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第22章 機関と教授と担当。

2 怨霊と殺人鬼。

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 呪いと疫病には、類似性が有る。

 そして怨霊と疫病にも幾ばくか類似性が有り。
 怨霊と殺人鬼にも、類似性は存在している。

『私、あの子が欲しいデース』

『そうですか』
『ソウですか違いマス、何故良い返事が貰えないデスか?』

『この国には禁足地が有り、目にしただけで相性の悪い者に災いを齎す秘仏が、時に功徳を与えるモノでも有る』
「未だに人には早い、そうしたモノを隔てておくのもコチラの仕事なんです、ご理解下さい」
『ォーゥ、その声と顔はズルいデースね』

『それで、コチラの資料は』
『ハーイ、間違い無く、怨霊デスね』

 怨霊と殺人鬼の類似性。

 それは名を得る事により更に凶悪さを増し、有る筈の無い能力まで付与され、被害が広まり。
 対処には時間が掛かってしまう、と言う事。

『では、己卯之弐号、参式により処理命令を発動致します』

 私達は、機関。
 ただ、機関、とされる万屋。

『ふふふ、報告を楽しみにしてマースね』
『貴女も行くんですよ、同定には観測機が不可欠なのですから』

『ォーゥ、分かりマシた、荷造り行きマース』
『お送りしますので、速やかにお願い致しますね、教授』



 あまり私の同行を請われる事は無い。

 彼ら彼女達は、常に3人で行動しており。
 観測、見極め、評価を3人で行う。

 あまり余所者は入れない筈が。

『ごめんなさい、急な仕事が入ってしまって』
「寂しいけれど仕方無い、それだけ君が国に必要とされている、その事は非常に喜ばしい事だからね」

『ありがとう、お土産を沢山持って帰って来るわね』
「あぁ、楽しみに待っているよ、気を付けて」

『ええ、行ってきます』
「行ってらっしゃい」

 他愛無い件も含め、幾つか同行を求められた事は有ったけれど。
 こんなにも問答無用で、そして早急な事は初めて。

 つまりは、幾ばくか危険が差し迫っての事。

『お待たせしマシた、行きまショウ』
『はい、参りましょう』

 八重子は、良くも悪くも余計な事は一切口にしない。
 けれど、彼女の中には怯えが見える。

 最悪は、彼女だけでも守るべきなのかも知れない。



『フーゥ、長い道程でシタね』
『ココは北の安達ケ原、ですからね、無理も無いかと』
「桃が名物だそうですけど」
《もう時期外れだろうな》

「ですね、かなり肌寒いですし」
『瓶詰めでも有れば御の字でしょう、さ、行きましょう』

 手紙の主の前に、先ずは駐在所へ。

《あの、一体》
《この手帳だけでは難しいでしょう、コチラをお読み下さい》

 彼が駐在員に手渡したのは。
 国家公安委員長、内閣総理大臣の署名と捺印、それと各部署への連絡先。

《あー、あの、こうした事は不慣れでして。念の為、確認を、お時間を頂く事になるのですが》
『構いません、私達は暫く見回らせて頂きますから、ご心配無く』

《あ、はい。それでその、一体》
《行方知れずが立て続けに起こっているだろう、確認が取れ次第、そうした資料の提出を頼めるだろうか》

《はい、では、失礼致します》

 この駐在員は当たり。
 手順や段取りの重要性、自身の職務を良く理解し、慎重で堅実。

『では先ず、土地神様にご挨拶に参りましょう』

 本来は真っ先にご挨拶すべきですが、人には人の事情と言うモノが有る。
 ただ、それらに寛容で無ければ、挨拶無しに行動する事は許されない。

 けれど、少なくともココの土地神様は、寛容らしい。

「ココには、居ない」
『ドウ言う事デス?』

「正しく移さなかった、若しくは移せなかった、のかも」
『では何処にいらっしゃるのでしょうね』

「多分、アッチですね」

 真方が言うと同時に、指を差した先で曇天の空が僅かに光り。

『ォーゥ、雷怖いデース』
『そうですね、向かいましょう』
「ですね」
《雷が落ちるだろう先へ、か》

「頑張って下さいね石井さん、中には生き残れる場合も有るそうですから」
《避雷針の近くに居ると、却って感電する場合も有るそうだ》

「なら離れないと」
《あぁ、お前の勘ではソッチか》

「もー、邪魔しないで下さいよ、今日は石蹴りの気分なんですから」

 真方と石井がじゃれ合いながらも向かった先に、正しい神社が有った。

『少し変わってマスね、火雷大神デハ無く』
『スサ神、ですか』

『ハーイ、他にも有るデスか?』

『追々、お教えしますね』



 この身は、巫女と言うには他とあまりに違い過ぎる。
 かと言って、禰宜としてはあまりに巫女の香りがする。

 既存の、表向きの神社で受け入れられない、そうした者を受け入れた先は。
 機関。

 何の機関か、どんな機関かも無い、ただの機関。

『ハーイ、記録完了デース』
『では、次に参りましょうか』

 次に向かった先は、寺院。

「随分と大きいですね」
『それだけ、土地が必要だったのでしょう』
《失礼する、手紙を受け取った者だ》

 正門は固く閉ざされ、物音1つも聞こえない。

「コレは、強く叩かざるを得ないのでは?」

《手紙を受け取った者だ、祐慶和尚は居られるか!》

 まるで落雷の様に、全身がビリビリと震えたかと思うと。

『あの、はい、どちら様で御座いましょうか』

 出て来たのは、可愛い小坊主。

「どうも、この手紙を受け取った者です、祐慶和尚はいらっしゃいますか」
『あ、はい、直ぐにご案内したいのですが』
『暫く待ちますので構いません』

『はい、暫くお待ち下さい、直ぐに呼んで参りますので』
「はい、気を付けて、急ぎでは無いですから」

『はい、ありがとうございます』

 可愛い小坊主。
 良く躾けられた可愛い小坊主が居る寺は、良い寺だ。

 反対に、矢鱈に大人しい小坊主の居る寺は。

《どうだ》
「何も、ただ因縁が有る土地だとは思いますけど、アレの雰囲気は何も」
『何も無いのが1番ですが、小泉女史の見極めは、確かかと』

『私とシテも、杞憂、考え過ぎで有って欲しいデスが。ココ、例の伝説有る場所、引き寄せられた可能性も有りマス』

『黒塚、鬼婆や鬼女伝説の有る安達ケ原、何が起こっても不思議は無い』
「ですけど、そこが不思議なんですよね、各所に逸話が有る程なのに。行方知れずが3名も出るだなんて」
《近くに有るからこそ、遠く大昔の事だ、そう思い込んでしまうんだろう》

『それに、もしかすれば実際にココでは無く、青森での出来事だったかも知れませんからね』
『或いハ土佐か、岩手か、デスね』

 各地に点在する、鬼婆伝説。
 他とは違って、そう変化する事も無く、寧ろ一貫性が有る。

《どうも、お待たせしました、和尚の祐慶と申します》



 青年2人は、確かにそこまで痩せ衰えてはいないが。

『すみません、まさか政府の方に出向いて貰う事になるとは』
「すみません、僕に何か原因が、そう考えはしたのですが」
『いえ、特に何も無くとも、相性や好みで憑かれる事も有ります。ですが、だからこそ、どうか正直に全てをお話下さい』

「はい、先ずは僕から、下宿先で起こった事をお話致します」

 顔色は悪く、呼吸が乱れ語気も弱い。
 だが、嘘は無い。

『成程』
『そこで次に俺が』
《念の為、形式上、伺うだけだが。何か酒や薬は》
「してません!そんな、お酒は直ぐに眠くなってしまいますし、漢方すら苦手なんです。それに、嫌なんです、そんな事より本の方が安全で面白いんですから」

『俺もです、確かに面白半分で野草も口にしますけど、元は勉強も兼ねての事。薬剤師になるつもりなんです、なので怪しい事をしている暇は有りません』

 彼らに嘘は、無い。
 では、一体。

『では次に、アナタが何を見聞きしたか、お願い致します』
『俺は、それこそ誂いに行くつもりで、彼の下宿先を尋ね様としていたんです』
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