ヴィティスターズ!

独身貴族

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Goûte moi 私を味見して 第2話 ワインは生き物ですのでお早めに

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Goûte moi 私を味見して 第2話 ワインは生き物ですのでお早めに
(上演15分)

──────────

《キャスト》

武藤:
シェフ:

カベルネ:
シャルドネ:
メルロー:
ミュラー:(キスあり)



※収録時のお願い
[SE:  ]の所は2秒ほど間をおいてからセリフをお願いします。

また、***のある所は場面転換、あるいは補足です。
ここでも2秒ほど間を開けてください。

──────────

↓ 以下、本編 ↓

***

(前回までのあらすじ風に)
武藤「……ワインバーで働くことになった俺の前に、突然、ワインを騙る連中が現れて、ここの従業員だと言い出して、き、キスまでされたんだけど、どうすりゃいいんだ俺は……」

タイトル:武藤
【ヴィティスターズ グート・モワ  第2話 ワインは生き物ですのでお早めに】

***

武藤「と、取り敢えず、開店時間も迫ってきてるし、準備しないと……と、洗い場に、誰かいる」

[SE:流しの水を止める音]

メルロー「あ、大体の準備は終わらせておいたよ。あとはお店を開けるだけだね」

武藤「凄い……! テーブルセッティングも、残してあった洗い物も、全部片付いている。めちゃくちゃ感謝……なんだけど、……ど、どちら様です?」

メルロー「ああ、ごめんごめん。カベルネたちには、もうあったんだよね? 」

武藤「ああ、ってことは……」

メルロー「察してくれたと思うけれど、僕もワイン用ぶどう品種だよ。名前はメルロー。よろしくね」

武藤「メルロー……。もしかして、またワインが届く、とかじゃないよな。もうセラーはいっぱいだぞ……」

メルロー「僕は前からここにいたよ。カベルネたちもね」

カベルネ「メル、いるのか」

メルロー「あ、カベルネ。そろそろ開店時間だから、看板、出してきてもらえるかな」

カベルネ「わかった」

武藤「え、そんな、俺がやりますって!」

メルロー「こういう細かいことは、任せてくれればいいんだよ、ね?」

武藤「は、はぁ……それじゃあ……」

シェフ「うーい、おはようさん」

武藤「(焦燥)あ、あ、シェフ!」

メル「おはよー。今日も飲んでから来たの? お酒くさいよ?」

シェフ「一杯だけだよ一杯だけ」

メル「ウイスキーのロックじゃ、一杯だけって言い訳にはならないよ」

シェフ「あり? なんでわかったの?」

武藤「え! ってか、シェフも彼らのこと知ってたんだ!?」

シェフ「おうよ。ずっとここにいるもんな」

メルロー「長い付き合いだもんね」

武藤「なんで先に言ってくれないんですか! 俺に少しぐらい説明があってもいいじゃないですか! それにバイトは1人だけだって!」

シェフ「おう、バイトは1人だけよ。こいつらはバイトじゃないから」

武藤「じゃあなんなんですか!」

シェフ「なんなんだろうねー。おっと、もう時間だ、開店すっぞー」

武藤「あー! 誤魔化して逃げやがった!! なんだよもー!」

***

シャル「開店したのはいいけど、客こねーな」

武藤「花の金曜日、なんですけどね」

シャル「つまんねーの。俺のワイン、3日前に開けたまま放置されてんだろ? 早く飲んで欲しいんだけど」

メル「それはみんな同じだよ。僕のワインも、かなり前に開けてそのまま……。残念だけど、これはお客様に勧めないほうがいいよ」

武藤「えぇえ、勿体ない……」

メル「僕のワインって、結構飲みやすいと思うんだけどな。もっと頑張って売って欲しい……」

武藤「頑張って売ってと言われても……」

シャル「多分、シェフはそういうのを期待してあんたを入れたんだと思うぞ。シェフもバイトも、結構ズボラだからな。在庫管理を任されるってのは、つまりそういうことだ」

武藤「売れ残りを出さないように売り捌け、と……」

シャル「そゆこと」

武藤「俺、セールスあんまり得意じゃないんですが……」

シャル「そこはほら、俺たちがフォローするからさ」

メル「そうそう。僕のこのワインは、お手頃価格で飲めるから、そんなに予算はないけど、しっかりしたワインを飲みたい人におすすめしたらどうかな」

武藤「お手頃価格って言ったら、スペイン系の方が断然安いっすよ」

メル「まあね。でも、僕の作るボルドーワインの方が骨格がしっかりしているし、2軒目で飲みに来られたお客様なんかは、おすすめしやすいと思うよ」

武藤「……俺、まだ客に合わせてワインをどう選んでいいのか、あんまりわかってないんですよ。だいたいの重い、軽いとかはわかるんだけど」

カベルネ「突き詰めて言うと、重い軽いだけではワインは分類しきれない。重いワインと言っても、人によって意味合いが全く違うことがある」

武藤「ああ確かに、渋いやつを単純に《重い》って表現しがちかも」

カベルネ「ワインには渋み、酸味、苦味、力強さ、熟成加減……様々な要素がある。それを一口に《重い》《軽い》と言ってしまうと、間違った印象を与えてしまうことになる。だが、曖昧な知識や先入観はなかなか覆りにくいものだ。スパークリングを総じてシャンパンと言ってしまいがちなようにな」

武藤「俺も最初、なんでもかんでもシャンパン、シャンパンって言ってました……」

シャル「シャンパーニュ品種の俺としては、そこはしっかり区別して欲しいところなんだけれど、飲んでるうちはそんな堅っ苦しいこと、気にしなくていいと思うぜぇ? ワインにしろ他の酒にしろ、美味しく楽しく飲んでこそ、だからな」

メル「その通り。でも売る側は、ちゃんとした知識を持っていないとね」

武藤「勉強します……」

シャル「そのためにも、もっといろんなワイン、味わっておいた方がいいぜ?」

武藤「そうしたいのはやまやまだけど、ワイン買おうと思っても高いじゃないですか。ボトル買いしても一人じゃ飲みきれないし」

シャル「ここにたくさん並んでんじゃん」

武藤「店のものを飲むなんて出来ませんよ」

シャル「グラスにちょこっとくらいならいいだろ。勉強のためだっつってな。誰も飲まずに放置されてんのも、勿体ねーじゃん。それと、劣化してるかっていう状態確認にもなるわけだし」

武藤「それもそうですけど……」

メル「ワインの品質を確認するっていうのは、大事な行為だと思うよ。酸化して美味しくないワインをお客様に出す方が、よくないしね。まあ、味見と称してボトル一本開けちゃうのは流石にまずいけれど。シェフみたいに」

武藤「それやったのかあの人」

メル「前に何度か」

武藤「はああ~」

シャル「ワインってのは生きているんだ。 湿度や温度によって具合いが悪くなったりするし、コルクを通して呼吸もしている。飲み頃ってのもあって、それを過ぎてしまうと、人間と同じように老いて枯れていく。中にはそれがいいっていう、マニアックなヤツもいるみたいだけどな」

メル「逆に若い頃がいいっていう人もいるね」

武藤「なんかその表現やだな……」

カベルネ「若いもの、といえば、ここにおいてあるものだと、ボジョレー・ヌーボーやディア・ノイエがそうだな」

メルロー「いわゆる新酒って呼ばれるやつだね」

シャル「この間5年前のみっけたんだけど、どーすんの、あれ」

武藤「さ、さあ……」

カベルネ「ああいう若いうちに飲むワインは、1年過ぎたあたりでもう品質が崩れ始める。例外もなくはないが、やはりその年のうちに飲んでしまう方がいいだろう」

武藤「むしろ、その5年前のやつ、飲んでみたい気もする」

シャル「こっそり開けちまえば?」

武藤「いやいやいや、ダメでしょ、それは」

シェフ「開けるか!!」

武藤「うわあなんだよシェフ唐突に!!」

シェフ「開けよう! どうせ売れないんだ、もってこい!」

シャル「いえー! 開けよう開けよう!」

武藤「い、いいのか、そんなノリで……」

***

[SE:階段を降りていく]

[SE:電気をつける]

[SE:段ボールゴソゴソ]

武藤「確かこの辺だったような……」

ミュラー「僕はここです……」

武藤「うわ! いきなり物陰から顔を出さんでくれ! ホラー映画かよ!」

ミュラー「驚かせてすみません。なかなかセラーから出してくれないので、ちょっと拗ねてたんです」

武藤「あんたもワイン用品種、なんですよね」

ミュラー「僕はミュラー・トゥルガウ。あなたが今探しているディア・ノイエを作った品種です」

武藤「そ、そっか。……ずっと、ここにいたんすか?」

ミュラー「5年は流石に長かったよ……」

武藤「そ、そうだよな。その、ごめん……って、なんで俺が謝ってんだ……」

ミュラー「しかし、おかげでたっくさん本を読むことができました! 実はこっそり抜け出して、倉庫に仕舞ってあった本を持ってきて読んでいたんです。僕の知らない知識をいっぱい吸収できて、有意義に過ごせました! ふふふふふ」

武藤「そ、そうなの? よかった……ですね」 

ミュラー「さて、早く皆さんのところへ行きましょう!」

***

[SE:階段を登る]

[SE:ドアの軋み]

シャル「おおー、ミュラー! ようやくディア・ノイエを開ける時がきたな!」

メルロー「久しぶり、ミュラーくん」

ミュラー「お久しぶりです、皆さん。でも、このタイミングでこのワインを開けるなんて、物好きですね?」

シェフ「思い立ったが吉日、が俺のモットーなの。さ、開けちゃってちょ」

武藤「ほ、本当にいいんすか。店長に怒られませんかね」

シェフ「大丈夫大丈夫。どーせ、また閉店ギリギリにちょこっと顔出すだけだろ? 1本や2本、無くなっていたって、気づかねーって」

武藤「おいおいおい、その考え方は良くないと思うのですが!?」

シャル「品質確認! ってなわけで、ポーンと開けちゃって♡」

武藤「言い訳乱用だろこれ!」

[SE:ワインの開栓]

[SE:グラスに注ぐ]

武藤「(飲む)……まだ行けますね」

シェフ「いやもうジュースだろ、これ」

武藤「ジュースっすか……アルコール入ってますが……」

カベルネ「甘さと酸味が際立っている。飲めないことはないが……」

シェフ「ワインとしてはダメだな。イカれてやがる」

ミュラー「うっうっ(泣)本来の僕は、こんな味じゃないんですよ……?」

武藤「本来のものと、飲み比べしたい所だけど……」

シェフ「よし、開けよう!!」

武藤「いや、いい加減にしてくださいよ開けませんよ俺は!」

ミュラー「では次の機会に是非」

カベルネ「しかし、客もなしに我々だけでワインを飲むというのも、店としてどうなのだろうか」

シャル「俺、呼び込みして来ようか?」

武藤「ここ一帯、勧誘禁止区域ですからやめてくださいね」

シャル「ちぇちぇー。俺がちょっと声かけるだけで、美女の10人や20人、軽く引っかかるってのに」

武藤「イケメンだけにその言い方なんかムカつく……!」

[SE:ドアの鈴]

武藤「あ、いらっしゃいませ!」

シェフ「いらっしゃい~」

メルロー「行った端からご来店だね」

ミュラー「さてと。それじゃあ僕は、元いた場所へ帰るとしますか。……その前に」

武藤「え?」

(キスされる)

ミュラー「今度いつ会えるかわからないので。特別に、少しだけ味見……です」

武藤「ふ、不意打ちで……!」

ミュラー「ふふ。では、また近いうちに!」

武藤「言うだけ言って、セラーに消えちまった……! なんなんだよ本当に……!」

武藤「くそ……あっま……」

シャル「おーい、武藤くんー? 何してんだいそこで?」

武藤「な、なんでもないっす!」

***

武藤「つ、続く!」

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