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第9章 男と女。
2 令息と子女。
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良い獲物が引っ掛かった。
やっと。
《母さん、やっとお声が掛ったよ》
「まぁ、まぁまぁ、アンタは良い女だもの。しかも体付きだって良い、いつか良い男に、やっとだね」
《ふふふ、良い身なりだったし、私にぞっこんでさ。手を出されそうだったけど、何とか、隣に人が居てくれて助かったよ》
「あらま、で、何処の若旦那なんだい?」
《なんと、あの和田鍋屋だよ》
「まぁまぁ、本当かい?!」
《勿論、私も後を付けたし、他のに付けさせた時も和田鍋屋の家に入って行ったんだ、間違い無いよ》
「けどさぁ、単なる出入り業者かも知れないよ、着替えて裏から出られたら分からないじゃないか」
《確かに》
「あ、ほら、何か約束の品とかは貰わなかったのかい」
《貰った貰った、ほら》
「あぁ、こりゃ本物の鼈甲だ、コレだけでも暫くは食っていけるねぇ」
《やめておくれよ、コレは預かり物なんだ、今は婚約者のフリでも練習台でも良いさ。正妻になれなくたって妾になれば、それこそ子を産めばコッチのもんだ》
「だからこそ、迂闊に誰かのモノになるんじゃないよ、例え病が無くとも傷物ってだけで信用度は下がるんだ。しっかり守るんだよ、夜伽は婚姻してからだ」
《勿論》
「すまないね、足を悪くしたばかりに」
《良いんだって母さん、繕い物してくれてるだけマシだよ、どっかの父ちゃんは絵ばっか描いて何の金も落とさないらしいじゃないか》
「私は良い絵だと思うけどねぇ」
《はいはい、アレは写真と一緒で面白味が無いんだよ、もうちょっと変わったら売れるだろうけど。アレはダメだ、あのまんまじゃ売れないよ》
「そんなものかねぇ」
《そんなものだよ。さ、メシを買って来たんだ、汁物温めるから待ってておくれね》
「ありがとう」
世の中は中身だ、外見だのと仰ってるけど。
結局は金だよ金、碌でも無い親が居れば貰い手だって尻込みする、金は無尽蔵に何もせず湧くワケじゃないからね。
賢い家の男には賢い女が嫁ぐし、学の無いのは無いで可愛がられる。
私みたいな半端者は、同じ様な半端者しか来ない。
悪い奴らじゃないけどさ。
上をね、知っちまっているからね。
損得勘定がしっかり計算出来て、浮気しないで、稼げる男。
やっぱり、金が有ってこその学なんだよ。
金が無いから稼ぐ事に時間を使う、で学ぶ時間が減る。
私は寺子屋から初等部、中等部までは行けたけれど、稼げる様になって高等部には行く間が無かったし。
数学だけは受けていたけれど、他がテンでダメで、昇級出来ずに退校になった。
タダなんで痛くも痒くもないけど。
楽しそうに通ってるのを見て、やっぱり、羨ましかったよね。
いやね、援助するから通えって声を掛けて貰った事も有るけど。
歴史だの地理だの、それこそ何に使うんだって古文とか大嫌いでね、数学だけ出来る所が有れば良かったんだけど。
まぁ、それは更に進級した先、大学でやっとソレが出来るらしいんだけど。
その大学に入るのは、流石にタダじゃないし、僅かな優等生だけがタダで行けるって事でさ。
まぁ、無理だったワケだ。
そうなると、せめてウチの子には、高等部に行けるだけの余裕を持たせたいってのが親ってもんよね。
学が無いってだけでフラれんのって、何かね、人情が無さ過ぎじゃないか。
しかもバカじゃなくても学校に行けない者だ、バカなのに学校に行けてるのだとかさ、居るからねぇ。
《はい、母さん》
「ありがとう」
母さんにも、楽させたいんだよね。
親父、いや子種袋がさ、密造酒ばっかり飲むバカで。
だけならまだ良かったんだけど、暴れて、母さんの足を滅茶苦茶にして。
子種袋は捕まったけど、稼ぎも減って、母さんも歩くのが大変になってさ。
止めても、止まらないんだよね酒飲みは、だから酒飲みだけには手を出さないつもりなんだ。
程良く飲める人だったのに、ちょっと失敗して昇進が見送られたからって、大酒飲みになっちまって。
酒しか、趣味が無かったのも知ってる。
チビチビ作ってチビチビ飲む、だけ、だったら良かったんだけどね。
母さんの為にも、良い男を捕まえて、安心させたいんだよね。
妾でも良い、子供をマトモに育てられるなら、ね。
『お母さん、あのね』
「何、忙しいんだから、さっさと用件を言って頂戴」
『その、和田鍋屋の若旦那さんに、声を掛けられたの』
「はぁー、で、どう声を掛けられたんだい」
『婚約者のフリを、暫くしてくれないか、って』
「そう、で」
『どう、したら』
「アンタね、もう18でしょう、少しは自分で考えなさいよ全く」
『ごめんなさい』
「全く、どうすれば良いか少し考えれば分かるでしょう、それとも子供みたいにどうしたいのかを私が聞いてあげないといけないわけ?」
『ごめんなさい』
「はぁー、ほら、自分の事は自分でして。お母さん忙しいんだから」
『はい、ごめんなさい』
お金持ちの方と知り合えたから、少しは喜んで貰えると思ったのに。
私、やっぱり、フリでも良いから婚約者になってみようかしら。
もし気に入って貰えたら、もしかしたら結婚して貰えるかも知れないし。
でも、相手は凄い大金持ちだから、私なんて。
アレってつまり、遊び相手って事だろうし。
それでも、私なんかでも役に立つかも知れない、そしたらお母さんも少しは。
うん、頑張ってみよう。
素敵な優しい方だし、優しくして下さったし。
「兄さん、どうだったソッチは」
「あぁ、反応は良かったよ、ソッチは?」
「邪魔が入って最後までは無理だったけど、多分、処女だと思う」
「俺の方もだよ、途中で邪魔が入った」
「もう少し時間をズラすべきだったか」
「だね、でも今回は混んでたし、仕方無い」
僕達は結婚相手を探していた、程々に顔が良く、程々に頭が良い女を。
僕は少し気弱そうな、普通の家の普通の娘を気に入り。
兄さんは少し気が強そうな貧しい家庭の、普通の娘を気に入った。
まぁ、他にも候補が居て、知り合いと徒党を組んで選別していたんだけど。
1人は売れない絵描きの父親を持つ賢い娘を気に入り、1人は手癖が悪い不遇な女を気に入り、其々今日のウチに手に入れていた。
兄弟そろって、未だハッキリした答えは貰えてはいない。
無理も無い、普通なら同格の家から娶る、金持ちには金持ちの作法が有るからね。
けれど、それはそれで既に居る。
僕達には親が選んだ婚約者が、けれどそれに反発心も有るし、正直好みでは無い。
好みだけで選ぶべきじゃないのは分かっているけれど、何の苦労も知らないで、お茶だお琴だして育った女に全く興味が湧かない。
苦労を知ってれば必ず良いってワケでは無いにしても、全く知らないのは、どうかと思う。
いつ苦労するか分からないのだし、それこそ、少し家が傾いただけで逃げ出されても困るのだし。
「あ、品物は渡した?」
「勿論、次はウチに訪ねに来る予定だけど、いつか賭けるか」
「兄さんのは、明日、僕の方が後かな」
「その根拠は」
「アレでも慎重そうだし、駆け引きをするかなと思って」
「あぁ、確かにな、お前の方が早く来そうだ」
「コレじゃあ賭けにならないね」
「だな」
あんまりに愚かだったり、あんまり意地が悪いなら、諦めて婚約者と結婚するけど。
何もせず諦めるのは、流石にね。
「お、本当に来たな」
弟と俺には、既に親が決めた婚約者が居る。
その婚約者が気に入らないのも有る、反発心も有る、探し出した女に惚れたのも有る。
か弱いフリして強いとか、最高だろう。
『全く、若旦那達は大人げないですねぇ』
《せやせや、いけずやわ》
「誰がいけずだ、親が死ぬまで子に言う通りにさせてどうする、死んだらどうする気だよ。操り人形が欲しかったならそう育てりゃ良かったんだ、そう育てないで逆らったって騒ぐなっての、そう育てた親が悪いだろうが」
『まぁ、そうですねぇ』
《お口が達者やわぁ》
「だろ、アンタのお陰だよ」
《まぁ、嫌味やわ》
「おう」
そして、俺にも来客が。
『婚約者さん、来ちゃいましたよ』
「はぁ」
『フるんでしたら今のウチですよ、試すのもね』
「だな」
そうして俺は正規の婚約者と会う事に。
『少し、耳に挟んだんです』
「何を」
この、勿体つける所が本当に気に食わない。
『女遊びを、してる、と』
「だったら」
『いえ、ただ……私は、妾が居ても構いませんが』
「本当に言ってるのか、他の女で培った技術をアンタに使うんだぞ。他の女が悦んだから、こうする、あぁする。他の女が喜んだから食わせてやる、連れてってやる、アンタ本当にそれで良いのか?」
あぁ、スッキリした。
初めてこうしてハッキリ言ったんだよな、前はコレでも良いかと思ってたが、誰かを本当に好くと実に不快になる。
綺麗事を並べるのは誰にだって出来る、ただ本当に妾を無条件に持たれても平気って事は、殆ど愛してないって事だろ。
『嫌です、嫌ですけど』
コレだ、相槌を待たれるのが不愉快で堪らない。
「けど」
『もし、産めぬとなれば』
「何も経験して無いのに耐えられるって言うのか、世間ではどんだけの痴話喧嘩が有ると思う」
刃傷沙汰に心中騒動、つきまといに狂言、思ったよりも振り回される事だから起きるんだろうよ。
なのに、何も知らずに豪語されてもね。
『それだけ、私は、お慕いして』
「慕ってなくとも妾を受け入れられるんじゃないのか?」
はぁ、これから何時まで黙る気だろうか。
時は金なりだと言うのに。
まさか沈黙は銀なりとか勘違いしてるんじゃないだろうな、おいおい、勘弁してくれよ。
例え本来の意味、雄弁は銀で沈黙が金って言っても、この場合の沈黙は塵屑以下だろうに。
まぁ、良い、この時間はあの子を口説く文句でも考えるか。
やっと。
《母さん、やっとお声が掛ったよ》
「まぁ、まぁまぁ、アンタは良い女だもの。しかも体付きだって良い、いつか良い男に、やっとだね」
《ふふふ、良い身なりだったし、私にぞっこんでさ。手を出されそうだったけど、何とか、隣に人が居てくれて助かったよ》
「あらま、で、何処の若旦那なんだい?」
《なんと、あの和田鍋屋だよ》
「まぁまぁ、本当かい?!」
《勿論、私も後を付けたし、他のに付けさせた時も和田鍋屋の家に入って行ったんだ、間違い無いよ》
「けどさぁ、単なる出入り業者かも知れないよ、着替えて裏から出られたら分からないじゃないか」
《確かに》
「あ、ほら、何か約束の品とかは貰わなかったのかい」
《貰った貰った、ほら》
「あぁ、こりゃ本物の鼈甲だ、コレだけでも暫くは食っていけるねぇ」
《やめておくれよ、コレは預かり物なんだ、今は婚約者のフリでも練習台でも良いさ。正妻になれなくたって妾になれば、それこそ子を産めばコッチのもんだ》
「だからこそ、迂闊に誰かのモノになるんじゃないよ、例え病が無くとも傷物ってだけで信用度は下がるんだ。しっかり守るんだよ、夜伽は婚姻してからだ」
《勿論》
「すまないね、足を悪くしたばかりに」
《良いんだって母さん、繕い物してくれてるだけマシだよ、どっかの父ちゃんは絵ばっか描いて何の金も落とさないらしいじゃないか》
「私は良い絵だと思うけどねぇ」
《はいはい、アレは写真と一緒で面白味が無いんだよ、もうちょっと変わったら売れるだろうけど。アレはダメだ、あのまんまじゃ売れないよ》
「そんなものかねぇ」
《そんなものだよ。さ、メシを買って来たんだ、汁物温めるから待ってておくれね》
「ありがとう」
世の中は中身だ、外見だのと仰ってるけど。
結局は金だよ金、碌でも無い親が居れば貰い手だって尻込みする、金は無尽蔵に何もせず湧くワケじゃないからね。
賢い家の男には賢い女が嫁ぐし、学の無いのは無いで可愛がられる。
私みたいな半端者は、同じ様な半端者しか来ない。
悪い奴らじゃないけどさ。
上をね、知っちまっているからね。
損得勘定がしっかり計算出来て、浮気しないで、稼げる男。
やっぱり、金が有ってこその学なんだよ。
金が無いから稼ぐ事に時間を使う、で学ぶ時間が減る。
私は寺子屋から初等部、中等部までは行けたけれど、稼げる様になって高等部には行く間が無かったし。
数学だけは受けていたけれど、他がテンでダメで、昇級出来ずに退校になった。
タダなんで痛くも痒くもないけど。
楽しそうに通ってるのを見て、やっぱり、羨ましかったよね。
いやね、援助するから通えって声を掛けて貰った事も有るけど。
歴史だの地理だの、それこそ何に使うんだって古文とか大嫌いでね、数学だけ出来る所が有れば良かったんだけど。
まぁ、それは更に進級した先、大学でやっとソレが出来るらしいんだけど。
その大学に入るのは、流石にタダじゃないし、僅かな優等生だけがタダで行けるって事でさ。
まぁ、無理だったワケだ。
そうなると、せめてウチの子には、高等部に行けるだけの余裕を持たせたいってのが親ってもんよね。
学が無いってだけでフラれんのって、何かね、人情が無さ過ぎじゃないか。
しかもバカじゃなくても学校に行けない者だ、バカなのに学校に行けてるのだとかさ、居るからねぇ。
《はい、母さん》
「ありがとう」
母さんにも、楽させたいんだよね。
親父、いや子種袋がさ、密造酒ばっかり飲むバカで。
だけならまだ良かったんだけど、暴れて、母さんの足を滅茶苦茶にして。
子種袋は捕まったけど、稼ぎも減って、母さんも歩くのが大変になってさ。
止めても、止まらないんだよね酒飲みは、だから酒飲みだけには手を出さないつもりなんだ。
程良く飲める人だったのに、ちょっと失敗して昇進が見送られたからって、大酒飲みになっちまって。
酒しか、趣味が無かったのも知ってる。
チビチビ作ってチビチビ飲む、だけ、だったら良かったんだけどね。
母さんの為にも、良い男を捕まえて、安心させたいんだよね。
妾でも良い、子供をマトモに育てられるなら、ね。
『お母さん、あのね』
「何、忙しいんだから、さっさと用件を言って頂戴」
『その、和田鍋屋の若旦那さんに、声を掛けられたの』
「はぁー、で、どう声を掛けられたんだい」
『婚約者のフリを、暫くしてくれないか、って』
「そう、で」
『どう、したら』
「アンタね、もう18でしょう、少しは自分で考えなさいよ全く」
『ごめんなさい』
「全く、どうすれば良いか少し考えれば分かるでしょう、それとも子供みたいにどうしたいのかを私が聞いてあげないといけないわけ?」
『ごめんなさい』
「はぁー、ほら、自分の事は自分でして。お母さん忙しいんだから」
『はい、ごめんなさい』
お金持ちの方と知り合えたから、少しは喜んで貰えると思ったのに。
私、やっぱり、フリでも良いから婚約者になってみようかしら。
もし気に入って貰えたら、もしかしたら結婚して貰えるかも知れないし。
でも、相手は凄い大金持ちだから、私なんて。
アレってつまり、遊び相手って事だろうし。
それでも、私なんかでも役に立つかも知れない、そしたらお母さんも少しは。
うん、頑張ってみよう。
素敵な優しい方だし、優しくして下さったし。
「兄さん、どうだったソッチは」
「あぁ、反応は良かったよ、ソッチは?」
「邪魔が入って最後までは無理だったけど、多分、処女だと思う」
「俺の方もだよ、途中で邪魔が入った」
「もう少し時間をズラすべきだったか」
「だね、でも今回は混んでたし、仕方無い」
僕達は結婚相手を探していた、程々に顔が良く、程々に頭が良い女を。
僕は少し気弱そうな、普通の家の普通の娘を気に入り。
兄さんは少し気が強そうな貧しい家庭の、普通の娘を気に入った。
まぁ、他にも候補が居て、知り合いと徒党を組んで選別していたんだけど。
1人は売れない絵描きの父親を持つ賢い娘を気に入り、1人は手癖が悪い不遇な女を気に入り、其々今日のウチに手に入れていた。
兄弟そろって、未だハッキリした答えは貰えてはいない。
無理も無い、普通なら同格の家から娶る、金持ちには金持ちの作法が有るからね。
けれど、それはそれで既に居る。
僕達には親が選んだ婚約者が、けれどそれに反発心も有るし、正直好みでは無い。
好みだけで選ぶべきじゃないのは分かっているけれど、何の苦労も知らないで、お茶だお琴だして育った女に全く興味が湧かない。
苦労を知ってれば必ず良いってワケでは無いにしても、全く知らないのは、どうかと思う。
いつ苦労するか分からないのだし、それこそ、少し家が傾いただけで逃げ出されても困るのだし。
「あ、品物は渡した?」
「勿論、次はウチに訪ねに来る予定だけど、いつか賭けるか」
「兄さんのは、明日、僕の方が後かな」
「その根拠は」
「アレでも慎重そうだし、駆け引きをするかなと思って」
「あぁ、確かにな、お前の方が早く来そうだ」
「コレじゃあ賭けにならないね」
「だな」
あんまりに愚かだったり、あんまり意地が悪いなら、諦めて婚約者と結婚するけど。
何もせず諦めるのは、流石にね。
「お、本当に来たな」
弟と俺には、既に親が決めた婚約者が居る。
その婚約者が気に入らないのも有る、反発心も有る、探し出した女に惚れたのも有る。
か弱いフリして強いとか、最高だろう。
『全く、若旦那達は大人げないですねぇ』
《せやせや、いけずやわ》
「誰がいけずだ、親が死ぬまで子に言う通りにさせてどうする、死んだらどうする気だよ。操り人形が欲しかったならそう育てりゃ良かったんだ、そう育てないで逆らったって騒ぐなっての、そう育てた親が悪いだろうが」
『まぁ、そうですねぇ』
《お口が達者やわぁ》
「だろ、アンタのお陰だよ」
《まぁ、嫌味やわ》
「おう」
そして、俺にも来客が。
『婚約者さん、来ちゃいましたよ』
「はぁ」
『フるんでしたら今のウチですよ、試すのもね』
「だな」
そうして俺は正規の婚約者と会う事に。
『少し、耳に挟んだんです』
「何を」
この、勿体つける所が本当に気に食わない。
『女遊びを、してる、と』
「だったら」
『いえ、ただ……私は、妾が居ても構いませんが』
「本当に言ってるのか、他の女で培った技術をアンタに使うんだぞ。他の女が悦んだから、こうする、あぁする。他の女が喜んだから食わせてやる、連れてってやる、アンタ本当にそれで良いのか?」
あぁ、スッキリした。
初めてこうしてハッキリ言ったんだよな、前はコレでも良いかと思ってたが、誰かを本当に好くと実に不快になる。
綺麗事を並べるのは誰にだって出来る、ただ本当に妾を無条件に持たれても平気って事は、殆ど愛してないって事だろ。
『嫌です、嫌ですけど』
コレだ、相槌を待たれるのが不愉快で堪らない。
「けど」
『もし、産めぬとなれば』
「何も経験して無いのに耐えられるって言うのか、世間ではどんだけの痴話喧嘩が有ると思う」
刃傷沙汰に心中騒動、つきまといに狂言、思ったよりも振り回される事だから起きるんだろうよ。
なのに、何も知らずに豪語されてもね。
『それだけ、私は、お慕いして』
「慕ってなくとも妾を受け入れられるんじゃないのか?」
はぁ、これから何時まで黙る気だろうか。
時は金なりだと言うのに。
まさか沈黙は銀なりとか勘違いしてるんじゃないだろうな、おいおい、勘弁してくれよ。
例え本来の意味、雄弁は銀で沈黙が金って言っても、この場合の沈黙は塵屑以下だろうに。
まぁ、良い、この時間はあの子を口説く文句でも考えるか。
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