29 / 48
motto
★ピノ家の年末
しおりを挟む
ピノ家の年末
【キャスト】
ピノ・ノワール♂(ブドウ品種)
紀元前から存在するワインの王。ラミのことは、嫌いではないが、年が離れ過ぎているのと、愛が重すぎるため、敬遠している。
シャルドネ♂(ブドウ品種)
ピノ・ノワールとは腐れ縁。
ラミ・デュ・シャンベルタン♀(チーズ)
エポワスの妹。まだ幼さを残した美少女だが、ピノ・ノワールに対して執着している。生まれは近年のため、若い設定。
補足
ピノ・ムニエ
ピノ・ノワールの兄弟
ピノ・ブラン
ノワールの親戚。
──────────以下台本
◯玄関のチャイムが鳴る。騒々しくドアが開く。
シャルドネ
「よ、ボンジュール、ムッシュー・ピノ~。や~、人気者のピノ様は、年末で大忙しだろう。というわけでこの俺シャルドネが、様子を見にきてやったぞ~。どうだ、生きてるか? 元気にしてっかー?」
ピノ
「生憎、表にお前のフェラーリが停まってから、具合が悪くなった」
シャルドネ
「そりゃあ大変だ。どこぞのお偉いさんの付き合いだの会合だの全部ほっぽり出して、どこかパーッとドライブにでも行こうぜ。南の方でいい店を見つけたんだ。料理がうまいだけじゃなく、ワインの品揃えも豊富、オマケにオーシャンビューで眺めも最高ときた。賭けてもいい。お前、絶対気にいるよ」
ピノ
「それはよかったな。一人で行ってきてくれ」
シャルドネ
「おいおい、随分と冷めてえじゃねぇか。どうした、なんでそんなに虫の居所が悪いんだ? ん?」
ピノ
「いつものことだろう。さっさと帰ってくれ」
シャルドネ
「んん? なんだ、屋敷の中を飾り付けて、料理も準備して……誰か呼んで、これからパーティか? だったら俺も参加しよう」
ピノ
「お前はいなくていい。……身内のクリスマス会だ。当日は皆忙しくて、今日にずらしたんだ」
シャルドネ
「おー! クリスマスパーティー! だったら尚更俺必要じゃん! かっこいいサーベラージュ、決めてやるぜ? ふっふーん」
ピノ
「身内の会だと言っただろう」
シャルドネ
「なんだよ、俺は仲間はずれか?」
ピノ
「ピノ・ブランと会いたくないだろ」
シャルドネ
「あー……なるほどね? お前の身内の1人で、ワイン界の王子様って言われてる、ピノ・ブラン。あいつ、俺に対して何故か親の仇のような目で睨んでくるんだよなぁ。確かに、俺とよく比べられて気分が良くないのはわかるけどさぁ、俺へのあの目つきは、ただのライバルを見る目じゃないぜ。いつか刺されるかも。……俺に参加するなってのは、お前なりの気遣いか? ピノ」
ピノ
「いや。単に私が、お前たちの喧嘩を見て、不快になりたくないだけだ」
シャルドネ
「へーへー、そーですかー」
ピノ
「……いや、待て。シャルドネ、やっぱりここにいてくれ。私の隣に」
シャルドネ
「へっ? なになになに、俺の腕を掴んでさ。急に寂しくなっちゃったの?」
ピノ
「……アイツが来た。今、家の前で車から降りている」
シャルドネ
「なに? あいつ?」
ピノ
「ラミだ。ラミ・デュ・シャンベルタン」
シャルドネ
「あー……。あのチーズの女の子ねー……。お前、なんでかあの子のこと苦手だよな。そこがわかんねぇんだよ。お前に一途でさ、可愛いじゃん。何が気に入らねぇの?」
ピノ
「気にいらないんじゃない。生理的に合わないんだ……」
シャルドネ
「ふーん。で? なんでここに彼女が? 苦手なくせにパーティに呼んだの?」
ピノ
「……形式上、身内扱いだ」
シャルドネ
「うっそ。つまり?」
ピノ
「婚約者。(拗ねたように)私は認めてないが」
シャルドネ
「ほっほ~。いつの間にそんな話になってたんだか」
ピノ
「私だって知りたい。……(短く鋭いため息)こっちへ来るぞ。私の話に合わせてくれ」
シャルドネ
「え?え?あ……」
◯ 近づく靴音
ラミ(慎ましやかにスカートの裾を持ち上げ)
「ご機嫌麗しゅう、ノワ様。それからシャルドネ様も……」
ピノ(よそよそしく)
「ああ、ラミ。久しぶりだな。支度が整うまで、どうぞ、居間でくつろいでいてくれ」
シャルドネ(二人の空気感を測るように)
「どーも」
ラミ
「ノワ様からご招待頂けたこと、感激しておりますの。これから末長くお付き合いします皆様と、一緒に過ごすことができますのは、嬉しい限りです」
ピノ
「招待したのは私でなく、ピノ・ムニエだ。向こうにいるから、挨拶してくるといい。では、私は準備があるので──」(立ち去ろうとする)
ラミ
「お待ちくださいまし。ノワ様」
ピノ
「……何か?」
ラミ
「わたくし、確認しておきたいことがございますの。まだお返事をいただけていませんでしたから……」
ピノ(遮るように)
「後にしてもらえないか?」
ラミ
「いいえ、今お返事を。──いつ、わたくしをお友達から妻にして頂けるのでしょう? 挙式の日程はお決まりで? それから、婚姻の届出のご用意は、できてらっしゃいますの?」
ピノ(悩ましく)
「また始まった……」
ラミ
「わたくし、式場をいくつか選んでおきましたの。それから、リングも。ノワ様が忙しいのは承知していますので、わたくしから予約を入れておきますわ、ですから──」
ピノ
「ラミ、ラミ! 何度も言っているが、私は婚姻を考えていないんだ。忙しいというのもあるが、我々に結婚という営みが無縁であることは、君も理解しているだろう? もう一度言うぞ。私は、君との婚姻を、考えていない」
ラミ
「………………あら、まあ、ええ、そう、ですわよね」
シャルドネ
「おいおい、今の言い方はちょっとないんじゃないか、ピノ・ノワール」
ピノ
「このぐらい強く言わないと彼女にはわからない」
ラミ
「そうですわよね。結婚……考えている余裕はありませんものね。ええ、存じておりますわ。婚約者ですもの。『まだ、今は』考えていられない、そう言うことですわよね? ノワ様、わたくしはいつまでもお待ちます。ですから、どうぞ、お仕事に励んでください。わたくしはその間に、ノワ様のお手を煩わせないよう、挙式からハネムーンまでの予定を全て、取り計らっておきますので」
ピノ
「そうじゃない……そうじゃないんだラミ……」
シャルドネ
「はっはー……なるほどね。これは手強いぞ」
ラミ
「そうではない? 挙式をせず、そのままハネムーンにします? わたくしはそれでも構いませんわ。行き先はモナコがいいかしら。それともカプリ島? 海の見える丘で、2人だけで式を上げるのも素敵ですわね……」
ピノ
「待ってくれ! ラミ、私は、君とは、結婚も、ハネムーンも全く考えていない!」
ラミ
「……?」
ピノ
「何故か、わからないのか!? 私は……(シャルドネを引き寄せ)このシャルドネとの生活を考えているからだ」
シャルドネ(驚いて二度見)
「は? は!?」
ピノ
「今まで黙っていて悪かった。だが、彼とは将来を誓い合っている。仕事上でも、そして家庭内でもパートナーとして、2人で生きていくつもりだ。な、シャルドネ(圧)」
シャルドネ(小声で)
「待て待て待て待て、俺を巻き込むな! 話を合わせろって……このことかよ! クソー!」
ラミ
「まぁ……そうでしたの……?」
ピノ
「ああ、だから君とは、一緒になれない。わかってくれるだろう、私の……友達なのだから」
シャルドネ
「うわー。ピノ・ノワール、改めてお前は酷いヤツだよ、まったく……」
ラミ
「……理解しました。でも、承知は致しかねます。──シャルドネ様」
シャルドネ
「は、はい?」
ラミ
「あなたはどのくらい、ノワ様のことをご存知なのかしら。例えば──ノワ様のお好きな料理は」
シャルドネ
「……鴨のロティとエスカルゴ」
ラミ
「退屈な時に、ヴァイオリンで好んで弾いてらっしゃる曲は?」
シャルドネ
「マショーの『あらゆる花のうち』」
ラミ
「靴はどちらからお履きになる?」
シャルドネ
「左から」
ラミ
「ではこれはご存知かしら……人差し指と薬指、どちらが長い?」
シャルドネ
「人差し指。足は親指の方が長い」
ピノ
「気持ち悪いぞお前たち」
ラミ
「では……ノワ様が大事にしてらっしゃるグラスのうち、一番高価なものは?」
シャルドネ
「ティファニー、ロブマイヤー、リーデル……コレクションは色々あるが、一番高価つまりは値段のつけられないものがある──ムニエから贈られた、思い出のワイングラスが一脚、カーヴの奥に眠っている。その隣に何があるか、マドモアゼル・ラミはご存知かな? ──俺のプレゼントしたバカラのコンデグラス。こいつも大事にしまってある」
ラミ
「それは……知りませんでした」
シャルドネ
「あとこれは知ってる? 毎朝、庭のバラの世話をする時に、声をかけている。こんな風に」
シャルドネ・ラミ
「おはよう、私の美しい愛」
ピノ
「お前たちが私を知り尽くしているのは、よくわかった。もうこの話はやめよう。……やめてくれ」
ラミ
「お見事ですわ。シャルドネ様。あなたならきっと、ノワ様の良き伴侶として、寄り添い支えることができましょう。心から祝福致しますわ」
シャルドネ
「……意外とすんなり引き下がったぞ」
ピノ(拍子抜けしたような、どこか腑に落ちないような)
「ああ、よかった」
ラミ
「ではシャルドネ様、お祝いの印として、こちらの挙式場のリストをお渡ししますわ。こちらはハネムーンの日程表、35通り考えましたの。この旅程なら、ノワ様は必ず満足なさいますわ。もし不安でしたら、わたくしが全て手配いたしますし、ご同行して案内も──」
シャルドネ・ピノ
「わかった。ありがとう。でも気持ちだけで充分」
ピノ
「では我々は準備があるので、これで」(逃げる)
ラミ(追いかけていく)
「お待ちくださいまし。ノワ様、シャルドネ様、わたくしもお手伝い致しますわ。式ではお二人ともテールコートをお召しになるの? それともタキシードかしら? ああ、待ってくださいましー」
【キャスト】
ピノ・ノワール♂(ブドウ品種)
紀元前から存在するワインの王。ラミのことは、嫌いではないが、年が離れ過ぎているのと、愛が重すぎるため、敬遠している。
シャルドネ♂(ブドウ品種)
ピノ・ノワールとは腐れ縁。
ラミ・デュ・シャンベルタン♀(チーズ)
エポワスの妹。まだ幼さを残した美少女だが、ピノ・ノワールに対して執着している。生まれは近年のため、若い設定。
補足
ピノ・ムニエ
ピノ・ノワールの兄弟
ピノ・ブラン
ノワールの親戚。
──────────以下台本
◯玄関のチャイムが鳴る。騒々しくドアが開く。
シャルドネ
「よ、ボンジュール、ムッシュー・ピノ~。や~、人気者のピノ様は、年末で大忙しだろう。というわけでこの俺シャルドネが、様子を見にきてやったぞ~。どうだ、生きてるか? 元気にしてっかー?」
ピノ
「生憎、表にお前のフェラーリが停まってから、具合が悪くなった」
シャルドネ
「そりゃあ大変だ。どこぞのお偉いさんの付き合いだの会合だの全部ほっぽり出して、どこかパーッとドライブにでも行こうぜ。南の方でいい店を見つけたんだ。料理がうまいだけじゃなく、ワインの品揃えも豊富、オマケにオーシャンビューで眺めも最高ときた。賭けてもいい。お前、絶対気にいるよ」
ピノ
「それはよかったな。一人で行ってきてくれ」
シャルドネ
「おいおい、随分と冷めてえじゃねぇか。どうした、なんでそんなに虫の居所が悪いんだ? ん?」
ピノ
「いつものことだろう。さっさと帰ってくれ」
シャルドネ
「んん? なんだ、屋敷の中を飾り付けて、料理も準備して……誰か呼んで、これからパーティか? だったら俺も参加しよう」
ピノ
「お前はいなくていい。……身内のクリスマス会だ。当日は皆忙しくて、今日にずらしたんだ」
シャルドネ
「おー! クリスマスパーティー! だったら尚更俺必要じゃん! かっこいいサーベラージュ、決めてやるぜ? ふっふーん」
ピノ
「身内の会だと言っただろう」
シャルドネ
「なんだよ、俺は仲間はずれか?」
ピノ
「ピノ・ブランと会いたくないだろ」
シャルドネ
「あー……なるほどね? お前の身内の1人で、ワイン界の王子様って言われてる、ピノ・ブラン。あいつ、俺に対して何故か親の仇のような目で睨んでくるんだよなぁ。確かに、俺とよく比べられて気分が良くないのはわかるけどさぁ、俺へのあの目つきは、ただのライバルを見る目じゃないぜ。いつか刺されるかも。……俺に参加するなってのは、お前なりの気遣いか? ピノ」
ピノ
「いや。単に私が、お前たちの喧嘩を見て、不快になりたくないだけだ」
シャルドネ
「へーへー、そーですかー」
ピノ
「……いや、待て。シャルドネ、やっぱりここにいてくれ。私の隣に」
シャルドネ
「へっ? なになになに、俺の腕を掴んでさ。急に寂しくなっちゃったの?」
ピノ
「……アイツが来た。今、家の前で車から降りている」
シャルドネ
「なに? あいつ?」
ピノ
「ラミだ。ラミ・デュ・シャンベルタン」
シャルドネ
「あー……。あのチーズの女の子ねー……。お前、なんでかあの子のこと苦手だよな。そこがわかんねぇんだよ。お前に一途でさ、可愛いじゃん。何が気に入らねぇの?」
ピノ
「気にいらないんじゃない。生理的に合わないんだ……」
シャルドネ
「ふーん。で? なんでここに彼女が? 苦手なくせにパーティに呼んだの?」
ピノ
「……形式上、身内扱いだ」
シャルドネ
「うっそ。つまり?」
ピノ
「婚約者。(拗ねたように)私は認めてないが」
シャルドネ
「ほっほ~。いつの間にそんな話になってたんだか」
ピノ
「私だって知りたい。……(短く鋭いため息)こっちへ来るぞ。私の話に合わせてくれ」
シャルドネ
「え?え?あ……」
◯ 近づく靴音
ラミ(慎ましやかにスカートの裾を持ち上げ)
「ご機嫌麗しゅう、ノワ様。それからシャルドネ様も……」
ピノ(よそよそしく)
「ああ、ラミ。久しぶりだな。支度が整うまで、どうぞ、居間でくつろいでいてくれ」
シャルドネ(二人の空気感を測るように)
「どーも」
ラミ
「ノワ様からご招待頂けたこと、感激しておりますの。これから末長くお付き合いします皆様と、一緒に過ごすことができますのは、嬉しい限りです」
ピノ
「招待したのは私でなく、ピノ・ムニエだ。向こうにいるから、挨拶してくるといい。では、私は準備があるので──」(立ち去ろうとする)
ラミ
「お待ちくださいまし。ノワ様」
ピノ
「……何か?」
ラミ
「わたくし、確認しておきたいことがございますの。まだお返事をいただけていませんでしたから……」
ピノ(遮るように)
「後にしてもらえないか?」
ラミ
「いいえ、今お返事を。──いつ、わたくしをお友達から妻にして頂けるのでしょう? 挙式の日程はお決まりで? それから、婚姻の届出のご用意は、できてらっしゃいますの?」
ピノ(悩ましく)
「また始まった……」
ラミ
「わたくし、式場をいくつか選んでおきましたの。それから、リングも。ノワ様が忙しいのは承知していますので、わたくしから予約を入れておきますわ、ですから──」
ピノ
「ラミ、ラミ! 何度も言っているが、私は婚姻を考えていないんだ。忙しいというのもあるが、我々に結婚という営みが無縁であることは、君も理解しているだろう? もう一度言うぞ。私は、君との婚姻を、考えていない」
ラミ
「………………あら、まあ、ええ、そう、ですわよね」
シャルドネ
「おいおい、今の言い方はちょっとないんじゃないか、ピノ・ノワール」
ピノ
「このぐらい強く言わないと彼女にはわからない」
ラミ
「そうですわよね。結婚……考えている余裕はありませんものね。ええ、存じておりますわ。婚約者ですもの。『まだ、今は』考えていられない、そう言うことですわよね? ノワ様、わたくしはいつまでもお待ちます。ですから、どうぞ、お仕事に励んでください。わたくしはその間に、ノワ様のお手を煩わせないよう、挙式からハネムーンまでの予定を全て、取り計らっておきますので」
ピノ
「そうじゃない……そうじゃないんだラミ……」
シャルドネ
「はっはー……なるほどね。これは手強いぞ」
ラミ
「そうではない? 挙式をせず、そのままハネムーンにします? わたくしはそれでも構いませんわ。行き先はモナコがいいかしら。それともカプリ島? 海の見える丘で、2人だけで式を上げるのも素敵ですわね……」
ピノ
「待ってくれ! ラミ、私は、君とは、結婚も、ハネムーンも全く考えていない!」
ラミ
「……?」
ピノ
「何故か、わからないのか!? 私は……(シャルドネを引き寄せ)このシャルドネとの生活を考えているからだ」
シャルドネ(驚いて二度見)
「は? は!?」
ピノ
「今まで黙っていて悪かった。だが、彼とは将来を誓い合っている。仕事上でも、そして家庭内でもパートナーとして、2人で生きていくつもりだ。な、シャルドネ(圧)」
シャルドネ(小声で)
「待て待て待て待て、俺を巻き込むな! 話を合わせろって……このことかよ! クソー!」
ラミ
「まぁ……そうでしたの……?」
ピノ
「ああ、だから君とは、一緒になれない。わかってくれるだろう、私の……友達なのだから」
シャルドネ
「うわー。ピノ・ノワール、改めてお前は酷いヤツだよ、まったく……」
ラミ
「……理解しました。でも、承知は致しかねます。──シャルドネ様」
シャルドネ
「は、はい?」
ラミ
「あなたはどのくらい、ノワ様のことをご存知なのかしら。例えば──ノワ様のお好きな料理は」
シャルドネ
「……鴨のロティとエスカルゴ」
ラミ
「退屈な時に、ヴァイオリンで好んで弾いてらっしゃる曲は?」
シャルドネ
「マショーの『あらゆる花のうち』」
ラミ
「靴はどちらからお履きになる?」
シャルドネ
「左から」
ラミ
「ではこれはご存知かしら……人差し指と薬指、どちらが長い?」
シャルドネ
「人差し指。足は親指の方が長い」
ピノ
「気持ち悪いぞお前たち」
ラミ
「では……ノワ様が大事にしてらっしゃるグラスのうち、一番高価なものは?」
シャルドネ
「ティファニー、ロブマイヤー、リーデル……コレクションは色々あるが、一番高価つまりは値段のつけられないものがある──ムニエから贈られた、思い出のワイングラスが一脚、カーヴの奥に眠っている。その隣に何があるか、マドモアゼル・ラミはご存知かな? ──俺のプレゼントしたバカラのコンデグラス。こいつも大事にしまってある」
ラミ
「それは……知りませんでした」
シャルドネ
「あとこれは知ってる? 毎朝、庭のバラの世話をする時に、声をかけている。こんな風に」
シャルドネ・ラミ
「おはよう、私の美しい愛」
ピノ
「お前たちが私を知り尽くしているのは、よくわかった。もうこの話はやめよう。……やめてくれ」
ラミ
「お見事ですわ。シャルドネ様。あなたならきっと、ノワ様の良き伴侶として、寄り添い支えることができましょう。心から祝福致しますわ」
シャルドネ
「……意外とすんなり引き下がったぞ」
ピノ(拍子抜けしたような、どこか腑に落ちないような)
「ああ、よかった」
ラミ
「ではシャルドネ様、お祝いの印として、こちらの挙式場のリストをお渡ししますわ。こちらはハネムーンの日程表、35通り考えましたの。この旅程なら、ノワ様は必ず満足なさいますわ。もし不安でしたら、わたくしが全て手配いたしますし、ご同行して案内も──」
シャルドネ・ピノ
「わかった。ありがとう。でも気持ちだけで充分」
ピノ
「では我々は準備があるので、これで」(逃げる)
ラミ(追いかけていく)
「お待ちくださいまし。ノワ様、シャルドネ様、わたくしもお手伝い致しますわ。式ではお二人ともテールコートをお召しになるの? それともタキシードかしら? ああ、待ってくださいましー」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち
鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。
心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。
悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。
辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。
それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。
社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ!
食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて……
神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!
男、虎となりて人里へ流れお賃金をもらう
七谷こへ
キャラ文芸
【あらすじ】
海と山にはさまれたのどかなある田舎町に、ひとりの男が流れついた。
男は、なんの因果かある日虎へと姿を変じてしまった元人間であった。
虎へと変わった直後は嘆き、苦しみ、山のいただきにて涙を流すこともあったが、冷静になってみると二足歩行できるししゃべれるし住民も受けいれてくれるしでなんやかんやそこに住むことになった。快適。
その町の小さな書店で働いてお賃金をありがたくいただきながら過ごす日々であったが、ある日悲鳴が聞こえてある女性を助けると、
「その声は、トラくん!? もしかしてぼくの友だち、ペンネーム『✝月下の美しき美獣✝』のトラくんかい!?」
と昔のペンネームを叫ばれ、虎は思い出したくない黒歴史におそわれ情緒がぐっちゃぐちゃになるのであった。
【表紙】
アボット・ハンダーソン・セイヤー『トラ』1874年頃
オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい
凍星
キャラ文芸
幽霊が視えてしまうパティシエ、葉室尊。できるだけ周りに迷惑をかけずに静かに生きていきたい……そんな風に思っていたのに⁉ バーテンダーの霊能者、久我蒼真に出逢ったことで、どういう訳か、霊能力のある人達に色々絡まれる日常に突入⁉「オレは視えてるだけだって言ってるのに、なんでこうなるの??」霊感のある主人公と、彼の秘密を暴きたい男の駆け引きと絆を描きます。BL要素あり。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
八奈結び商店街を歩いてみれば
世津路 章
キャラ文芸
こんな商店街に、帰りたい――
平成ノスタルジー風味な、なにわ人情コメディ長編!
=========
大阪のどっかにある《八奈結び商店街》。
両親のいない兄妹、繁雄・和希はしょっちゅうケンカ。
二人と似た境遇の千十世・美也の兄妹と、幼なじみでしょっちゅうコケるなずな。
5人の少年少女を軸に織りなされる、騒々しくもあたたかく、時々切ない日常の物語。
月宮殿の王弟殿下は怪奇話がお好き
星来香文子
キャラ文芸
【あらすじ】
煌神国(こうじんこく)の貧しい少年・慧臣(えじん)は借金返済のために女と間違えられて売られてしまう。
宦官にされそうになっていたところを、女と見間違うほど美しい少年がいると噂を聞きつけた超絶美形の王弟・令月(れいげつ)に拾われ、慧臣は男として大事な部分を失わずに済む。
令月の従者として働くことになったものの、令月は怪奇話や呪具、謎の物体を集める変人だった。
見えない王弟殿下と見えちゃう従者の中華風×和風×ファンタジー×ライトホラー
※カクヨム等にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる