27 / 131
第6章 庶民と神様。
5 庶民と神様。
しおりを挟む
『今日だけしか見せられない掟が有る』
「でしょうね」
神域では既にお祭りが始まり、屋台が立ち並んでいる。
猫娘だ狸だ、妖怪や神様がもう、ワラワラと。
そして子供も。
『7才までは神の子、不運にも亡くなった子もココで過ごし、輪廻の環に還る』
「私達の寿命は」
『孫が生まれ7年経てば寿命となる』
「かと言って作らないワケにはいかない、か」
『嫉妬も有って今直ぐにも食べてしまいたい』
「どちらが幸せになると思う」
『アレより幸せにしたいと思っている、けれどココの生活に馴れる事が出来ず離れた者も居ると聞く、だからこそ全て見せ選ばせる。昔はもっと強引だったらしい』
「その方が良い場合も有る、悩むのは辛い」
『すまない、本当は会わせたく無かった』
「でも掟だから、泣く泣く、致し方無く」
『妾は、両方選べる』
「あらあら、贅沢」
『けれど寿命は人と同じ』
「あー、成程、絶妙」
『神は人を幸せにするモノ、例え娶る相手でも、だからこそ不幸にしてはならない』
「例え妾でも」
『妾は嫌だ』
「でしょうね」
『俺だけのモノにしたい』
『はいはいはーい、おっぱじめないで』
『そうそう、さ、次はお相手の番』
『どう覗いてたか見せるわ』
そうして攫われ、境の泉にとうちゃくすると。
まさに水鏡が彼の姿を映し、声まで。
『コレは、台所の水滴ね』
「水滴」
『竜は水を司る神、八咫烏は風に乗った音だけ、土蜘蛛は土の有る場所』
『良い朝食ね』
「アナタ達も掟に従って」
『まぁ、そうね』
『そうそう、全然抱かれられる』
『例えアナタを好いているとしても、ね』
「強い」
『まぁ、良い雄だし』
『エロティックだし』
『純朴でエロティックはモテる』
「分かる」
『敵対より協調、共存』
『アナタに味方する事で、私達の勝算も増える』
『まさに三竦み』
「どちらが良いと思いますか」
『アナタ達の生活を知っていても、私達とは違うわ』
『私達は私達の居る世界が幸せ、だからこそ呼ぼうとする、あの方を選びたいと思う』
『稀に神が人の地に行く事も有る、けれど私達にしてみれば束の間、どちらが幸せかは私達には分からない』
『でも、どちらでも幸せになれる』
『そうそう、両方を選ぶ事も出来る』
『そうして選べるモノと諦めなければならないモノが有る、全ては無理、正しく選ぶにはコレしか無い』
「私が不相応だとかは」
『無いわね』
『彼がずっと待ってた事を知ってるもの』
『その一途さもグッとくる』
「分かる」
『そうよね』
『だから悩んでいるのだものね』
『其々に魅力が有る、其々に利が有る、幸福はアナタ次第』
「無いんですが、どれも選ばないとか有ったんでしょうか」
『ふふふ』
『有った有った』
『愛も恋も子も要らんとね、それで全く別の者を選んで、幸福に天寿を全うしていたそうな』
「居るんですねぇ、真の変わり者が」
『居るわね』
『居るのよね』
『だからこそあの方は不安なの、神だからと必ず選ばれるワケでも無い、アナタがどちらを幸福とするかとても不安なの』
「あ、お布団を欲しがりますか」
『まぁ、其々よね』
『ね』
『さ、返すわね』
お布団の事、誤魔化された気が。
『思い出すより、先ずは選んで欲しい』
「そうよね、思い出したからと言っても、結局は選ぶのだし」
『本当は俺を選んで欲しい』
快楽で落としたい。
体で落としてしまいたい。
「あ、何で真の童貞の筈が上手なの」
『見ていたから』
「あー、墓穴掘った」
『赤くなっても可愛い』
「止めて、考えらんなくなる」
『どっちに傾いてる』
「驚く程均等」
『なら考えられなくさせる』
「今ので向こうに傾いた」
『ならこうして傾かせる』
「コッチに傾いた」
『邪魔をしたくないのに、不安で、堪らない』
「ごめんよ、頑張ってるんだけどね」
『分かってる、努力してくれてるのも分かってる』
「じゃあはい、少し大人しくしてて」
この柔らかい体も、優しい心も、全てアレに取られてしまうかも知れない。
妾は嫌だ。
けれど、完全に奪われるよりは。
『俺だけを選んで欲しい』
「ちょっ」
『ずっと触れたかった』
「待て待て、まだ時間が有るでしょうに」
『アレは優しい、良い男で、顔も良い』
「落ち着いて、応援してどうする。ちゃんと選ぶし思い出す、落ち着いて、大丈夫」
『離れたくない』
後ろから羽交い締めにされ、うつ伏せに。
幾らガタイが良くても、男手には勝てない。
地面に押し付けられて。
重い。
苦しい。
なのに息が掛かってくすぐったい。
コレ、何か、覚えが有るような。
「あ、思い出したかも」
『出来るだけ細かく、鮮明に』
「無理におんぶしようとした、しかも電車で。飛び跳ねてたから、前を見せようと思って、それで、見せようと思って」
通りで思い出せないワケだ。
恥ずかしい思い出で、すっかり封印してたんだ。
『最後まで話して欲しい』
「無理しておぶろうとして、前に傾いて、一緒に頭をぶつけて大泣きさせた」
『あの時はありがとう』
「いやいや、助けるも何もケガさせたじゃない」
『善意で、喜ばせようとしてくれた、直ぐ親が来たけれどあの時は迷子になっていたんだ』
「だとしても」
『あのまま成功しても、迷子だと思い出して泣いていたと思う』
「でもおデコが真っ赤に」
『君も真っ赤だったけれど泣かないで、ずっと謝ってくれていた』
「そりゃ失敗したし」
『言い訳もしなかった、おぶろうとしてごめんなさい、そう言って。ウチの親も許したのに、ずっと謝って、俺が泣き止むまで背中を擦っていてくれた』
「ぅう、恥ずかしい、こりゃ思い出したく無いワケだ」
『でも思い出してくれた、後は選ぶだけ、もう選ぶまで触れない』
「それでベタベタしてたのか」
『それも有る、直ぐに思い出す者も居るらしく、幸運だったと思う」
「いや凄い焦ってたじゃないの」
『布団を貰っておけば良かった』
「まだ言うか、万が一が有れば、正妻さんに悪いから渡せない」
『夫婦になったら』
「あ、それで匂いか、頭の匂い。成程」
『匂いを嗅げたのも幸運だった、偶に合わない場合も有るらしい』
「あー、直ぐに思い出して嗅げず、いざ夫婦になったら匂いが合わず離縁」
『有るらしい』
「そら確かに幸運だわな」
『触れないと不安で堪らない』
「淫靡な美丈夫が不安になる、そんな良い女かね」
『アレと、好ましいと思う部分が同じなのが憎らしい』
「肉々しいのが良いのか」
『後ろから抱き着いて折れたら困る』
「体格が良いものね」
『丁度、頭の匂いを嗅げる』
「あの時の思い出が美化され過ぎじゃなかろうか」
『俺の為に生まれて来たんだと思う』
「多分、向こうも思うだろうね」
『嫌だ』
「急に下る語彙力」
『あのイヤラしい顔は俺だけに見せて欲しい』
「かと思えば猥雑に、必死ですね」
『必死だ』
「全く別の相手を選ぶ者が居たそうで」
『情に訴えかける力が足りなかったんだと思う』
「まぁ、そうかもね」
『でも、出来る事ならあまりしたくない』
「あの人に、最後にお礼を言って良いかね、それとごめんなさいも」
『本当に、俺で良いんだろうか』
「あんまり人の世が合わないらしい、宜しくお願いします」
『幸せにする、幸せになろう』
実は、彼女に少し嘘を言ってしまった。
紫色の着物や浴衣を見た時、七五三の時期、似た根付けを持ってる女性を見掛けた時。
そうした時に良く思い出していた。
元気だろうか、今でも優しいんだろうか、面倒見が良過ぎて困っているんじゃないだろうか。
正直、どんな姿でも良いから会ってみたかった。
そうした久し振りの再会で、それこそ父や母の同窓会での話を聞いていたのもあって、全く期待していなかったし。
そもそも、好意と言うか、思い出や懐かしさで。
けど、会ってみたら、思いのほか舞い上がってしまって。
性急過ぎたかなとも思っている。
同じ様に他の人にも優しくて、なのに傷付く事が何度も起きてて、凄く胸糞が悪かった。
世間では外見じゃない中身だと言っておいて、と言うか別に、何がダメなのか全く分からなくて。
だからこそ、焦ってしまったんだと思う。
少なくとも僕には魅力的だし、周りにも、そうした趣味の者は多いし。
《あ》
「すみません、断わりに来ました」
まだ昼間なのに、家まで探しに来てくれたんだろうか。
《そうなんですね、ありがとうございます》
「既に他の方からも声を掛けて頂いていて、天秤に掛けました」
《良いんですよ、人生の一大事ですから》
「ありがとうございました、お返します、どうかお幸せに」
《あの、良い男ですか、ちゃんとしてて、幸せになれそうですか》
「はい」
《お幸せに》
「はい、アナタも」
深々とお辞儀をすると、振り向いて、可愛い日傘を差して歩き出した。
そして陽炎の向こうで、灰色の紗を着た体格の良い男性と、並んで帰って行った。
どうしてなのか、既の所で出遅れて負けた気がした。
もう少し早く出会えていたら、もう少し早く動いていたら。
逃した魚が大き過ぎて、鯉が竜になって滝を登り逃げてしまった、そんな感覚が何処からか湧いて来た。
男だと分かっても誂わず、似合うと笑顔で言ってくれて、お礼参りが終わればもっと元気になれると励ましてくれて。
その子がそのまま大きくなって、その子に初恋をして、一瞬で終わってしまった。
あっと言う間に、半日も保たずに。
いや、寧ろ半日で終わらせてくれたとも言える。
あの隣に居た人は、もっと思っていたのだろうと、そんな気がする。
《はー、泣きたい、母さんお見合い紹介して》
「でしょうね」
神域では既にお祭りが始まり、屋台が立ち並んでいる。
猫娘だ狸だ、妖怪や神様がもう、ワラワラと。
そして子供も。
『7才までは神の子、不運にも亡くなった子もココで過ごし、輪廻の環に還る』
「私達の寿命は」
『孫が生まれ7年経てば寿命となる』
「かと言って作らないワケにはいかない、か」
『嫉妬も有って今直ぐにも食べてしまいたい』
「どちらが幸せになると思う」
『アレより幸せにしたいと思っている、けれどココの生活に馴れる事が出来ず離れた者も居ると聞く、だからこそ全て見せ選ばせる。昔はもっと強引だったらしい』
「その方が良い場合も有る、悩むのは辛い」
『すまない、本当は会わせたく無かった』
「でも掟だから、泣く泣く、致し方無く」
『妾は、両方選べる』
「あらあら、贅沢」
『けれど寿命は人と同じ』
「あー、成程、絶妙」
『神は人を幸せにするモノ、例え娶る相手でも、だからこそ不幸にしてはならない』
「例え妾でも」
『妾は嫌だ』
「でしょうね」
『俺だけのモノにしたい』
『はいはいはーい、おっぱじめないで』
『そうそう、さ、次はお相手の番』
『どう覗いてたか見せるわ』
そうして攫われ、境の泉にとうちゃくすると。
まさに水鏡が彼の姿を映し、声まで。
『コレは、台所の水滴ね』
「水滴」
『竜は水を司る神、八咫烏は風に乗った音だけ、土蜘蛛は土の有る場所』
『良い朝食ね』
「アナタ達も掟に従って」
『まぁ、そうね』
『そうそう、全然抱かれられる』
『例えアナタを好いているとしても、ね』
「強い」
『まぁ、良い雄だし』
『エロティックだし』
『純朴でエロティックはモテる』
「分かる」
『敵対より協調、共存』
『アナタに味方する事で、私達の勝算も増える』
『まさに三竦み』
「どちらが良いと思いますか」
『アナタ達の生活を知っていても、私達とは違うわ』
『私達は私達の居る世界が幸せ、だからこそ呼ぼうとする、あの方を選びたいと思う』
『稀に神が人の地に行く事も有る、けれど私達にしてみれば束の間、どちらが幸せかは私達には分からない』
『でも、どちらでも幸せになれる』
『そうそう、両方を選ぶ事も出来る』
『そうして選べるモノと諦めなければならないモノが有る、全ては無理、正しく選ぶにはコレしか無い』
「私が不相応だとかは」
『無いわね』
『彼がずっと待ってた事を知ってるもの』
『その一途さもグッとくる』
「分かる」
『そうよね』
『だから悩んでいるのだものね』
『其々に魅力が有る、其々に利が有る、幸福はアナタ次第』
「無いんですが、どれも選ばないとか有ったんでしょうか」
『ふふふ』
『有った有った』
『愛も恋も子も要らんとね、それで全く別の者を選んで、幸福に天寿を全うしていたそうな』
「居るんですねぇ、真の変わり者が」
『居るわね』
『居るのよね』
『だからこそあの方は不安なの、神だからと必ず選ばれるワケでも無い、アナタがどちらを幸福とするかとても不安なの』
「あ、お布団を欲しがりますか」
『まぁ、其々よね』
『ね』
『さ、返すわね』
お布団の事、誤魔化された気が。
『思い出すより、先ずは選んで欲しい』
「そうよね、思い出したからと言っても、結局は選ぶのだし」
『本当は俺を選んで欲しい』
快楽で落としたい。
体で落としてしまいたい。
「あ、何で真の童貞の筈が上手なの」
『見ていたから』
「あー、墓穴掘った」
『赤くなっても可愛い』
「止めて、考えらんなくなる」
『どっちに傾いてる』
「驚く程均等」
『なら考えられなくさせる』
「今ので向こうに傾いた」
『ならこうして傾かせる』
「コッチに傾いた」
『邪魔をしたくないのに、不安で、堪らない』
「ごめんよ、頑張ってるんだけどね」
『分かってる、努力してくれてるのも分かってる』
「じゃあはい、少し大人しくしてて」
この柔らかい体も、優しい心も、全てアレに取られてしまうかも知れない。
妾は嫌だ。
けれど、完全に奪われるよりは。
『俺だけを選んで欲しい』
「ちょっ」
『ずっと触れたかった』
「待て待て、まだ時間が有るでしょうに」
『アレは優しい、良い男で、顔も良い』
「落ち着いて、応援してどうする。ちゃんと選ぶし思い出す、落ち着いて、大丈夫」
『離れたくない』
後ろから羽交い締めにされ、うつ伏せに。
幾らガタイが良くても、男手には勝てない。
地面に押し付けられて。
重い。
苦しい。
なのに息が掛かってくすぐったい。
コレ、何か、覚えが有るような。
「あ、思い出したかも」
『出来るだけ細かく、鮮明に』
「無理におんぶしようとした、しかも電車で。飛び跳ねてたから、前を見せようと思って、それで、見せようと思って」
通りで思い出せないワケだ。
恥ずかしい思い出で、すっかり封印してたんだ。
『最後まで話して欲しい』
「無理しておぶろうとして、前に傾いて、一緒に頭をぶつけて大泣きさせた」
『あの時はありがとう』
「いやいや、助けるも何もケガさせたじゃない」
『善意で、喜ばせようとしてくれた、直ぐ親が来たけれどあの時は迷子になっていたんだ』
「だとしても」
『あのまま成功しても、迷子だと思い出して泣いていたと思う』
「でもおデコが真っ赤に」
『君も真っ赤だったけれど泣かないで、ずっと謝ってくれていた』
「そりゃ失敗したし」
『言い訳もしなかった、おぶろうとしてごめんなさい、そう言って。ウチの親も許したのに、ずっと謝って、俺が泣き止むまで背中を擦っていてくれた』
「ぅう、恥ずかしい、こりゃ思い出したく無いワケだ」
『でも思い出してくれた、後は選ぶだけ、もう選ぶまで触れない』
「それでベタベタしてたのか」
『それも有る、直ぐに思い出す者も居るらしく、幸運だったと思う」
「いや凄い焦ってたじゃないの」
『布団を貰っておけば良かった』
「まだ言うか、万が一が有れば、正妻さんに悪いから渡せない」
『夫婦になったら』
「あ、それで匂いか、頭の匂い。成程」
『匂いを嗅げたのも幸運だった、偶に合わない場合も有るらしい』
「あー、直ぐに思い出して嗅げず、いざ夫婦になったら匂いが合わず離縁」
『有るらしい』
「そら確かに幸運だわな」
『触れないと不安で堪らない』
「淫靡な美丈夫が不安になる、そんな良い女かね」
『アレと、好ましいと思う部分が同じなのが憎らしい』
「肉々しいのが良いのか」
『後ろから抱き着いて折れたら困る』
「体格が良いものね」
『丁度、頭の匂いを嗅げる』
「あの時の思い出が美化され過ぎじゃなかろうか」
『俺の為に生まれて来たんだと思う』
「多分、向こうも思うだろうね」
『嫌だ』
「急に下る語彙力」
『あのイヤラしい顔は俺だけに見せて欲しい』
「かと思えば猥雑に、必死ですね」
『必死だ』
「全く別の相手を選ぶ者が居たそうで」
『情に訴えかける力が足りなかったんだと思う』
「まぁ、そうかもね」
『でも、出来る事ならあまりしたくない』
「あの人に、最後にお礼を言って良いかね、それとごめんなさいも」
『本当に、俺で良いんだろうか』
「あんまり人の世が合わないらしい、宜しくお願いします」
『幸せにする、幸せになろう』
実は、彼女に少し嘘を言ってしまった。
紫色の着物や浴衣を見た時、七五三の時期、似た根付けを持ってる女性を見掛けた時。
そうした時に良く思い出していた。
元気だろうか、今でも優しいんだろうか、面倒見が良過ぎて困っているんじゃないだろうか。
正直、どんな姿でも良いから会ってみたかった。
そうした久し振りの再会で、それこそ父や母の同窓会での話を聞いていたのもあって、全く期待していなかったし。
そもそも、好意と言うか、思い出や懐かしさで。
けど、会ってみたら、思いのほか舞い上がってしまって。
性急過ぎたかなとも思っている。
同じ様に他の人にも優しくて、なのに傷付く事が何度も起きてて、凄く胸糞が悪かった。
世間では外見じゃない中身だと言っておいて、と言うか別に、何がダメなのか全く分からなくて。
だからこそ、焦ってしまったんだと思う。
少なくとも僕には魅力的だし、周りにも、そうした趣味の者は多いし。
《あ》
「すみません、断わりに来ました」
まだ昼間なのに、家まで探しに来てくれたんだろうか。
《そうなんですね、ありがとうございます》
「既に他の方からも声を掛けて頂いていて、天秤に掛けました」
《良いんですよ、人生の一大事ですから》
「ありがとうございました、お返します、どうかお幸せに」
《あの、良い男ですか、ちゃんとしてて、幸せになれそうですか》
「はい」
《お幸せに》
「はい、アナタも」
深々とお辞儀をすると、振り向いて、可愛い日傘を差して歩き出した。
そして陽炎の向こうで、灰色の紗を着た体格の良い男性と、並んで帰って行った。
どうしてなのか、既の所で出遅れて負けた気がした。
もう少し早く出会えていたら、もう少し早く動いていたら。
逃した魚が大き過ぎて、鯉が竜になって滝を登り逃げてしまった、そんな感覚が何処からか湧いて来た。
男だと分かっても誂わず、似合うと笑顔で言ってくれて、お礼参りが終わればもっと元気になれると励ましてくれて。
その子がそのまま大きくなって、その子に初恋をして、一瞬で終わってしまった。
あっと言う間に、半日も保たずに。
いや、寧ろ半日で終わらせてくれたとも言える。
あの隣に居た人は、もっと思っていたのだろうと、そんな気がする。
《はー、泣きたい、母さんお見合い紹介して》
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる