松書房、ハイセンス大衆雑誌編集者、林檎君の備忘録。

中谷 獏天

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第29章 青少年と病院と。

2 弁護士と青年。

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 そして彼との面談後、学校へ聞き取りを行いに向かった。

《物静かで、大人しい子。休み時間は図書室へ、ですけど勉強は不得手なのか、中の中。特に数学が苦手で、国語が好きな子、そんな子です》

「体の傷は」
《あの調子ですから、良く悪い子に絡まれてと。ですけどまさか、ご両親が、そんな事をしていただなんて》

「両親が、ですか」
《あ、あの、警察の方からお伺いしたんですけど。最近は、お母様も、だったそうで》

「そうでしたか」

《すみません、気付けませんで、本当に》
「いえ、支払いはどうなっていましたか?それこそ備品だとか、靴は」

《いえ、学校への支払いは滞り無く、靴も合った物で。ですけど、そうした子は多いんです、世間体が有りますから》

「では、親御さんからの暴行等を疑える様な事は、何も無かった。と言う事でしょうか」

《他の先生方にも確認し、良く考えたんですが、はい》

「新聞に載った、件の女芸術家も、実はそうした実態だったそうで」
《ですから、私達も気を付けていたんです。改めて見直しや確認、家庭訪問も》

「あの家に、行かれたんですよね」

《確かに雑多でしたが、少なくとも訪問した時は、もう少し片付いていたんです》
「日付の詳細を宜しいでしょうか」

《はい》

 家庭訪問の日から、1件目にの事件の前に何かが有った筈。

「ありがとうございます、彼の交友関係はご存知でしょうか」

《幾ばくか女子には人気が有ったんですが、まるで本の虫で。男子とも、特に仲の良い子は、はい》

「ご近所付き合いも、あまり無かったそうで」
《はい、お母様が、自分の不手際ですっかり嫌われていてしまったと》

「彼の幼馴染の様な、若しくは顔見知りの歴の長い子は、思い当たりませんか」
《あ、警察の方にもお伝えしたんです、どうぞ》

「あぁ、ありがとうございます」
《何か無かったか尋ねようかとも思ったのですが、警察の方に、止められてしまって》

「それが良いのかも知れません、今は、全容が分かっていませんから」

《もし何かわ、いえ、事件なんですよね》
「はい、すみません、今暫くお待ち下さい」

《はい》

 そして学年を下る毎に、評判は上がっていった。
 どうやら幼い頃は可愛がる間が有ったものの、年が上がるにつれ、子供への当たりが強くなったらしい。

 こうした事は、未熟な親に多い。
 幼い頃は素直だが、年を経るにつれ可愛げが無い、口答えをするからと。

 若しくは、憎い相手に似てきたから、と。

「アイツ、昔は良かったんですよ」
《俺らと似た様なもんだったし》
『けど、中等部に上がる頃にはもう本の虫、すっかり引っ込み思案になってて』

「けど今思うと、良く転けたりしてたよな」
《あぁ、運動音痴で、何も無い所で良く転けてたなぁ》
『怪我、誤魔化してたのかな』

「すまないね、まだ何も、全く分からないままなんだ」

『アイツ、別に俺らを避けて無かったし、俺らが避けてもいなかったんですけど』
《何か、俺ら見逃したんですかね》
「出来る事、何か有ったんでしょうか」

「少なくとも、今は、何も無かったと思う。大人が見逃した事を、君達が見付けられたかは、未だ分からない」

《分かったら、教えて貰えますか》
「あぁ」



 私は今、甲君の母方のご実家へお伺いしております。

『娘は、どちらかと言えば少し優柔不断な方で、流され易い子で。あの子が16の時に、駆け落ちし、暫くすると写真が送られて来ました』

《生まれたばかりの、甲君ですね》
『はい、ですが、まだ許せませんでした。いえ、寧ろ、逃げた時には既に。そう思うと、どうしても許せませんでした』

《では、七五三の時は》

『あの男に似ているからと、夫が、送り返してしまったんです』
《そうでしたか》

『私達が、追い詰めてしまったんでしょうか』

《すみません、まだ、詳細を調べ途中でして》

『アナタは、死刑反対でらっしゃるのかしら』

《私は、まだ、決めかねています。まだ、世間知らずですから》
『そうですか、修行中、なのですね』

《はい》

『あの子に、孫に、会えるのでしょうか』
《はい、甲君が了承すれば、はい》

『そうですか』
《先ずはお手紙が、妥当かと》

『そうですね、ありがとうございます』

 そして私が事務所に到着した直後。

《ただいま戻り》
「父親の方が、遺体で見付かった」

《えっ》
「河口から流れ出たのか、海で、浜に流れ着いていたらしい」

《解剖の結果は》
「目立った外傷は無いそうだ、だが、手には擦過傷が見受けられたそうだ」

《妻も愛人も殺し、自殺、でしょうか》
「十分に考えられる事だが、遺書が無い以上、まだ両方の線から捜査するそうだ」

《ですけど、甲君の事が有ってから、ですし》
「子供への暴力行為も表沙汰になってしまう、そう自棄になったかも知れないが、まだ決め手が無いだろう」

《甲君には》
「神経科の医師の面談を受けている、先ずは医師とも会う必要が有るな」



 医師は、かの有名な神経科医だった。
 彼もまた、青年に興味が有るらしい。

『ふむ、かの有名な死刑反対派の君かね』
「はい、先生は賛成派だそうで」

『だが診断に影響はさせんよ。死刑を支持するのは、国民の意が正常だと判断しいているからに過ぎん。行き過ぎだと感じたその時には、いつでも反対派に回る用意は有るのだよ』

「そうでしたか」
『うむ』

「それで、彼は」

『君は、どう思うのだね』

「未だ、大人しく物静かな少年となった、としか」

『未だ、か』
「はい、僕とて偽る者が居る事は、理解しているつもりなので」

『ふむ、では如何に君は信用するのだろうか』

「仕事上、暫くは内密にさせては頂けませんか」
『ふむ、結構結構、構わんよ』

「それで、彼に、父親の事を改めて僕が伝えても問題は無いでしょうか」

『出来るなら、先ずは君の意見も聞きたいんだがね。君が見聞きした、今までの情報をだ』

「検察には」
『言わんよ、観測には観測者の正確な位置が重要となる。検察は検察が見聞きした事、君のは君の領分、そして私は双方の意見も鑑みる立場。こうした事は、多角的に情報が必要だからね』

「では、先生は現地へは」
『いや、この件は少年犯罪かどうかの瀬戸際、内々に進められている事は既に察しているだろう』

「はい」
『何、話す間に何かに気付く事も有る。頭を整理する、そう思うままに話してくれ給えよ』

「分かりました」



 私には、どうにも違和感が有った。

『物静かで大人しい、それはご母堂が亡くなろうとも、荒ぶる事も無く静かに涙を流した』
「はい」

 ご母堂からの暴行を隠した事は、納得は出来る。
 無意識に無自覚に、ご母堂を庇ったのだろう、と。

 だが、その流れに違和感が有る。

『何故、どうして、そう尋ねなかったのだね』
「はい」

 知っている、若しくは予見が有ったか。
 或いは。

『家は荒れ放題、そして彼には痣や傷跡が見受けられた』

「はい、ですが尋ね無かった事は、良く有る事では。あまりの事に」
『何故、どうして、が浮かばなかったと』

「はい」

 あぁ、成程、そう言う事か。

『君には、また別の反応を示すかも知れん。全ては様子次第、君の勘に任せよう』

 さて、どうなる事か。



「既に、聞いていると思うが」
『父も、愛人の方も、亡くなったのですね』

「君は、愛人の事を」
『はい、言えず、すみませんでした』

「いや、ただ、いつから知っていたんだい」
『高等部に入って暫くしてからです、勉学を言い訳に、外に長く居られますから。僕は逃げたんです、家から』

「仕方が無い、君は」
『その帰りでした、母を家に送る男を、何度か見たんです』

「そうか」
『きっと母も、逃げたかったのだと思います。家や、父から』

「そうかも知れないが、どうか、君のせいだとは思わないでくれないだろうか」

『でも僕は、逃げたくて、でも怖くて。人を、殺せば』
「先ずは、順を追って、良く落ち着いてからだ。良いね」

『はい』

「事が起こる前に、何が有ったか、そこから聞かせてくれないか」

『雨の日でした、降る前の匂いで分かっていたんですが。家に、まともな傘が無かったんです』
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