ヴィティスターズ!【ワイン擬人化♂】

独身貴族

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ピノ&シャル ピノ誘拐事件

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シャルドネ(シャル)
ピノ・ノワール(ピノ)
ピノ・ムニエ(ムニエ)
カベルネ
男1
男2、3、4(兼ね役可)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


[SE:足音]
[SE:イスを引く音]


シャル「んあ……ピノか?」
ピノ「ああ」
シャル「お前なー、こんな炎天下に俺を放置したままにするなよー。何時間待っていたと思ってるんだ。3時間だぞ? 俺がワインだったらとっくにイカれてたところだ」
ピノ「炎天下に放置しなくとも、お前はもう手遅れかもな。私はたったの30分しか待たせていない」
シャル「30分も3時間も一緒だ! そっちから約束しておいて、待たせんじゃねーよ!」
ピノ「少し気になることがあってな。ボランジェを注文してやるから機嫌を直せ」
シャル「それじゃあ足りないな。生ハムとキッシュ、それからポークリエットもだ」
ピノ「炎天下でへばってる割には食べるじゃないか」
シャル「朝から何も腹に入れてないんだ。どっかのワインの王が俺をこき使うからな!」
ピノ「シャンパーニュじゃ対価に見合わないほど働いたというのか? だったらいい報告が期待できそうだ」
シャル「そうだな。ご期待通りだと思うぜ。まずは、お前が1番気にしていた新事業の話だが、あれは真っ黒だ。やめておいた方がいい。手を出さない方が身のためだ」
ピノ「ふん。やっぱりか」
シャル「それから、日本への出張の件だが、こいつもあまりお勧めしない。向こうの気候はお前に合わない。おまけに日本の品種は、まだ若いし賑やかな連中だ。そのノリにお前がついていけるかどうか……」
ピノ「全くだ。騒がしいのはお前1人で十分だ。……チリの件は」
シャル「ああ、そっちは問題なさそうだ。醸造家も気さくで人が良さそうだったし、お前の我儘放題にも多少は目を瞑ってくれるだろう」
ピノ「お前は本当に一言多いな」
シャル「さて、最後の件だが……黒い車体に狐のマークのワゴン車。コツがちょっと厄介でな。カルメネールの話じゃ、この街の連中ではないみたいだ。何の目的でお前を見張っているかはわからねえが、武器を所持しているらしい。しばらくは1人で出歩かない方がいいぜ」
ピノ「……そうか。お前の午後からの予定は?」
シャル「例のワインの広告の撮影がある」
ピノ「キャンセルして私についてこい」
シャル「はあ? おいおいピノ様。そりゃいくら何でもないぜ。あんたが家でおとなしくしていればいいだけの話だろ。それに、ムニエもいるんだ。俺ばっかり、お前の都合に巻き込むな」
ピノ「私に何かあれば、お前の予定も狂うだろうに」
シャル「何もなくても、俺はお前に狂わされっぱなしだよ! 言っとくが、キャンセルはしないからな。遊びに行くわけじゃないんだ。仕事の予定だぞ、仕事! それに今日、俺は車を家に置いて来た。どこかに送ろうにも送ってやれねえよ。俺がいつでもあんたにベッタリだと思ったら、大間違いだからな!」
ピノ「……ふん。ならムニエに頼む」
シャル「ああ、そうしてくれ。ムニエこそ、シャンパーニュ以外で仕事してないんだ、俺に頼むよりかは、すんなりお供してくれるだろうぜ」
ピノ「ただ……ムニエの運転は……」
シャル「……ああ、確かに時々荒っぽいが、ゆっくり運転させれば大丈夫だって。もし不安なら、何か気分の落ち着く話……そうだな、音楽談義でもしてればいいさ」
ピノ「はあ」


(間)


[SE:電話の音]


ピノ「ああ、ムニエか。なんだって? はあ、また道に迷っているのか」
シャル「なんだよムニエ、相変わらず方向音痴なのか? お前といいムニエといい、おたくらピノ一家は、方向音痴の呪いにでもかかっているのか?」


[SE:電話を切る]


ピノ「近くの駐車場に車を止めたらしい。場所がわからないからこっちへ来てくれ、と」
シャル「ああ、この先にあるコインパーキングね」
ピノ「私は会計を済ませて行くから、先にムニエと合流してくれ」
シャル「はいはい」


[SE:足音]


ムニエ「やあ、シャル君。私の輝くアドニス。ご機嫌いかが?」
シャル「ムニエ。あいにく、あんたの弟のせいで、すこぶる悪いね!」
ムニエ「それは申し訳ない! しかし許してくれ。最近、品のない奴らに付き纏われているようでね。気の休まる時がないんだ。きっと、君と話している時が1番、気持ちを楽にできるのだと思うよ」
シャル「俺はいいサンドバックってことか。ま、カフェ代は払ってもらったから、チャラにしとくか」


(間)


シャル「ピノ、来ないな」
ムニエ「迎えに行くかい?」
シャル「いや、行き違っちゃ良くない。もう少し待とう」
ムニエ「大丈夫だよ。例え10メートル先でも、私はノアを見つけられるんだ、すれ違って気づかないことはない」
シャル「ピノ・ノワール発見機かよ。……ま、そんな人通りが多いわけでもないしな」


[SE:足音]


シャル「っかしいな。カフェにもいないぜ」
ムニエ「お手洗いに行ったんじゃないかな?」
シャル「ま、その可能性もあるけど……」


[SE:車の走行音]


シャル「っ! 今信号待ちしている黒いワゴン…… 車体に狐のマーク……! ……まずい。ムニエ、まずいぞ!」
ムニエ「(気づいて)例の車かい……?」
シャル「そうだ。後部座席にピノが乗っていた! どうやらあいつが1人になるのを狙っていたようだな。ムニエ! あの車を追うんだ!」
ムニエ「ああ!」


[SE:走る足音×2]
[SE:車のドアを閉める]
[SE:エンジンかける]


シャル「ムニエ! あの黒いワゴンだ! 見失う前に、なんとか追いつくんだ!」
ムニエ「ああ。わかったよ、あの車だね。いいとも、私の愛するノアとシャル君のためなら、速度制限など構っていられない。たとえ事故を起こそうとも、地の果てまであの車を追いかけてみせるよ!」[SE:アクセルを踏む]


シャル「いや、出来るだけ安全運転で頼む……ちょ、待て、スピード出し過ぎ……うわあああおわあああああああああ」


(間)


シャル「はあ、はあ、はあ。なんとか連中のアジトは見つけられたな。(息をついて)はー、死ぬかと思った……」
ムニエ「早くノアを助け出さないと……!」
シャル「待て、ムニエ。少し落ち着いて。カベルネに連絡するんだ。ピノ・ノワールが誘拐されたってね。奴らが武器を所持していることも伝えるんだ」
ムニエ「(動揺しつつ)わかった」
シャル「そして、あんたはここで待っててくれ。すぐにカベルネも来るだろうから、そしたら状況説明をよろしく。俺は近くへ行って、様子を見てくる」
ムニエ「1人で乗り込む気かい? ノアどころか君にまで何かあっては、私は……」
シャル「大丈夫だ。俺が今までヘマしたことがあったか? 奴らの目的はわからないが、そうすぐにピノ・ノワールをどうこうすることもないだろうさ。ヤバくなったら合図を送る。だからそれまでは……その手に持っているマシンガンを撃ち込むのは勘弁してくれ」
ムニエ「……わかった」
シャル「(車を降りながら独り言)ほんと、大したブラコンぶりだな。この車のどこにそんな武器積んであったんだよ……」


[SE:忍び足音]
[SE:ドアを静かに開ける]


シャル「チッ。出入り口はここだけか。しかも中に見張りがいやがる……。だが、あの装備、どうも素人っぽいぞ。よーし」


[SE:ドアを普通に開ける]


男2「ん……?」
男1「おい、なんだお前」
シャル「アロー。どーもお疲れ様でーす。俺はシャルドネだ。名前くらいは知ってるだろ? ピノ・ノワールがここで世話になっているらしいから、迎えに来た」
男2「シャルドネだと……?」
男1「ここにはいない。さっさと出ていけ」
シャル「嘘だね。俺はお前らがピノと、仲良く車に乗るところを見ていたんだ。……中にいるんだろ? 会わせてくれよ」
男1「はっ。お友達を助けに来たってわけか。どういうつもりか知らんが、正面から堂々と来るとはな」
シャル「入口がここしかないんだ。他にどこから入れって言うんだ?」
男1「ふざけた奴だ」


[SE:銃を向ける]


男1「両手を上げろ」
シャル「(おどけて)おいおい、あんたの故郷じゃ、客人をこんな風に扱うのか?」
男1「武器を持っているだろ。そういう奴は客人とは呼ばない。……リボルバーを地面に置いて、壁の方を向け」


[SE:銃を置く]


男1「よし。手を挙げて、そのまま立っていろ。(別の男に)おい、他に何か武器を持っていないか調べろ」
男2「……わかった」


[SE:背中に銃を当てる音]
[SE:服を探る音]


シャル「やだぁ、なんか後ろに硬いモノが当たってるぅ……マグナム? それともジェロボワムぅ?」
男1「……ケツの穴増やされたくなかったら、黙って立ってろ」
シャル「冗談。俺は黙るのが苦手なもんでね。なんならもっと賑やかにしてやろうか?」


[SE:打撃]


男2「うお……! ぐああ……!」


[SE:膝をつく]


男1「テメェ、大人しくしやがれ……!」


[SE:銃を蹴り上げられる]


男1「ぐあっ……!」
シャル「気安く俺のリボルバーに触ろうとするな」


[SE:銃を拾う]


シャル「さあ、形勢逆転だ。主役に花を持たせてくれよ? ……それで、囚われの姫はどこにいる?」
男1「ふん」
シャル「さっさと案内しろ。じゃなきゃ、もっと騒がしくなるぜ。お友達を外で待たせてあるんだ。……言っている意味がわかるな?」
男1「ハッタリだ。仲間を連れて来ていながら、1人でのりこんで来るはずがない」
シャル「そうかな? もし俺が本当に1人で来たんなら、こんな余裕はかましてられないだろうよ。……さあ、お前たち。白状しな。ピノは今、何処にいる? 傷一つつけていないだろうな?」


[SE:物音]


男2「……そ、そんなにあいつを返して欲しけりゃ、連れて帰るがいいさ! 誰だよあいつを誘拐しようなんて言った奴は! ちっとも言うことを聞かないじゃないか! それどころか好き放題言ってやがる!」
男1「おい……!」
シャル「あぁん?」
男2「あんた、シャルドネだって言ったな!? 確かに俺たちは、ピノ・ノワールをここへ連れてきた。だが、あいつには何もしちゃいない。本当さ。だからさっさと奴を連れて帰ってくれ!」
シャル「……どういうことだよ?」
男2「(唾を吐き)奴はそこの部屋にいる。入ればわかるさ」


[SE:足音]
[SE:ドアの軋む音](既に開いている)


ピノ「だからさっきから言っているだろう。あんな荒廃したお粗末な土地で、何を作れと言うんだ? 私を誰だと思っている? 勘違いしているのならば、教えてやろう。このピノ・ノワールを独占し、高額ワインに匹敵するものを作れというのなら、それ相応の待遇というものが必要だ。それを、拉致監禁して無理やり作らせようなどとは、考えが安い!」
男3「は、はあ……」(疲弊しきっている)
ピノ「まずは私に見合った部屋と料理を用意しろ。話はそれからだ」
シャル「おいおい、椅子にふんぞり返って……何やってんだ、あの王様は……。まあ、無事だったのならそれでいいか」


[SE:足音]


ピノ「なんだ、シャルか。思っていたより早かったな」
シャル「(呆れ)お前さあ」


[SE:ドアが閉められる]


男1「はは、自ら袋の鼠になるとは馬鹿な奴だ。シャルドネ、お前も高級ワインを作れる品種だったな。おとなしく言うことを聞けば、悪いようにはしない。金になるワインさえ作ればそれでいいんだ」


ピノ「(息を吸う)黙れ」(エコー)
男1「ッ……!?」
男2「な、なんだ、この香りは……!」
ピノ「(息を吸う)跪け」(エコー)
男3「うう……頭が……目眩がする……」


[SE:3人、膝をつく]


ピノ「この私に向かって、よくそんな態度でいられるな。しばらくそうやって、地面に手をついていろ」
男1「な……なんなんだ、これは……!?」
ピノ「煩い。口も塞がれたいのか?……あまり私にこの力を使わせるな」


シャル「なあおい。最初からそうすりゃよかったじゃねえか。俺が助けに来た意味よ」
ピノ「馬鹿。証拠を押さえるために、わざと捕まってやったんじゃないか」
シャル「俺が気づかなかったらどうしてた」
ピノ「私が誘拐されたことに気づかないほど、お前が愚かだとは思っていない」
シャル「(呆れ)俺をなんだと思って……」


カベルネ「警察だ! 大人しく手を挙げ……って、どういう状況だ? これは」
ピノ「ああ、いいタイミングで来たな、カベルネ。この愚かな誘拐犯どもは、しばらく動けないようにしておいた。シャンパーニュの偽造酒を作るつもりだったらしい。後の処理はお前に任せる」
カベルネ「あ、ああ……」
シャル「(ため息)そんじゃ、帰るぞ。ピノ」
ピノ「無理だ。歩けない」
シャル「なんでだよ?」
ピノ「この誘拐犯どもは、物分かりが悪く不器用で呆れる。私を連れてくる時に、不注意で足に傷を負わせたんだ。お陰で立つことすらままならない」
シャル「そんなひどい怪我なのか? さっきあいつら、ピノに何もしちゃいないって言ってたくせに……」
ピノ「乱暴は受けていない。だが扱いが雑だ」
シャル「(ため息)だったら、どう扱われるのがお望みで? 歩けないってんなら、抱き上げて差し上げましょうか、お姫さま?」
ピノ「ふん、お前にそんな力があるのか?」
シャル「少なくともお前よりかはあるよ」


[SE:抱き上げる]


シャル「……っと」
ピノ「抱き上げ方が悪い。揺らすな。私はデリケートなんだぞ。持ち方が危なっかしい。落としたら承知しないからな」
シャル「っさいな! いいから黙って抱かれていやがれ!」
ピノ「……」


[SE:足音]


シャル「(沈黙に耐えられず)……な、何か喋れよ!」
ピノ「お前が黙れと言ったんだろうが」


[SE:足音 外]
[SE:走って来る足音]


ムニエ「ノア! シャル君!」


[SE:抱きしめる]


シャル「ちょちょちょ、ムニエさーん? そんな急に抱きつかれたらノア君を落としちゃうだろうが!」
ムニエ「ああ、すまない」
ピノ(ムニエに被せて)「落とすなよ、シャル。それから、ノアと呼ぶな」
シャル「なんでだよ?」
ムニエ「何はともあれ、2人とも無事でよかった……! ノアは足を怪我したのかい? 彼らの仕業かな? 後でたっぷり償わせよう。さ、シャル君、車の中へノアを」
シャル「はいはいっと。……はは、ピノ家の連中は、揃って顔はお綺麗なくせに、やることがえげつないんだよな……」


(間)


[SE:遠くでサイレンの音]


[SE:車の走行音]


シャル「そういやムニエはさ、シャンパーニュ以外で仕事するつもりはないの?」
ムニエ「私には、ノアとシャル君という、輝く美しい二人がいるから、他所で仕事をする気になんてならないよ。ここに私の全てがある」
シャル「はははー。それはどうも。それでさあ……ピノ君? 俺もそろそろ〈ノア〉って呼びたいんだけど」
ピノ「断る」
シャル「なんでだよ、ケチー。ムニエにもラミちゃんにも呼ばせてんじゃねえか」
ピノ「お前からはごめんだ」
シャル「どうして? ノーア♡」
ピノ「やめろ。はぁ……。だったら、私から〈シャルくん♡〉……って呼ばれたらどう思う?」
シャル「グハァ……! シャルドネは大ダメージを受けた……!」
ピノ「何を言ってるんだかこいつは」
シャル「って、おい! もう15時回ってるじゃねえか! 撮影に間に合わねえ! あーあ! マジでキャンセルと謝罪の電話入れなきゃならねえじゃねえか! 誰のせいだ!」
ピノ「うるさい!」


end
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