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旅立ち。

初お茶会はテンテコマイ。

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 先ずは王の奥様のお茶会へ。

 蜂蜜水メルドラトン、トルコのミントティー、コーヒーや塩味ラッシー。
 そしてどう見ても味わっても麦茶のプティサネー、懐かしい味、氷が入ってたら最高なのだけれど。

 あぁ、コレ、ウチでも流行らせよう。

《気に入って頂けたみたいね》
「ありがとうございます奥様、コレは神の飲み物です」

《あら、ふふふふ》
「本当ですよ、コレは東洋では妊婦に勧められるべき飲み物と同じ味、色合い、風味なのですから」

《それは本当なの?》
「原料を知らずに断定は出来ませんが、コレを何杯飲んでもドキドキしないのなら、ほぼ確定です。そのドキドキするモノは、子供には毒となり、大人にも害を成すのですから」

《あぁ、コーヒーは飲み過ぎれば確かにドキドキはするけれど》
「妖精の悪戯で寝ている間に足を痛める方にも良いそうで、この材料について詳しくお伺いしても?」

《ええ、良いわ、コチラにいらして》

 はい、正解、大麦を煎じて煮出したモノだそうで。
 香ばしくて美味しいしミネラルたっぷりなのよね、麦茶。

「分けて頂けます?」
《勿論よ。それにしても、東洋人は本当に医学に詳しいのね》

「あ、私めは流浪を経ての知識ですから、疑い半分で結構ですよ。下賤の馬の骨かも知れませんから、どうか厳しい目で御判断下さい」

《あら、じゃあ、話し半分で良いから色々と聞かせて》
「はい、是非」

 そう、どの時代、どの国どの世界でも女性のお悩みは下の事。
 月経、性交、妊娠。

《あぁ、潤滑液ね、けれど製法が難しいって聞くわよ?》
「海藻なら塩抜きが必要ですから、どうしても水が豊富で無けれ難しい、と言う事かと」

《あぁ、それで高級品なのね》
「粉末状にするのも大変で、すけど、もう手に入れてらっしゃる?」

《と言うか、やっぱり、大事な部分に使うから心配なの。注意事項も多くて、ね》
「あぁ、であれば鼻の穴の中に薄く溶いたモノで試してみて下さい、腫れても呼吸は可能でしょうから」

《あぁ、成程》
「それとお相手にも、新しい性欲剤だと言えば大丈夫かと。もしウチのであれば、香りも付けていませんし。もし腫れたり違和感が有れば、飲み込まぬ様に洗って、他の材料を使ったモノをキャラバンに持たせましょう」

《まぁ、有り難いけれど、その、お子が出来る方法とかは無いかしら?》

「忙しさこそ敵で御座います。良く考えてもみて下さい、お2人が忙しくお仕事をしていては、御自分が子供ならお生まれになりたいですか?私なら、私を愛し構ってくれる親元に生まれたい、寂しい思いをする為に生まれるワケでは無い。愛し愛される為に生まれるのですから、杞憂無く、穏やかに子作りが出来る環境が1番」

《では、2番は?》
「時期ですが、もうご存知でらっしゃるかと。であれば3番目、男の我慢です」

《我慢》
「より良い日より4日程前から、精を漏らさず溜めておいて頂きます。そして4日目には、ゆっくり、女性が満足するまでもてなす。ワインもミントティーも薄くては何が何だか分かりませんからね、適切な濃さで、適切な時期に苗を植える。人には年に12回も機会が御座います、けれどもブドウにしてみれば12回も御座います、そしてブドウですらも何年も掛かり、全てを結実させるのは難しい。奥様はまだ嫁いでらしたばかりだそうですから、それらをお試しになって2年目になりましたら再びご相談に乗ります、それまでは緩やかなお気持ちで楽しみましょう。1度生まれてしまえばお忙しくなるんですから、待ちましょう、ワインが美味しくなるまで」

《ぁあ、ありがとう。もう、周りが五月蠅くて五月蠅くてぇ》

 私、詐欺師と疑われても仕方無いレベルになってしまったかも知れない。
 ただ本当の事を言っているのだけど、ココまでの反応をされると、困る。



『お疲れ様でした、コチラ、奥方からの品物です』

「断れと言ったよね?」
『散々に断ってのコレなのです、コレ以上は本当に、無理でした』

 今にも泣き出しそうな顔をされては、もう。
 あの状況では、それこそマリッサが逃げなければ。

「そこを何とかするのがネオスの仕事では?」

『お礼になる様、奥方がお世話になってらっしゃる方へお礼をして頂ければと、提言させて頂きます』

「でも、何が良いのか知らないわよ?」
『コチラで調べて参りますので、マリッサも連れて回りたいのですが』

「良いですよ、但し、付き添いは免除しませんし、間に合わなかった場合の事も考えて行動してね」
『はい、では、失礼します』

 茶会の合間に次の茶会の準備。
 一切のお世話はしないで良いけれども、この外見を物ともせず、物凄く使われている。

《はいはい?》
『私の尻拭いを一緒にお願いします』

《えー、それって私のお給金のウチに入るんでしょうかねぇ?》
『見合うだけの礼はしますので、協力して下さい』

《良いですけど、査定には誰が入るんですかね?過不足は誰が確認するんですか?》

『嫌なら』
《嫌とは言ってませんけど、エリスロース様に確認して頂くのが条件ですからね》

『分かりました』
《けど、今日の付き添いが終わってからですよ。まだまだ慣れてらっしゃらないんですからね》

『はい』

 礼に過不足があってはならない。
 知っていた、分かっていた筈なのに。

 感謝と労いの気持ちに対しても、失礼な事をしてしまった。
 文句や不満では無いにせよ、言ってしまった。



《ふふふ、頭を下げにいらしたんですよ、ネオスさん》
「君、意地悪も程々にね」

《コレはエリスロース様の問題ですが、私とネオスさんの問題でも有るんです。好意を怪しむのは結構ですが、なら半分は正直に言ってお受け取りにならなければ良かったんです。それにあの物の言い方では、仕方無く受け取った、とエリスロース様に受け取られても仕方の無い言い方だったんです。そこを謝るまで、私は許しません》

『優しいね、ありがとう』
《ありがとうございます、マリッサ》
《ぅぇ、はぃ、眩しぃ》
「分かるよマリッサ、私も未だに慣れないもの」

《はぁ、心中お察し申し上げますぅ》
「ありがとう、よしよし」

《あ、何かご不便は?》
「あぁ、お夕食会ではどんなモノが出るかしら?」

《初めてのお招きですから様々なお料理がお席へ配られるかと、そこでお断りしても良いですし、残して頂いても大丈夫かと》
「あぁ、助かるわ、そう好き嫌いは無い方なのだけれど。こう、東洋人だからと驚く様な物を出されてもね、困るから」

《先に言伝させましょうか?》
「いえ、意外と食べれるかも知れないし、何事も確かめてみないと」

《流石ですエリスロース様》
「はいはい、ありがとう、さぁもう休んで。お夕食会までは時間が有るんだし、招待状の処理は終わったんだから、好きにお過ごしなさい」

《はーい》

 本当におバカさんですねネオスさんは。
 謝れないにしても、いや、もしかしてお話慣れしてないだけ?

 いや、でも私に凄い速度で言い返してきますし。
 何なんでしょうか一体。



「はい、コレ、どっちが良い?」
『艶やかなのはコチラですが、控えめが宜しいならソチラかと』

「似合うかどうか」
『どちらもお似合いかと』

「艶やかでも構わない、そうですか、成程。椿」
『いえ、そう言うワケでは。本当にどちらもお似合いですし、それこそ不敬を働く者が……居ましたが、護衛の方もお強いので問題は……親しい者にだけ見せるのは、問題は無いかと』

「つまりは、コッチね?」
『と言うか外出用なら、コチラ以外で、と』

「そうね」

 エリスロースがデュオニソス神の巫女だから、と。
 古い考えの者が手を出そうとするだけに留まらず、それこそパトロンから乗り換えようと芸術家の卵自らがエリスロースに働きかけたり。

 ギリギリになって卵を奪われたく無いからと、招待した側が会を急にキャンセルしたり。

 何より、この外見の私を連れ歩いているせいで、余計に注目されてしまっている。
 完全に、私が負担に。

『あの』
「疲れた?」

『いえ、はい、お世話係を退こうかと』
「何故」

『私がこの外見のせいで、余計にアナタが巫女や信奉者かも知れないと、そう周りに思われてしまっているかも知れないので』
「何故」

『外見を気にしない慈愛の持ち主だとか、サテュロスを連れ歩いている、果てはパーン神を伴っているだとか。それこそ椿姫だからこそ、あんな者でも相手にするのか、と』

「だから?」

『なので、コレ以上ご迷惑を掛ける前に』
「君が辞めて噂は改善すると本気で思っていますか?」

 確かに。
 多少は沈静化しても、完全に収まる気配は無い。

 それこそ、マシになるかも知れないだけで。

『ですが』
「単に逃げたいだけなら、そうハッキリ言ってくれませんかね。面倒だ、注目を浴びたくない、迷惑だと」

『それは、はい、申し訳御座いません』

「連日連れ回してそこまで忌避されない外見だとしても、アナタが何かを隠しているからこそ、私に何も尋ねてはこないのだろう。浅はかにも隠し方が下手、後ろ暗い事は無いにしても語り合おうともしないのは……いえ、良いでしょう、ピュティア様とお話させて頂きますわね」

『分かりました、お話し致します』
「結構。では、どちらで話し合うかは、お任せ致します」



 イケメン過ぎて揉め事が嫌になって顔を焼いた皇族の方だとは、凄いな、ココの美への執着。

『なので、目立ちたくは無いのです。一族との掟を破る事に繋がるかも知れないので、このままだと、神殿にも居られなくなってしまうので』
「そうか、すまんかった。だが話し合いはさせて貰うよ、神託が降りないのはおかしいし、それこそ君に伝わってないにしても不自然だ。問い質させて貰う」

『はい』
「いざとなったらウチの国に来なさい、宦官にでもなれば出国は許してくれるでしょう」

『どうして、ですか』
「どんな命でも、神様にとっては1つの命。子を成す事が全てじゃないんですよ、蟻にも働かない者が居る、けど取り除いても必ず働かない蟻は出る。必要な予備なんですよ、子を成さない者も、手足さえ有れば何かしらの役割はこなせます。後は楽しく生きるか、怯えて暮らすか、長生きするのは楽しい方。少なくともウチの神様は決して短命に終わる事を望んでない、なら、ですよ」

『すみません』
「まぁまぁ、行ってみたら意外とスッキリ終わるかもですし、行ってみましょう神殿へ」
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