
凄い馬鹿が、ココに来てた。
だからルツもヴラドも警戒してたのか。
《病を持ち込んだ、若しくは広めたのは転移転生者だと、はい》
「うわぁ、凄い良い迷惑、死。死ぬだけじゃダメだな」
《そこは大丈夫、ちゃんと薬を開発してから死んでくれたから》
『間に合わなかったんだよ、転生者も転移者も、薬だけじゃ間に合わない状態だった。そして救う気が有った神々も精霊も居なかった、苦痛を和らげてやろうとも、何も』
《あ、薬の開発に必要な事は助けてあげたよ、役に立つし。ちゃんと対価の回収は出来たから、苦しみを長続きさせないであげたよ、ね?デュオニソス》
『直接では無いにしろ、人を傷付け過ぎてしまったからね』
「その余波が、ネオスか」
『うん、それはそう。うん、ごめんよ、こうなると分かっていても僕らは手を出せなかった。そしてコレからも、ローシュの様な子にしか、僕らはもう協力出来無いんだ』
『それは、何故ですかデュオニソス様、アポロ様』
《そこもごめんな、言えないんだ》
『ココでは、ね』
「まぁ、知って何か出来るとは限らないのでね、はい休ん」
《いや、ココでどうするか決めておくれ、アナトヘーリオ。悩める時間が有る時に問題が起こるとは限らない、痛み無く使えなくしたいなら今だ、けど彼女の痛みを無駄にする事になる。今までの優しさも、何もかも》
「待て、優しさって」
《君が逃げたせいで、見ない様にしていたせいでローシュは嫌な思いをした。その対価を払うか払わないかは、君が決める事。その後はもう僕らは干渉しない、例え君がどんなに愚かな道を選ぶとしても、もう助けられないんだよアナトヘーリオ。コレが最後だ》
「アポロ様、それは流石に脅迫紛い過ぎでは?」
《仕方無い。守られるのは楽だから、怯えていれば良い、と勘違いさせた事を正してるだけ。ただ、ただ守られるだけ、逃げるだけの人生を送らせる為に見守ったり神託を授けてるワケじゃない。分かっておくれアナトヘーリオ、コレは君が幸せになれる最後のチャンスなのかも知れないんだ》
「ですが、良い女が居るとは限らない、くれぐれも期待しない様に」
《もう、居るじゃないかココに、意地悪さんだね僕のエリスロースは》
「いや、そうでも無い、両方の意味でな」
《いやー、うん、上手。雄弁、ヘルメスの子か何かじゃないの?凄かったよね本当、王の奥方を落とした時、ヘルメスかって》
《何か》
『あぁ、ヘルメス、すまないね。ローシュ、コチラがヘルメスだよ』
《あぁ、アレね、知ってるのと違うって思った?僕とかヘルメス》
《アポロンのは雄弁さでは無く多弁ですね、理性的とは言われていますが、ダプネーやカサンドラにアンカサス。知っていますか、ヒュキントスの》
『ぅうん、ごめんねヘルメス。どうだろうアナトヘーリオ、それともネオスかな、ココで生きるかルーマニアで生きるか、選べそうかな?』
いや、本当、ごめん。
つい、勿体無いなと思って、つい。
「ごめんな、余計な事を」
『あの甘い、温かいワインは飲めますか』
「偶にね、スパイスはウチだともっと高いから、毎日は無理」
植生の問題が有って、地上での量産はまだ制限させてるし。
『この外見でも良いのでしょうか』
「周りが慣れるまでは驚かれるだろうけど、だからって何かする人達じゃないし。けど事故って事にするし、気にされない場所で過ごしてくれて良い、仕事さえしてくれたら構わない」
『もし、好きになったら、祝福してくれますか』
「勿論、似て無い子が生まれても良い。そもそも君の血が残るかどうかは賭けだ、好きになった相手が子供が出来ないかも知れない。それでも祝福する、君の幸せを優先する」
『相手が男でも』
「うん」
『誰かのモノでも』
「そこは、お相手や周りと相談で。私にハーレムを否定する事は不可能なので、適任者に任せる事になる」
『分かりました、宜しくお願いします』
えっ、何で即答。
《はぁ、うん、コレで安心だ》
《どうぞ迷惑料ですローシュ、受け取らないなら送り付けるだけ、手間が掛かるから今受け取りなさい》
「はぃ」
『本当にごめんね、後はもう、ちゃんと楽しんで』
《収穫祭ですね》
『うん』
《では、お先に失礼します、ありがとうローシュ》
《ヘルメス言い逃げして、本当にごめんね。じゃあねローシュちゃん、ありがとうね》
『ありがとうローシュ、じゃあまたね』
「はいどうも、お疲れ様でした」
《では、馬車をお願いできますか、ネオス》
『はい』
「え、マジで大丈夫なの?疲れてない?私は凄い疲れたんですが?」
『お陰様で鍛えられましたので』
「えー、何か嫌味っぽいのが復活してる気が」
ネオスの気持ちにローシュは、気付いて無さそうですね。
『早く乗って下さい、置いて行きますよ』
「アーリスかルツ、前に付き添って」
《では私が、良い天気ですからね》
『任せたー』
「おう、宜しく」
屈託の無い、下心の無い笑顔。
完全に、ネオスの保護者になる気でいますね、ローシュ。
《アレがローシュの本来の姿ですよ、幻滅出来そうですか、ネオス》
『難しいですね、凄く』
《ですが幻想なら、さっさと今芽生えている気持ちは忘れた方が宜しいかと》
『幻想かどうか、どう確認すれば良いんでしょうね』
《嫌になる位に向き合う事です、けど嫌にならないんですよね、どんどん好きになってしまうだけ》
『それこそ、前の顔ならまだしも、無理ですよこの顔じゃ』
《そんな女性だと、まだ思ってるんですか》
『だからこそ、そこが嫌なんだと思います』
《醜い自分を受け入れて欲しくない。ですが、それは外見の事だけ、ですかね》
『いえ、愚かさは、醜さですから』
《ですね》
『本当に、私の倍、なんですか?』
《ローシュには50を過ぎてるとは言っています》
『50前にしても、アレだけ出来るモノなのですか?』
《まぁ、はい》
『本当に、誰にも』
《私の心を動かせたのはローシュだけ、お陰で寂しさも性欲も理解してしまった。ですけど後悔しているかと聞かれれば、全く無いです。寧ろ、知らなかった過去の自分が可哀想に思える程、幸せですから》
『独占出来無くても』
《広大な綺麗な水場を独占しても、虚しいだけでは?》
『水場』
《ブドウ園、ワイン、海。何でも構いませんが、それこそあの巫女の様に神々を独占して富と名声を得られても、この世に君独りしか居なかったら。虚しい、寂しくは無いですか?》
『でもピュティアは』
《あぁ、もう巫女では無いのですから、名前で呼ばれた方が宜しいかと》
『蚊と呼ばれるのを、嫌っていて』
《あぁ、蚊、ですか》
金髪でも無い、黒いワケでも無い、中途半端な焦げ茶色の髪。
そして瞳の色も、肌の色も。
しかもどんくさい、物覚えも悪い、4人姉弟の真ん中。
1番可愛がられたのは末っ子の長男、私は本当に適当に育てられた。
そこでアポロン様の神殿に送られて、前の巫女様から指名を受けた。
そうして王宮に上がった時、初めて恋をした。
綺麗な額に飾られた王子様。
そして直ぐに、ネオスが王子様だと知った。
どうして顔を焼いて廃嫡され、平民として生きていた。
神殿で、私の直ぐ傍で。
神様が機会を与えて下さったのだと思った。
だって神様が、彼がネオスだって教えてくれたんだから。
『クヌピ』
《ぁあ、ネオス》
『神が私の事を教えたのは善意だったそうだ、けど捻じ曲げたのは君だ、と』
《あの女が言ったのね》
『あぁ、うん』
《どうして》
『前の君の方が、まだ、少なくとも控えめで可愛らしい子だったとは思う。けど』
《騙されないでネオス、あの女はマイナデス、碌な女じゃないわ》
『例えば?』
今までも冷たいと思ったけど、それ以上に、冷たい言い方。
《男をとっかえひ》
『してないよ、私にも適切な距離を保って、他の男は近付けない』
《だから、そう見せてるだけで》
『王宮の侍女も付いてるけど、そんな所も見て無いし、暴れる事も無かった』
《でもデュオニソス様の》
『そもそも、デュオニソス様はアポロン様と違ってアリアドネ様一筋、そしてエリスロースも』
《そうやって直ぐに男は》
『私は君が暴れ泣き叫ぶまで、彼女を女として見た事は無いよ』
《何よ、どうせ》
『触れたのはあの時が初めて、彼女が私に触れる事は無かった、私も。そして誘いも一切無かった、だからこそ私は彼女が巫女なのだと信じた』
《じゃあ、何で私じゃ》
『着飾る必要が無いのに着飾って、化粧をして、香水を振り撒いて。彼女は仕事で仕方無く着飾っていただけ、普段は君みたいに臭くないんだよ。甘ったるい気持ち悪い話し方もしないし、ベタベタと触れて来ない。おかしいと思ったんだ、こんな外見の私に、どうしてそうなのか。だから直ぐに神殿の仕事を減らして貰った、そんな時に彼女が来た、それだけだった。なのに、どうして私なんだろうか』
《だって、王子様だし》
『王族を誤解している所も、愚かでも素直で愚直ならまだ可能性が有ったと思うけど、愚かなままで居る限りは一生無い。有り得ない』
《ごめんなさい》
『頑張って学んで、じゃあね』
学べば、いつか振り向いて貰えるんだろうか。
学べば、どうして振り向いて貰えなかったのかが、分かるんだろうか。
学べば、いつか誰かに愛して貰えるんだろうか。
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