ヴィティスターズ!【ワイン擬人化♂】

独身貴族

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ローヌの休日

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《ーーシャトーヌフ・デ・パプに使用できるブドウ品種は、グルナッシュ、シラー、ムールヴェードル、サンソー、クレレット、ヴァカレーズ、ブールブーラン、ルーサンヌ、クノワーズ、ミュスカルダン、ピクプール、ピカルダン、テレ・ノワールの13種である。》






ルー「……ごめんよ、マル」
マル「(笑って)だから、全然気にしてないってば」
ルー「まさか、マルが呼ばれていないなんて、知らなかったんだ」


ルーN「俺は昨晩、南仏の奴らに呼ばれて、集まりに参加した。しかし、そこには、マルサンヌの姿がなかった。……ヌフ・デ・パプのメンバーに、マルサンヌは入っていない。みんなでワインを開けたり騒いだり、楽しい夜だった。それがかえって、マルサンヌに対して、僕を申し訳ない気持ちにさせていた」


マル「みんなで集まっているっていうのは、知ってた。……楽しかったなら、よかったじゃない。僕のことは気にしないで。いつまでも僕たち、ずっと一緒、っていうわけにもいかないからね」
ルー「マル……」


ルー「……っていうことがあったんだ。それから、マルとは気まずくて。お互いにわかっていることなんだけれど、やっぱり、僕は呼ばれてマルだけ呼ばれないの、嫌でさ……。ねえ、ヴィオ兄。僕、どうしたらいいかな。このまま、マルと気まずいの、嫌だよ」
ヴィオニエ「なかなか、割り切れないよね、そういうのは。だったら、こういうのはどうかな。マルさんだけが誘われなかったのなら、君がマルさんだけを誘うっていうのは」
ルー「僕が、マルだけを……。うん、それ、いいかも。でも、何をしていいかわからないし、二人だけっていうのも、気まずいままだし……ねえ、ヴィオ兄も一緒にいてよ」
ヴィオニエ「いいのかい?二人の間に、俺が入っても」
ルー「いいよ、むしろ一緒にいてほしい!ヴィオ兄がいてくれたほうが、絶対楽しいし」
ヴィオニエ「そうかい?じゃあ、週末は三人でどこか出かけようか」
ルー「うん!」


シラー「……で、なんで俺が呼び出されてんだ」
ヴィオニエ「いきさつは話したよね?ちょっと遠出をしたいから、シラー、運転は君に頼むよ」
シラー「だーかーらー、そこでなんで俺が送迎をやらなきゃなんねーんだって言ってんだよ!てめえだって車の運転ぐらいできんだろうが!」
ヴィオニエ「俺の運転なんて心許ないし、二人と楽しくお話がしたいからね。任せたよ、シラー」
シラー「かー!話になんねえ。休日にまで俺をこき使うなってんだ。毎度毎度、調子に乗んなよ、ヴィオニエ!!」
ルー「ご、ごめんなさい、僕のわがままで……」
マル「ヴィ、ヴィオ兄……」
ヴィオニエ「こら、シラー。二人が怯えちゃってるじゃないか。(二人に)大丈夫だよ、ルーさん、マルさん。この人はね、見た目は怖いけれど、いつも俺のお願いを聞いてくれる、とーってもいい人だからね。『シラーさん、お願い』って言えば、きっと承諾してくれるよ」
マル「ほ、ほんと?」
ヴィオニエ「ちょっとお行儀が悪いだけ、俺たち、すごく仲良しなんだよ。ね、シラー」
シラー「どの口が言ってんだ」
ルー「お、お願いします、シラーさん」
マル「大人しくしてるので、僕たちを乗せて行ってください」
二人「お願いします」
シラー「~~」
ヴィオニエ「ね、シラー。二人の頼み、聞けるよね……?」
シラー「ああ、もう、わかりましたよ!行きゃあいいんだろ、行きゃあ!!ほらよ、乗りやがれちくしょうめ!!!」
ヴィオニエ「よかったね、二人とも。それじゃあ、出発しようか」


♪車の走行音


シラーN「毎度のように騒がしい1日になると思いきや、ヴィオニエの連れてきたちび二人は大人しくしていたし、ヴィオニエもいつもの無茶振りを言う以外は、二人の話に相槌を打っているだけだった。こいつにも配慮ってやつができることを知り、それを俺に対しても使ってほしいもんだとため息が出た。だが、まあ、俺は車を走らせること自体は嫌いじゃない。なんだかんだで、このドライブは悪いもんじゃなかった」


シラー「ほい、着いたぜ」
マル「……地中海が、見える。街並みも、綺麗」
ルー「マル、海見たがってたから、海の見える場所にした。僕たち、あまり遠くへ行ったことがなかったから、ね」
マル「うん。ありがとう、ルー。……あ」
二人「ありがとう、シラーさん。連れてきてくれて」
シラー「おおう?ああ」
ヴィオニエ「この直ぐ近くに、俺の行きつけのところがあるんだ。少し街を散策してから、そこで食事にしよう。悪いけど、シラー。君は運転をしなければいけないから、お酒は飲めないけれど」
シラー「わかってんよ。ってか最初からそのつもりだったんだろ。お前らで行ってこい。俺はここに残る」
ヴィオニエ「ありがとうね、シラー。今度たっぷりお礼をしてあげるから」
シラー「いらねえよ。お前の礼なんて、ゾッとするぜ」
ヴィオニエ「ふふ」


マル「(歩きながら)よかったの、ヴィオ兄。シラーさん、置いてきちゃって」
ルー「やっぱり、誘った方が」
ヴィオニエ「いいんだよ。あいつなりにも気遣いがあったんだろうし、それにここ、プロヴァンスは彼にとって馴染みのある土地、だからね。一人で行きたい場所もあるんじゃないかな」


……


マル「……ルーはここ、来たことあるんだよね」
ルー「……うん」
マル「海、綺麗だね。やっぱり、プロヴァンスって、フランス屈指の観光地だけあって、賑やかだね」
ルー「うん」
マル「僕たち、なかなか外へ出られないけれど、こうやってたまにはどこかへ出かけるのも、悪くはないね」
ルー「もっと、マルといろんなところ、行きたい」
マル「うん。僕ら二人だけじゃ心細いけど、今日みたいにヴィオ兄やシラーさんがいてくれるなら、もう少し遠くへ行ってみてもいいかもね」
ルー「後でまた、シラーさんにお願いしてみよう。今度は一緒に、ご飯も食べたい」
マル「そうだね」


♪ざわざわ


マル「わ……この通りは人が多いね」
ルー「何かあるのかな。人だかりもできてる」
マル「演奏をしているみたいだよ。僕らも行ってみる?」
ルー「そうだね。いい?ヴィオ兄」
ヴィオニエ「うん、いいよ」


ヴィオニエ「(誰かとぶつかる)あ……。エクスキューズモア」
??「……」
ヴィオニエ「あ、しまった、違う。油断した……!」
マル「どうしたの、ヴィオ兄」
ヴィオニエ「さっきぶつかったの、スリだ。財布をやられた。……くそ」
ルー「え、どうしよう」
ヴィオニエ「2人はここにいて。直ぐ戻ってくるから。大丈夫、ここで待ってて」
ルー「あ、ヴィオ兄……!」
マル「ルー、ここにいよう。ヴィオ兄もそう言ってたんだし、僕たちは下手に動かない方がいいよ。きっと直ぐ、戻ってくるから」
ルー「でも……」
???「(後ろから)お二人さん、観光かい?」
2人「ひゃっ!!」
???「驚かせてごめんね。ちょっと時間あるかな?お話ししたいことがあるんだけど」
マル「な、なんでしょう」
???「よかったら、そこのカフェで座って話さないかい?コーヒー、奢るからさ」
マル「でも、僕たちは、ここで、待っていないといけないので……」
???「大丈夫、そこのカフェなら、この場所が見えるでしょ?待っている人が来るまででいいからさ、少しお話ししようよ」
ルー「……どうしよう」
マル「……でも、動かない方が」
???「君たちが待っているのって、ヴィオニエって男だろ?僕は彼と知り合いなんだ。彼が戻ってきたら、僕の方からも説明するからさ」
2人「……」


??「はあ……はあ……」
ヴィオニエ「みーつけた」
??「……!」
ヴィオニエ「僕の財布を盗っちゃうなんて、悪い子だね。手グセの悪い子猫には、お仕置きしないといけないな」
??「……」
ヴィオニエ「……いくら腕が良くても、そんなに震えてちゃ、いつか捕まっちゃうよ。こんな風にね(手を掴む)」
??「……!ご、ごめんなさい、許して、許して……」
ヴィオニエ「……君、もしかして、」


ヴィオニエ「(何かに気づいて)ああ、とんでもない悪い子だね」


(2人は、2人の人物に、挟まれるようにしてテラス席に座っている)


マル「は、話ってなんでしょう」
???「ふふ、そんなにビクビクしないでいいよ。さっきも言ったでしょ?君たちの待っている男と、僕は友人なんだ。もっと気を楽にしてくれていいから」
ルー「本当に?」
???「本当さ。それで、友人のよしみで頼みたいことがあるんだけれど、この鞄をね、10分後にここへ来るハンチング帽の男に渡してもらいたいんだ。何も言わなくていい。そいつもこの鞄を受け取ることを承知している」
ルー「鞄を、渡すだけ?」
???「そうさ、簡単だろ?引き受けてくれるかい?」
マル「……その鞄の中身、なんなんですか」
???「中身はね、……(表情を変え)そういうこと、聞かなくていいから」
ルー「!」
マル「あ……」
???「(テーブルの下で、銃を突きつけて)何も言わず、何も聞かず、ただ、お願いを聞いてくれればいいだけだよ。それくらい、君たちにも、できるよね?」
ルー「……」
マル「……できません」
???「あ?」
ルー「マル……」
マル「僕たち、そんな怖いこと、できません。……できない!」
???「騒ぐなよ。静かに行こうぜ?いいかい?僕たちの他にも、遠くからこの席を見張っている奴がいる。君たちがもし、下手なこと考えでもしたら、そこからパシュっ!天国行きだ」
ルー「僕たちは……」
???「もう余計なお喋べりはなしだ。ルーサンヌにマルサンヌ。僕のお願い、聞いてくれると信じているよ」
ヴィオニエ「いくらお願いされても、聞けないことだってあるよね」
???「!!」
ヴィオニエ「例えば、君が今この場で、俺にキスしてってお願いされても、できないでしょ?頼み事っていうのは、気の知れた間柄でするものだからね」
???「……あいつ、しくじったか」
ヴィオニエ「可愛いピュピュちゃんは、今ごろ警察とデートしているよ。勿体無いね。普通に出会ってたら口説いてたのに」
ルー「ヴィオ兄……!」
???「おっと、動かないでくれよ。その足に風穴あけられたくないだろ?あんたもだ、ヴィオニエさんよ。可愛いお二人に傷をつけて欲しくなかったら、大人しくしてな。僕たちが立ち去るまで、動くんじゃないぞ。遠くから別の仲間があんたを狙っているからな」
ヴィオニエ「へえ。どこからだい?視線を感じないから気づかなかったよ(おおげさにキョロキョロ見回す)」
???「!動くんじゃねえって言って……」
シラー「いいから、それを仕舞いな、お嬢ちゃん。おもちゃにするには、少々危なっかしいもんだぜ、それはよ」
???「な、なんだお前、(腕掴まれて)きゃっ」
ルー「え、」
マル「女の子?」
ヴィオニエ「君もだよ。(もう1人から銃を奪う)」
????「……」
ヴィオニエ「もう1人、仲間がいるっているのは嘘だろ?残念だったね。この後は警察が、俺らの代わりに話し相手になってくれるよ」


ヴィオニエ「2人とも。無事だったのは良かったけど、あの場所から動かないでって言ったよね、俺」
2人「ごめんなさい……」
マル「ヴィオ兄の名前を出したから、もしかしたら、本当に知り合いなのかも知れないって、思っちゃったんだ」
ヴィオニエ「そうやって油断させる手口、あるんだよね。ルーさんマルさんの名前も知っているようだったし、調べた上で俺たちに近づいたわけだ。しかも、三人ともまだ子供だった。まあ、ヴィティスの俺たちの情報なんて、ちょっと調べれば直ぐ出てくるだろうけれど、こういうことがあっては油断できないよね」
シラー「ったくよお、知ってる名前出されたからってホイホイついて行くとか、軽率にも程があんだろ。バカなのか、てめえらは」
2人「ご、ごめんなさい……」
ヴィオニエ「シラーは気の許した相手にしかバカって言わないんだよ」
シラー「変な注訳つけんなこのやろう」
マル「あ、あの、シラーさん」
シラー「ああ?」
ルー「やっぱり、その、一緒に、ご飯食べませんか?」
マル「みんなで、食べましょう。僕たち、もっとシラーさんと、仲良くなりたいです」
ヴィオニエ「……だってさ。良かったね、シラー。2人に気に入られたみたいだよ」
シラー「~~。わーったよ。んじゃ、食いに行こうぜ、飯。実を言うとさっきから腹減ってたんだよ。勿論、ヴィオニエ、てめえの奢りってことでいいんだよな?」
ヴィオニエ「う……。ふふ、そうだね、じゃあまた君にはお願いを聞いてもらわないと、ね」


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