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アイレンの奮闘記
☆アイレンの奮闘記 第四話 ソーテルヌの秘密
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アイレン「僕はアイレン。小さな出版社の雑誌記者だ。今日も、特集記事のネタを集めに、街を駆け回っている……」
タイトル【アイレンの奮闘記】第四話:ソーテルヌの秘密
[SE:チリンチリーン……]
セミヨン「あ! アイレンさん! ボンジュール! ごめんなさい、まだ開店準備中なんです。でもコーヒーならすぐ用意できますよ! よかったら……」
アイレン「忙しい時間にすみません。でも、今日はお客として来たんじゃないんだ。雑誌の取材をさせてもらえないかと思って、ね……」
セミヨン「雑誌の、取材……?」
(間)
セミヨン「へーえ! ヴィティスについての特集かあ! 面白そうだなあ! 雑誌買って、チェックしておきますねっ」
アイレン「ありがとう。それで、今回の記事についてなんですけど、何か、二人に秘密とかあれば、是非聞いてみたいのですが……」
セミヨン「ひ、ひみつ……?僕と、ソーヴィの……?」
アイレン「そう。今までの特集を振り返って、一番反響があったのは、品種たちの意外な一面だったり、あまり知られていなかった過去だったり……そういった、普段見られない素顔を取り上げた記事でした。なので、セミヨンさんとソーヴィニョン・ブランさんにも、何か今まで人に言ってなかったこととか、隠していたことがあれば……どんな些細なことでも構いませんので……」
セミヨン「(赤面して)え、そ、そんな、僕らには秘密にするようなことは何にも……」
ソーヴィ「(スッと現れて)そうだよ、君。それに、秘密というのは隠しておくから秘密なんだ。簡単に教えてしまっては、秘密にならないじゃないか」
アイレン「ま、まあ……そりゃそうだけど」
ソーヴィ「それに、そんなゴシップ記事なんて書いて、楽しいかい? 僕は、君はそんなものを書くために雑誌記者になったんじゃないと思うのだけれど……どうだろう?」
アイレン「ゴシップ記事だって、立派な雑誌の記事です。……でも確かに、僕は見せたがらない秘密を赤裸々に書くほど、悪趣味じゃない。……そうだな、じゃあ逆に、こんなところをもっと注目してほしい、こんな得意分野がある、とかありましたら。お互いに」
セミヨン「僕と、ソーヴィの……うーん、そうだなあ。……ソーヴィのハーブの知識は、自慢できるくらいすごいよ! どのハーブにどんな効用があって、どんなブレンドでハーブティーを作ったらいいとか、すごく詳しいんですよ!」
アイレン「ほうほう」
ソーヴィ「セミヨンはお菓子作りが得意だね。ワインを作る時に、オリなどを取り除くために卵白を使うのは知っているよね? その余った卵黄をお菓子作りに生かしたことから、フランスではたくさんのお菓子が生み出されたんだ。そのほとんどをセミヨンは作ることができる。中でも僕のお勧めは彼の作るカヌレかな。僕の淹れるお茶に、とてもよく合うんだ。もちろん、ワインに合うおかしもあるよ」
アイレン「ほおほお」
セミヨン「それから、ソーヴィはね……」
[SE:FO]
[SE:足音]
アイレン「ふむふむ。読者の意表をつくような話は聞き出せなかったけれど、これはこれでいい記事になりそうだ。それにしても、セミヨンとソーヴィニョンは、とても仲がいいんだな。ワインも一緒に作っているし……あれっ。……あれ? 携帯、置いてきちゃったかな?」
[SE:足音]
[SE:ドアのベル]
アイレン「すみませー……ん」
[SE:奥で物音]
シネレア「ねえ、セミたん♪ 今日は愛しのダーリンと一緒じゃないのねん」
セミヨン「ソーヴィは買い出しに行ったんだよ。もうすぐ戻ってくるんだから」
アイレン「(小声で)えええ……あれってあいつだよね!? カビ菌のボトゥリティス・シネレアだよね!? セミヨン、壁の方にじりじり追い込まれてるけど、大丈夫かな……変なことにならなきゃいいけど……」
[SE:物音]
アイレン「あ、やば!」
シネレア「あれぇ? 2人っきりだと思ったのに、誰かいる感じ?」
アイレン「し、シネレアだぁ……!」
シネレア「およ? 俺を知ってる感じー? えっと~、誰だっけ、あんた」
アイレン「うっうっ。カビ菌にすら認知されてないなんて……! 僕はアイレンだ!」
シネレア「アイロン? まあ、あんたのことはどーでもいいや、俺が用があるのはセミたんだし」
アイレン「ひどい!」
シネレア「セミたん♪ 相方ちゃんがいないなら丁度いいや、ちょぉーっとだけ味見を……」
セミヨン
「あーーーーー!!!」
シネレア
「えっ!なになに?」
セミヨン
「今、君の近くに蝿が飛んでいったんだ。あっ、ほらそこ!」
シネレア(興味津々に)
「え、どこどこ?」
セミヨン
「動かないで!」
シネレア
「はいー!」
セミヨン(じりじりにじりよる)
「じっとしててよ……? 何事も辛抱が大事だよ……動かないでね……? そーぉっと、そぉーっと……」
[SE:メニューでパーンと叩く]
セミヨン
「今だっ、そりゃー!!」
シネレア
「痛いっ!」
セミヨン
「もう一撃っ!」
[SE:なかなか重い一撃]
シネレア(一撃を喰らって)
「ふにゃん!」
[SE:倒れるシネレア]
[SE:手をパンパンと叩く]
セミヨン「ふう。ソーヴィいないから可愛いこぶる必要ないもんね。リースリングに連絡して、シネレアの回収に来てもらおうっと」
アイレン「あのー……セミヨンさんって結構……」
セミヨン「んー? あははー! ニュージーランドのハンター地方で仕事していた時にね、ソーヴィが一緒じゃなかったから、病害くらいなら撃退できる術を身につけたんだ~!」
アイレン「へ、へぇ……」
セミヨン「そういえばどうしたの、戻ってきて。何か忘れ物ですか?」
アイレン「そ、そう、携帯を忘れちゃって……ははは」
アイレン「(心の内で)セミヨンって、意外と逞しい……」
end
タイトル【アイレンの奮闘記】第四話:ソーテルヌの秘密
[SE:チリンチリーン……]
セミヨン「あ! アイレンさん! ボンジュール! ごめんなさい、まだ開店準備中なんです。でもコーヒーならすぐ用意できますよ! よかったら……」
アイレン「忙しい時間にすみません。でも、今日はお客として来たんじゃないんだ。雑誌の取材をさせてもらえないかと思って、ね……」
セミヨン「雑誌の、取材……?」
(間)
セミヨン「へーえ! ヴィティスについての特集かあ! 面白そうだなあ! 雑誌買って、チェックしておきますねっ」
アイレン「ありがとう。それで、今回の記事についてなんですけど、何か、二人に秘密とかあれば、是非聞いてみたいのですが……」
セミヨン「ひ、ひみつ……?僕と、ソーヴィの……?」
アイレン「そう。今までの特集を振り返って、一番反響があったのは、品種たちの意外な一面だったり、あまり知られていなかった過去だったり……そういった、普段見られない素顔を取り上げた記事でした。なので、セミヨンさんとソーヴィニョン・ブランさんにも、何か今まで人に言ってなかったこととか、隠していたことがあれば……どんな些細なことでも構いませんので……」
セミヨン「(赤面して)え、そ、そんな、僕らには秘密にするようなことは何にも……」
ソーヴィ「(スッと現れて)そうだよ、君。それに、秘密というのは隠しておくから秘密なんだ。簡単に教えてしまっては、秘密にならないじゃないか」
アイレン「ま、まあ……そりゃそうだけど」
ソーヴィ「それに、そんなゴシップ記事なんて書いて、楽しいかい? 僕は、君はそんなものを書くために雑誌記者になったんじゃないと思うのだけれど……どうだろう?」
アイレン「ゴシップ記事だって、立派な雑誌の記事です。……でも確かに、僕は見せたがらない秘密を赤裸々に書くほど、悪趣味じゃない。……そうだな、じゃあ逆に、こんなところをもっと注目してほしい、こんな得意分野がある、とかありましたら。お互いに」
セミヨン「僕と、ソーヴィの……うーん、そうだなあ。……ソーヴィのハーブの知識は、自慢できるくらいすごいよ! どのハーブにどんな効用があって、どんなブレンドでハーブティーを作ったらいいとか、すごく詳しいんですよ!」
アイレン「ほうほう」
ソーヴィ「セミヨンはお菓子作りが得意だね。ワインを作る時に、オリなどを取り除くために卵白を使うのは知っているよね? その余った卵黄をお菓子作りに生かしたことから、フランスではたくさんのお菓子が生み出されたんだ。そのほとんどをセミヨンは作ることができる。中でも僕のお勧めは彼の作るカヌレかな。僕の淹れるお茶に、とてもよく合うんだ。もちろん、ワインに合うおかしもあるよ」
アイレン「ほおほお」
セミヨン「それから、ソーヴィはね……」
[SE:FO]
[SE:足音]
アイレン「ふむふむ。読者の意表をつくような話は聞き出せなかったけれど、これはこれでいい記事になりそうだ。それにしても、セミヨンとソーヴィニョンは、とても仲がいいんだな。ワインも一緒に作っているし……あれっ。……あれ? 携帯、置いてきちゃったかな?」
[SE:足音]
[SE:ドアのベル]
アイレン「すみませー……ん」
[SE:奥で物音]
シネレア「ねえ、セミたん♪ 今日は愛しのダーリンと一緒じゃないのねん」
セミヨン「ソーヴィは買い出しに行ったんだよ。もうすぐ戻ってくるんだから」
アイレン「(小声で)えええ……あれってあいつだよね!? カビ菌のボトゥリティス・シネレアだよね!? セミヨン、壁の方にじりじり追い込まれてるけど、大丈夫かな……変なことにならなきゃいいけど……」
[SE:物音]
アイレン「あ、やば!」
シネレア「あれぇ? 2人っきりだと思ったのに、誰かいる感じ?」
アイレン「し、シネレアだぁ……!」
シネレア「およ? 俺を知ってる感じー? えっと~、誰だっけ、あんた」
アイレン「うっうっ。カビ菌にすら認知されてないなんて……! 僕はアイレンだ!」
シネレア「アイロン? まあ、あんたのことはどーでもいいや、俺が用があるのはセミたんだし」
アイレン「ひどい!」
シネレア「セミたん♪ 相方ちゃんがいないなら丁度いいや、ちょぉーっとだけ味見を……」
セミヨン
「あーーーーー!!!」
シネレア
「えっ!なになに?」
セミヨン
「今、君の近くに蝿が飛んでいったんだ。あっ、ほらそこ!」
シネレア(興味津々に)
「え、どこどこ?」
セミヨン
「動かないで!」
シネレア
「はいー!」
セミヨン(じりじりにじりよる)
「じっとしててよ……? 何事も辛抱が大事だよ……動かないでね……? そーぉっと、そぉーっと……」
[SE:メニューでパーンと叩く]
セミヨン
「今だっ、そりゃー!!」
シネレア
「痛いっ!」
セミヨン
「もう一撃っ!」
[SE:なかなか重い一撃]
シネレア(一撃を喰らって)
「ふにゃん!」
[SE:倒れるシネレア]
[SE:手をパンパンと叩く]
セミヨン「ふう。ソーヴィいないから可愛いこぶる必要ないもんね。リースリングに連絡して、シネレアの回収に来てもらおうっと」
アイレン「あのー……セミヨンさんって結構……」
セミヨン「んー? あははー! ニュージーランドのハンター地方で仕事していた時にね、ソーヴィが一緒じゃなかったから、病害くらいなら撃退できる術を身につけたんだ~!」
アイレン「へ、へぇ……」
セミヨン「そういえばどうしたの、戻ってきて。何か忘れ物ですか?」
アイレン「そ、そう、携帯を忘れちゃって……ははは」
アイレン「(心の内で)セミヨンって、意外と逞しい……」
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