ヴィティスターズ!【ワイン擬人化♂】

独身貴族

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第零章

☆第零章 フィロキセラの襲来 第四話 完結

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ヴィティスターズ 第零章 フィロキセラの襲来 第四話


 《キャスト》
ヴィドゥル(カベルネ)
メルロー
フラン
マルベック
カルメネール

ピノ・ノワール
シャルドネ
トレッビアーノ
コロンバール

フィロキセラ


──────────以下本編

***

 メルローの予想した通り、ヴィドゥルはどんどん成長していった。
 よく学び、よく質問し、素直に吸収していく。まるで、空へとまっすぐ伸びる、葡萄の幹のように。

***

 そんなこんなで、フィロキセラに耐性のあるアメリカ品種、リパイア、ルペストリス、ベルランディエリを呼んで、接木が各地で行われた。

カルメネール「あの接木ってやつで、なんとかフィロキセラの被害から逃れられているらしいな」

マルベック「ええ。トレッビアーノの功により、(合体は絵面的にアレなので)注射で補えるようになったようです。おかげで、新たな被害はほとんどなくなったそうです」

カルメネール「はぁあ。僕もそろそろやらなくちゃぁならないんだけどねぇ……やりたかないなぁ……」

マルベック「実は私も……注射が苦手で。品種によっては副反応が出るのでしょう? フランは高熱で1週間寝込んだそうですから……血の近い私たちも、つい身構えてしまいます」

カルメネール「ホントにだよ。……と、あそこにいるのはヴィドゥルと……シャルドネ」


シャルドネ「よっ。お前、フラン所の新人くんだろ? 接木やったんだってな。あれから調子はどうだよ」

ヴィドゥル「ああ、君はブルゴーニュ地区のシャルドネか。俺のところは特に問題はなかった。今、被害にあって遅れた分を取り返しているところだ」

シャルドネ「聞いたぜ。お前、他のボルドー連中の分まで頑張ってるらしいな。えらい働き者じゃねえか」

ヴィドゥル「ああ、まだ他の品種が本調子を出せていなくてな。俺は接木の相性が良く、早くに立ち直れた。俺は今自分にできることをやっている」

シャルドネ「ははん。そのうちボルドーの世代交代も夢じゃねえな。よし、お前の名前を聞いておこう。後々、パーティとかで出会って恥かきたくねぇしな」

ヴィドゥル「俺の名はヴィドゥルだ」

シャルドネ「ヴィドゥルぅ? 『堅物』って……見たまんまじゃねぇか。もうチョイいい名前にしろよ」

ヴィドゥル「しかし……そう呼ばれてきたから……」

フラン「それについてだが、俺から提案してもいいか」

ヴィドゥル「フラン?」

 フランはヴィドゥルの肩に手を置く。

フラン「気づいている奴もいるようだが、こいつは俺の血筋で、最も近しい存在だ。そこで、俺の名を取って、『カベルネ・ソーヴィニョン』……というのはどうだ」

ヴィドゥル「カベルネ・ソーヴィニョン……」

フラン「嫌いじゃないなら、今度からそう名乗るといい」

ヴィドゥル「フランと同じ名前か……それは嬉しいな。うん、俺は気に入った」

シャルドネ「ほほーん、カベルネ・ソーヴィニョン、か。なぁ、フランよぉ。ソーヴィニョンってまさか、あのセミヨンと一緒にいる……」

フラン「(ぎこちなく)ん? 違うぞ? 『野生的な』という意味でつけたんだ、俺と比べると、そういったところがあるだろう? だから、あいつは関係ないぞ。全くもって関係ないぞ」

シャルドネ「どことなく棒読みになってんじゃねえか。嘘が下手くそかよ。……ま、ヴィドゥルよりかはそっちの名の方がいいぜ。うん、今度からそう名乗りな。改めてよろしく、カベルネ・ソーヴィニョンくん」

カルメネール「カベルネ・ソーヴィニョン……?」

 そう、このヴィドゥルこそが後のカベルネ・ソーヴィニョンなのである。

***

フラン「カベルネ! 北区の方で事件だ! カルメネールと共に現場に向かってくれ」

カベルネ「わかった! しかし、カルメネールはまだ接木が済んでおらず、フィロキセラのいる北区へ行くのは危ないだろう」

フラン「なら、メルローと2人で向かってくれ」

カベルネ「了解」

***

シャルドネ「悪いけど、ボルドーから人手借りれねぇかな? フィロキセラの被害にあった畑の後始末がおわんなくてよぉ。ピノは手伝ってくんねぇし、ムニエは相変わらず引きこもってるし、ちょーっと力のあるやつ、数人借りてぇんだけど」

カベルネ「わかった。俺が行こう」

シャルドネ「サンキューな。助かるぜ」

***

ピノ「フラン。今度、ローヌ・グランホテルで、海外から来賓が集まるワイン会があるのだが、ボルドーからも出席して貰いたい。フィロキセラの件もあり、リースリングやネッビオーロがつかまらなくてな。──いい機会だ、あのカベルネ・ソーヴィニョンを寄越せ。社交界に紹介してやる。構わんだろう」

フラン「ああ。連れて行ってやってくれ。──だが、あいつにはイマイチ華がない。そんな場所に馴染めるかどうか」

ピノ「随分過小評価するんだな。あれはとっくに、社交界に出ても恥のない男だ。……何処にあんな隠し球があったんだか」

フラン「ははは。……そこは詮索しないでくれ」

***

カルメネール「なんだよなんだよなんだよ……! 僕たち接木不能組がダウンしている間に、ヴィドゥル改めカベルネ・ソーヴィニョンはどんどんデカくなっちまって……出勤したら僕の席がない、なんてことにならないかねぇ……ははは、悪い夢で見そうだ」

 ヴィドゥル改めカベルネ・ソーヴィニョンがどんどん力をつけていき、周りからちやほやされ始めると、カルメネールは密かにやっかみと焦りを募らせていった。

 例えば、座ろうとした席に……

カルメネール「あ! そこ、僕の特等席!」

カベルネ「む、すまない。移動しようか」

カルメネール「……いや、いいよぉ。先に座ってたやつをどかすなんて、野暮なことはしないよ」

カベルネ「そうか。次は気をつけよう」

カルメネール「いんや、気にすんな。座ってな」

 はたまた、面倒で押しつけた仕事で……

カルメネール「ヴィドゥルくーん、これ、運んでおいてもらえるかな? 最近腰が痛くてねぇ」

カベルネ「ああ、任せてくれ」

カルメネール「メルスィ~。よろしくね~」

カベルネ「証拠として押収したワイン樽か。こいつを、向こうへ運べばいいのか。……よし」

フラン「お、おい、無理をするなよ……?」

カベルネ「大丈夫だ、フラン。中身が入っていないから、それほど重くはない」

フラン「いや、それでも50キロは超えるからな……?」

メルロー「すごいね、カベルネ! 流石だよ!」

ヴェルド「あ、あのさ、カベルネ……。向こうへ行くなら、これもお願いしてもいいかな?」

カベルネ「ああ、構わない。任せてくれ」

マルベック「やっぱり頼りになりますね、彼は」

カルメネール「ぐぬう……ちやほやされやがってぇ~」

 しかし、カルメネールが妬みやっかむほど、カベルネは伸びていく。

カルメネール「くそぅ……なんだってんだよー」

 そして、イライラしているところに、追い討ちをかけられる。

シャルドネ「やあ、メルロー」

カルメネール「僕ぁメルローじゃない!!」

シャルドネ「あ、失礼……ならいいや」

カルメネール「ならいいやって!」

シャルドネ「ごめんごめん。急ぎの用事でさ」

カルメネール「なんだってんだよ、くそぅ……」

 だんだんと、居場所がなくなることを感じ始めるカルメネール。


***

カルメネール「知ってんだよ……はぁあ。僕の席がもうあそこにはないんだってことは。昇進おめでとう、ヴィドゥル。……転職でもしようかねぇ」

 フィロキセラ「ら!」

カルメネール「おぉっと! 君に慰められたってしょうがないんだよ。……おいおい、こっち来んなよ? 来んなってば!! 僕ぁまだ耐性がないんだって!!」

 フィロキセラに追いかけられるカルメネール。

 ***

メルロー「あれ? カルメネールは?」

カベルネ「そういえば、まだ出勤していない」

メルロー「どうしたのかな……聞きたいことがあったのだけど」

 ***

カルメネール「はぁ……はぁ……やっと振り切ったよぉ……(息を整える)ん、ここはどこだぁ? ……おいおい、港区まで来ちまったよ。はぁ~、もう一歩も歩けないや(座り込む)」

 そこへコロンバールが歩いてくる。

コロンバール「いやぁ、ホンット、フィロキセラには散々やられちまいましたねぇ。でもま、接木も終わったし、これでなんとかめでたしめでたしってな」

トレッビアーノ「そうですね。新種が出ない限り、これで終結ということでしょう。ところでコロンバール──」

 そう言ったところで、トレッビアーノは言葉を切る。

 風に乗って、サラサラと、人影が現れる。

シネレア「いやぁホントホントお疲れちゃんねー。オレちんが労ってあげようかン?」

トレッビアーノ「あぁ……シネレアですか」

コロンバール「あっちへ行きな。燃やされたくなきゃぁね」

シネレア「そりゃあ勘弁してちょ。でもオレだってねぇ、みんなのガードが固かったからお腹空かせてんのよォ。ちょっとだけ、ネ? ヨくしてあげるからさぁ」

コロンバール「ハッ。そういうのはドイツに行ってヤリな。残念だけど、俺たちにはアンタへの耐性があるんだ、いいかい、燃やしちまうよ!」

 コロンバールはトーチを取り出し、炎を見せつける。

シネレア「よっと」

 しかし、シネレアが息を吹くと、炎が消える。

コロンバール「へっ?」

シネレア「あらら? オタクら知らないんだぁ。接木したんでしょ? ……あの品種、俺への耐性低いのよン」

コロンバール「なにっ……」

トレッビアーノ「おやおや……それは誤算でした」

シネレア「うふふ、オレにとっては嬉しい誤算♪ さぁ~て、どっちからヌキヌキしてあげましょうかねぇ~」

コロンバール「悪いが、そういう趣味はないんだよ!……トレッビアーノ」

トレッビアーノ「はい。ちょうど一本だけ、持っています」

 コロンバールが手で合図をすると、トレッビアーノはニコニコしながら小さなボトルを渡す。

トレッビアーノ「こんなところで使いたくないんですけどねぇ」

コロンバール「仕方ないサ」

 それに気づかないシネレアが、手を振り翳した、その時──


カルメネール「うりゃあぁあ!」

シネレア「にゃっふ!」

 カルメネールがシネレアに、体当たりを喰らわす。そのまま地面に押し付ける。

カルメネール「よし! 捕まえたぞ。二人とも、後ろへ離れて。僕ぁ耐性があるし接木もしていない。こいつのことは任せてくれ」

 トレッビアーノは素早くボトルを隠す。

コロンバール「おーやおや、まさかボルドーの旦那がいたなんてねぇ。手は借りたくないところだけど、しょうがない。ひとつ貸しができましたねぇ」

トレッビアーノ「ええ」

カルメネール「すまないが、警察局へ連絡を入れてくれないか。……こら! その手はなんだ、イタズラしようなんて考えるなよ……! 悪いが僕には通用しない」

シネレア「イテテテ。アンタ見かけによらず、力強いんだなぁ。なんで接木しなかったの?」

カルメネール「色々あってね!」

シネレア「えぇ? 色々ってなになに。教えてよ~」

 シネレアは身を捩って、カルメネールの脚を触る。しかしすぐに叩き払われる。

カルメネール「こら! 言ったそばから! ……て、ああ! 服が!」

 見ると、シネレアの触ったところの服が溶けている。

シネレア「隙ありィ♡」

 手の緩んだ隙に、シネレアはするっとカルメネールの手から逃げだす。

カルメネール「あ! こら! ……あぁ、くそ。逃したか……」

 見ると、トレッビアーノたちの姿もない。

カルメネール「あれッ。……二人にも逃げられたか。前からなーんか怪しいって思ってたんだよねぇ……あの小瓶の中身、気になるなぁ……」

 そこへマルベックが登場。

マルベック「カルメネール。こんなところにいましたか」

カルメネール「あぁ、兄弟」

マルベック「みんな心配していましたよ。一体どうしたんです。……その服」

カルメネール「シネレアにやられた。んで逃しちまった。……ヴィドゥルなら逃さなかったろうなぁ」

マルベック「シネレアって……! まぁ!」

カルメネール「へ、変なことにはなってないよ!? 被害はここだけ! ここだけだからね!? ってか変な声出すなよぉ!」

マルベック「失礼……」

カルメネール「さ、さっさと警察局に戻ろう。みんな待ってんだろ? ……本当に待ってんだかねぇ」

マルベック「実はカルメネール。貴方にお話しがありまして……」

カルメネール「うん……?」

マルベック「南区の方で、土地開発が行われていて、入植者を探しているようです。もしよければ……」

カルメネール「(鼻で笑って)そこへ行けって?」

マルベック「これは善意で言っているんです。……私はまだ誰にも言っていませんが、移るつもりでいます」

カルメネール「マルベック……もしかしてあんたも……」

マルベック「何より魅力なのは、そこがフィロキセラの被害を受けていないということです。移住するなら今ですよ、カルメネール。きっとそこでなら、また本来のあなたの魅力を出すことができます」

カルメネール「──悪い話じゃないねぇ。……ひとつ、フランに相談してみるかね」

***

 こうして、カルメネールとマルベックはそれぞれ、チリとアルゼンチンへ活動場所を移した。

 チリの日差しの下で、カルメネールはのびのびと腕を広げる。

カルメネール「はぁ~! ここの空気は自由でいいなあ! 他の連中が邪魔してこない! 気候は僕にぴったり! 天国はここにあったね!……マルベックも、なんか可愛い相方を見つけたってキャッキャ言ってたし、まぁこれで本当にめでたしなんじゃないの?」

 ニコニコ笑顔でピカピカの新設事務所──カルメネール興信所へ戻ると、何やら通りが騒がしい。

カルメネール「なんだいなんだい、何かあったんかね?」

男「メルローさんですか? お早いお着きで! こっちです、現場は……」

カルメネール「ちょっと待って待って。僕ぁカルメネールだ、メルローじゃないぞ!?」

男「えっ? あ、人違いでした」

カルメネール「こんな所でまで人違いされるなんてな!(泣)……って、あ!!」

 見ると、見覚えのある男の姿が……。

カルメネール「カ、カ、カ……」

カベルネ「あっ、カルメネール! 丁度よかった、君の協力も仰ぎたいんだ。込み入った事件があって……ここの地理に詳しい君に案内を頼みたい。いいかな?」

カルメネール「おのれカベルネぇええええ!!」

カベルネ「!?!?」


 結局、どこへ行ってもカベルネの影に悩まされるカルメネールだった。

》》》フィロキセラ編 完結
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