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第2章

【セルキーと少女】

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【セルキーと少女】

 昔々、満月の夜、アイスランドの浜辺に1頭のアザラシが上がって来た。
 網に絡まり苦しそうにするアザラシ、貝拾いをしていた少女がその網を解き、逃がしてやった。

 それからアザラシは満月の夜に、少女へと魚や真珠を砂浜に置いて行きました。
 少女もそれを見付けては持ち帰り、魚を家族へ振舞いました。

 それは満月の夜に行われる儀式、言葉を交わすことも無く行われる儀式。
 何ヶ月も何年も続きました。

 ですがある満月の夜、体調を崩したのか彼女が来ません。
 心配になったアザラシが皮を脱ぎ、陸に上がり少女を探します。

 彼女の匂いを辿り、家へ着くと家は真っ赤に染まっていました。

 遠くの海から、ヴァイキングが来て村を襲っていたのです。

 まだ辛うじて息の有った彼女をアザラシの皮で包み、海まで逃げると飛び込みました。

「偉大なる魔女ロウヒ!僕の皮を上げますから!どうか彼女を助けて下さい!」

 初めて発したその声は確かに魔女ロウヒに伝わりましたが、彼女が手を差し伸べる事はありませんでした。
 ウッコ神も、誰も、アザラシの皮は既に持っていたので、誰も助けませんでした。

 ですが、白い羽の生えた天使の様な人が通りすがります。

「彼女をくれるなら、彼女を助けてあげよう」

 アザラシは彼女を差し出すと、少女の怪我が瞬く間に消え、顔色も戻りました。

 そしてその翼の生えた天使は、少女をアザラシに渡し村へ向かいました。

 ヴァイキング達を倒し、村人を救うと天使は再びアザラシの元へ戻って来ました。

 そこで目を覚ました少女に、天使は問います。

「1人で生きるか、彼を差し出し私と生きるか、どちらを選ぶ?」

 暖かい毛皮の中、目を覚ましたばかりの回らぬ頭で少女は考え、辺りを見回します。
 忌々しい家は焼け焦げ、側には震える青年と、美しい天使が手を差し伸べています。

 その天使の手を取ろうとしますが、今にも凍えそうに震える青年の瞳を見て、あのアザラシだと気付きました。

 少女は皮を彼に戻すと、一緒に海へと帰りました。
 天使はそれを見届けると、少女をアザラシに変え、天へと帰りました。
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