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始まり。
夜の部、セオリーへの理解。
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『ココら辺は魚の浮袋なんですね』
《初心者向けですね。大きさが足りない場合には羊や豚の腸を使用しますが、準備にコツが要るので》
「成程、大変そうやな」
《みたいですね。それで、海藻での潤滑剤の試供品はどうされますか?》
「がんばれ」
『え、使った事無いから無理ですよ』
「マジか、1人でも使って良いんだぞ?」
『淡白、なんですかね?』
「まぁ、性欲過多では無いと思うが。ココ基準はどうなの?」
《薄い方かと》
ルツさんはどうなんだろう。
そんな事を思ったら顔に出てしまったのか、僕の方を見てニッコリ笑うと、ローシュさんに耳打ちを。
「煩いわ」
《アナタも薄い方なんですかね?》
「もっと煩いわ、縫い合わせるぞ、手と生殖器を」
《良い拷問方法ですね》
「でしょう、本に書いて有ったわ」
『それって、どんな本に?』
「拷問の、復讐用に嗜んでた程度ですわ」
『元、さんにですか?』
「とか。腹にネズミを置いて蓋をして蓋を炙るのとか、足の裏をヤギだか羊に舐めさせ続けるのとか。けど口と肛門繋ぐのは流石に直ぐ死にそうよね」
《ですね、感染症予防が難しいですし、誤嚥にも直ぐには反応出来ませんから》
悪い意味でも、お似合いだと思うんだけどな。
『あの』
「あぁ、他に道具って」
《コチラです》
「何で2箱?」
《男性用、女性用です》
そうして道具の勉強は程々に。
現地へ。
「何で、ワシまで?」
《理解して貰う為なので》
『僕にも、ですか?』
《はい》
この時。
僕らは全てを見誤っていた。
僕もルツさんも、それこそローシュさんも。
全員が、其々に見誤っていた。
「その、念の為に聞くけど」
《娼婦、男娼が居る娼館と呼ばれる場所と同等の場所です》
『森の入り口にしか見えないんですけど』
《ですが、どうぞ》
暗闇の森の中に薄く引かれた線を、踏み越えると。
『明るい』
「どら」
洋館が建ち並び、背の低い外灯に照らされ室内がガラス窓越しにハッキリと見えている。
魅力的な男性、女性がコチラに手を振り、投げキッスをしてくる。
『あの』
《ココの者達には緘口令が敷かれて居ますのでご心配無く、他言した時点で声が出なくなり、続いて目も、耳も使用出来なくなる呪いが掛っていますから》
「普通に考えたら酷い扱いに思えるんだが」
《秘密は守られる、そう示す事でお互いを守る為です、下手をすれば逆に殺される事も有りますから》
「問題は、何故、こうしてココに居るか。なんだが」
《説明致しますので、先ずは見た目で選んでみて下さい》
「性別は?」
《性的に惹かれるかで選んで頂ければ構いません》
この先の危険性について、未経験だからと考えなかった部分は確かに有る。
けど、だからって、本当に思い至らなかったのかと言われると疑問は残る。
「じゃあ、この人」
ルツさんとは正反対の容姿。
それこそ僕の様な薄顔で、だけど凄くイケメンの人をローシュさんは選んだ。
《では、クーリナも》
『じゃあ、彼女で』
性的に惹かれる。
と言う事について、あまりにも無知、経験が無さ過ぎた事も理解しておくべきだったと思う。
自分がなりたいと憧れる様な、そんな可愛らしい女性で。
性的に惹かれたのかと言われると、興味は有る、そんな程度だった。
《では、少し待ってて下さい》
『あ、はい』
「うっす」
こう、考える時間は有った。
けど、それこそ別世界の景色に圧倒されてしまい、自分達の立場を忘れていたんだと思う。
少なくとも僕は、忘れていた。
未だ、試される側なんだ、と。
《では、コチラへ》
ほのかな消毒液の様な匂い。
真新しい清潔なリネン類が敷かれたベッド。
僕は知らなかった、だから気付けなかったし想定出来無かった。
けど、全く知らないワケでも無かった。
娼館、風俗、そう呼ばれる場所で何をするかは知っていたんだから。
「オメガバース!」
美形に迫られ、理性を保つ為、出た言葉がソレだった。
そしてメロスが如く駆け出した。
ルツが自分以外に欲情する姿を、あれ以上見たく無かったから。
無我夢中で男娼を押し退け、逃げ出した。
止めれば良かったのに、逃げる事を優先させた。
こんなにダメージを負うとは思わなかった、自分自身を見誤っていた。
前でも、ココでも間違えた。
それもコレも、全てが間違っていた。
間違いだった。
油断していた。
浮かれて、迂闊だった。
だから、好意に関する事は拒否していたのに。
「君はココの子?」
男娼とは違う服装。
先ずソコで気付くべきだった。
客なのだ、と。
「あ、えっと」
「あぁ、言葉が通じるんだね」
「まぁ、はい」
「素敵な髪の色に、素敵な目の色だね」
何を言っているんだ、コイツは。
そう考えた一瞬で、逃げる隙を完全に逃した。
既に腰に回されていた手と、捕まれた腕は強く握り締められ。
失敗した。
事前に注意事項を聞くべきだった。
そう思った時には既に時遅く、口付けを受ける寸前まで、全く動けなかった。
苦節30余りを生きたが、痴漢にすら遭った事が無い。
ましてやこの身長、更にブス、迫られた事すらも皆無で。
いや、だから、と言うか。
コレは想定の甘さが生んだ悲劇、と言うか、寧ろ喜ぶべき事なのかも知れない。
『もう、ダメですよお客様、その子もお客様なの』
「あぁ、そうなんですね、失礼しました」
『良いのよ、残り香の影響でしょう。なのでココは穏便に、互いに不問として頂けないかしら?』
「えぇ、勿論です。ただもし、また次に会えたら、どうかキチンと口説かせて下さい」
『勿論よ、ね?』
「はい、すみませんでした」
「いえ、コチラこそ。では、失礼しますね」
助かった。
いや、正式には助かったけど失敗で。
「すみませんでした、甘かったです、もっと慎重に注意事項を」
《ふむ、耐性が有るんじゃな》
『そうね、アッチを収めて来て頂戴』
《うむ!》
「大変、申し訳」
『謝るのは寧ろコチラの方、もう少し、ルツに柔軟性を要求すべきだったわ』
「でも、彼は間違ってはいないので、叱るべきは私1人で」
『連帯責任、それこそ私達も含めて』
《フェロモンは払ったでな、もう戻って大丈夫じゃよ》
『じゃあ、戻りましょう、ちゃんと説明させるわ』
抗えない。
流される。
そうさせるフェロモンを出す人種が居る。
《私は知っていました、ソチラの世界には居ない事も。ですがココへ連れて来ました、3回目のミスを確認した時点で、お仕置きに等しい事をすべきだと。マニュアルに、有ったので》
『もう、それだけ、では無いでしょう』
《出来る事なら、証明したかったんです。もしかしたら、私の未知の体質や性質なら、抗えるかも知れないと》
『生き物で在る以上、それこそ同種でも無い限り、抗う事は非常に難しいのよ』
《じゃが耐性持ちとはの、コレは貴重じゃよ、それこそアヤツらの治療法が分かるかも知れんのじゃし》
「病気、って事?」
『生活に困っている子にしてみたらね、けれど彼ら、彼女達はギフテッドと捉えている子が殆どなの』
《産み育てる事を義務とし、生活の保障を対価としています》
《ズメウやそれらの種族、それこそエルフなんぞは妊娠率が非常に低いんじゃよ。じゃからこそ、それらの種族の子を孕み孕ます役目も担っておる、そして客人をもてなす事もじゃ》
《種の、血の多様性です。いずれは本格的に鎖国状態になってしまえば、血が濃くなってしまう可能性が高い、ですので》
《孕み、孕ませ、産み育てるのが義務なんじゃよ》
『聞かれない事については答えるべきでは無い、そうルツは教えられた事に従っていただけ。けれども柔軟性が必要だったわ、コレでは愚直なだけ、正しさとは必ずしも答えが1つでは無いんだもの』
『だが、けれどもだ、今回は全員に過失が有る。それこそ僕らにもね』
『介入を出来るだけ避けるべきだろう、そう思って、ギリギリまで見守っていたのだけれど』
「いえ、助かりました、ありがとうございます」
《何か有ったんですか》
「いえ、何も無いです」
《強がるのぅ、ココの者と間違われ固まっておったクセに》
《大変、申し訳御座いませんでした》
「いや、ちょっと腰に手を回された程度なので」
《何を言うておる、アリアドネが助けなければ接吻を受ける寸前っ》
『もう、余計な事を』
『あっ』
衝動的に動く。
動いてしまう。
その事について、知ってはいた。
それこそ戦いにおいて、体が勝手に動く事も経験していた。
なのに、全く、制御が出来なかった。
「ォメガバース!」
ローシュさんの2度目の叫びを耳にしながら、初めて人が殴られる様を見てしまった。
しまった、と言うか、止められなかった。
ルツさんがキスをしようとした事も、ローシュさんが殴ろうとした事も。
その前も。
まるで酔ったみたいに思考力が低下して、僕とルツさんは女性に触られる事に抵抗しなかった、出来無かった。
寧ろ触って欲しくて、それこそルツさんに至っては服を自ら脱ごうとしていて。
僕は、そこで固まって。
そして今回も、止める事が出来なかった。
《すみません》
「あ、いえ、ごめん」
《と言うか、オメガバースって、何じゃ?》
殴った責任を取る事も含め。
説明するしか無かった。
恥ずかしい、と言うか、理性を発揮する魔法の言葉かっつの。
寧ろソコが恥ずかしいわ、何か。
もう。
「もう、穴に入って埋まりたぃ」
『あの、寧ろ、非常に有意義な情報だったんじゃないかと』
《はい、しかも私が先に説明していれば、今回の事態は防げた事も証明されたも同然ですしね》
《じゃの!》
『それにしても、ココとそこまで変わらない想定の創話が有ったなんて』
『寧ろ、戻った者が書いた可能性は無いだろうか』
『確かに』
「そこはちょっと、読み手側として反論させて欲しい」
『と言うと?』
「読者が自ら勝手にそう思って読んでたりもする、けど、ちょっとココっぽいのって。少なくとも、売れてないのも含めて、読んでる量は多いとは言えないにしても、見付けられなかった記憶しか無い」
『意外と無いんですね?』
「と言うかフェイク有りにしても、人権、法整備、治安のバランスに違和感を覚えるのが印象に強く残ってて。それこそ、有ったかもだけど、脳味噌に引っ掛からなかっただけ、の可能性も有るが」
『だからこそ、敢えて、フェイクを多分に混ぜた。って可能性は?』
「その意味、真意だよね。それこそ死んだ子が別世界で幸せに暮らしてくれてたらって思うけど、ならもっと、それこそ多様性が有っても良いんじゃないかなって」
『それこそ、陰謀論的に、影の仕分け屋が居るとか』
「君、あの方の本を読んだ事が有るのか」
『アレですよね、大昔に問題作って言われた原案の、柳田國男とか好きな方ですよね?』
「そうそうそう、そうか、読んだ事有るんだ」
『マンガを読むにしても、何を読めば良いかなって、それで調べたら親に怒られなさそうだなと思って』
「いや、アレ、思想次第では怒りそうだが」
『寧ろ逆に、作品は作品だって理解しているなら良いって、買っても良いって許可を貰えたので』
「確かに民俗学が絡んでるけど、逆にファン説が濃厚だな、それこそ読み慣れて無いと言えない言葉だとも思うし」
『あぁ、けどなぁ』
あ、コレ脱線してる。
「いや、うん、一旦話を戻そう」
『検閲、陰謀論ですね』
「そう考えると、偶にいきなり作品が消える事も有るし、それこそ炎上して消えるのも有るから。0とは言い切れないけど」
『有るか無いか、コレは悪魔の証明に近いですものね』
「ココではね。けど向こうでなら証明が簡単だ、君が向こうに戻って書けば良いんだから」
『僕がですか?』
「ソコでさ、こんな奴は居ねぇ、とか。ココに欠点が有る、とかコメント貰えたら。もし次に転移や転生してくる人が読んでたら、ココの為になるかもじゃん」
『成程、確かに』
「隅々まで読んだワケじゃないから、実は同じ体験をした人と繋がれるかも、だけど」
『陰謀論が本当なら、僕、消されるのでは?』
「強大な権力の有る組織に狙われ、捕まり、研究される。止めるか」
『えー、でもココの役に立つかもなんですよね?』
「向こうに転移転生者が居るって明確には分からない弊害よね、役に立つか立たないか分からない。その点ではコチラは有利だし、戻れたなら、後は君が如何に生きるかの方が重要だよ」
《それこそ何千年も輪廻を繰り返せば、いつか君がココへ転生するかも知れません。それが来年か、去年か、500年後かに生まれ変わるかも知れない》
《じゃよ、実にバラバラなんじゃよね、江戸とか言う時代の者じゃったり、唐とか言うのじゃったりとか》
『規則性が無いのよね、本当に』
『転生者もね。ただ僕らの基礎は向こうに有ると考えている、だからこそ君達は共有財産でも有ると考えている』
『お返しするまで、ね』
《ですが利益になるからと言って、引き留める為に》
『ルツ、今呑み込んで貰うのは難しい言葉だろう、もう少し前に言うべきだったね』
《はい》
いや、前に言われていたとしても。
「それでも非常に難しいと思います。それこそクリーナが帰るまでは、受け入れる事は難しいかと」
『それ、僕のせいですよね』
「あ、いや、違うんだよ。役目を終えずに対価を貰う様で、それこそ借金を背負うみたいで嫌なだけで」
《私は、負債ですか》
「いや、うん、負担には感じる。別れる位なら付き合わなければ良いって、けど、付き合ってみなければ分からない事がいっぱい有る。それでも見抜けないから離婚する、そして実際に離婚したから、臆病になる」
『でもルツさんは悪い人では、僕から見れば、ですけど』
「でも、合う合わないがね、育った環境が桁違いに違うんだし」
『確かに、そうかもですけど』
「愛が有れば何でも乗り越えられる、ってのは理想、幻想、おためごかし。モノには限度が有る」
『気持ちにも、愛にも』
「うん、すまん、若い子の理想を潰して」
『いえ、幻想なら潰されるべきで、それこそ真実に辿り着くべきですから』
「でもだ、夢は壊した可能性は高い、すまん」
『今日はもう遅いわ、取り敢えずは、帰りましょう』
「はい」
《初心者向けですね。大きさが足りない場合には羊や豚の腸を使用しますが、準備にコツが要るので》
「成程、大変そうやな」
《みたいですね。それで、海藻での潤滑剤の試供品はどうされますか?》
「がんばれ」
『え、使った事無いから無理ですよ』
「マジか、1人でも使って良いんだぞ?」
『淡白、なんですかね?』
「まぁ、性欲過多では無いと思うが。ココ基準はどうなの?」
《薄い方かと》
ルツさんはどうなんだろう。
そんな事を思ったら顔に出てしまったのか、僕の方を見てニッコリ笑うと、ローシュさんに耳打ちを。
「煩いわ」
《アナタも薄い方なんですかね?》
「もっと煩いわ、縫い合わせるぞ、手と生殖器を」
《良い拷問方法ですね》
「でしょう、本に書いて有ったわ」
『それって、どんな本に?』
「拷問の、復讐用に嗜んでた程度ですわ」
『元、さんにですか?』
「とか。腹にネズミを置いて蓋をして蓋を炙るのとか、足の裏をヤギだか羊に舐めさせ続けるのとか。けど口と肛門繋ぐのは流石に直ぐ死にそうよね」
《ですね、感染症予防が難しいですし、誤嚥にも直ぐには反応出来ませんから》
悪い意味でも、お似合いだと思うんだけどな。
『あの』
「あぁ、他に道具って」
《コチラです》
「何で2箱?」
《男性用、女性用です》
そうして道具の勉強は程々に。
現地へ。
「何で、ワシまで?」
《理解して貰う為なので》
『僕にも、ですか?』
《はい》
この時。
僕らは全てを見誤っていた。
僕もルツさんも、それこそローシュさんも。
全員が、其々に見誤っていた。
「その、念の為に聞くけど」
《娼婦、男娼が居る娼館と呼ばれる場所と同等の場所です》
『森の入り口にしか見えないんですけど』
《ですが、どうぞ》
暗闇の森の中に薄く引かれた線を、踏み越えると。
『明るい』
「どら」
洋館が建ち並び、背の低い外灯に照らされ室内がガラス窓越しにハッキリと見えている。
魅力的な男性、女性がコチラに手を振り、投げキッスをしてくる。
『あの』
《ココの者達には緘口令が敷かれて居ますのでご心配無く、他言した時点で声が出なくなり、続いて目も、耳も使用出来なくなる呪いが掛っていますから》
「普通に考えたら酷い扱いに思えるんだが」
《秘密は守られる、そう示す事でお互いを守る為です、下手をすれば逆に殺される事も有りますから》
「問題は、何故、こうしてココに居るか。なんだが」
《説明致しますので、先ずは見た目で選んでみて下さい》
「性別は?」
《性的に惹かれるかで選んで頂ければ構いません》
この先の危険性について、未経験だからと考えなかった部分は確かに有る。
けど、だからって、本当に思い至らなかったのかと言われると疑問は残る。
「じゃあ、この人」
ルツさんとは正反対の容姿。
それこそ僕の様な薄顔で、だけど凄くイケメンの人をローシュさんは選んだ。
《では、クーリナも》
『じゃあ、彼女で』
性的に惹かれる。
と言う事について、あまりにも無知、経験が無さ過ぎた事も理解しておくべきだったと思う。
自分がなりたいと憧れる様な、そんな可愛らしい女性で。
性的に惹かれたのかと言われると、興味は有る、そんな程度だった。
《では、少し待ってて下さい》
『あ、はい』
「うっす」
こう、考える時間は有った。
けど、それこそ別世界の景色に圧倒されてしまい、自分達の立場を忘れていたんだと思う。
少なくとも僕は、忘れていた。
未だ、試される側なんだ、と。
《では、コチラへ》
ほのかな消毒液の様な匂い。
真新しい清潔なリネン類が敷かれたベッド。
僕は知らなかった、だから気付けなかったし想定出来無かった。
けど、全く知らないワケでも無かった。
娼館、風俗、そう呼ばれる場所で何をするかは知っていたんだから。
「オメガバース!」
美形に迫られ、理性を保つ為、出た言葉がソレだった。
そしてメロスが如く駆け出した。
ルツが自分以外に欲情する姿を、あれ以上見たく無かったから。
無我夢中で男娼を押し退け、逃げ出した。
止めれば良かったのに、逃げる事を優先させた。
こんなにダメージを負うとは思わなかった、自分自身を見誤っていた。
前でも、ココでも間違えた。
それもコレも、全てが間違っていた。
間違いだった。
油断していた。
浮かれて、迂闊だった。
だから、好意に関する事は拒否していたのに。
「君はココの子?」
男娼とは違う服装。
先ずソコで気付くべきだった。
客なのだ、と。
「あ、えっと」
「あぁ、言葉が通じるんだね」
「まぁ、はい」
「素敵な髪の色に、素敵な目の色だね」
何を言っているんだ、コイツは。
そう考えた一瞬で、逃げる隙を完全に逃した。
既に腰に回されていた手と、捕まれた腕は強く握り締められ。
失敗した。
事前に注意事項を聞くべきだった。
そう思った時には既に時遅く、口付けを受ける寸前まで、全く動けなかった。
苦節30余りを生きたが、痴漢にすら遭った事が無い。
ましてやこの身長、更にブス、迫られた事すらも皆無で。
いや、だから、と言うか。
コレは想定の甘さが生んだ悲劇、と言うか、寧ろ喜ぶべき事なのかも知れない。
『もう、ダメですよお客様、その子もお客様なの』
「あぁ、そうなんですね、失礼しました」
『良いのよ、残り香の影響でしょう。なのでココは穏便に、互いに不問として頂けないかしら?』
「えぇ、勿論です。ただもし、また次に会えたら、どうかキチンと口説かせて下さい」
『勿論よ、ね?』
「はい、すみませんでした」
「いえ、コチラこそ。では、失礼しますね」
助かった。
いや、正式には助かったけど失敗で。
「すみませんでした、甘かったです、もっと慎重に注意事項を」
《ふむ、耐性が有るんじゃな》
『そうね、アッチを収めて来て頂戴』
《うむ!》
「大変、申し訳」
『謝るのは寧ろコチラの方、もう少し、ルツに柔軟性を要求すべきだったわ』
「でも、彼は間違ってはいないので、叱るべきは私1人で」
『連帯責任、それこそ私達も含めて』
《フェロモンは払ったでな、もう戻って大丈夫じゃよ》
『じゃあ、戻りましょう、ちゃんと説明させるわ』
抗えない。
流される。
そうさせるフェロモンを出す人種が居る。
《私は知っていました、ソチラの世界には居ない事も。ですがココへ連れて来ました、3回目のミスを確認した時点で、お仕置きに等しい事をすべきだと。マニュアルに、有ったので》
『もう、それだけ、では無いでしょう』
《出来る事なら、証明したかったんです。もしかしたら、私の未知の体質や性質なら、抗えるかも知れないと》
『生き物で在る以上、それこそ同種でも無い限り、抗う事は非常に難しいのよ』
《じゃが耐性持ちとはの、コレは貴重じゃよ、それこそアヤツらの治療法が分かるかも知れんのじゃし》
「病気、って事?」
『生活に困っている子にしてみたらね、けれど彼ら、彼女達はギフテッドと捉えている子が殆どなの』
《産み育てる事を義務とし、生活の保障を対価としています》
《ズメウやそれらの種族、それこそエルフなんぞは妊娠率が非常に低いんじゃよ。じゃからこそ、それらの種族の子を孕み孕ます役目も担っておる、そして客人をもてなす事もじゃ》
《種の、血の多様性です。いずれは本格的に鎖国状態になってしまえば、血が濃くなってしまう可能性が高い、ですので》
《孕み、孕ませ、産み育てるのが義務なんじゃよ》
『聞かれない事については答えるべきでは無い、そうルツは教えられた事に従っていただけ。けれども柔軟性が必要だったわ、コレでは愚直なだけ、正しさとは必ずしも答えが1つでは無いんだもの』
『だが、けれどもだ、今回は全員に過失が有る。それこそ僕らにもね』
『介入を出来るだけ避けるべきだろう、そう思って、ギリギリまで見守っていたのだけれど』
「いえ、助かりました、ありがとうございます」
《何か有ったんですか》
「いえ、何も無いです」
《強がるのぅ、ココの者と間違われ固まっておったクセに》
《大変、申し訳御座いませんでした》
「いや、ちょっと腰に手を回された程度なので」
《何を言うておる、アリアドネが助けなければ接吻を受ける寸前っ》
『もう、余計な事を』
『あっ』
衝動的に動く。
動いてしまう。
その事について、知ってはいた。
それこそ戦いにおいて、体が勝手に動く事も経験していた。
なのに、全く、制御が出来なかった。
「ォメガバース!」
ローシュさんの2度目の叫びを耳にしながら、初めて人が殴られる様を見てしまった。
しまった、と言うか、止められなかった。
ルツさんがキスをしようとした事も、ローシュさんが殴ろうとした事も。
その前も。
まるで酔ったみたいに思考力が低下して、僕とルツさんは女性に触られる事に抵抗しなかった、出来無かった。
寧ろ触って欲しくて、それこそルツさんに至っては服を自ら脱ごうとしていて。
僕は、そこで固まって。
そして今回も、止める事が出来なかった。
《すみません》
「あ、いえ、ごめん」
《と言うか、オメガバースって、何じゃ?》
殴った責任を取る事も含め。
説明するしか無かった。
恥ずかしい、と言うか、理性を発揮する魔法の言葉かっつの。
寧ろソコが恥ずかしいわ、何か。
もう。
「もう、穴に入って埋まりたぃ」
『あの、寧ろ、非常に有意義な情報だったんじゃないかと』
《はい、しかも私が先に説明していれば、今回の事態は防げた事も証明されたも同然ですしね》
《じゃの!》
『それにしても、ココとそこまで変わらない想定の創話が有ったなんて』
『寧ろ、戻った者が書いた可能性は無いだろうか』
『確かに』
「そこはちょっと、読み手側として反論させて欲しい」
『と言うと?』
「読者が自ら勝手にそう思って読んでたりもする、けど、ちょっとココっぽいのって。少なくとも、売れてないのも含めて、読んでる量は多いとは言えないにしても、見付けられなかった記憶しか無い」
『意外と無いんですね?』
「と言うかフェイク有りにしても、人権、法整備、治安のバランスに違和感を覚えるのが印象に強く残ってて。それこそ、有ったかもだけど、脳味噌に引っ掛からなかっただけ、の可能性も有るが」
『だからこそ、敢えて、フェイクを多分に混ぜた。って可能性は?』
「その意味、真意だよね。それこそ死んだ子が別世界で幸せに暮らしてくれてたらって思うけど、ならもっと、それこそ多様性が有っても良いんじゃないかなって」
『それこそ、陰謀論的に、影の仕分け屋が居るとか』
「君、あの方の本を読んだ事が有るのか」
『アレですよね、大昔に問題作って言われた原案の、柳田國男とか好きな方ですよね?』
「そうそうそう、そうか、読んだ事有るんだ」
『マンガを読むにしても、何を読めば良いかなって、それで調べたら親に怒られなさそうだなと思って』
「いや、アレ、思想次第では怒りそうだが」
『寧ろ逆に、作品は作品だって理解しているなら良いって、買っても良いって許可を貰えたので』
「確かに民俗学が絡んでるけど、逆にファン説が濃厚だな、それこそ読み慣れて無いと言えない言葉だとも思うし」
『あぁ、けどなぁ』
あ、コレ脱線してる。
「いや、うん、一旦話を戻そう」
『検閲、陰謀論ですね』
「そう考えると、偶にいきなり作品が消える事も有るし、それこそ炎上して消えるのも有るから。0とは言い切れないけど」
『有るか無いか、コレは悪魔の証明に近いですものね』
「ココではね。けど向こうでなら証明が簡単だ、君が向こうに戻って書けば良いんだから」
『僕がですか?』
「ソコでさ、こんな奴は居ねぇ、とか。ココに欠点が有る、とかコメント貰えたら。もし次に転移や転生してくる人が読んでたら、ココの為になるかもじゃん」
『成程、確かに』
「隅々まで読んだワケじゃないから、実は同じ体験をした人と繋がれるかも、だけど」
『陰謀論が本当なら、僕、消されるのでは?』
「強大な権力の有る組織に狙われ、捕まり、研究される。止めるか」
『えー、でもココの役に立つかもなんですよね?』
「向こうに転移転生者が居るって明確には分からない弊害よね、役に立つか立たないか分からない。その点ではコチラは有利だし、戻れたなら、後は君が如何に生きるかの方が重要だよ」
《それこそ何千年も輪廻を繰り返せば、いつか君がココへ転生するかも知れません。それが来年か、去年か、500年後かに生まれ変わるかも知れない》
《じゃよ、実にバラバラなんじゃよね、江戸とか言う時代の者じゃったり、唐とか言うのじゃったりとか》
『規則性が無いのよね、本当に』
『転生者もね。ただ僕らの基礎は向こうに有ると考えている、だからこそ君達は共有財産でも有ると考えている』
『お返しするまで、ね』
《ですが利益になるからと言って、引き留める為に》
『ルツ、今呑み込んで貰うのは難しい言葉だろう、もう少し前に言うべきだったね』
《はい》
いや、前に言われていたとしても。
「それでも非常に難しいと思います。それこそクリーナが帰るまでは、受け入れる事は難しいかと」
『それ、僕のせいですよね』
「あ、いや、違うんだよ。役目を終えずに対価を貰う様で、それこそ借金を背負うみたいで嫌なだけで」
《私は、負債ですか》
「いや、うん、負担には感じる。別れる位なら付き合わなければ良いって、けど、付き合ってみなければ分からない事がいっぱい有る。それでも見抜けないから離婚する、そして実際に離婚したから、臆病になる」
『でもルツさんは悪い人では、僕から見れば、ですけど』
「でも、合う合わないがね、育った環境が桁違いに違うんだし」
『確かに、そうかもですけど』
「愛が有れば何でも乗り越えられる、ってのは理想、幻想、おためごかし。モノには限度が有る」
『気持ちにも、愛にも』
「うん、すまん、若い子の理想を潰して」
『いえ、幻想なら潰されるべきで、それこそ真実に辿り着くべきですから』
「でもだ、夢は壊した可能性は高い、すまん」
『今日はもう遅いわ、取り敢えずは、帰りましょう』
「はい」
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100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
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これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

ユーヤのお気楽異世界転移
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死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。


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加藤あいは高校2年生。
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隠密スキルでコレクター道まっしぐら
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没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。
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