ヴィティスターズ!【ワイン擬人化♂】

独身貴族

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幻編

☆幻のワイン フランス編 中編

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幻編 銀行強盗 中編 上演時間:25分

《キャスト》
カベルネ:
メルロー:
シャルドネ:
ピノ:
フラン:
モスカート:
デュポン/スタッフ:
マルヴァジア:
ベルナール:

『シェリーを頼む』
※密造酒は、酒税の安いシェリー酒の樽に入れて運搬されることが多かったことから。モスカートは密輸、裏取引の手助けをしている設定。

…………………………

▶︎シーン④-1
 シャルドネ:
 ピノ:

…………………………

シャルドネ
「(鼻歌)」

ナレーション(シャルドネ)
「はてさて……幻のワイン、ロマネ・コンティが盗まれた……ね。それだけでも、なにかドラマチックな響きがあるな。
そのワインが幻と言われる所以(ゆえん)は、一年に作られる本数が限られているから。
入手は困難、だが一度は飲んでみたい、飲めばその素晴らしさにひれ伏すと言われている、最高級のワイン……。そして、ロマネ・コンティといえば、ピノ・ノワールだ。
さてさて、ピノ様は今回の事件を受けて、どんな心境でいるのかな……っと」

[SE: チャイム音(三回)]

ピノ
「ドアベルは一回鳴らせば十分だ、シャル」

シャルドネ
「チャオ、セニョール・ピノ。ボンジュール。ハーワーユー?」

ピノ
「相変わらず元気だな、お前は」

シャルドネ
「ピノは気分最悪って感じだな。例の事件が堪えてんだろ。あ、カスクート食べる? なかなかいけるぜ?」

ピノ
「いらん」

シャルドネ
「あ、そぉ?」

[SE:足音]

ピノ
「はぁ……私のワインが盗まれるケースは少なくないが、非常に不愉快だ。まったく」

[SE:ピノを追いかけて中に入るシャルドネ]

シャルドネ
「そんなピノに耳より情報~。ここに来る前にカベルネたちにあったんだけどよ、話を聞いてみちゃあ、どーも、あのじいさんが怪しい気がすんのよ」

ピノ
「ベルナール氏のことか。彼はそう注意すべき人物だとは思っていなかったが」

シャルドネ
「ワインが盗まれたっつって、銀行に借金を帳消しにしろって言ってるらしいぜ。フツー犯人とっ捕まえてワインを取り返してくれって言うもんだろ、そこは」

ピノ
「……確かに気が早いようだな」

シャルドネ
「狂言強盗なんじゃないかっていうのが俺の見解だ」

ピノ
「狂言強盗、か。──だが、それはお前の想像でしかないのだろう?」

シャルドネ
「そこでだ、事件のことが気になって仕方なーいピノ様のために、少しでも早く真相を明るみに出すべく、ベルナールのじいさんとこへ家庭訪問しちゃおうと思いまーす」

ピノ
「なんでそうなる」

シャルドネ
「本人から聞き出すのが一番早いっしょ。俺、じいさんとも知り合いだし。今ちょうどこの街にある別荘に来てるらしいからさ」

ピノ
「あなたはワインをご自分で盗まれたのですか、なんて聞く気じゃないだろうな」

シャルドネ
「んなアホな質問するわけ無いだろ。そこはうまーく聞き出すのよ。俺の専門分野だぜ」

ピノ
「先が思いやられるな」

シャルドネ
「よし、あの手で行こう」

ピノ
「なんだ」

シャルドネ
「良い警察官と悪い警察官ってやつ。俺がいい方で、ピノ様が悪い方ね」

ピノ
「またくだらないことを」

シャルドネ
「ほら、よく小説やドラマであるだろ? 一人が悪徳警官の役をやってターゲットをゆさぶる。そしてあとから善良な警官が優しい言葉をかける。すると、動揺しているターゲットは善良な警官を頼る……って、心理学を使ったやり方だ」

ピノ
「我々は警察じゃない」

シャルドネ
「比喩だよ比喩。別に警察じゃなくてもいいんだよ。というわけで、悪徳警官、よろしく!」

ピノ
「相変わらずの無茶ぶりだな。だが、彼はロマネ・コンティの崇拝者だ。ここは私が善良な役で行くほうがいいんじゃないか」

シャルドネ
「逆だよ。崇拝されてるあんたが圧をかけるからこそ、じいさんは動揺し、俺に泣きついてくる……ってなわけだ」

ピノ
「はぁ。うまくいくといいな」

シャルドネ
「おいおい、うまくいくかどうかは、ピノにかかってんだぜ? あんたが悪い顔をするほど、成功率は上がる。なーに、大丈夫さ。あんたは素でいても充分威圧感があるからな」

ピノ
「言ってくれる」

シャルドネ
「さ、そうと決まれば善は急げ、だ。いざ! ベルナールのじいさん家へゴー!」


…………………………

▶︎シーン④-2
 シャルドネ:
 ピノ:
 ベルナール:
…………………………


[SE:玄関のベルの音]
[SE:上質なドアを開ける]

ベルナール
「おぉ……これはこれは、ピノ・ノアールさん。よく来てくださいました。どうぞ中へ。お入りください」

[SE:足音]

ベルナール(揉み手)
「もしいらっしゃることを知っていれば、気の利いた銘酒でもご用意していたところなのですが」

ピノ
「構いません、ムッシュー・ベルナール。近くに寄ったので、少しお顔を拝見したいと思っただけです。昨夜のような事件に合われて、気を落とされているのではないかと心配で」

[SE:ワインの箱の入った紙袋を渡す]

ピノ
「手土産に、私のワインをお持ちしました。どうぞ」

ベルナール
「なんと、ジュブレ・シャンベルタンではありませんか! いやはや、なんとお礼を申し上げれば良いか……」

ピノ
「少しでも慰めになるかと思いまして。お気遣いなく」

ベルナール
「(感激して)はあ……」

ピノ
「こちらのシャルドネとは顔見知りだと伺いました。彼もあなたのことを気にかけていましたよ」

シャルドネ
「その通りだ。ムッシュー・ベルナール。あのような事件があって非常に残念です。早く犯人が捕まるよう、願うばかりです」

ベルナール
「優しいお言葉、感謝します。お二人共。正直に言いますと、事件の後、食事もろくに喉を通らず、眠りにもつけずで……深くショックを受けております。実はですね──、以前から私のコレクションは度々狙われることがありまして。今の私には財産と言えるものがあれくらいしかありません。警察の方々を頼るばかりです。ええ」

ピノ
「ムッシュー、景気づけにとまでは行きませんが、明るい話をしましょう。今度、南仏で撮影される映画に、彼の出演が決まりまして。タイトルは……何といったかな? シャルドネ」

シャルドネ(急に振られて言い詰まる)
「お前──『お前たちに明日はない』だ。昨日教えただろう?」

ピノ
「(失笑する)ああ、ひどいセンスだと話していたんだった」

シャルドネ
「(睨んで)思い出してくれて何より」

ピノ
「あらすじも昨日、彼の口から聞いたのですが、面白いことに、今回の強盗事件と重なる部分があるのです。
とある資産家が事業に失敗し、彼の愛車を担保にして多額の資金を借入れた。しかし、事業の立て直しはもはや不可能に近く、借金は返せそうにないと悟った資産家は、返済を逃れるため、狂言犯罪を思いつく。腕のいいごろつきを雇い愛車を盗ませ、担保が消えたことを理由に借金を帳消しにすることに成功する。ことが上手く運び、舞い上がった資産家は、戻ってきた愛車に乗ってドライブに出かけるが、その先で事故にあい、命を落としてしまう……。という結末です。
まるで、ワイン強盗事件の裏側を示唆しているようで、非常に興味深いですね」(だんだん皮肉っぽく)

ベルナール
「は、はあ、そうですなあ」

シャルドネ
「よせよ、ピノ」

ピノ
「まさか、あなたに限って、そんな喜劇のような狂言犯罪など企てるはずがないでしょう。ねえ? そう願っていますよ」

ベルナール
「勿論です! それは映画の中の話でしょう? まさか、私がそんな……するわけがないじゃあありませんか。はは。あなたも人が悪い……」

ピノ
「なら結構。私の方も、ロマネ・コンティをそんな風に利用する輩がいたら、思い知らせてやらなければならないと思っていたところです。あなたが信用ある方で、本当に良かった」

ベルナール
「あ、はは。恐縮です」

ピノ(意地悪くつらつらと)
「実は以前にも、私のワインが犯罪に悪用されたことがあったのです。犯人は証拠不十分で不起訴になりましたが、私の目には、その人物が罪を犯したことは火を見るより明らかでした。犯人は不正に儲けながら、罰されることなくのうのうと暮らしている。──これは許されるべきことじゃない」

ベルナール
「い……如何なさったのです」

ピノ
「人間的にも社会的にもそいつを抹殺しました。奴の全財産を奪い、失脚させ、家族も友人も取り上げ、まさに漆黒の谷へ突き落としてやりましたよ」

シャルドネ
「あの時のピノを思い出すたび、恐ろしくなります。まるで何かに取り憑かれでもしたかのように、あの男を破滅に追いやることだけを考え、日々を送っていました」

ピノ
「貴様には私が狂気の人間に見えたかもしれないが、その男は罪を犯したのだ。受けて当然の裁きだ」

シャルドネ
「だけどね、限度ってものが……」

ピノ
「黙れ。貴様はいつから私に忠告できるほど偉くなったんだ? 口を慎め」

シャルドネ
「……すまない」

ピノ「さて、私はそろそろ失礼させていただきますよ。あなたの健康とますますのご発展をお祈り申し上げます。……行くぞ、シャルドネ」

シャルドネ
「少し、待ってくれないか。ベルナール氏と、話したいことがあるんだ」

ピノ
「……好きにしろ。車の運転はムニエに頼むことにする。お前の代わりはいくらでもいるのだからな」

シャルドネ
「そっちこそ、あまり図に乗るなよ。時代は変わる。あんたが王を気取っていられるのも、あと少しかもしれないぞ」

ピノ
「……ふん」

[SE: 去って行くピノの足音]

シャルドネ
「先ほどはピノ・ノワールが失礼を。ムッシュー・ベルナール。代わって僕が謝ります」

ベルナール
「なにを言うんだ、シャルドネくん。君が謝ることなど、一つもないじゃあないか」

シャルドネ
「ピノはどうやら、あなたが狂言犯罪をしたかもしれないと疑っているのです。それで、さっきのような脅すような真似を……。あいつの性格を、あなたもよくご存知でしょう。その気まぐれのせいで、表舞台から消された人間がいくらでもいます。しかし、ご安心ください。僕はあなたの味方です。何かお困りごとがありましたら、どんなことでもご相談にのりますよ」

ベルナール
「君は本当に優しい男だ。以前、取引相手とうまくいかなかった時も、助けてくれたんだったな。君には感謝でいっぱいだよ」

シャルドネ(気持ち悪いくらい優しく)
「とんでもない。人のお役に立てることが、僕の喜びです。何か、気にかかっていることがあるのでしょう。僕にはわかります。話して気持ちが落ち着くのでいたら、このシャルドネにお聞かせください。秘密は必ず守ります。お約束します」

ベルナール
「(言うのをためらって)……実は、あの人の言うことは真実なのだ。わしは、とんでもないことをしてしまったんだ」

シャルドネ
「なんですって……では、あのワインはムッシューご自身が盗み出したというのですか」

ベルナール
「身内に頼んでやらせたのだ。……こんなこと、人には到底言えないと思っていたが、わし一人ではかかえきれない」

シャルドネ
「そうでしょうね。では、今ロマネ・コンティは、ムッシューのもとにあるのですね?」

ベルナール
「いいや……違う。わしのところへは戻ってきていない。隠し場所は教えてもらった。だが、行ってみるともぬけの殻だったのだ……!」

シャルドネ
「……なんだと?」

ベルナール
「盗みをやった甥が、わしのロマネ・コンティを、そのまま持っていってしまったんだ! 今朝から連絡が取れん。わしは嵌められたんだ。……頼む、シャルドネくん、金は後でいくらでも出す。だから、お願いだ。わしのワインを取り返してくれ……!!」

シャルドネ
「……いいでしょう、取り戻して差し上げますよ」

ベルナール
「おお、本当か!?」

シャルドネ
「ですがね、銀行からせしめた金はいくら積まれてたって受け取りません。いいですか、ワインは必ずあなたのもとへ届けます。その代わりに……あんたは警察に出頭しろ」(ガラッと声色を変える)

ベルナール
「……!」

シャルドネ
「俺は優しい男だ。善良な人間に対してな。さあ、そのエドモンとかいう甥っ子さんについて、お話願いましょうか」


(間)


[SE:足音]
[SE:車のドアの開閉]

ピノ
「どうだった」

シャルドネ
「全部ゲロったぜ。さすがは俺様ってとこかな」

ピノ
「私に対しての言葉はないのか」

シャルドネ
「なんだ、頭なでなでして褒めて欲しいのか?」

ピノ
「(手を払い侮蔑)ハッ。やめろ」

シャルドネ
「ん? 遠慮するなって。ちゃーんとゲスい悪役を演じきれていましたよ~」

ピノ
「くだらん戯言はいい。聞き出したことを話せ」

シャルドネ
「ふふん。やっぱりあの強盗はじいさんの仕組んだことだ。元銀行員で甥であるデュポンという男を使ったんだ。
じいさんの話によれば、やつはずる賢く、また演技力が異様に高い。普段は真面目で誠実な銀行員を装っているようだが、裏では犯罪スレスレのことを繰り返して、じいさんのことも脅していたらしい。今回の企ても、全てエドモンがお膳立てしたものらしい。
現在は盗んだワインをもって逃走中。じいさんは甥と連絡が取れなくなったと言っておろおろしていたよ」

ピノ
「ふん。愚かな男だ」

シャルドネ
「その甥っ子が賢いなら、叔父から金を恵んでもらうより、大量のロマネちゃんを売りさばくほうがよっぽど金になると考えるはずだ。
だが、甘かったな。あのワインはそう簡単には売れねーんだよ……」

[SE:車のエンジンをかける]

ピノ
「シャル」

シャルドネ
「ああ、わかってるよ。盗難ワインを持った奴が行きそうなところ、あたってみるぜ」

[SE:車の発進音]


………………………………
▶︎シーン⑤
 デュポン:
 モスカート:
 スタッフ:
………………

ナレーション(シャルドネ)
「カベルネ、シャルドネたちによって、ワイン強盗事件は一歩づつ真相へと近づいていた! その一方で、昼下がりの街へ姿をくらます、男がひとり──」
 
[SE:街の雑踏が遠のいていく]

デュポン(電話で)
「ああ、バロー。お前のとこにもサツが来たか? ……そうか。
早めに動こう。ボロが出ないうちに、この街から出るんだ。例のやつをいくつか金に変える。いいな?
まあ、今回のことはちょうど良かったよ。保管庫のやつを偽造にすり替えていたのが、バレそうだったからな。叔父が強盗の話を持ち出してくれて良かった。おかげでこっちも偽物を回収できた。
あとは、叔父のワインをどう金に変えるかだ。
お前が世話になってるっていう、モスカート……だっけ? そいつのところへ行ってみようと思う。……ああ。ルディのやつは、もう取引をしてくれないみたいだからな」

***

[BGM: カジノ]

[SE:足音]

デュポン
「おい、ちょっとあんた。モスカートってやつはどのテーブルにいる?」

スタッフ
「ええ、シニョーレ。その方でしたら、あちらのテーブルに」

[SE:足音]

[SE:一際賑やかなテーブル]

デュポン
「ちょっと失礼」

モスカート
「ようこそ、色男。まだゲームは始まったばかりだ。参加するかい?」

デュポン
「いや、『シェリーを頼む』」

モスカート
「ふん……少し待っててくれ」

[SE:テーブルを指で叩く]

モスカート(スタッフに)
「悪いが、ちょっと席を外す」

スタッフ
「かしこまりました」

モスカート
「(デュポンに)奥で話そう。さ、こちらへ」

[SE:遠ざかるカジノ]

(間)

[SE:足音]

[SE: ドアの開く音]

モスカート
「どうぞ、入ってくれ」

デュポン
「ああ」

[SE:ドアを閉める音]

[SE:ソファに腰を下ろす]

モスカート
「さ・て……、シェリーのことは誰から聞いたのかな?」

デュポン
「知り合いがここで何度か世話になったと聞いた。希少ワインを高値で買い取ってくれるってね。後ろ暗い取引の手助けもしてるんだってな?」

モスカート
「そういう噂はあまり広がって欲しくないのだけどね。買うといっても、モノにもよるしな」

デュポン
「……ロマネ・コンティはお眼鏡に叶うか」

[SE:鞄型のケースを開けて、ワインを見せる]

モスカート
「おやおや……」

デュポン
「こいつだけじゃない。まだ他に20本ほどある。それを全部金に変えて欲しいんだ」

モスカート
「思い切ったことをするね、あんた。でも……(不敵に笑う)……答えはノーだ」

デュポン
「へ? はッ、なんでだよ。俺の耳がおかしいわけじゃないよな。あのロマネ・コンティだぞ。それとも、俺のこと疑ってるのか? 偽物を持ってきたって──」

モスカート
「それもあるけどさ」

デュポン
「他になにが」

モスカート
「俺はな、そういうすぐに足のつくモノでは取引しないんだ」

デュポン
「……どういうことだ」

モスカート
「とぼけなくたっていい。それ、銀行からくすねてきたやつだろ?」

デュポン
「……う」

モスカート
「おいおい、俺じゃなくたって、それくらいわかるさ。新聞は読んだか? ニュースは見た? ワイン盗難のニュースで持ちきりだぜ? その矢先に、ワインを売りに来るたぁ……ははっ。まるで素人のやることだ。この手の犯罪は初めてか? 慣れないことはやらない方がいい」

デュポン
「……」

モスカート
「あんたとしては、長く手元に置いておきたくないのだろうが、それはこちらとしても同じ。もう少し、寝かせておいた方がいいんじゃないか?」

デュポン
「人の計画にケチをつけないでもらいたい。俺には金が必要だ。あんたの役目はその買い手を紹介すること。それだけだ」

モスカート
「悪いが、思い当たらない。残念だったね、ご希望に添えなくて。裏口はあっちだ。どうぞ、お気をつけて」

デュポン
「……おい、人を馬鹿にするのも大概にしろよ」

モスカート
「その言葉、そっくりそのままお返ししよう。あんたの計画はねずみの食べたチーズみたいに穴だらけだ。俺に対しても、高い酒さえ持って来れば、無条件に金を出してくれるとでも思ってたか? そんなんじゃ、こっちも取り引きしたいとは思わない」

デュポン
「わかった。俺もあんたみたいなやつに売るのはごめんだ。他を当たる」

モスカート
「他所でも同じだろうさ。ま、せいぜい警察に捕まらないよう頑張りな」

デュポン
「だ・ま・れ」

モスカート
「おいおい、紳士的に行こうぜ? 俺はあんたを告発しないって言ってんだ。帰る時も、さっき来た時とは反対の通路を使いな。その方が安全だ。それとも、警察のお迎えで檻のおうちへ帰りたいか?」

デュポン
「はいはい、お気遣い感謝します」

[SE:去る足音]

モスカート
「……ああ、待て。心当たりが一つだけあった。……金がすぐ必要なんだってな?」

デュポン
「……ああ」

モスカート
「なら、話を通しておこう。西区港にある、フォーティファイド商会の3番倉庫、そこに行けば取引相手に会える」

デュポン
「相手の名は」

モスカート
「入り口でまた『シェリー』を頼めばいい。そうすれば会える」

デュポン
「……信用していいんだな?」

モスカート
「取引ってのはまず信用だろ。疑うなら行かなきゃいい。それだけだ」

デュポン
「……ふん」

[SE:去る足音]
[SE:ドアを開ける]

モスカート
「ああ──お帰りは左の通路から、よろしく」

[SE:ドアの閉まる音]

モスカート
「さてと……」

[SE:電話をかける]

モスカート「オラ(やあ)。アレクか? お前が飛びつきそうな話があるんだが、どうだ、聞きたいか?」

…………………………

▶︎シーン⑤ー2
 カベルネ:
 マルヴァジア:
…………………………

◯ワインバーの店内

[Se:木製扉の開閉、ドアベルの音]

マルヴァジア
「すみませーん、まだ準備中で……」

カベルネ
「やあ、マルヴァジア。サンジョベーゼはいるだろうか?」

マルヴァジア
「珍しー。カベルネが勤務中に飲みに来るなんて。でも残念、サンは今買い出し中だよー」

カベルネ
「飲みに来たわけじゃないんだ。聞きたい事があってな」

マルヴァジア
「ふーん?」

カベルネ
「君でもいい。昨晩、飲んでいた客の中で、この写真の男を見かけなかったか?」

マルヴァジア(開店準備をしながら)
「……さぁー。昨日は忙しかったからなー」

カベルネ
「覚えていないか?」

マルヴァジア
「……んー。あー。ちょっと待てよ……? (溜めて)ああ、そうだ。確かバーボンを頼んで…… 友達と一緒に、その隅の席でずっと飲んでたなぁ」

カベルネ
「間違いないか?」

マルヴァジア
「うん、確かにその人だったよ」

カベルネ
「何時まで居たか覚えているか?」

マルヴァジア
「そうだねぇ……そこのテレビで、深夜のニュースが終わったくらいに出て行ったから、12時を超えていたんじゃないかなぁ」

カベルネ
「そうか、ありがとう。助かったよ」(出ていく)

[Se:木製扉の開閉]

マルヴァジア(見送って)
「……ふう。約束は守ったよ、エドモンくん? ……でもなー、顔馴染みだからって、たったの100ユーロで僕を買おうなんて、ちょっと安すぎるよねぇ。おまけに、サンのキャンティを一杯も飲まないんだもんなぁ。カベルネのことは嫌いだけど、ワインを冒涜する奴はもっと嫌いなんだよねぇ。……約束通り、警察には言わない。で、も、……もっと怖い人にはリークしちゃおうかなぁ。ハハッ」

[SE:電話]

マルヴァジア
「ちゃおちゃおー、ビアンカ兄さん。今忙しい? ちょろっと、可愛い弟のわがまま、聞いて欲しいなー」

[SE:ドアの音]

マルヴァジア
「ん? あ、カナイオーロ。今の話、聞いちゃってた? しー、だよ? 僕たち親友だもんね? ねー? 僕、君をマルムジーの刑にするの、嫌だからね? ……ふふっ。うんうん、いい子だね」
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