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第25章 改心と罰。
改・菩薩妻。
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僕の妻は、菩薩の様な女性だ。
どんな事も愚痴を言わずにこなし、常にニコニコとしている。
そして僕を立て、家計が難しい時は支えてもくれた。
全く、離縁する気も無かった。
ただ。
「ただ、魔が差しただけなんだ。すまない、本当に違うんだ、好いてもいなし一緒になろうとも思っていない。出来心だ、軽い、ただの遊びだったんだ」
仕事で向かった先で、偶々、妻の知り合いに出会い。
そのまま。
ただ、単なる遊び、軽い遊びだったんだ。
『そうですか、それで』
声色は、怒ってはいない。
あまりの恐ろしさに見る事の出来無かった妻の顔を見ると。
妻はいつもの様に、ほんのりと微笑んでいた。
「許してくれ」
『はい、構いませんよ』
ほんの小さな頼み事をした時と、全く同じ様に妻は了承した。
妻は、僕を愛してはいなかったんだろうか。
本来なら、怒るだろう事を、かくもあっさりと。
「君は、気にはならないのか?」
『何がです?』
「何故、どうして浮気したのかを」
『私を女として見れない、だとか。家族だからこそ、女として見れなくなってしまったのかしら、そう思ってはおります。私はもう年増ですし、あまりに長いお付き合いですから、はい』
相変わらず、妻は何事も無かったかの様に、茶を淹れている。
「本当に、すまなかった」
『いえいえ、じゃあお夕飯の支度の続きをして参りますね』
妻は、何を考えているんだろうか。
《いや、間違い無く、相当にご立腹だろうね》
「全く、そう良い女が居ると言うのに、どうすれば他に手を出せるんだい」
『いや、本当に魔が差しただけなんだ。本当に、軽い遊びのつもりで』
「だが、バレるまで続けていたんだろう」
《全くだ、たった1回、酔った勢いなら。五千歩は譲ってだとしても、君は幾度も逢瀬を重ねたんだろ》
『いや、分かってくれとは言わないが、こう長い付き合いだと落ち着き過ぎてしまうじゃないか』
学生時代に知り合い、そう恋愛なる事も程々に妻とは結婚した。
だが、だからこそ。
「それで、君は妻に何をしたって言うのだろうか。昔の様に、2人きりでちゃんと出掛けてやったのかい?」
《そうだぞ、妻の女らしさを呼び覚ます何を贈ったんだい、何処へ行き何をしたんだい》
『へっ』
《あぁ、コレはダメだ、お先に失礼》
『そんな』
「世の夫婦は、寧ろ妻に、愛する者に逃げられない様に必死だ。妻に負担の無い範囲で贈り物をし、何処かに行き、時に美味い物を2人だけで食う。君は、妻に何をしてやって、そう不満を募らせたって言うんだい」
僕は、何を言われているのか全く分からなかった。
いや、分かりたく無かった。
僕が求めなかったせいでもう、妻は僕には期待していないのだ、と。
『すまない』
「いや、謝るべきは先ず、奥方だろう。もう帰った方が良い、もしかすれば、家を出る仕度をしているかも知れないよ」
そうして僕は急いで家に帰ったが。
「お帰りなさい」
いつも通り、妻は先に子供達と夕飯を食べていた。
そして、いつも通り、僕の鞄を持ち。
《お父さん、どうしたの?》
気が付くと、僕は膝から崩れ落ちていた。
「お父さんはお仕事でお疲れなの、きっと悪酔いしてしまったのね、お水を持って来て」
《私が持ってくるから、アナタは食べてなさい》
《ですけど僕も手伝いたい》
「なら煽いであげて」
《はい、お疲れ様です、お父さん》
あぁ、僕は何て事をしたんだろうか。
何故、どうして。
《ひっ》
「離婚だ」
《そんな、違うんです、ただ。単なるお遊びで、軽い気持ちでただ、好いているワケでも何でも無いんです》
「バレてしまったから謝っているだけだろう、数回で既に縁が切れていたならまだ分かるが。人様に見られバレてしまい、縁を切る事にしただけだろう。でなければ、何故、そう続いたと言うんだ」
《寂しそうだったので、つい、ほんの同情心からで》
「好いてもいない、同情心だけで抱かれてしまえるのなら、いっそ春でも売っていれば良い。それともお前は、俺の知り合いの女が舐め回した箸を、喜んでそのまま使えるとでも言うのか」
《アナタまさか、浮気を》
「幾らお前の夫だからと言って、そこまで落ちていると思われるとはな。お前と違い、俺はお前一筋だったが、意味は無かったな」
《違うの》
以降、妻は言葉を発する事は無く。
元妻、となった。
「大変、申し訳御座いませんでした」
「いえいえそんな、コチラこそ申し訳御座いません」
「いえ、いつの時代も離縁は大変な事、どうかお手伝いを」
「あぁ、いえ、ウチは離縁しませんから大丈夫ですよ」
どうやら強がりでは無く、本気らしい。
「失礼ですが、何かご事情が」
「私の衰えは勿論ですし、きっと飽きも有るとは思います。けれど、夫は大切な家族ですから」
妻は全く責める事も無く、まるで何事も無かったかの様に過ごし、今日は僕の好物を作ってくれていた。
『本当に、すまなかった』
情けなさ、申し訳無さを拭いきれず。
僕は何も無しに、妻に謝った。
「何の事です?」
怒りもせず、泣きも怒りもせず、責めもしない。
僕はそれを、不満に思ってしまった。
『君は、僕を愛していてはくれなかったのか』
どの口が言う。
そう今なら思えるが。
「では、アナタはどうなんですか?」
僕は思わず、飛び出してしまった。
「君は、本当に」
『すまない』
「不埒者が言う通り、どっしりと構え笑顔で許し、責めも泣きも怒りもしない。けれどいざ叶えば不満を抱え、愛していなかったのかと疑いを掛ける、すまないけれど僕も無理だ」
『すまない、もう』
「妻を女扱いしなかった分際で、女を感じられない、そう不満を言う。君は、あぁ、成程、失礼する」
『そんな、待っ』
夫は、日に日に憔悴していってしまいました。
どうしてか、全く分かりません。
友人と縁を切られてしまったのは、自業自得。
仕事場に知られ、片身の狭い思いをしているのも、自業自得。
なのに。
「お帰りなさい」
『許してくれ、頼む』
「許すも何も、離縁はしないんですし、家族なんですから」
『どうしてそう、責めてくれないんだ』
責めろ、とは要望されてはいない。
しかも、その道理も無い。
夫は徐々に私に女を求めず、妻、母親の役目のみを求める様になった。
だから私は沿った。
夫の願望に、欲望に、考えに。
「アナタは幸せそうでした、昨今では私に見せない程、幸せそうでした。その幸せを与えられぬ私が、どうして責められましょうか」
夫は青ざめると、また謝罪を繰り返し、泣き疲れ眠ってしまった。
アナタが言わずとも、考えずとも無意識に考えている事を汲み取り、その願い通りにしたと言うのに。
どうして泣くのでしょうか。
《お父さん、母さんと離縁して下さい》
《姉さん、急に何を》
《この人は浮気者です、しかも既婚者の女と何度も浮気をした》
『すまない』
《僕は、もう、アナタなんて大嫌いです。もう、顔も見たくない》
《私は見張ります、母さんの為に、アナタに付いても行きます》
「ちょっと、アナタ達、何を言っているの?」
《お母さん》
《母さん、こんな馬鹿で愚かな男は母さんには相応しく無い、離縁しましょう母さん》
「そう、ごめんなさい、ありがとう」
母さんは頭が良過ぎる。
勉強の事はそこそこだけれど、この子種袋の全てを理解している。
最初は単に長年連れ添ったからだ、と、けれど関わる全ての人の真芯を直ぐに理解し。
どう付き合うか、そこに利が有るかどうかで距離を決め、一切の諍いに巻き込まれる事が無かった。
『すまなかった、本当に』
《向こうは離縁したんですし、お似合い同士、くっついたら良いじゃないですか》
『いや、違うんだ』
《何が》
「仕方無いのよ、好いていた事に気付いていないだけなんだもの」
『いや、本当に』
《性欲解消なら、何故、そうした場所へ行かれなかったんですか。お金の節約ですか?だから近隣で浮気をした、知り合いや子供に見られるかも知れない場で》
「それは母さんが許してくれると無意識に分っていたからよ」
『違っ』
《見たんです、私、私が向こうの旦那さんに言い付けたんですから》
『そっ、すまなかった、本当に』
《実は、こうなる事を望んでいたのでは》
『違うんだ』
《なら、何故、誰かに見られてもおかしくない場所で逢引きをしたのか。何故、相応の商売女で済まさなかったのか、何故母さんが怒らない事を逆に責め》
「ダメよ、1つ1つにしてあげて、ね?」
《何故、僕らと離れたく無かったなら、遊び半分の軽い気持ちで浮気をしたんですか》
「ほら、あまりお父さんを責めないであげて、お父さんにはお父さんの考えが有っての事なのだから」
『君は、やっぱり』
《お前が言うな!!愛しているならどうして浮気なんかした!バレ無い様に気を付けもしないで!どうして!バレ無いと思った!!》
「それは、お父さんがそう言う人だからよ。私はそんなお父さんだと知っていて、好いて一緒になったの、だからお父さんばかりを責めないで」
《母さんは悪くない、コレの考える事を察して、その通りにしてただけで》
「けれどアナタ達を悲しませてしまったわ、ごめんなさいね」
《ううん、私の方こそ、我慢出来無くてごめんなさい》
《僕、僕がコレに付いていきます。姉さんは女だし、僕の方が腕っぷしは強いから》
《ダメ、こんな糞には蠅しか来ない、その蠅にアンタまで毒されたら。私は一生、男嫌いになるしかない》
《なら不規則に交代しよう、危ない時には僕、女の匂いがしたら姉さんに交代する》
《良いわね、そうしましょう》
『何なんだ、お前達は何を』
《私達は、偶々、母さんの血でアンタよりはマシな頭になった。でも、もしアンタに靡くような馬鹿女との子が出来たら、その子が可哀想過ぎる》
《うん、僕もそう思う》
「ごめんなさい本当に、ありがとうね」
あの人と下の子を置いて行くのは不憫で、結局は毎日夕飯の支度に向かい、そうあまり変わり映えの無い毎日でした。
けれど。
『お前、浮気をしていたのか』
「何の事でしょう」
『しらばっくれるな!男と、飲み屋に』
「あぁ、飲み屋で料理の仕込みと下働きをさせて頂いてますけれど、何か」
『何か』
「はい、もう離縁は済んでいますし。お付き合いが有ったとしても、私は既婚者では有りませんから」
『お、お前は、子供が居ながら』
《アンタもだっただろ、されて嫌な事はするな、僕でも分かる事ですよ。母さん、もう帰って構いませんよ、どうせ時間の無駄ですから》
『お前と言うヤツは』
《姉さーん!父さんが暴れそうでーす》
《こらぁあああああ!浮気者の分際で!母さんに何すんのよーーーー!》
『ひっ、ひぃぃい』
《姉さーん!暗くなる前には帰って来て下さいねー!》
「今夜は煮魚よー」
以降、何か有ると直ぐに、こうして追い掛けっこが始まり。
瞬く間に元夫の浮気は広まり、私の知り合いの女性は遠方へ。
夫は職場を辞めず済んだものの、降格し、誰も話し掛ける事は無いそうで。
そして、こう近くに住んでいるので、そう不便も何も無いのですが。
上の子の縁談がどうなるか、少しだけ心配しております。
どんな事も愚痴を言わずにこなし、常にニコニコとしている。
そして僕を立て、家計が難しい時は支えてもくれた。
全く、離縁する気も無かった。
ただ。
「ただ、魔が差しただけなんだ。すまない、本当に違うんだ、好いてもいなし一緒になろうとも思っていない。出来心だ、軽い、ただの遊びだったんだ」
仕事で向かった先で、偶々、妻の知り合いに出会い。
そのまま。
ただ、単なる遊び、軽い遊びだったんだ。
『そうですか、それで』
声色は、怒ってはいない。
あまりの恐ろしさに見る事の出来無かった妻の顔を見ると。
妻はいつもの様に、ほんのりと微笑んでいた。
「許してくれ」
『はい、構いませんよ』
ほんの小さな頼み事をした時と、全く同じ様に妻は了承した。
妻は、僕を愛してはいなかったんだろうか。
本来なら、怒るだろう事を、かくもあっさりと。
「君は、気にはならないのか?」
『何がです?』
「何故、どうして浮気したのかを」
『私を女として見れない、だとか。家族だからこそ、女として見れなくなってしまったのかしら、そう思ってはおります。私はもう年増ですし、あまりに長いお付き合いですから、はい』
相変わらず、妻は何事も無かったかの様に、茶を淹れている。
「本当に、すまなかった」
『いえいえ、じゃあお夕飯の支度の続きをして参りますね』
妻は、何を考えているんだろうか。
《いや、間違い無く、相当にご立腹だろうね》
「全く、そう良い女が居ると言うのに、どうすれば他に手を出せるんだい」
『いや、本当に魔が差しただけなんだ。本当に、軽い遊びのつもりで』
「だが、バレるまで続けていたんだろう」
《全くだ、たった1回、酔った勢いなら。五千歩は譲ってだとしても、君は幾度も逢瀬を重ねたんだろ》
『いや、分かってくれとは言わないが、こう長い付き合いだと落ち着き過ぎてしまうじゃないか』
学生時代に知り合い、そう恋愛なる事も程々に妻とは結婚した。
だが、だからこそ。
「それで、君は妻に何をしたって言うのだろうか。昔の様に、2人きりでちゃんと出掛けてやったのかい?」
《そうだぞ、妻の女らしさを呼び覚ます何を贈ったんだい、何処へ行き何をしたんだい》
『へっ』
《あぁ、コレはダメだ、お先に失礼》
『そんな』
「世の夫婦は、寧ろ妻に、愛する者に逃げられない様に必死だ。妻に負担の無い範囲で贈り物をし、何処かに行き、時に美味い物を2人だけで食う。君は、妻に何をしてやって、そう不満を募らせたって言うんだい」
僕は、何を言われているのか全く分からなかった。
いや、分かりたく無かった。
僕が求めなかったせいでもう、妻は僕には期待していないのだ、と。
『すまない』
「いや、謝るべきは先ず、奥方だろう。もう帰った方が良い、もしかすれば、家を出る仕度をしているかも知れないよ」
そうして僕は急いで家に帰ったが。
「お帰りなさい」
いつも通り、妻は先に子供達と夕飯を食べていた。
そして、いつも通り、僕の鞄を持ち。
《お父さん、どうしたの?》
気が付くと、僕は膝から崩れ落ちていた。
「お父さんはお仕事でお疲れなの、きっと悪酔いしてしまったのね、お水を持って来て」
《私が持ってくるから、アナタは食べてなさい》
《ですけど僕も手伝いたい》
「なら煽いであげて」
《はい、お疲れ様です、お父さん》
あぁ、僕は何て事をしたんだろうか。
何故、どうして。
《ひっ》
「離婚だ」
《そんな、違うんです、ただ。単なるお遊びで、軽い気持ちでただ、好いているワケでも何でも無いんです》
「バレてしまったから謝っているだけだろう、数回で既に縁が切れていたならまだ分かるが。人様に見られバレてしまい、縁を切る事にしただけだろう。でなければ、何故、そう続いたと言うんだ」
《寂しそうだったので、つい、ほんの同情心からで》
「好いてもいない、同情心だけで抱かれてしまえるのなら、いっそ春でも売っていれば良い。それともお前は、俺の知り合いの女が舐め回した箸を、喜んでそのまま使えるとでも言うのか」
《アナタまさか、浮気を》
「幾らお前の夫だからと言って、そこまで落ちていると思われるとはな。お前と違い、俺はお前一筋だったが、意味は無かったな」
《違うの》
以降、妻は言葉を発する事は無く。
元妻、となった。
「大変、申し訳御座いませんでした」
「いえいえそんな、コチラこそ申し訳御座いません」
「いえ、いつの時代も離縁は大変な事、どうかお手伝いを」
「あぁ、いえ、ウチは離縁しませんから大丈夫ですよ」
どうやら強がりでは無く、本気らしい。
「失礼ですが、何かご事情が」
「私の衰えは勿論ですし、きっと飽きも有るとは思います。けれど、夫は大切な家族ですから」
妻は全く責める事も無く、まるで何事も無かったかの様に過ごし、今日は僕の好物を作ってくれていた。
『本当に、すまなかった』
情けなさ、申し訳無さを拭いきれず。
僕は何も無しに、妻に謝った。
「何の事です?」
怒りもせず、泣きも怒りもせず、責めもしない。
僕はそれを、不満に思ってしまった。
『君は、僕を愛していてはくれなかったのか』
どの口が言う。
そう今なら思えるが。
「では、アナタはどうなんですか?」
僕は思わず、飛び出してしまった。
「君は、本当に」
『すまない』
「不埒者が言う通り、どっしりと構え笑顔で許し、責めも泣きも怒りもしない。けれどいざ叶えば不満を抱え、愛していなかったのかと疑いを掛ける、すまないけれど僕も無理だ」
『すまない、もう』
「妻を女扱いしなかった分際で、女を感じられない、そう不満を言う。君は、あぁ、成程、失礼する」
『そんな、待っ』
夫は、日に日に憔悴していってしまいました。
どうしてか、全く分かりません。
友人と縁を切られてしまったのは、自業自得。
仕事場に知られ、片身の狭い思いをしているのも、自業自得。
なのに。
「お帰りなさい」
『許してくれ、頼む』
「許すも何も、離縁はしないんですし、家族なんですから」
『どうしてそう、責めてくれないんだ』
責めろ、とは要望されてはいない。
しかも、その道理も無い。
夫は徐々に私に女を求めず、妻、母親の役目のみを求める様になった。
だから私は沿った。
夫の願望に、欲望に、考えに。
「アナタは幸せそうでした、昨今では私に見せない程、幸せそうでした。その幸せを与えられぬ私が、どうして責められましょうか」
夫は青ざめると、また謝罪を繰り返し、泣き疲れ眠ってしまった。
アナタが言わずとも、考えずとも無意識に考えている事を汲み取り、その願い通りにしたと言うのに。
どうして泣くのでしょうか。
《お父さん、母さんと離縁して下さい》
《姉さん、急に何を》
《この人は浮気者です、しかも既婚者の女と何度も浮気をした》
『すまない』
《僕は、もう、アナタなんて大嫌いです。もう、顔も見たくない》
《私は見張ります、母さんの為に、アナタに付いても行きます》
「ちょっと、アナタ達、何を言っているの?」
《お母さん》
《母さん、こんな馬鹿で愚かな男は母さんには相応しく無い、離縁しましょう母さん》
「そう、ごめんなさい、ありがとう」
母さんは頭が良過ぎる。
勉強の事はそこそこだけれど、この子種袋の全てを理解している。
最初は単に長年連れ添ったからだ、と、けれど関わる全ての人の真芯を直ぐに理解し。
どう付き合うか、そこに利が有るかどうかで距離を決め、一切の諍いに巻き込まれる事が無かった。
『すまなかった、本当に』
《向こうは離縁したんですし、お似合い同士、くっついたら良いじゃないですか》
『いや、違うんだ』
《何が》
「仕方無いのよ、好いていた事に気付いていないだけなんだもの」
『いや、本当に』
《性欲解消なら、何故、そうした場所へ行かれなかったんですか。お金の節約ですか?だから近隣で浮気をした、知り合いや子供に見られるかも知れない場で》
「それは母さんが許してくれると無意識に分っていたからよ」
『違っ』
《見たんです、私、私が向こうの旦那さんに言い付けたんですから》
『そっ、すまなかった、本当に』
《実は、こうなる事を望んでいたのでは》
『違うんだ』
《なら、何故、誰かに見られてもおかしくない場所で逢引きをしたのか。何故、相応の商売女で済まさなかったのか、何故母さんが怒らない事を逆に責め》
「ダメよ、1つ1つにしてあげて、ね?」
《何故、僕らと離れたく無かったなら、遊び半分の軽い気持ちで浮気をしたんですか》
「ほら、あまりお父さんを責めないであげて、お父さんにはお父さんの考えが有っての事なのだから」
『君は、やっぱり』
《お前が言うな!!愛しているならどうして浮気なんかした!バレ無い様に気を付けもしないで!どうして!バレ無いと思った!!》
「それは、お父さんがそう言う人だからよ。私はそんなお父さんだと知っていて、好いて一緒になったの、だからお父さんばかりを責めないで」
《母さんは悪くない、コレの考える事を察して、その通りにしてただけで》
「けれどアナタ達を悲しませてしまったわ、ごめんなさいね」
《ううん、私の方こそ、我慢出来無くてごめんなさい》
《僕、僕がコレに付いていきます。姉さんは女だし、僕の方が腕っぷしは強いから》
《ダメ、こんな糞には蠅しか来ない、その蠅にアンタまで毒されたら。私は一生、男嫌いになるしかない》
《なら不規則に交代しよう、危ない時には僕、女の匂いがしたら姉さんに交代する》
《良いわね、そうしましょう》
『何なんだ、お前達は何を』
《私達は、偶々、母さんの血でアンタよりはマシな頭になった。でも、もしアンタに靡くような馬鹿女との子が出来たら、その子が可哀想過ぎる》
《うん、僕もそう思う》
「ごめんなさい本当に、ありがとうね」
あの人と下の子を置いて行くのは不憫で、結局は毎日夕飯の支度に向かい、そうあまり変わり映えの無い毎日でした。
けれど。
『お前、浮気をしていたのか』
「何の事でしょう」
『しらばっくれるな!男と、飲み屋に』
「あぁ、飲み屋で料理の仕込みと下働きをさせて頂いてますけれど、何か」
『何か』
「はい、もう離縁は済んでいますし。お付き合いが有ったとしても、私は既婚者では有りませんから」
『お、お前は、子供が居ながら』
《アンタもだっただろ、されて嫌な事はするな、僕でも分かる事ですよ。母さん、もう帰って構いませんよ、どうせ時間の無駄ですから》
『お前と言うヤツは』
《姉さーん!父さんが暴れそうでーす》
《こらぁあああああ!浮気者の分際で!母さんに何すんのよーーーー!》
『ひっ、ひぃぃい』
《姉さーん!暗くなる前には帰って来て下さいねー!》
「今夜は煮魚よー」
以降、何か有ると直ぐに、こうして追い掛けっこが始まり。
瞬く間に元夫の浮気は広まり、私の知り合いの女性は遠方へ。
夫は職場を辞めず済んだものの、降格し、誰も話し掛ける事は無いそうで。
そして、こう近くに住んでいるので、そう不便も何も無いのですが。
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