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第5章 作家と作家。
3 騒々しい作家達。
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『いやー、本当に熱かったよねぇ。やっぱり最初は何も感じないんだけれど、お、刺されてるぞと思うとさ。あ、痛いかも、痛い、熱い!って』
あ、興奮すると痛いかも。
うん、痛い。
「はぁ、電話で聞いた時は心臓が止まるかと。でも、お元気そうで何よりです先生」
「すみませんでした、俺が居ながら」
『ついさぁ、あ、コレはヤバそうだと思ったらさ。君に任せておけば良かったよ』
「すみません」
「是非!今度からは、逃げて下さい」
『あー、うん、だからさ、彼の田舎に引っ越そうと思って』
「へ?」
「ウチも東北なので、適当に家でも建てて、同居しようかと」
「あぁ、成程」
『鉄道が通ってる場所で、駅の近くに住むからさ、来てくれるよね?』
「勿論ですよ、肘折より楽なら寧ろ大歓迎ですよ」
『あそこも良いんだけどねぇ、町に出るまでが大変だからねぇ』
「缶詰めになるにはい良いんですけどね、俺らだと逆に違う事が捗ってしまうんで」
『ねー、してないのは厠位だしねぇ』
「成程」
「なので、まぁ、刺される前からどちらに住むか話し合ってたんですけど」
『折角だし、田舎が良いかなと思って』
「あの、ご家族の方は大丈夫ですか?」
「はい、こんだけ居れば1人位はそう言うのが居ても仕方が無いだろう、と。もう孫もいますから、あんまり欲張るとバチが当たるって、はい」
「そうなんですね、良かった」
「本当に、ありがとうございました」
『まだまだお世話になるよ、老後は楽しく暮らしたいしね』
「はい、楽しみにしてます」
『よーし、コレを糧に今日も書くから、またお見舞いに来てね』
「はい」
死ぬとは思わなかったけど、コレで死んでも良いかな、とか思っちゃったんだよね。
僕は男しか愛せないけれど、彼はまだ若いんだから、コレから更に変わるかも知れない。
彼女が言ってた事に納得したから、折角だし刺されちゃえと思ったんだけど。
肉を刺す感触に驚いたのか、ひっ、って言って手を離されちゃったんだよねぇ。
憎いならさ、ちゃんと深く刺して捻ってから、抜かないと。
『ふふふ、心臓が止まるかと思ったって、本当に言うんだねぇ』
「本当に、俺も、俺の方の心臓が止まるかと思った」
『なら糧にして何か書いておくれよ、コレで何も無しは刺され損になる、しかも暫く君の相手が出来無いから大損だ』
彼を刺したのは、俺の熱狂的な読者、俺自身の信奉者だった。
愛しているなら身を引け、子を望まないのか、と。
俺が目の前に立ちはだかったのに、彼は俺の後ろから姿を現し、横腹を刺された。
刺し身包丁だったにも関わらず、刺さりが浅かった為、幸いにも大きな血管や臓器に傷は無く。
抜糸が済めば退院が出来る。
「何で出ようとしたんですか」
『だから、君が刺されたら困ると思ったんだよ、僕じゃ君の介護は難しいのは目に見えて分かる事だし』
「アナタが出なければ」
『刺してたよ、愛憎ってコロコロ標的が変わる事が有るし、現に彼女は迷ってたしね。どちらを刺すか、刺さないと収まらないんだろうなと思って、なら僕がって感じ』
「死んでたらどうするんですか」
『そしたら彼女の言う通り、10年後でも女とくっ付くかも知れないじゃない。そうすれば皆幸せでしょ』
「俺は」
『20年後でも良いけど。男は僕だけが良い、やっぱり、何処かで女には勝てないと思ってるからね』
「俺は童貞です」
『嘘、僕としたじゃない』
「だから」
『別に、永遠に僕を思ってろなんて思わないよ。そんなの、それこそ愛が無いじゃないか、君には書けるだけ書いて貰わ。いや死んだら僕の分も書いてよ、出来るでしょ、散々読んでたんだし』
「言うんじゃなかった」
『愛だよ、愛、コレも愛』
「一緒に死にましょう、置いて行くのも置いて行かれるのも嫌です」
『まるで結婚の申し込みみたいだけど、出来無いからねぇ』
「養子縁組って手が有ります」
『それ、僕の名前になっちゃう筈だよね、年上の方にしか入れないって聞いてるけど』
「はい、ウチはもう山程継ぐのが居るんで、寧ろ揉めない為にも良いんです」
『刺されたから?』
「今度、改めて申し込みます、退院してから」
『どうしようかなぁ、遠路はるばる放火しに来られちゃうかもだし』
「大丈夫です、観光地でも何でも無い場所に家を建てるつもりなんで、変なのが来たら直ぐに伝わりますから」
『海の物も食べたいんだよねぇ』
「盆休み以外は何も無い場所ですよ、雪と林檎、海の近くならホタテとヒラメですかね」
『あー、スイカ食べたい』
「実家で分けて貰いましょう、手伝えば食わせてくれます」
『コレ家族にしちゃうの?』
「はい」
『そんなに百合が好きかぁ』
「はぁ」
『冗談冗談、家の仕上がり次第で考えてようかな、もしかしたら急に反対されるかもだし』
「絶対、良い家を建てます」
『はいはい、楽しみにしておくよ』
退院後暫くして先生方は引っ越し、更に暫くして、同じ苗字になりました。
そして作品にも変化が。
薔薇作家先生は柔らかい雰囲気の両想いになる作品が多くなり、反対に百合作家先生はドロドロの人死も有る作品を出したり。
事件を知る読者からは、さもありなん、と。
ですよね、愛する男性を女性に刺されたなら、女性が憎くなってもおかしくは無い。
それでも作品の良さは濁らず、百合作家先生の作品は映画にもなりました。
憎しみが高じて殺し方の手が込んでしまい、最早ミステリィとなったからです。
そして薔薇作家先生は、牧歌的な男女の甘酸っぱい恋模様を描いた作品が、映画に。
熱心な読者は、今、コレが先生の望む幸せなのだろうと涙ぐんでいましたけど。
多分、今、その幸せを味わってらっしゃるんだと思います。
その原稿を取りに行った時、見ちゃったんですよね、セーラー服の裾が押し入れからひょっこりと。
資料に使ってらっしゃるのかと思っていたんですけど。
原稿を読み、はたと事実に気付いたので、雑誌と共に資料になりそうな物を色々と送らせて頂いております。
そのお陰か、僕宛てに毎年魚介類やホタテが届きます、ウチの実家も林檎農家ですからね。
林檎を送ろうと宛名を書こうとして気付き、念の為にもと連絡を下さいました、林檎は好きかと。
実際、食べ過ぎててあんまり好きじゃないんですよねぇ、実家から送られて来るのはご近所さん用だし。
ココでは比較的高級品ですけど、まぁ、実家に帰れば山程有るので。
ただ、匂いは好きですよ。
慣れ親しんだ甘酸っぱい匂い、果物の匂いと言えば林檎か苺。
けど、苺もなぁ。
苺牛乳は好きですけど、そのままはどうも、アレは練乳を食べる為の果物と言っても過言では無いワケで。
あ、サクランボの味、好きですよ。
酸っぱくないのが良い。
それに梨も。
『林檎くーん、3番に電話だよー』
「はーい」
さ、どの先生からの電話かな。
あ、興奮すると痛いかも。
うん、痛い。
「はぁ、電話で聞いた時は心臓が止まるかと。でも、お元気そうで何よりです先生」
「すみませんでした、俺が居ながら」
『ついさぁ、あ、コレはヤバそうだと思ったらさ。君に任せておけば良かったよ』
「すみません」
「是非!今度からは、逃げて下さい」
『あー、うん、だからさ、彼の田舎に引っ越そうと思って』
「へ?」
「ウチも東北なので、適当に家でも建てて、同居しようかと」
「あぁ、成程」
『鉄道が通ってる場所で、駅の近くに住むからさ、来てくれるよね?』
「勿論ですよ、肘折より楽なら寧ろ大歓迎ですよ」
『あそこも良いんだけどねぇ、町に出るまでが大変だからねぇ』
「缶詰めになるにはい良いんですけどね、俺らだと逆に違う事が捗ってしまうんで」
『ねー、してないのは厠位だしねぇ』
「成程」
「なので、まぁ、刺される前からどちらに住むか話し合ってたんですけど」
『折角だし、田舎が良いかなと思って』
「あの、ご家族の方は大丈夫ですか?」
「はい、こんだけ居れば1人位はそう言うのが居ても仕方が無いだろう、と。もう孫もいますから、あんまり欲張るとバチが当たるって、はい」
「そうなんですね、良かった」
「本当に、ありがとうございました」
『まだまだお世話になるよ、老後は楽しく暮らしたいしね』
「はい、楽しみにしてます」
『よーし、コレを糧に今日も書くから、またお見舞いに来てね』
「はい」
死ぬとは思わなかったけど、コレで死んでも良いかな、とか思っちゃったんだよね。
僕は男しか愛せないけれど、彼はまだ若いんだから、コレから更に変わるかも知れない。
彼女が言ってた事に納得したから、折角だし刺されちゃえと思ったんだけど。
肉を刺す感触に驚いたのか、ひっ、って言って手を離されちゃったんだよねぇ。
憎いならさ、ちゃんと深く刺して捻ってから、抜かないと。
『ふふふ、心臓が止まるかと思ったって、本当に言うんだねぇ』
「本当に、俺も、俺の方の心臓が止まるかと思った」
『なら糧にして何か書いておくれよ、コレで何も無しは刺され損になる、しかも暫く君の相手が出来無いから大損だ』
彼を刺したのは、俺の熱狂的な読者、俺自身の信奉者だった。
愛しているなら身を引け、子を望まないのか、と。
俺が目の前に立ちはだかったのに、彼は俺の後ろから姿を現し、横腹を刺された。
刺し身包丁だったにも関わらず、刺さりが浅かった為、幸いにも大きな血管や臓器に傷は無く。
抜糸が済めば退院が出来る。
「何で出ようとしたんですか」
『だから、君が刺されたら困ると思ったんだよ、僕じゃ君の介護は難しいのは目に見えて分かる事だし』
「アナタが出なければ」
『刺してたよ、愛憎ってコロコロ標的が変わる事が有るし、現に彼女は迷ってたしね。どちらを刺すか、刺さないと収まらないんだろうなと思って、なら僕がって感じ』
「死んでたらどうするんですか」
『そしたら彼女の言う通り、10年後でも女とくっ付くかも知れないじゃない。そうすれば皆幸せでしょ』
「俺は」
『20年後でも良いけど。男は僕だけが良い、やっぱり、何処かで女には勝てないと思ってるからね』
「俺は童貞です」
『嘘、僕としたじゃない』
「だから」
『別に、永遠に僕を思ってろなんて思わないよ。そんなの、それこそ愛が無いじゃないか、君には書けるだけ書いて貰わ。いや死んだら僕の分も書いてよ、出来るでしょ、散々読んでたんだし』
「言うんじゃなかった」
『愛だよ、愛、コレも愛』
「一緒に死にましょう、置いて行くのも置いて行かれるのも嫌です」
『まるで結婚の申し込みみたいだけど、出来無いからねぇ』
「養子縁組って手が有ります」
『それ、僕の名前になっちゃう筈だよね、年上の方にしか入れないって聞いてるけど』
「はい、ウチはもう山程継ぐのが居るんで、寧ろ揉めない為にも良いんです」
『刺されたから?』
「今度、改めて申し込みます、退院してから」
『どうしようかなぁ、遠路はるばる放火しに来られちゃうかもだし』
「大丈夫です、観光地でも何でも無い場所に家を建てるつもりなんで、変なのが来たら直ぐに伝わりますから」
『海の物も食べたいんだよねぇ』
「盆休み以外は何も無い場所ですよ、雪と林檎、海の近くならホタテとヒラメですかね」
『あー、スイカ食べたい』
「実家で分けて貰いましょう、手伝えば食わせてくれます」
『コレ家族にしちゃうの?』
「はい」
『そんなに百合が好きかぁ』
「はぁ」
『冗談冗談、家の仕上がり次第で考えてようかな、もしかしたら急に反対されるかもだし』
「絶対、良い家を建てます」
『はいはい、楽しみにしておくよ』
退院後暫くして先生方は引っ越し、更に暫くして、同じ苗字になりました。
そして作品にも変化が。
薔薇作家先生は柔らかい雰囲気の両想いになる作品が多くなり、反対に百合作家先生はドロドロの人死も有る作品を出したり。
事件を知る読者からは、さもありなん、と。
ですよね、愛する男性を女性に刺されたなら、女性が憎くなってもおかしくは無い。
それでも作品の良さは濁らず、百合作家先生の作品は映画にもなりました。
憎しみが高じて殺し方の手が込んでしまい、最早ミステリィとなったからです。
そして薔薇作家先生は、牧歌的な男女の甘酸っぱい恋模様を描いた作品が、映画に。
熱心な読者は、今、コレが先生の望む幸せなのだろうと涙ぐんでいましたけど。
多分、今、その幸せを味わってらっしゃるんだと思います。
その原稿を取りに行った時、見ちゃったんですよね、セーラー服の裾が押し入れからひょっこりと。
資料に使ってらっしゃるのかと思っていたんですけど。
原稿を読み、はたと事実に気付いたので、雑誌と共に資料になりそうな物を色々と送らせて頂いております。
そのお陰か、僕宛てに毎年魚介類やホタテが届きます、ウチの実家も林檎農家ですからね。
林檎を送ろうと宛名を書こうとして気付き、念の為にもと連絡を下さいました、林檎は好きかと。
実際、食べ過ぎててあんまり好きじゃないんですよねぇ、実家から送られて来るのはご近所さん用だし。
ココでは比較的高級品ですけど、まぁ、実家に帰れば山程有るので。
ただ、匂いは好きですよ。
慣れ親しんだ甘酸っぱい匂い、果物の匂いと言えば林檎か苺。
けど、苺もなぁ。
苺牛乳は好きですけど、そのままはどうも、アレは練乳を食べる為の果物と言っても過言では無いワケで。
あ、サクランボの味、好きですよ。
酸っぱくないのが良い。
それに梨も。
『林檎くーん、3番に電話だよー』
「はーい」
さ、どの先生からの電話かな。
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