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第22章 機関と教授と担当。

1 都市伝説と悪魔。

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『神宮寺サーン、コレはドウでショウ』

 今日は林檎君と川中島に頼まれ、小泉教授と仕事をする事に。

《教授は、どう思ってらっしゃるんですか》

『ふふふ、デハ先ず林檎君にお願いしまショウ、コレはドチラだと思いマスか?』

 この女は、おかしな雰囲気を纏っている。
 真意を見抜く事が難しいのは、単に外見の違いか、外の血のせいか。

「えー、門外漢なので根拠は薄いんですが、新規の都市伝説かと思います」

 林檎君は民俗学の分類を見学するだけ、の筈が。

『ハーイ、実は私もデース』

 何処にも、何にも結び付かない口伝や伝承、所謂創作かどうか。
 若しくは、単に螺子曲がっただけ、か。

《では、少し林檎君に解説して貰いましょうか》
「えー?僕ですか?」
『私は半ば勘デース、その言語化をお願いしたいデース』

「つまり違和感の説明、でしょうか」
『ハーイ、お願いしマース』

 結局、林檎君は参加する事に。

「先ずは、成り立ち、その脅威の成立です」
『オーゥ、根本からデスね』

「はい」



 僕は理不尽で不条理が嫌いです。
 それはある意味で、国民性だとも思います。

 だからこそ荒神信仰、御霊信仰が存在し、成立している。
 もし、それらが成立していなければ。

 呪いは拡散し、人々は一方的に減り、この国は壊滅する。

『その考えの根本ハ、何デスかね?』
「イザナギイザナミ信仰、ですかね。黄泉の国との境がハッキリしている、そして対抗する手段も明確です」

 櫛を投げ付ける、若しくは果物を投げ付け、生き延びる。
 片や都市伝説には対抗手段が無い物も有り、時に凸凹やバラ付きが有る。

『主に、何処、デスか?』
「今回の場合ですけど、成立が古く背景がしっかりしているにも関わらず、対処法が無い。ですがその逆は良く有るじゃないですか、主に妖怪に、良く分からないけれど撃退法は有る」

 鎌鼬の亜種で言う野鎌は、呪文を唱えれば何とかなる。
 そして西の風鎌は、古い暦を懐に入れておけば済む。

 大した事が無いからこそ、対処法が編み出せたのだとは思います。

 ですけど逆の場合、大いなる脅威のみで対処法が無い。
 それは可笑しいんですよ。

『どう、可笑しいデスか』
「先ず、どう伝播するのか、です」

 聞くだけ、で必ず死ぬ話が有るとします。
 なら、その人は何処から聞き、何故生きているのか。

 そこに対処法が有れば矛盾は無いんですが。

『何故、知っているのか、何故広まったのか。デスね』
「はい、創作か抜けが有るのかの再確認が必要ですけど。問題には専門家が関わる筈で、なら、必ず対処法が出る筈なんです」

 僕が神宮寺さんを知っているから、かも知れませんが。
 疫病も呪いも、必ず専門家が存在し、必ずいつか誰かが対処する筈だ。

 そう思っているからこそ、不自然に思えてしまう。

『信頼しているんデスね』
「はい、神様も神宮寺さんも信じているからこそ、対処不能な悪霊などは存在しない。イザナギ神相当の神様が居ない日本神話なんて、僕には考えられませんから」

『成程、オーディンやゼウスの居ない、若しくはソレらに対処する者の居ない物語。ソレは確かに違和感デスね』
「せめて居ない理由が欲しいですね、それこそ何か起きて霊能者が壊滅状態になり、少数では手に負えない状況だ。とか、ですけど結局は滅びしか無いと思うんです」

 黄泉の国の勢力が勝つ時点で、この世の終わりです。

 人は簡単に死んでしまう。
 それに比べ、次を産める迄に育てるには、あまりに時間が掛かります。

 黄泉の国の勢力に負けた時点で、世は滅びるしか無い。

 ですけど、それを他の神々が許すでしょうか。
 それこそ他国の神々も、仏も。

《この国には他国の神も根付いてますからね》
「はい、七福神さんが良い例かと」
『デース、七福神さんは凄い馴染み方をしマシた、それに青面金剛さんもデース』

「はい、必ず救いが有る、若しくは対処法が有る。古い伝承なら余計に、必ず対処しようとする者が現れる、べきなんです」

『強い意見デース、もう少し根拠が欲しいデースね』
「受け売りで申し訳無いのですが、呪詛の強さは疫病と同じく、殺傷力が高い程に局所的である。そう仰ってらっしゃる先生が居りまして、僕も納得したんです。広まり解明される前に死してしまう、そうした不条理が存在していた」

『日本住血吸虫の専門家、宮田先生、でショウか?』
「はい。何も知らない若い無知な方は、やれ都会に土が無いだ、用水路に風情が無いと仰いますけど。もし有ってしまったなら、ココまで人口は増えず、寧ろ黄泉の国が直ぐそこまで来ていた筈なんです」
《レンガ水路が有ってこそ、地方に嫁は出すな、若者を都会に逃がせと言わずに済む様になりましたからね》

『お陰で口伝や伝承、途絶えず済みまシタ、民俗学会の恩人の1人デス』
「宮田先生は逆に、民俗学のお陰だと仰っているそうです。伝承から三大流行地を特定出来た、そうした背景も有るそうですから」

『オーゥ、持ちつ持たれつ、私の好きな文言の1つです』
「ですね、僕も好きです」

《その、要は殺傷力と内実、若しくは中身に違和感が有る。と言う事ですかね》
「あ、はい、弱い疫病は良く広まり変異を起こす事も有るそうですから」
『デスけど、強くなってしまう疫病も有りマスよ』

「そこは僕ら小心者の出番です、あまりに怖いと広まらない。言霊信仰も関わっていると思います、口に出したくも無い、その果ては忘却です」
《そうなっては呪詛の効果は薄れ、無いにも等しくなる》

「はい、ですが逆に妖怪や悪霊も、時代に合わせ変化するとは思うんです」

 だからこそ、殺傷力の低いモノの派生や亜種が広まる事には、納得出来るんですが。
 類いを見ない新種ともなると、それこそ外部からの流入を先ずは考えるべきだと思うんです。

 そして、流布の際の利益や不利益に関しても。
 そこも病に似ていると思います。

『病、風邪の元は風の邪なる何か、デスからね』
「不用意に不必要に不安を煽る事は悪です、ですのでウチでは出処不明な都市伝説の扱いは出来るだけ避けています、意図しない風説の流布は避けたいですから」

 と言うか、実例が他社で起きてしまったからこそ避けている。
 そうした面も有るんですけどね。

《何か有ったんですか?》
「特定の配送業者の目印に触れると、幸運が訪れる。他誌に載っていた作り話を、同業他社が仕事の妨害を目的とし流布した、佐山・山川案件と呼ばれる事件です」
『何社か噂が流れたんデスけど、1社だけ、無事だったんデスよねー』

「はい、そこで公安が出て、事実の公表に至った」
《ですけど一部では、公安は情報操作をしている、とも噂されていますよね》

「かも知れませんが、そうして事態が収束したのは事実ですし。借りに他国が絡んでいるとの事実が公になった場合、本当に無実の方が迫害されてしまう恐れが有りますから。全てを、国民の全てが知るには、時間が必要だと思います」

『損得の関わる噂は火薬庫デース、少しの火種で燃え広がり、時に遠くへ飛び火しマース』
「はい、当時の社長曰く、悪意が無くとも業務妨害は犯罪だ。そう流布すべきだ、と思ったそうです」
《あぁ、配送の邪魔になりますし、勝手に事故に巻き込まれても困りますしね》

「はい、走っている車に無闇に近付くべきでは無い、そう車体に明記すべきだとの声も上がったそうですが」
《馬鹿らしい事を》
『他人のせいにする為の、前段階デースね』

「はい、当たり前を教えない責任を他者に押し付ける、そんな国民性だと他国に思われる利点が何も無い。当時の交通省と国交省が合同で声明を発表し、一気に沈静化したそうです」

《成程、それで》
「あ、すみません、少し脱線してしまいましたね」
『イエイエ、寧ろ沿ってマース、流布の背景を私達も考察しマスから』

「では、その基準は」
『ォーゥ、残念デース、機密情報デスから』
《ですけど、予測を聞いて貰う事は可能ですよね》

『勿論、聞くだけデースけどね』

「僕、根付かない事が不思議なんですよね、特に悪魔」
『成程、ソコは神宮寺サンの意見、先に聞きたいデースね』
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