ヴィティスターズ!

独身貴族

文字の大きさ
上 下
6 / 48

★ワイン会 特別編 ニッポンの年越し

しおりを挟む
ワイン会 特別編 ニッポンの年越し


《キャスト》

甲州
出身は欧州、育ちは日本の灰色葡萄。シルクロードを通って奈良時代に日本へ来てから住み着いている。性格は慎ましく温和で、日本の侘び寂びを愛している。趣味は日本料理を作ること。

マスカット・ベーリーA(マスベリ)
川上善兵衛という人に作られた、川上品種のひとつ。日本を代表する品種にまで登り詰めたが、まだまだ国際品種には届かないようだ……。いちごの軽やかな香りと、若干の醤油香が特徴。お祭り大好きでミーハー。甲州に先輩面をするも、いつも上手を取られて悔しがっている。

ベーリー・アリカントA(アリカント)
川上品種のひとつ。主に色付けのためにブレンドされることが多い。マスベリとクイーンの暴走を止める立ち回りだが、酒が入るとこちらも手がつけられなくなる。赤が大好きで、何かしら身につけている。

ブラッククイーン(クイーン)
川上品種のひとつ。美しい黒髪でスラリとした美人だが、オネエ言葉で喋り、ギャルのような服を愛着している。「立てばハンサム、座れば美人、喋る言葉で全てダメ」とマスベリに評されている。酸味が特徴的で、やや癖のある品種。ゴールデンクイーンという師匠がいる。



《未登場キャラ》

マスカット・オブ・アレキサンドリア
紀元前から存在するとも言われている古い品種。クレオパトラの寵愛を受けていたとかなんとか。今作品では都合上、海賊シェリーの一員となっている。モスカート(マスカット)家の1人で、家系に違わず誇張癖があり、海賊服に底上げブーツ、おまけに眼帯という、なかなか派手な格好をしている。世界中に子分がいる。

ヤマソービニオン
ソービニョンじゃないよ。
病害に強く、日本の風土にあったように作られた品種。口数は少なく、寡黙な武士のような立ち振る舞いをする。

ヤマブドウ(山葡萄)
日本古来の品種。健康に良く、飲めば長生きする……と触れ回っているが、はたして。

リースリング
ドイツ品種だが、日本の主力品種でもある。ツンデレ……らしい。


ーーーーーーーーーーー以下台本

①挨拶台本

マスベリ
「新年!」

アリカント
「あけまして!」

全員
「おめでとうございます!!」

甲州
「ワイン用ブドウ品種 擬人化コンテンツ《ヴィティスターズ》」

クイーン
「まだまだ始まったばかりだけど、今年もガンガン行っちゃいまーす!」

甲州
「本年もどうぞ、よろしく申し上げます」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

②本編

甲州
「初めまして。私はワイン用葡萄品種の一人、甲州と申します。生まれはヨーロッパ、育ちは日本、心は大和男児で、日本のわびさびが大好きです。礼儀伝説を重んじ、いかなる時も心静かに、四季折々の素朴な景色と共に暮らす──。そういったものに心が惹かれます。ですが──」

(除夜の鐘の音)

(初詣に来ている4人)

マスベリ
「正月といえばーーー! 祭りだーーー!!」

アリカント
「除夜の鐘! 初詣!」

マスベリ
「神社だ、みくじだ、屋台だわっしょい!!」

甲州(頭を悩ませる)
「はぁ……」

クイーン
「マスカット・ベーリーAってば、ほんっと、頭ん中賑やかよねー。このお祭り男!」

マスベリ
「うっさいぞ! ブラッククイーン!」

クイーン
「うっさいのはあんたの方でしょ! ……それに比べて、甲州のしずかなこと」

アリカント
「あー、甲州、大丈夫? 顔色悪いよ?」

甲州
「私は……賑やかなのは構いませんが、人が多いのは苦手でして……」

マスベリ
「おいおい、せっかく年越し初詣に連れ出してやったんだ、もっと雰囲気味わえよー! ほらほらー! 射的とかヨーヨー掬いとかあるぜ? お! あっちには串焼きの屋台もあんぞ! ほら見ろよ甲州!」

甲州(やや早口)
「あの、初詣に来たのですよね……? 屋台を見に来たわけじゃないですよね……?」

アリカント
「おいマスベリー、あんまり甲州を引っ張るなよ、困ってるだろ? それから周りの通行人の邪魔になってるぞ。気をつけて歩けよ」

マスベリ
「わかってんよぉ、アリカント……あ! アレキの兄貴がいる! 挨拶してこねーと! (走って行って)お疲れ様っす! アニキ!」

アリカント
「アレキ? ああ、マスカット・オブ・アレキサンドリアのことか……あいつ、遠い親戚だっていうけど、どっちかって言うと子分風情だなぁ」

クイーン
「やーだ、アレキサンドリアって、顔はイケメンなんだけどねぇ、チャラチャラしてるし、底上げブーツなんか履いちゃって、見栄っ張りだってのがプンプン臭ってるわぁ~。アタシ、あーいう男苦手ー」

アリカント
「あんたも十分チャラチャラ着飾ってるし、ヒールの靴も履いてるし、似たもの同士だと思うけどねー」

クイーン
「アタシの美的センスとあのチャラ男と一緒にしないでちょーだい! (気づいて)あっ! ヤマちんじゃないの~。偶然~」

甲州
「ヤマちん……? ああ、ヤマソービニオンのことでしたか……。あの寡黙で、武士のような凛とした佇まい、手本にしたいものです。……あらら、会釈だけして行ってしまわれました」

クイーン
「んもー、連れないのー。でも、あのクールさが堪んないのよね~。(また気づいて)あっ! あっちにいるのはヤマさんじゃないのさ~、おひさ~!」

甲州
「今度はヤマさん……ああ、山葡萄さんですか。うぅん、もっと区別のつくあだ名にすれば良(よ)いのに……」

クイーン
「意外と他の品種も、初詣に来ているみたいね~。あっ! あそこにいるのは、リースちゃん! やーん、今日もツンデレ~! (走っていく)」

甲州
「あぁ、もぅ、本当に落ち着きのない人たちですね、あなたたちは……! もっと日本人らしく慎ましくいられないのですか! 大体ミーハー過ぎるんです! あっちへ行ったりこっちへ行ったり……本殿に着く前に年を越してしまいますよ! アリカンテさん、あなたからもなんとか言ってください! ……あれ、アリカンテさん? どこ行って……わっ!」

アリカント(酔っ払って)
「うーん……足りない……足りないよ……全然赤くないじゃないか……てゆーか、飲んでるぅ?」

甲州
「飲んでるのはあなたの方でしょ! なんて事! 川上品種の唯一の良心が、早速ログアウトですか、本当にもう! 目を離した途端にお酒なんか飲んで──アリカントさん、あなたには素面でいてもらわないと困るんです! あの二人は私だけでは手に負えないので──な、何をしてるんです!?」

アリカント
「こうしゅー! あんた全然赤くない! 赤く染めるのが俺の役目だ! 灰色だろうがなんだろうが……補色するのが俺の……あんた、パンツ何色?」

甲州
「アリカンテさん! 着物の裾から覗かないでください! 本当に酔ってますね! どこで貰ってきたのだか、日本酒のたった一杯で……」

アリカント
「こうしゅ! パンツ! 何色履いてんの!」

甲州
「ああもう! 引っ張らないの! この酔っ払いさんめ! (引っ張られて)ちょっと!」

アリカント
「えー、黒ぉ? つまんな……男は黙って赤フンだろ!!!!」

甲州
「大声出さない! ちょっとは静かになさい!」

マスベリ(戻ってきて)
「マジで? アリカント赤フンしてんの? 見せろ!」

甲州
「見なくていいです!! いいから黙って!! 」

クイーン
「っとにもー、アンタたち騒がしいわねー。これなら迷子になる心配はなくて いいけど。それより、あと2分もしないうちに年越しちゃうけど、どーすんの?」

甲州
「なんですって」

マスベリ
「マジかー! じゃあカウントダウンしようぜ!」

アリカント
「いいねいいねー、しよしよー」

マスベリ
「クイーン、お前時計持ってんだろ、10秒前になったら教えろ」

クイーン
「オーケー」

甲州
「こんなところで年越しですか! こんな階段の真ん中で……」

クイーン
「よーし、行くわよ! じゅう!」

アリカント
「きゅう!」

マスベリ
「はち! なな!」

クイーン(後ろで)
「ろく!」

アリカント(後ろで)
「ご!」

甲州(心のうちで)
「はあ……こんな事なら来なければよかった。そうすれば今頃、除夜の鐘を聴きながら、こたつに入ってぬくぬくと、ゆく年くる年を見ながら……はぁ……こんな騒々しい年越しなんて、懲り懲りです……」

マスベリ
「よん!」

クイーン
「さん!」

アリカント
「にー!」

マスベリ
「いち!!!」

3人
「ハッピーニューイヤー!!!」

マスベリ
「あけましておめでとぅー!!!」

アリカント
「あけおめー!」

クイーン
「今年もよろしくーーー!!」
しおりを挟む

処理中です...