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味見編
Goûte moi 私を味見して 第3話 甘美なるエスコート
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Goûte moi 私を味見して 第3話 甘美なるエスコート
(上演15分)
──────────
《キャスト》
武藤:
シェフ:
ひより:
⭐︎本日の出勤⭐︎
シャルドネ:
メルロー:
シルヴァーナ:
ゲヴュルツ:(キスあり)
モスカート:(キスあり)
リースリング:(キス寸止めあり)
客1:(女性)
客2:(女性)
※収録時のお願い
[SE: ]の所は2秒ほど間をおいてからセリフをお願いします。
また、***のある所は場面転換、あるいは補足です。
ここでも2秒ほど間を開けてください。
──────────
↓ 以下、本編 ↓
***
(前回までのあらすじ風に)
武藤「……ワインバーで働くことになった僕、武藤。ワインを騙る連中に、なんだかんだ引っ掻き回されたり、キスされたりで……はぁ、やっていけるんかな……」
タイトル:武藤
【ヴィティスターズ グート・モワ 第3話 甘美なるエスコート】
***
武藤「なんだかんだ昨日はちらほらとお客が入り、僕はそれなりの店の雰囲気を掴むことができた。閉店処理はメルロー達に任せて、早めに上がらせてもらい、帰路に着く。
驚いたことやいまだに不明なことがあるが、居心地が悪いわけではないし、ちょっと続けられそうな気がした」
***
そして翌日。
武藤「おはようございますー」
店に入ると、昨日とは違うメンツがいた。
初めに長身の美人が気づいて話しかけてきた。
シルヴァ「やぁ、あなたが新しく入った社員の方ですね。よろしく」
その後から、軟派そうな男は2人顔を出す。
ゲヴェルツ「お、君が例の新人くん?」
モスカート「どうも、よろしく」
武藤「む、武藤です。よろしくお願いします」
ゲヴェルツ「俺はゲヴェルツ・トラミネールだ」
モスカート「俺はミュスカ・ア・プティ・グラン。呼びにくければモスカートでもいい。よろしく」
武藤「ゲヴュ……モスカート……!」
シルヴァーナ「私はシルヴァーナと申します」
武藤「シルヴァーナ……。みなさん、ほんとにワイン品種の名前ばっかりですねぇ……」
シルヴァ「ええ、ワインのことでわからないことがあれば、なんでも聞いてくださいね」
武藤「は、はあ。よろしくお願いします」
リース「(奥から)おい、シルヴァーナ! ちょっと手伝えし」
シルヴァ「はいはい。では、今日の営業、頑張りましょうね」
ゲヴェルツ「じゃーな、新人くん」
モスカート「チャオ」
シルヴァーナたちは静かに奥へと立ち去った。
武藤「シルヴァーナ……すごい……綺麗な人だな……」
メル「あ、武藤くん、おはよう! 昨日は疲れなかった?」
武藤「大丈夫っす。気にかけてくれてありがとうございます」
メル「今日からは忙しくなるかもね。お互いに助け合っていこう!」
武藤「はい!」
メル「まずは、今日もワインが届いたから、片付けるのを手伝ってくれるかな?」
武藤「もちろん」
***
2人はカウンターにあるワインセラーにワインをしまう。
武藤は高い場所にワインを片付けたが、そのうちの一本がバランスを崩し落ちてきた。
武藤「あっ……」
思わず目を瞑る武藤。しかし背後からしっかりとした腕が、ボトルを受け止める。
メルロー「危ない危ない……」
武藤「ありが……と」
礼を言おうと振り返ると、そこにはメルローのたくましい胸板があった。
武藤「う……お……」
あまり意識していなかったが、高身長で体格が良く、間近に立たれると、まるで不動の壁がそそり立っているようだった。
メルロー「頭に当たらなくてよかった。……ん? どうした?」
武藤「いや、その、別に」
武藤は慌ててメルローとワインセラーの間から抜け出す。
***
シャル「はい、本日も開店しましたよっと」
表に看板を出しながら、シャルドネが意気揚々という。
シャル「あ、お嬢さん方~。これから飲みに行くの? 行く店決まってる? よかったらワインとかどう?」
早速キャッチをしている。
武藤「おい、客引き禁止区域だって……」
シャル「店の敷地内からならいいだろー? あっ、お兄さん、そのスーツかっこいいね! 似合ってる! どこか飲みに行くかんじ?」
武藤「男女構わず声かけてる……」
メル「まぁ、シャルは性別関係なく好かれるからね。あの社交性はちょっと羨ましいな」
武藤「いや、メルローだって、好かれるでしょ」
メル「え? そうかな。まあ、ワインは結構気に入ってくれてる人が多くて嬉しいけれど」
武藤「いや、ワインじゃなくて、人柄というか性格というか、雰囲気もさ……」
メル「あはは。好印象を持ってくれて嬉しいよ」
太陽のように笑顔を見せた後、スッと顔を寄せて、
メルロー「いつか僕のワイン、ちゃんと飲んでね」
武藤「は……い」
シャル「2名さまごらいてーん!」
甘くなりそうな雰囲気を、シャルドネの声が台無しにする。
メルロー「お客様だって! シャルドネの客引きが成功したみたいだね。いらっしゃいませー」
メルローが離れると、太陽が雲に隠れたように、物寂しさを感じる武藤。
武藤「なんだよ、この感情、自分……」
[SE:ドアの鈴]
[SE: カウンターに入ってくる音]
ひより「ちわちわー。おはようございまーっす。と言っても、夜なんだけどねー。……お、どーしたの、こんなとこで」
武藤「……っなんでもないっす。ってか、あんたはどちらさん? お客じゃないよな……」
ひより「およ? 俺はここのバイトのひよりでーっす! 芸大に通うピチピチの20歳でーすっ! んで、あんたこそ、誰?」
武藤「俺は昨日からここに入った、社員の武藤です……」
ひより「あー! シェフが言ってた人! そかそかー、よろしくー!」
武藤「かっる。ってか、年上に敬語ぐらい使えよ……」
ひより「仕事でいえば俺が先輩ですッ。それより、むとーさん、なんか顔赤いよー? ダイジョーブ?」
武藤「へっ!? あ、赤くなんか……。」
ひより「んん? ……あ、やっほー、シャルドネにぃ、メルメルー!」
シャル「お、やっと来たか。ひよこっち」
メル「おはよう、ひよこくん」
ひより「ひよこじゃないよ! ひよりでっす!」
シャル「社会人1年目のピヨっ子だから、ひよこで良いんだよ」
ひより「ひよりと呼べっての! あ、お客さんいるんだね。ども、いらっしゃいませ~」
客「ど、どうも……(モジモジしている)」
シェフ「ワイン、何飲むか、決まりました? うちはいろいろ置いてありますからね、テイスティングしていただいて、もしお気に召さないようでしたらまた別のワインもご用意しますよ~」
ひより「シェフってば、いつもは2階の調理場に引っ込んでるくせに。若い女の子のお客様が来たからって、何張り切ってんだか」
客1「そ、その……前からこのお店気になってて、思い切って友達を誘って来ちゃいました。えっと、ワインのことあんまり詳しくなくて……おすすめ、お願いします!」
ひより「赤がいい? 白がいい? それとも泡から始める?」
客1「えっと、赤ワインって、渋いイメージがあるので、飲みやすいものでお願いします」
シャル「んじゃー、最初は俺からでしょ。シャンパーニュのごふっ」
メル「こーら。行かないの、シャル。値段を考えて。ここは君の出番じゃない」
シャル「くっそ、なんだよもーメルちん」
メル「行くならカバかな。始めてのお客様には良心的な値段だし」
客2「私、シャンパン飲みたいなー」
シャル「ほらほら! シャンパンがいいって!」
武藤「シャンパンですと、お値段がやや高めになりますが、よろしいでしょうか? こちらのスペインのカバも、美味しいですしお値段も優しいですよ」
客2「カバって変な名前ー。それはシャンパンじゃないの?」
武藤「産地が違うだけで、シャンパンと同じ製法のワインです」
シャルドネ「(小声で)品種もちげーよ!!」
客1「じゃあ、それにする?」
武藤「それか……甘めのスパークリングもありますが、如何でしょう」
客2「あ、甘めのがいい!」
客1「じゃ、じゃあ、私も……」
シャル「お、おいおい、まさかあいつを出すつもりじゃ……」
[SE:後ろから肩を叩かれる]
モスカート「ご名答。残念だったな、シャルドネ」
シャル「くそー。やっぱりお前か、モスカート!」
モスカート「ふ。初めての女の子は、甘いヤツがお好きなのさ。じゃ、ちょっと行ってくるよ」
シャル「うう。キザな奴め」
メル「シャルも結構キザだよ」
シャル「メルちんがフォローしないだと!?」
武藤「こら、そこ、騒がない」
シャル「へーい」
武藤「(開栓して注ぐ)どうぞ。イタリアのピエモンテ、アスティ地区で作られたスプマンテです」
客1「あ、あまーい」
客2「こんなシャンパン初めて飲んだー!」
シャル「だから、それはシャンパンじゃないっての……!」
モスカート「ブドウ品種はモスカート・ブランコ。別名ミュスカ・ア・プティ・グラン。日本ではマスカットの名前でも知られている品種だ。天使の絵が描かれている、お洒落なラベルでしょう? 天使のアスティ、そう呼ばれているんですよ」
客1「へええー!」
客2「そうなんだー!」
ミュスカ「お嬢さん方、気にっていただけましたか?」
客1、2「はい!」
シャル「あの格好付けめー」
シェフ「は、は。赤ワインを渋い、白ワインを苦いと思っている人は、ああいうところから入るのが一番なんだよ。さて、と、俺はちょっくら厨房に引っ込むとするか」
メルロー「まだ何も料理、注文されてないよ?」
シェフ「可愛い子にはサービス、サービス♪ 何かつまめるもん、考えてくるわ」
ひより「シェフはほんと、若い女の子に甘いよねー」
メルロー「ははは……」
客1「あのー、これに合わせるなら、どんな料理がいいですか?」
武藤「甘めのワインにはご提案しづらいのですが、産地で合わせるというやり方もあります。例えば、これはイタリアのワインですので、カプレーゼや生ハムのサラダなど如何でしょうか」
客2「カプレーゼにしようかなー」
ひより「甘めのワインって、料理に合わせにくいの?」
メルロー「甘みのあるものを飲むと、満足感で食事があまり進まなくなるんだ。スッキリした辛口の方が唾液の分泌を良くして、食欲も増加させる。一般的に食前酒にはスパークリングや辛口のシェリーなんかが良しとされているよ」
ひより「ほえー」
武藤「なんだその間抜けな返事は。バイトなんでしょ。それくらい覚えててくださいね」
ひより「むとーさん、上から目線!」
武藤「まあ、僕の方が身長高いですから」
シャル「わずか数センチの差じゃね? あんま変わらんっしょ」
武藤、ひより「お前らがでかすぎなんだよ!」
シェフ「はい、おまたせー。カプレーゼと生ハムのサラダ、そしてシェフのおまけ付き♪」
客2「えー! いいんですかー?」
シェフ「良いのよ~サービスサービス♪」
客1「ありがとうございますー!」
客2「あ、ワイン無くなっちゃった。次、何かお願いしますー」
ひより「白、行っちゃいます?」
客2「行っちゃいますー」
シャル「よし、俺の出番ごふっ」
メル「悪いけれど、今回は出番はないかな。シャルは辛口タイプが多いからね」
ゲヴュルツ「ってなわけだ、シャルドネ。残念だったな」
シャル「今度はゲヴュルツかよ~」
ゲヴュルツ「じゃーな、シャルドネ。そこで指くわえて大人しくしてろ」
シャル「うわムカつくなあいつー」
武藤「白ワインでしたら、こちらのアルザスのゲヴュルツ・トラミネールがオススメです。ほのかな甘味だけでなく、香りも華やかですよ」
客1「わあ、すごいライチの香り!」
ゲビュルツ「俺のアロマの特徴さ。バラの香り、とも言われている。一口、飲んでみてくれ」
客2「……あ、スッキリ、してる」
客1「さっきのと比べたら、そっちの方が甘いかな?」
客2「えー? さっきの方が甘いって! 絶対!」
メル「うーん、ここはドイツワインにした方がいいかもね」
武藤「甘いやつばっかりじゃなくてメリハリつけようと思ったんだけど、やっぱ甘口がいいのか……」
ゲヴュルツ「俺じゃダメってか? だったら、リースだな」
シャル「は! リースちゃーん!」
リース「うるせ。騒ぐなっつの。ったく、毎度毎度うるせーし」
メルロー「出番みたいだね。リースリング」
リース「ん。行ってくるっす」
武藤「それでは、今度は甘口のドイツワインをご用意しました」
リース「ドイツのシュバルツ・カッツです。名前は黒猫って意味。その昔、黒猫が飛び乗った樽のワインを飲んでみたら、とろけるように甘くて美味かった、そういう逸話から付けられた名前なんすよ。どうぞ」
客1「なんか、いっぱい店員さん、いるんですね」
武藤「そうみたいです……はは」
客2「あっ、あっまーい!!」
客1「ジュースみたーい」
客2「どんどん飲めそー」
リース「ちゃんとアルコール入ってるんで。飲み過ぎ注意っすよ」
ひより「ドイツのワイン、ちょー甘いもんねー」
ゲヴュルツ「甘さでいったら、リースには勝てないよな」
[SE:武藤、バックヤードに戻ってくる]
武藤「んー。俺はゲヴトラも甘いと思うんだけどなー」
ゲヴュルツ「ま、人によって感じ方は違うってことさ。ちょいと味見してみるか?」
武藤「え、ちょ、ま……(後頭部掴まれ、キスされる)」
シャル「わーお」
ゲヴュルツ「ん……ふふ」
武藤「な、何するんすか!! また!また! 誰かに見られでもしたら……!」
ゲヴュルツ「またって……俺とは初めて、だよな?」
武藤「あんたら、なんで初対面で、しかも人前で、こんな……ことできるんだよ。くそ、女子ともしたことねえのに……!」
ゲヴュルツ「まじか。お前の歳でか?」
シャル「逆にお前と同い年で未経験者探す方が、難しいんじゃねーの」
武藤「クッソ、馬鹿にするなぁ!!」
モスカート「そうだぜ。香りや味の感じ方も、経験の数も、人それぞれってな。なんなら、俺たちで経験値上げてやればいい」
武藤「け、結構です。ってか、もうヤメテクレ」
モスカート「キスだと思うからキツイんだ……ワインのテイスティングだと思えばいい。な?」
武藤「え、無理。できない。無理無理」
モスカート「だったら、目を閉じてろ。俺は他のやつより断然甘いから、男としてるなんて気にならないさ」
武藤「無理、だって……(キスされる)」
ミュスカ「ん……。どうだい、甘かったろ」
武藤「あ、甘いけど……さぁ……(赤面)」
ゲヴュルツ「お前……キスの時、いい顔するのな。名前、なんてったっけ。むーと……?」
メル「武藤くん、だよ。もう、本当にやめてあげたら。流石に……さ。今は仕事中だし、遊ぶのは程々にしたら?」
武藤「(半泣き)やっぱり僕、遊ばれてる……?」
***
武藤N「そのあと、何だかんだでお客は入り、そこそこの売り上げになった。はじめの女性客2人も、ドイツワインで満足し、また来るね、と笑顔で帰られた。こうやって、訪れた人々が笑顔になって帰られるのが、接客業ってやつの一番の喜びだ」
***
武藤「……さて、と。今日はなんとか無事に閉店。よかったよかった。……じゃない。僕は無事じゃない。なんか色々奪われた気がする……」
[SE:足音]
メルロー「武藤くん、お疲れ様」
武藤「あ、ああ。メルローか」
メルロー「何だか、冴えない顔だね」
武藤「……いまだに、あんた達の存在が、理解できてないんすよ。ブドウの名前で呼ぶのも慣れないし……。みんなやたらと顔面偏差値高いし……」
メルロー「うーん、確かに、僕たちは不思議な存在かもしれないね。でも、それはそれでいいんじゃないかな。世の中には理解のできないことのひとつやふたつ、あった方が面白いでしょ?」
武藤「そ……んなもんすかね」
武藤は納得できない。
武藤「あとさ、あ、あんな急にキスとか……されるし……人前で……正直困る」
メルロー「あーはは、あれは僕らの挨拶みたいなものでさ。後できつく言っておくよ」
武藤「僕らって……じゃあ、メルローも、その、するんすか? ……キス」
メルロー「えっ? えーっと、まぁ……君が望むなら」
武藤「えっ」
メルロー「僕らは、人に美味しく飲んで貰えるのが1番の幸せだからね。求められれば……するよ。キス」
武藤「……え……っと……」
武藤が固まったのをみて、メルローは話題を変える。
メルロー「まぁ、その話は置いておいて、片付けはやっておくから、帰る支度をしなよ。勤務初日、疲れたでしょ」
武藤「あ……いや、それは申し訳ないんで。自分もやります」
メルロー「じゃ、二人でぱっぱと終わらせよう!」
武藤N「……この連中の中で、メルローが一番、話しやすいというか、親しみやすい印象だな。仕事も手際がいいし、手が足りない時にさっと手伝ってくれる。こういう友人がいると、すごい頼もしい。……でも、キスの話が引っかかる。あのメルローが僕にキスする……のか? 僕が望めば? なんだよそれ……なんかもやっとする……」
***
[SE:階段を上がる]
武藤「ふう、片付けも済んだし、帰るか。何だかまだモヤモヤするものもあるけれど……。戸締りはメルローがしてくれるっていうから、自分は着替えようかなっと……」
[SE:ドア開ける]
リース「……お疲れっす」
武藤「うわっと!! お、おどかさんでください、もー……」
リース「まだ、ちゃんと挨拶してなかったんで」
武藤「ずっと待ってたんですか」
リース「別に。そんな待ってないっすよ」
武藤「そ、そう。……で、ええっと、誰だっけ? たしかドイツ品種の……」
リース「……リースリングっす。これからちょくちょく顔合わせると思うんで、その、よろしく」
武藤「お、おお。よろしく……です」
リース「……じゃあ」
武藤「え、あ、挨拶だけ……?」
リース「……そうっすよ。何か他にあります?」
武藤「いや、別に、そのためだけに待ってなくても、よかったのにって……思って」
リース「(ちょっと気恥ずかしげに)挨拶は、大事なんで……」
武藤「ああ、まあ、そうですけど。あと、他の連中は挨拶するどころか、その、キスばっかしてくるからさ、ちょっと身構えちゃって」
リース「……して、欲しいっすか」
武藤「え? そ、そんな事、一言も言ってないけど!」
リース「……別に、俺は、してもいいっすよ」
武藤「いや、その、そんな真っ赤な顔で言われても……」
リース「べ、別に赤くなんかなって……ッ! ……くそ」
武藤「えーっと、なんか、ごめん」
リース「そこで謝らないで、くれます?」
武藤「え、えー……」
リース「(近づいて)じゃ、するんで。目、閉じろよ」
武藤「へ、は、」
リース「……ん……」
[SE:ドアがバンと開く]
ひより「むちょーさーん、 着替えすんだー? 帰るよー?」
リース「!(寸前で突き飛ばす)」
武藤「どわあっ!! つ、突き飛ばすとか酷くない……?」
ひより「あれー、リースだー。二人で何してたのー?」
リース「な、何もしてねえし。じゃあ、お、俺は、これで……!」
[SE:走りさる]
武藤「な、何だあれ……」
ひより「おー、リースは今日もツンデレってるなー」
武藤「あれはツンデレ、なのか……? (小声で)というより、気まぐれなネコみたいな……」
武藤「それにしても、今日はなんなんだ……厄日か……? 厄年だっけ……?」
武藤N「俺僕はさらにモヤモヤを募らせながら、帰路についたのだった……」
ひより「続く!」
《本日のワイン》
モスカート
アルザス ゲヴュルツトラミネール
シュヴァルツ・カッツ
(上演15分)
──────────
《キャスト》
武藤:
シェフ:
ひより:
⭐︎本日の出勤⭐︎
シャルドネ:
メルロー:
シルヴァーナ:
ゲヴュルツ:(キスあり)
モスカート:(キスあり)
リースリング:(キス寸止めあり)
客1:(女性)
客2:(女性)
※収録時のお願い
[SE: ]の所は2秒ほど間をおいてからセリフをお願いします。
また、***のある所は場面転換、あるいは補足です。
ここでも2秒ほど間を開けてください。
──────────
↓ 以下、本編 ↓
***
(前回までのあらすじ風に)
武藤「……ワインバーで働くことになった僕、武藤。ワインを騙る連中に、なんだかんだ引っ掻き回されたり、キスされたりで……はぁ、やっていけるんかな……」
タイトル:武藤
【ヴィティスターズ グート・モワ 第3話 甘美なるエスコート】
***
武藤「なんだかんだ昨日はちらほらとお客が入り、僕はそれなりの店の雰囲気を掴むことができた。閉店処理はメルロー達に任せて、早めに上がらせてもらい、帰路に着く。
驚いたことやいまだに不明なことがあるが、居心地が悪いわけではないし、ちょっと続けられそうな気がした」
***
そして翌日。
武藤「おはようございますー」
店に入ると、昨日とは違うメンツがいた。
初めに長身の美人が気づいて話しかけてきた。
シルヴァ「やぁ、あなたが新しく入った社員の方ですね。よろしく」
その後から、軟派そうな男は2人顔を出す。
ゲヴェルツ「お、君が例の新人くん?」
モスカート「どうも、よろしく」
武藤「む、武藤です。よろしくお願いします」
ゲヴェルツ「俺はゲヴェルツ・トラミネールだ」
モスカート「俺はミュスカ・ア・プティ・グラン。呼びにくければモスカートでもいい。よろしく」
武藤「ゲヴュ……モスカート……!」
シルヴァーナ「私はシルヴァーナと申します」
武藤「シルヴァーナ……。みなさん、ほんとにワイン品種の名前ばっかりですねぇ……」
シルヴァ「ええ、ワインのことでわからないことがあれば、なんでも聞いてくださいね」
武藤「は、はあ。よろしくお願いします」
リース「(奥から)おい、シルヴァーナ! ちょっと手伝えし」
シルヴァ「はいはい。では、今日の営業、頑張りましょうね」
ゲヴェルツ「じゃーな、新人くん」
モスカート「チャオ」
シルヴァーナたちは静かに奥へと立ち去った。
武藤「シルヴァーナ……すごい……綺麗な人だな……」
メル「あ、武藤くん、おはよう! 昨日は疲れなかった?」
武藤「大丈夫っす。気にかけてくれてありがとうございます」
メル「今日からは忙しくなるかもね。お互いに助け合っていこう!」
武藤「はい!」
メル「まずは、今日もワインが届いたから、片付けるのを手伝ってくれるかな?」
武藤「もちろん」
***
2人はカウンターにあるワインセラーにワインをしまう。
武藤は高い場所にワインを片付けたが、そのうちの一本がバランスを崩し落ちてきた。
武藤「あっ……」
思わず目を瞑る武藤。しかし背後からしっかりとした腕が、ボトルを受け止める。
メルロー「危ない危ない……」
武藤「ありが……と」
礼を言おうと振り返ると、そこにはメルローのたくましい胸板があった。
武藤「う……お……」
あまり意識していなかったが、高身長で体格が良く、間近に立たれると、まるで不動の壁がそそり立っているようだった。
メルロー「頭に当たらなくてよかった。……ん? どうした?」
武藤「いや、その、別に」
武藤は慌ててメルローとワインセラーの間から抜け出す。
***
シャル「はい、本日も開店しましたよっと」
表に看板を出しながら、シャルドネが意気揚々という。
シャル「あ、お嬢さん方~。これから飲みに行くの? 行く店決まってる? よかったらワインとかどう?」
早速キャッチをしている。
武藤「おい、客引き禁止区域だって……」
シャル「店の敷地内からならいいだろー? あっ、お兄さん、そのスーツかっこいいね! 似合ってる! どこか飲みに行くかんじ?」
武藤「男女構わず声かけてる……」
メル「まぁ、シャルは性別関係なく好かれるからね。あの社交性はちょっと羨ましいな」
武藤「いや、メルローだって、好かれるでしょ」
メル「え? そうかな。まあ、ワインは結構気に入ってくれてる人が多くて嬉しいけれど」
武藤「いや、ワインじゃなくて、人柄というか性格というか、雰囲気もさ……」
メル「あはは。好印象を持ってくれて嬉しいよ」
太陽のように笑顔を見せた後、スッと顔を寄せて、
メルロー「いつか僕のワイン、ちゃんと飲んでね」
武藤「は……い」
シャル「2名さまごらいてーん!」
甘くなりそうな雰囲気を、シャルドネの声が台無しにする。
メルロー「お客様だって! シャルドネの客引きが成功したみたいだね。いらっしゃいませー」
メルローが離れると、太陽が雲に隠れたように、物寂しさを感じる武藤。
武藤「なんだよ、この感情、自分……」
[SE:ドアの鈴]
[SE: カウンターに入ってくる音]
ひより「ちわちわー。おはようございまーっす。と言っても、夜なんだけどねー。……お、どーしたの、こんなとこで」
武藤「……っなんでもないっす。ってか、あんたはどちらさん? お客じゃないよな……」
ひより「およ? 俺はここのバイトのひよりでーっす! 芸大に通うピチピチの20歳でーすっ! んで、あんたこそ、誰?」
武藤「俺は昨日からここに入った、社員の武藤です……」
ひより「あー! シェフが言ってた人! そかそかー、よろしくー!」
武藤「かっる。ってか、年上に敬語ぐらい使えよ……」
ひより「仕事でいえば俺が先輩ですッ。それより、むとーさん、なんか顔赤いよー? ダイジョーブ?」
武藤「へっ!? あ、赤くなんか……。」
ひより「んん? ……あ、やっほー、シャルドネにぃ、メルメルー!」
シャル「お、やっと来たか。ひよこっち」
メル「おはよう、ひよこくん」
ひより「ひよこじゃないよ! ひよりでっす!」
シャル「社会人1年目のピヨっ子だから、ひよこで良いんだよ」
ひより「ひよりと呼べっての! あ、お客さんいるんだね。ども、いらっしゃいませ~」
客「ど、どうも……(モジモジしている)」
シェフ「ワイン、何飲むか、決まりました? うちはいろいろ置いてありますからね、テイスティングしていただいて、もしお気に召さないようでしたらまた別のワインもご用意しますよ~」
ひより「シェフってば、いつもは2階の調理場に引っ込んでるくせに。若い女の子のお客様が来たからって、何張り切ってんだか」
客1「そ、その……前からこのお店気になってて、思い切って友達を誘って来ちゃいました。えっと、ワインのことあんまり詳しくなくて……おすすめ、お願いします!」
ひより「赤がいい? 白がいい? それとも泡から始める?」
客1「えっと、赤ワインって、渋いイメージがあるので、飲みやすいものでお願いします」
シャル「んじゃー、最初は俺からでしょ。シャンパーニュのごふっ」
メル「こーら。行かないの、シャル。値段を考えて。ここは君の出番じゃない」
シャル「くっそ、なんだよもーメルちん」
メル「行くならカバかな。始めてのお客様には良心的な値段だし」
客2「私、シャンパン飲みたいなー」
シャル「ほらほら! シャンパンがいいって!」
武藤「シャンパンですと、お値段がやや高めになりますが、よろしいでしょうか? こちらのスペインのカバも、美味しいですしお値段も優しいですよ」
客2「カバって変な名前ー。それはシャンパンじゃないの?」
武藤「産地が違うだけで、シャンパンと同じ製法のワインです」
シャルドネ「(小声で)品種もちげーよ!!」
客1「じゃあ、それにする?」
武藤「それか……甘めのスパークリングもありますが、如何でしょう」
客2「あ、甘めのがいい!」
客1「じゃ、じゃあ、私も……」
シャル「お、おいおい、まさかあいつを出すつもりじゃ……」
[SE:後ろから肩を叩かれる]
モスカート「ご名答。残念だったな、シャルドネ」
シャル「くそー。やっぱりお前か、モスカート!」
モスカート「ふ。初めての女の子は、甘いヤツがお好きなのさ。じゃ、ちょっと行ってくるよ」
シャル「うう。キザな奴め」
メル「シャルも結構キザだよ」
シャル「メルちんがフォローしないだと!?」
武藤「こら、そこ、騒がない」
シャル「へーい」
武藤「(開栓して注ぐ)どうぞ。イタリアのピエモンテ、アスティ地区で作られたスプマンテです」
客1「あ、あまーい」
客2「こんなシャンパン初めて飲んだー!」
シャル「だから、それはシャンパンじゃないっての……!」
モスカート「ブドウ品種はモスカート・ブランコ。別名ミュスカ・ア・プティ・グラン。日本ではマスカットの名前でも知られている品種だ。天使の絵が描かれている、お洒落なラベルでしょう? 天使のアスティ、そう呼ばれているんですよ」
客1「へええー!」
客2「そうなんだー!」
ミュスカ「お嬢さん方、気にっていただけましたか?」
客1、2「はい!」
シャル「あの格好付けめー」
シェフ「は、は。赤ワインを渋い、白ワインを苦いと思っている人は、ああいうところから入るのが一番なんだよ。さて、と、俺はちょっくら厨房に引っ込むとするか」
メルロー「まだ何も料理、注文されてないよ?」
シェフ「可愛い子にはサービス、サービス♪ 何かつまめるもん、考えてくるわ」
ひより「シェフはほんと、若い女の子に甘いよねー」
メルロー「ははは……」
客1「あのー、これに合わせるなら、どんな料理がいいですか?」
武藤「甘めのワインにはご提案しづらいのですが、産地で合わせるというやり方もあります。例えば、これはイタリアのワインですので、カプレーゼや生ハムのサラダなど如何でしょうか」
客2「カプレーゼにしようかなー」
ひより「甘めのワインって、料理に合わせにくいの?」
メルロー「甘みのあるものを飲むと、満足感で食事があまり進まなくなるんだ。スッキリした辛口の方が唾液の分泌を良くして、食欲も増加させる。一般的に食前酒にはスパークリングや辛口のシェリーなんかが良しとされているよ」
ひより「ほえー」
武藤「なんだその間抜けな返事は。バイトなんでしょ。それくらい覚えててくださいね」
ひより「むとーさん、上から目線!」
武藤「まあ、僕の方が身長高いですから」
シャル「わずか数センチの差じゃね? あんま変わらんっしょ」
武藤、ひより「お前らがでかすぎなんだよ!」
シェフ「はい、おまたせー。カプレーゼと生ハムのサラダ、そしてシェフのおまけ付き♪」
客2「えー! いいんですかー?」
シェフ「良いのよ~サービスサービス♪」
客1「ありがとうございますー!」
客2「あ、ワイン無くなっちゃった。次、何かお願いしますー」
ひより「白、行っちゃいます?」
客2「行っちゃいますー」
シャル「よし、俺の出番ごふっ」
メル「悪いけれど、今回は出番はないかな。シャルは辛口タイプが多いからね」
ゲヴュルツ「ってなわけだ、シャルドネ。残念だったな」
シャル「今度はゲヴュルツかよ~」
ゲヴュルツ「じゃーな、シャルドネ。そこで指くわえて大人しくしてろ」
シャル「うわムカつくなあいつー」
武藤「白ワインでしたら、こちらのアルザスのゲヴュルツ・トラミネールがオススメです。ほのかな甘味だけでなく、香りも華やかですよ」
客1「わあ、すごいライチの香り!」
ゲビュルツ「俺のアロマの特徴さ。バラの香り、とも言われている。一口、飲んでみてくれ」
客2「……あ、スッキリ、してる」
客1「さっきのと比べたら、そっちの方が甘いかな?」
客2「えー? さっきの方が甘いって! 絶対!」
メル「うーん、ここはドイツワインにした方がいいかもね」
武藤「甘いやつばっかりじゃなくてメリハリつけようと思ったんだけど、やっぱ甘口がいいのか……」
ゲヴュルツ「俺じゃダメってか? だったら、リースだな」
シャル「は! リースちゃーん!」
リース「うるせ。騒ぐなっつの。ったく、毎度毎度うるせーし」
メルロー「出番みたいだね。リースリング」
リース「ん。行ってくるっす」
武藤「それでは、今度は甘口のドイツワインをご用意しました」
リース「ドイツのシュバルツ・カッツです。名前は黒猫って意味。その昔、黒猫が飛び乗った樽のワインを飲んでみたら、とろけるように甘くて美味かった、そういう逸話から付けられた名前なんすよ。どうぞ」
客1「なんか、いっぱい店員さん、いるんですね」
武藤「そうみたいです……はは」
客2「あっ、あっまーい!!」
客1「ジュースみたーい」
客2「どんどん飲めそー」
リース「ちゃんとアルコール入ってるんで。飲み過ぎ注意っすよ」
ひより「ドイツのワイン、ちょー甘いもんねー」
ゲヴュルツ「甘さでいったら、リースには勝てないよな」
[SE:武藤、バックヤードに戻ってくる]
武藤「んー。俺はゲヴトラも甘いと思うんだけどなー」
ゲヴュルツ「ま、人によって感じ方は違うってことさ。ちょいと味見してみるか?」
武藤「え、ちょ、ま……(後頭部掴まれ、キスされる)」
シャル「わーお」
ゲヴュルツ「ん……ふふ」
武藤「な、何するんすか!! また!また! 誰かに見られでもしたら……!」
ゲヴュルツ「またって……俺とは初めて、だよな?」
武藤「あんたら、なんで初対面で、しかも人前で、こんな……ことできるんだよ。くそ、女子ともしたことねえのに……!」
ゲヴュルツ「まじか。お前の歳でか?」
シャル「逆にお前と同い年で未経験者探す方が、難しいんじゃねーの」
武藤「クッソ、馬鹿にするなぁ!!」
モスカート「そうだぜ。香りや味の感じ方も、経験の数も、人それぞれってな。なんなら、俺たちで経験値上げてやればいい」
武藤「け、結構です。ってか、もうヤメテクレ」
モスカート「キスだと思うからキツイんだ……ワインのテイスティングだと思えばいい。な?」
武藤「え、無理。できない。無理無理」
モスカート「だったら、目を閉じてろ。俺は他のやつより断然甘いから、男としてるなんて気にならないさ」
武藤「無理、だって……(キスされる)」
ミュスカ「ん……。どうだい、甘かったろ」
武藤「あ、甘いけど……さぁ……(赤面)」
ゲヴュルツ「お前……キスの時、いい顔するのな。名前、なんてったっけ。むーと……?」
メル「武藤くん、だよ。もう、本当にやめてあげたら。流石に……さ。今は仕事中だし、遊ぶのは程々にしたら?」
武藤「(半泣き)やっぱり僕、遊ばれてる……?」
***
武藤N「そのあと、何だかんだでお客は入り、そこそこの売り上げになった。はじめの女性客2人も、ドイツワインで満足し、また来るね、と笑顔で帰られた。こうやって、訪れた人々が笑顔になって帰られるのが、接客業ってやつの一番の喜びだ」
***
武藤「……さて、と。今日はなんとか無事に閉店。よかったよかった。……じゃない。僕は無事じゃない。なんか色々奪われた気がする……」
[SE:足音]
メルロー「武藤くん、お疲れ様」
武藤「あ、ああ。メルローか」
メルロー「何だか、冴えない顔だね」
武藤「……いまだに、あんた達の存在が、理解できてないんすよ。ブドウの名前で呼ぶのも慣れないし……。みんなやたらと顔面偏差値高いし……」
メルロー「うーん、確かに、僕たちは不思議な存在かもしれないね。でも、それはそれでいいんじゃないかな。世の中には理解のできないことのひとつやふたつ、あった方が面白いでしょ?」
武藤「そ……んなもんすかね」
武藤は納得できない。
武藤「あとさ、あ、あんな急にキスとか……されるし……人前で……正直困る」
メルロー「あーはは、あれは僕らの挨拶みたいなものでさ。後できつく言っておくよ」
武藤「僕らって……じゃあ、メルローも、その、するんすか? ……キス」
メルロー「えっ? えーっと、まぁ……君が望むなら」
武藤「えっ」
メルロー「僕らは、人に美味しく飲んで貰えるのが1番の幸せだからね。求められれば……するよ。キス」
武藤「……え……っと……」
武藤が固まったのをみて、メルローは話題を変える。
メルロー「まぁ、その話は置いておいて、片付けはやっておくから、帰る支度をしなよ。勤務初日、疲れたでしょ」
武藤「あ……いや、それは申し訳ないんで。自分もやります」
メルロー「じゃ、二人でぱっぱと終わらせよう!」
武藤N「……この連中の中で、メルローが一番、話しやすいというか、親しみやすい印象だな。仕事も手際がいいし、手が足りない時にさっと手伝ってくれる。こういう友人がいると、すごい頼もしい。……でも、キスの話が引っかかる。あのメルローが僕にキスする……のか? 僕が望めば? なんだよそれ……なんかもやっとする……」
***
[SE:階段を上がる]
武藤「ふう、片付けも済んだし、帰るか。何だかまだモヤモヤするものもあるけれど……。戸締りはメルローがしてくれるっていうから、自分は着替えようかなっと……」
[SE:ドア開ける]
リース「……お疲れっす」
武藤「うわっと!! お、おどかさんでください、もー……」
リース「まだ、ちゃんと挨拶してなかったんで」
武藤「ずっと待ってたんですか」
リース「別に。そんな待ってないっすよ」
武藤「そ、そう。……で、ええっと、誰だっけ? たしかドイツ品種の……」
リース「……リースリングっす。これからちょくちょく顔合わせると思うんで、その、よろしく」
武藤「お、おお。よろしく……です」
リース「……じゃあ」
武藤「え、あ、挨拶だけ……?」
リース「……そうっすよ。何か他にあります?」
武藤「いや、別に、そのためだけに待ってなくても、よかったのにって……思って」
リース「(ちょっと気恥ずかしげに)挨拶は、大事なんで……」
武藤「ああ、まあ、そうですけど。あと、他の連中は挨拶するどころか、その、キスばっかしてくるからさ、ちょっと身構えちゃって」
リース「……して、欲しいっすか」
武藤「え? そ、そんな事、一言も言ってないけど!」
リース「……別に、俺は、してもいいっすよ」
武藤「いや、その、そんな真っ赤な顔で言われても……」
リース「べ、別に赤くなんかなって……ッ! ……くそ」
武藤「えーっと、なんか、ごめん」
リース「そこで謝らないで、くれます?」
武藤「え、えー……」
リース「(近づいて)じゃ、するんで。目、閉じろよ」
武藤「へ、は、」
リース「……ん……」
[SE:ドアがバンと開く]
ひより「むちょーさーん、 着替えすんだー? 帰るよー?」
リース「!(寸前で突き飛ばす)」
武藤「どわあっ!! つ、突き飛ばすとか酷くない……?」
ひより「あれー、リースだー。二人で何してたのー?」
リース「な、何もしてねえし。じゃあ、お、俺は、これで……!」
[SE:走りさる]
武藤「な、何だあれ……」
ひより「おー、リースは今日もツンデレってるなー」
武藤「あれはツンデレ、なのか……? (小声で)というより、気まぐれなネコみたいな……」
武藤「それにしても、今日はなんなんだ……厄日か……? 厄年だっけ……?」
武藤N「俺僕はさらにモヤモヤを募らせながら、帰路についたのだった……」
ひより「続く!」
《本日のワイン》
モスカート
アルザス ゲヴュルツトラミネール
シュヴァルツ・カッツ
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