ヴィティスターズ!【ワイン擬人化♂】

独身貴族

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貴腐ワインができるまで

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ドイツ人B「ごくごく……ぷは~! やっぱビールはうめえな~!」


ドイツ人A「この地は穀物がよく取れるからな、ビールの方が主流なのは頷ける。ワインを嗜むのは一部の上流階級の人間くらいだな」


ドイツ人A「でも……よいしょっ……はあ……」


ちびリースリング「……どしたんすか」


ドイツ人A「あー、リースリング。乱暴に置いてごめんな。枝とか折れてないか?」


ちびリースリング「っす。大丈夫っす。で、ここ、何処っすか」


ドイツ人A「ああ……。今日からお前が暮らす土地だよ。……他国からワインを仕入れるのは金も時間もかかるから、うちの領地でもワインを作ってみろ……ってさ。だが、豊かな土地は全て穀物に取られ、お前があてがわれたのは、石ころだらけの貧弱な場所だ。すまんな」


ちびリースリング「……構わないっす。大丈夫っす。俺、こういうとこでも平気なんで」


ドイツ人A「そうか? 流石、お前はたくましいな」


***


リースリング「事実、俺たちワインに使われる葡萄は、肥えた土地よりも、貧弱で他の作物が育ちにくい場所で、その実力を発揮するタイプが多い。ある意味、俺は自分に合った場所をあてがわれたわけだ」


***


ドイツ人A「はあ、お前はやっぱりすごいな。最初はどうなるかと心配したけれど、順調に成長して、立派になって……ようやく、お前のワインができたぞ。少し収穫が遅れたが、どれ、出来栄えはどうか、味見してみるかな……!」


ドイツ人A「……あれっ、あ、あまい……。っかしいな、よそのワインはもっと甘みが少ないキリッとした感じで……作り方間違えたかな……」


リースリング「ワインを作る過程で、葡萄に含まれる糖分を酵母菌によってアルコールに変える『発酵』を行うんすが、途中、気温の低下で発酵が止まってしまい、アルコールに変換されないまま、糖分が残ってしまったんです。この頃、そのメカニズムがまだわかっていなかったんすが、甘いものが乏しいため貴重とされる風潮の中で、甘口ワインは重宝されたんすよ」


ドイツ人A「よくわかんないけれど、甘いワインも美味しいな! これ、行けるぞぉ!」


リースリング「そうして、今で言うドイツでの、甘口ワイン作りが栄えたんでした」



リースリング「ちなみに、ドイツワインで見かける「カビネット」と言う言葉、修道士ができの良いワインを小部屋(カビネット)に隠していたことから名づけられたんすよ」


***


ドイツ人A「はあ……。今年も寒くなってきたな……。ううっ(身震い)。……しかし、収穫許可はまだ来ないのか。あれが来ないと、ワイン作りができないってのに。このままだと冬が来ちまうよ」


リースリング「18世紀、ドイツ。いや、当時はまだドイツという国はなく、ヨハネスベルクと言った方が正しいっすね。そこでは葡萄の収穫は許可が下りてからするように決められていて、この年は何故か、その伝令の到着が遅れていた」


シネレア「ふっふっふ……」


リースリング「………刻々と気温は下がり、収穫の時は過ぎようとしていた。そうすると、何が起こるかっつうと……」


シネレア「ふっふっふ……にょき!」


リースリング「(呆れ)………来ましたね、シネレア」


シネレア「なになに、こんな寒いとこで、ひとりぼっちで、何してんのー? もう、他所は収穫してるってのに、リースちゃんとこはサボタージュ?」


リースリング「その収穫許可の知らせが来ないんすよ。それがねえと、ワイン作れねえっす」


シネレア「うわあ、真面目だねー。そんな規律守ってたら大事な時期、逃しちゃうよん?」


リースリング「もう手遅れかもしれないっすね。っつか、どっか行けよ。いつまでここにいるんすか」


シネレア「連れないねえ。一人で待ってるんじゃ寂しいだろーから、こうやって一緒に待ってあげてるんじゃん。俺っちやっさしー」


リースリング「いや、絶対違うこと考えてんだろ。何触ろうとしてんすか。手どけろし」


シネレア「じっと待ってても退屈だろぉ? あったまること、やろうぜ? な?」


リースリング「あんたがくっついてると、俺マジで使い物にならなくなるんで、ホント、離れてくださいよ……!」


シネレア「あらあらぁ~。本当は俺のこと、待ってたくせにぃ。放置されて、焦らされて、もうそろそろ我慢できなくなってるよね……?」


リースリング「あの、変な言い方やめてくれねえっすか? 気色悪い」


シネレア「そうやってツンツンしてるのもたまんねぇ~っ。ほらほら、リースちゃん♪」


リースリング「ちょ、バカ、触んなっ! ……くそ、許可さえ下りれば、こんな奴にヤられなくて済むのに……!」


***


ドイツ人A「(走ってくる)リースリング! やっと許可が下りたぞ! ……って、ああ……こりゃダメかな……もうカビ生えて腐っちまってる……。ごめんな。ってか、今からワイン作れって、どーすりゃ良いんだよ。こうなったのも全部知らせが遅いのが悪いんだ。ああもうヤケクソだ。このまま作ってやる!」


リースリング「……農家は腐り萎んだ葡萄でワイン作りを始めた。そして………」


ドイツ人A「できたぞ。あんまり期待はしていないけれど……(飲む)……! っこれ、めちゃくちゃ甘い……! なんだこれは……!!!」


***


リースリング「もうダメだと思った腐った葡萄から、極上に甘いワインが出来上がった。これが、のちの貴腐ワイン、ってわけっすよ」


フルミント「おやおや、私はもっと前から貴腐ワインとして活躍していたんですけれどね」


リースリング「フルミント……」


フルミント「16世紀、オスマントルコの侵攻により、ハンガリーでの葡萄の収穫が遅れて、トカイワインが誕生した……とも伝えられていますが、1600年の頭には、既に貴腐ワインは作られていたとの文献があります。私の方が歴史が古いですね」


リースリング「べ、別に発祥のルーツは俺だって言ってるわけじゃねえんすけど……」


セミヨン「僕なんか、貴腐ワインって言えばソーテルヌ、みたいなイメージあるみたいなんだけど、自覚したのは1930年くらいで、最近なんだよね。……まあ、それ以前から作ってた、って噂もあるみたいだけど……こ、肯定も否定もしないけどね!」


フルミント「貴腐ワインって言えばトカイワイン、とも聞きますけれどね」


セミヨン「別にそこ競ってるわけじゃないよ……!」


リースリング「正直、俺はどうでも良いんすけど。極甘口って言えば聞こえはいいっすけど、実際シネレアにヤられたやつで作るんで……」


セミヨン「ちょ、ちょっと公言しずらい、よね」


フルミント「でも、それが素晴らしいと称賛されているのです。もっと誇りにするべきでは」


セミヨン「で、でも……やっぱり恥ずかしいよ……!!」


リースリング「(小声で)実際に腐った葡萄から作ると言う事実から、近年まで正確な記録を残していなかった、と言う見解もあるそうっすよ。……ま、これはここだけの秘密ってことで」


end





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