皇国のオスティナート~無実の罪で処刑されたので、皇妃候補は降ります。~

中谷 獏天

文字の大きさ
上 下
17 / 23

17 南方の愛。

しおりを挟む
 神よ、私はとても弱く脆く、愚かです。
 彼が泣いている姿を見て、殆どを許してしまっています。

 今の殿下を前世の殿下に重ね、殆どの溜飲を下げてしまいました。

 ですが、私は元皇妃。
 愚かな皇帝を許すワケにはいかない、そして諌めきれなかった私を、前世の皇妃だった私を許すべきでは無いと。

 そう思い、そう考えているのに。

 どうしても殿下にお会いしたい。
 傷の治りはどうなのか、お食事は召し上がっているか眠れているか、どう思ってらっしゃるのか。

 気になって堪らないのです。
 ココには遊学に来させて頂いているのに、国民のお金で勉強させて頂いているのに、私は。

《残り10秒ねヴィクトリア》
「もう、どうして制限を設けるんですか、正妃様」

《だって、多分、コレ以上は同じ所をグルグルしそうだと思って》

「ぅう」
《ふふふ、悩みは口にしてこそよ?気になるのね、殿下が》

「はぃ」
《正妃になるアシャがお世話をしているのは知っているわよね?》

「はぃ」
《けれど、とても気になってしまう》

「ぅう」

《それだけ》
「認めてはいけない気がするんです、そう認めたら」

《そうね、幸せになってしまうものね》

 私は、幸せになるべきでは無い、と思ってしまっていたのだと。
 今、やっと。

「どうやら、はい、すみません」
《良いのよ、コレはとても難しい問題だもの、アナタがそう思うのもある意味では当たり前。そこらの貴族や平民なら、好きになさいと言えるのだけれど、アナタは国の半分を背負っていた。アナタは諫め煽て、維持する存在だったのに、ある意味で失敗し犠牲を出してしまった。けれどね、1番に誰が悪いのか、分かっている?ほら、考えた事が無いのね。あのね、8割は来訪者よ》

「それは、どの様に算出を」
《ふふふ、コレだけの人間に前世の記憶が合ってこそ、このままいけば治世が続くかも知れない。けれど誰かが欠けていたら、それこそパトリック補佐が欠けていたら、きっと既にこうなってはいない筈よ?》

「はい、多分、ですが」
《その欠けたままで来訪者が来たら、どの組み合わせでも不成立になる、けれど逆に来訪者が来なければ、殆どの組み合わせでも成立する筈よね?》

「多分、はい」
《それを更に逆に当て嵌めるの、誰が欠けたら国が滅びるか、きっとアナタが最初から欠けていても国は滅びない。それこそ滅ぶなら、王族が欠けた時だけ》

「王族並みに、来訪者の影響力は強い」
《そうよ、どうかしら?》

「ですが、私がもっと」
《相手は来訪者、私達の更に先の知識を濃縮した形で持っているとされているの、平民ですらも貴族の振る舞いを偽装出来る程の知恵と知識を持つ。新参の皇妃を欺くなんて、きっと簡単だと思うのよ》

「私は、見抜こうとしていませんでした。そうした仕事は大臣達や陛下が行う、そして誰も諫めないのなら、それで良いのだろうと」

《もしかして、あまり知らされていなかったんじゃないかしら、来訪者の危険性と有用性について》

「はい、多分」
《あぁ、ココも盲点ね、きっとパトリックも説明されて無かったとは思わなかった筈よ》

「あ、確かに、あまり関わらない様にしていたとも聞いていますので」
《はぁ、まぁ、後で言っておくわ。兎に角、色んな意味で舐めてはいけない相手なの、成程ね。きっと来訪者を自分だけで御して、先代や大臣達に認められたかったのかも知れないわね、ふふふ》

「あまりに、幼いのでは」
《そりゃそうよ、私達だって王にしてみたら幼いと思われているんですもの。だからこそ、子を成して半人前、孫を見れて一人前だって言われるんですもの。一緒に一人前になるのが夫婦、家族なのよ》

「褒め合い、認め合う、それが私の理想だったのですが」
《私でも、ちょっとイラっとして止めなかったんだもの、アレは少し難しいわよ。特にアナタの良い面とは相性が悪い、相性って意外と大事よ?》

「どうすれば、良かったのでしょうか」
《煙たがられても、しつこく食い下がる、そしてひたすら大好きだって言い続けるの。どう?来訪者はそんな風にしていたんじゃない?》

「はぃ」
《良いのよ、中には体を売ってた者も来る、そうした手練れが来る事も有るの。あぁ、そうなると大臣の誰かに情報を防がれてたかも知れないわね、だからこそ。いえ、だから何も伝えなかったのかもしれないわね、アナタを守る為に》

「そうなると、陛下は、私を愛していた事になるのですが」
《凄く不器用だけれど、激情に駆られ処刑してしまう程に、その結末に発狂する程度には愛していたんじゃないかしらね?》

「私が大らかで、優しいから」
《だけじゃないわ、賢いし努力家、しかも努力を努力とは見せない才能が有る。コレはとても素晴らしい才能よ、それこそ上に立つ者なら誰でも欲しがる才能、だから殿下に嫉妬されていたのよ》

「嫉妬」
《子が苦労しているからこそ、次の子、孫には苦労を掛けたくない。アナタの才能が孫に引き継がれれば、きっと子も安心する筈、だからアナタを皇帝も皇妃も推した。けれど子にしてみれば、自分の至らなさを不安視されたと思う、自分に足りないモノを持つ者を常に突き付けられる事になる》

「なのに愛してしまったのですね」
《ただ、そこは少し難しいわ。ずっと敵視するより愛した方が楽、受け入れた方が楽だからこそ、愛したのかも知れない》

「どうして全て言ってしまうのですか?」
《だって、アナタが選ぶ立場だもの、アナタに選ばれないのが悪い。だから私達も頑張るわ、どう?煮込みタジン料理を一緒に作らない?》

「はい、宜しくお願いします」



 私は側近であるにも関わらず、まだまだ腹芸が足りない。

『ヴィクトリアが作った料理を』
『おう、すり替えて来てやった、どうせアレは遠慮して持って来ないだろうと思ってな』
『レウス王子、それどうせ側近の考えでしょう』

『おう、勿論だ、こんな小細工は面倒だ』
『ほら、コレですよ、だからアナタは気にしない方が良い、方向も種類も何もかもが違うんですから』

『あぁ、俺の様に強くなりたい、か』
『だそうで』

『それは俺の国が強いからだ、だからこそ嫌われる心配なんぞしない、顔色なんか伺わん。俺が良いと思った様に行動する』
『で、修正は側近にさせる』

『おう、その為の側近だろうが』
『本当に、アナタの側近の苦労が慮られる』

『いやー、お前らは合わんだろうな、つい癖で腹の探り合い遊びが本気になり事を大きくする』
『アナタに言われたくないんですが、流石に驚きましたよ、ヴィクトリア嬢の首を掴んだ時は』
「本当に、すみません、私がヴィクトリア様も守るべきでしたのに」

『いや、俺の殺気を感じて直ぐお前は皇帝を守った、それは側近として正しい対応だ。俺が殺そうと思ったのは、殿下だからな』
『あぁ、それで、成程な』

『パトリック、百戦錬磨でも難しかったか』
『愚者と、家に湧く蟻と百戦しても、鍛錬にはなりませんよ。コチラは本来なら象を狩る為に育てられたんですから』

『あぁ、虫と動物は違うからな』
『群れの数と大きさも違いますしね』

『レウス王子は、来訪者の知恵を』
『殿下でも流石に気が付くか、あぁ、そうだ』
『俺は違いますからね、ずっと国内でしたから』

『帰りは酔い止めやるから、ちゃんと飲めよ』
『ありがとうございます』

『美味いか、殿下』

『はい、とても、凄く』

 殿下は目を潤ませながら、一口一口を味わい、噛み締めてらっしゃいました。
 まるで神からの贈り物を口にするかの様に大切に、大事に、恍惚の笑みを浮かべながら。



『ヴィクトリア嬢が来訪者の危険性を、全く知らされていなかった、と』
『おう、ウチの正妃様がな、どうだパトリック補佐』

『ぁり得ます』
『そう気を落とすな、来訪者の到来は滅多に無い、記録が残っていない場所さえ有るらしい。抜けが有っても仕方無い』

『いえ、何度もやり直したからこそ、悔しいんです』
『だろうな、だがお前の償いはとっくに終わっているんだ、もう悔やむな』

 それは無理だ。
 今まで人形だと思っていたら人だったんだ、しかも純真無垢な善人。

 そして俺は宰相でありながら来訪者に負けた、負け続け勝てなかった。

 大勢の犠牲を出し続けた。
 国を滅ぼさせ続けてしまった。

『まぁ、無理ですよ』
『今はな、でだ。アレ、お前、とんでも無い変態を生み出したな』

『極限まで供給を絞り、与える。アレ以外に策が有りますかね、レウス王子』

『いや、俺の側近も最善だろうとは言ってたが』
『もしかしたら作戦が合わないかも知れないと思ってはいたんですが、どうやら肌に、気質に良く馴染んでくれて助かりましたよ』

 俺はあまり手を出す気は無かったんだが、あのままだと生きる気力を無くすのは明白だった。
 そうなったアレクも、実際に見たからな。

 苦痛と感じさせたままにするか、快楽へと変化させるか、そう示しただけ。
 俺がした事は、たったそれだけだ。

 ヴィクトリアの願い通り、一切の誘導無しでいたかったんだが、兼ね合い的には寧ろコレしか無かった。
 あの無気力のままに果ては死ぬ、そしてヴィクトリアは確実に後悔し、喪に服し続けるだろう。

『なぁ、お前はどうする気だ』

『何がでしょう』
『そら結婚の事だ、難しいだろう、アレの死を見続けたんだ』

『どうでしょうね、何度も繰り返せる図太さが有りますから』
『誰かには言え、1人で良いから相談しろ、絶対にだ』

 レウス王子は何処までも善人で、確かにアレクには眩し過ぎる。
 アイツはヒカリゴケで、コッチは太陽なんだ、相性が悪過ぎる。

『今日にも話し合ってみますよ』
『あぁ、アレもか』

『クララは大丈夫ですからご心配無く、お人好しですね王子は』
『いや、良い遺伝子は広まるべきだろう、ただそれだけだ』

 ウチのも、この位は腹を括ってくれたら良いんだが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

処理中です...