上 下
6 / 7
第2章

【オウル村と御使い】

しおりを挟む
【オウル村と御使い】

 昔々、若い漁師が漁から帰ってくると、海辺に見慣れぬ服を着た黒髪の人が倒れていました。
 昔から言い伝えられているアザラシの妖精だと思った若い漁師は、その人間を家に連れて帰ると大切に看病しました。

 部屋を良く温め1日中看病していると、その者が目を覚まします。

「ココは何処?貴方は?」

 髪が長かったので女性だと思っていましたが、どうやら男の人だったのです。

「ココはフィンランドのオウル村、私は漁師をしているリキ。海辺で倒れていた貴方を家まで連れて来て、介抱させて貰っています」

 慌てた様子で外へ出た彼は、へたり込みます。

「僕が居たのはもっと遠くなんだ、どうしてこんな場所に」

 そう言って涙を流す彼を、暖かい部屋へ戻し、食事を与えました。

 それから何日経っても口をきいてくれません、ただ彼を置いて漁に出掛けるのも心配なので、少しばかり役割を与えました。

「私は漁に行きますから、火の番と木工を頼みます」

 黙って頷く彼を心配しつつも、漁へ出掛けました。

 ですが最近は不漁続き、今日の成果も2人で食べるには少ない量でした。
 天候も思わしくなく、肩を落として帰りました。

 家に帰るも相変わらず黙っている彼でしたが、床には見た事もない程に精巧な木工細工が並んでいました。

「今日はどうせ時化だったろうから作っておいた、コレも、売ってきたら良い」

 家にあるだけのお金で食料を買い込み、彼に与えてから木工細工を抱え、街まで走りました。

 中央広場で行商を始めると、瞬く間に売れ、2日で帰る事が出来ました。
 彼に御馳走を買い、村に戻ると再び沢山の木工細工が出来ていました。

 彼の作る木工細工の虜になった漁師は、その青年を鎖で繋ぎ、完全に閉じ込めました。

 それからは漁師が行商の帰りに食糧を買い与え、木工を手にとんぼ返り。
 黒髪の青年は何も言わず、ひたすら木工を作る生活。
 それが数ヶ月続き、オウル村までもが栄える様になります。

 漁師は船で遠くまで商売をしに、時には飲んで遊び、楽しく過ごし。
 黒髪の青年は木工を作るだけ。

 とうとうその漁師にも嫁が出来ると、商売が益々上手くいきました。

「その職人の方にお会いしたいわ」

 青年を自慢したかった彼は、嫁を連れ村の小屋へと案内します。

 ですがあまりに粗末な小屋だと思った嫁は、彼の居ぬ間に青年の世話をし始めます。
 それからも自分と同等に青年を大事にする嫁に嫉妬した彼は、嫁をも閉じ込めました。

 閉じ込められたお嫁さんは、もう笑わなくなり、毎日泣いて暮らしました。

 そして嫉妬心に駆られ、青年の首を撥ねようと小屋へ行くと、白い羽が部屋いっぱいに散らばるばかりで誰も居ません。

 嫁が逃がしたと思った彼は、嫁を懲らしめようと家に戻ると、産まれたばかりの子供を残し、嫁も消えていました。

 テーブルに残ったのは、手紙と髪の束が1つ。

「彼は貴方に拾われた御恩を返す為だけに木工を作っていました、そんな彼を貴方は鎖に繋ぎ、閉じ込めた。そんな狭量の貴方とは一緒に居られません、子供には私の髪だけを残します、さようなら」

 嫁の美しい髪を抱え、散々泣きわめいていると、子供が起きてしまいました。
 抱き抱え様と子供を良く見ると、髪も瞳の色も漁師にそっくり、浮気などしていなかったのです。

「疑ってしまった、閉じ込めてしまった、そして失ってしまった」

 商売は嫁と共に引き上げられ、彼は再び漁師に戻ります。
 そうして村人と共に子供を育てつつ、青年の作っていた木工を模倣し、仕事と家庭、村を大切にしていると。
 評判を聞いた嫁が戻り、ついにはオウルも大きく栄えました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おねしょゆうれい

ケンタシノリ
児童書・童話
べんじょの中にいるゆうれいは、ぼうやをこわがらせておねしょをさせるのが大すきです。今日も、夜中にやってきたのは……。 ※この作品で使用する漢字は、小学2年生までに習う漢字を使用しています。

ちいさな哲学者

雨宮大智
児童書・童話
ユリはシングルマザー。十才の娘「マイ」と共に、ふたりの世界を組み上げていく。ある時はブランコに乗って。またある時は車の助手席で。ユリには「ちいさな哲学者」のマイが話す言葉が、この世界を生み出してゆくような気さえしてくるのだった⎯⎯。 【旧筆名、多梨枝伸時代の作品】

湖の民

影燈
児童書・童話
 沼無国(ぬまぬこ)の統治下にある、儺楼湖(なろこ)の里。  そこに暮らす令は寺子屋に通う12歳の男の子。  優しい先生や友だちに囲まれ、楽しい日々を送っていた。  だがそんなある日。  里に、伝染病が発生、里は封鎖されてしまい、母も病にかかってしまう。  母を助けるため、幻の薬草を探しにいく令だったが――

稀代の悪女は死してなお

楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」 稀代の悪女は処刑されました。 しかし、彼女には思惑があるようで……? 悪女聖女物語、第2弾♪ タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……? ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

賢二と宙

雨宮大智
児童書・童話
中学校3年生の宙(そら)は、小学校6年生の弟の賢二と夜空を見上げた⎯⎯。そこにあるのは、未だ星座として認識されていない星たちだった。ふたりの対話が、物語の星座を作り上げてゆく。流れ星を見た賢二はいう。「願い事を三回言うなんて、出来ないよ」兄の宙が答えた。「いつでもそうなれるように、準備しておけってことさ」。 【旧筆名、多梨枝伸時代の作品】

【完結】王の顔が違っても気づかなかった。

BBやっこ
児童書・童話
賭けをした 国民に手を振る王の顔が違っても、気づかないと。 王妃、王子、そしてなり代わった男。 王冠とマントを羽織る、王が国の繁栄を祝った。 興が乗った遊び?国の乗っ取り? どうなったとしても、国は平穏に祭りで賑わったのだった。

2020年版・猫に鈴を付ける

ムービーマスター
児童書・童話
天敵である猫をどうしたらいい? ネズミ達が集まっての意見交換、さてさてネズミ達は良い解決方法に辿りつけるのか。 昔の寓話を、今時の寓話にアレンジしました。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...