ヴィティスターズ!

独身貴族

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幻のワイン スペイン編

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○港町

ペドロ:今日もいい天気ですね、ネコさん♪
ネコ:ニャー
ペドロ:お腹空いてるのかにゃー? ごめんね、僕なーんにも美味しいもの持ってないんですー。
あっちのにーさんに上手におねだりしたら、お魚くれますよ♪
パロミノ:俺に振るなよー。
って、ネコもこっちくんな。そんな目で見るな。おーい。
アレク:オラ(よお)、パロミノにペドロ。気持ちのいい天気だなあ。
パロミノ:お、ネコ、こいつならでかい魚たくさんくれるかもよー。
アレク:おーおー、愛らしい猫ちゃんだなあ。でかい魚たくさんは無理だけど、美味い菓子ならあるぜ。

♪懐をゴソゴソやる音

アレク:ほい、お食べ。
パロミノ:おいおーい、ネコがロスコ・デ・ヴィノ(スペインの菓子)なんか食うかよ。
ペドロ:あ、食べたよー。
パロミノ:食べた……。
アレク:美味いか? まだあるぜ。ほらよ。
パロミノ:それ、お前の酒入ってんでしょ? んなもん食わせて大丈夫なの? 酔っ払うんじゃないの。
アレク:ん? 俺に酔ってくれるなんて、大歓迎だぜ。特にクレオパトラのように愛らしいこんな猫ちゃんなら。なー?
ネコ:ニャー
ペドロ:お返事したー!
パロミノ:よせよ、手懐けてエルエスコンディーテ(隠れ家)に連れ込んだりしたら、ただじゃ済まさないからね。
アレク:おお、怖い怖い。残念だ、こんな美人さんなのにねえ。
……ああ、そうだ。今朝の新聞見たか?
パロミノ:いつから海賊は新聞を読むようになったんだ?
アレク:おいおい、世の中のことくらい関心持てよ。小さくだけど、お前の好きそうな記事あったぜ。
パロミノ:(めんどくさそうに)なに?
アレク:この近くの海域に、アン・ボニーとメアリ・リードの隠れ家が見つかったって話。
パロミノ:!
アレク:お、いいねえ、その反応。食いついた、食いついた。
パロミノ:……茶化すな。
ペドロ:アン・ボニー!?
アレク:そーそー。あの伝説の女海賊だよ。
記事によれば、船が一艘付けるくらいの小島があって、人が休めるよう人工的に手がくわえれられていたらしい。
小さすぎて今まで誰も気づかなかったようだけど。
パロミノ:それだけじゃあ、あの女海賊がいたっていう証にはならないって。
アレク:まあ聞け。調査に入った連中の話によれば、略奪されたものと思われる宝石類を見つけたそうだ。
確かに、彼女たちの持ち物だった印はないが、ジョン・カラムを示すようなものがあったらしい。
詳しいことは調査の後、今後発表、ってところだ。
パロミノ:信ぴょう性うすー。
ペドロ:でも、海に囲まれた隠れ家って、なんかワクワクするー! いいなあ、僕そこ行ってみたーい!
アレク:そうそう。せっかくこんないい天気なんだし、行ってみるだけでも面白いと思わねえか?
パロミノ:えー、めんどー。
アレク:なんなら、俺たちの新しい拠点にするっていうのも、いいかもな。
パロミノ:調査隊が来るとこにエルエスコンディーテなんか作ってたまるか。
ペドロ:そんなの、ぶんどっちまえばいいんだよ! いつもの要領で!
ネコ:ニャー
パロミノ:……なーに、お前も行きたいのー?
ネコ:ニャー
パロミノ:……ったく、仕方ないなー。
ペドロ:キャプテンがネコさんと会話してるー!
パロミノ:はあ。今回だけだよ、お前の乗船を許す。……ペドロ、アレク、出航の準備だ。
ペドロ:あいあいさー!
アレク:仰せのままに。

〇帆船の音

アレク:この時代に帆船使ってるのは俺らくらいだな。
パロミノ:いいだろー。かっこいいだろー。
ペドロ:流石に中は近代的な構造をしてるけどね。外側だけキャプテンの完全なる趣味。
パロミノ:あんだよ、不満なの? なら今すぐ降りろ。
ペドロ:ぜんぜーん。僕はこの船好きだよー♪ かっこいーもん。
アレク:ったく、調子のいいやつ。

〇波音

ペドロ:ねーねー、もしかしたら、二人が隠したワインがあるかも?
パロミノ:かもねー。
ペドロ:見つけたらどうする? 開けちゃう?
パロミノ:んな勿体ねーことしないし。
ペドロ:じゃあ、売っちゃう?
パロミノ:んー、どうしようなー。
アレク:だから、まだふたりがいたって決まったわけじゃ……いつの間にか我らが船長もノリノリだし。
ペドロ:おおっ!? キャプテン、なんか見えてきたよ! アレかな!?
アレク:情報が正しければ、多分アレだな。
パロミノ:よーし、船をつけろ。下船準備だ。

〇船の音
島へ降り立つ足音

ペドロ:きたよー!アンちゃん、メアリちゃん♪
アレク:なんか常連客みたいだな。
パロミノ:本当に小さい島だな。
ペドロ:あ、あそこに洞窟があるよ! ほらほら、キャプテン!
アレク:波の浸食で出来たものに人の手が加えられている。
パロミノ:結構奥まで続いているな……。(踏み出す)
アレク:おい、待て……(ランタンを点ける)
ネコ:ニャー
ペドロ:ネコさん、足元危ないから、僕が抱っこしてあげる。
ネコ:ニャー
パロミノ:こんなところまで連れてきたの? 船に置いときなよ。
ペドロ:帰ってきたらキャプテンの椅子、毛だらけなっててもいいの?
パロミノ:くっ……

〇奥へと進む一行。

ペドロ:あれ……
パロミノ:ここで行き止まり?
ペドロ:なんか、期待していたものと違う……
アレク:本当にただの洞窟を利用した休憩所って感じだな。ま、何百年も前の話だしな。
ペドロ:あああ! キャプテン、見てみて、これ!
パロミノ:いきなりでかい声出すなよ。
ペドロ:ほら、見て、見て! ワインがあるよー!!
アレク:なに……
パロミノ:本当に……? って、なんだよー、テーブルワインじゃんー。
伝説の海賊のワインっていうから期待したのにー。
ペドロ:しかも空き瓶だよー。それに、比較的新しいし……もしかすると調査隊とかいう先客がポイ捨てしていったものかも。
パロミノ:いや……それでも、百年くらいは経ってそうだけど……。
どっかの金持ちは音楽家の走り書きしたメモだの、小説家の鼻毛だのに大金払うみたいだけど、売る価値ありそう?
アレク:見向きもされないだろうな。
パロミノ:……美女の唾液を舐めたいとかいうやついるかなー。
アレク:100年以上前のをか?
ペドロ:下手したらひげもじゃのおっさんのかもしれないよ……?
アレク:う……わ。マジでないわ……。
パロミノ:じゃ却下。
アレク:さて、満足したか? さ、撤収、撤収。
パロミノ:つまんねーの。
アレク:だってさ、期待した割にはめぼしい物なかったし。隠れ家にするのは面白そうだけど、居心地はいいとは言えないよな。
ペドロ:僕はいいと思うけどなー。
アレク:じゃあ、お前一人で住んでみるか?
ペドロ:何それー。寂しいじゃんかー。
アレク:こっちは静かになっていいけどな。
ペドロ:なんだとー!!
パロミノ:……あ。
アレク:(ペドロを抑えながら)どうかしたか?
パロミノ:今俺がここでシェリーを置いて行ったら、100年後、俺の大ファンだって子が大事に持ち帰ってくれたりしないかなー。
ペドロ:……女の子だったらいいけど……
パロミノ:それなー。ま、贅沢は言わないさ。おにーちゃんでもおっさんでも、重宝してくれるだけありがたいね。もしかすると、漂流者の喉を潤すかもしれないし?
アレク:こんなところに漂流したくないけどな。
パロミノ:へっへーん。サインでも書いとこー。
アレク:俺だったらいらないな。
パロミノ:にゃろー。帰ったらお前のシェリー全部に俺様のサイン書いといてやるし。
アレク:じゃあ俺は、おまえの部屋のドアの前にシェリーの空き瓶100本でタワー作ってやるよ。
パロミノ:地味な嫌がらせだねー。
アレク:お前こそ。
ペドロ:僕はほしーよ! キャプテンのサイン入りボトル!
パロミノ:よしよし。じゃあ帰ったら書いといてやる。
ペドロ:わーい!
アレク:ってかさ、調査隊が出入りしてんなら、ボトル置いておいても回収されちまうんじゃねえか?
パロミノ:わかる人にだけわかる場所に置いとけばいいんだって。ほら、こことかさ。
ペドロ:なるほど、パッと見わかんないね。
パロミノ:じゃ、ずらかりますか。
ペドロ:あいあいさー!

***

〇翌日

ペドロ:今日もいい天気ですね、ネコさん♪
ネコ:ニャー
パロミノ:すっかり居ついてしまったなー、そいつ。
ペドロ:名前、何がいいかな。アンちゃんかな、メアリちゃんかな?
パロミノ:アレクはクレオって呼んでたぞ。
ペドロ:むぷー。僕が名前付けるんだもん。
マカベオ:おや、ヘレスの旦那がた。ブエノス ディアス(こんにちは)。
パロミノ:お……マカベオか。
マカベオ:おやおや、かわええガト(ネコ)ですねえ。はい、おて!
パロミノ:するかよ。
ネコ:ニャー
マカベオ:おお、お利口さんですねえ。えーこ、えーこ。
ペドロ:すごーい!
パロミノ:こいつ……。
( そして、マカベオの手にあるものを見て、顔がこわばる)
おい、おまえ、それ……
マカベオ:ん? ああ、これね。自分、ジョン・カラムの拠点の一つって言われとる島の調査隊に参加してたんや。
そしたら、どこの誰か知らんのやけど、不法投棄してあったからなあ、回収してきたんや。
勿体無いねえ。まだ封も開け取らんやつやんなあ。
パロミノ:………お、お、お、お前なあ……
マカベオ:ん? なんや? パロさん。
パロミノ:……なんでもねー。なんでもねーよ。
ペドロ:せっかくキャプテンが持ってったのにー……。
アレク:(遠くから)夢やぶれたり、だな。
《完》
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