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アイレンの奮闘記
☆アイレンの奮闘記 第一話 ボルドーの双璧
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【アイレンの奮闘記】第一話:ボルドーの双璧
《キャスト》
アイレン
カベルネ
メルロー
フラン
男 スペイン出身。少し訛りがあると良い。
グラサン男 スペインの密売人。ガラ悪い関西弁。
ーーーーーーーーー以下台本
♪(電話の着信音)
アイレン
「はい、こちらアイレン。はい。え?次の記事の内容が決まった? ええ。え、ーー」
アイレン
「ヴィティスについての特集、ですか……?」
***
♪車の走行音
アイレンN
「僕はアイレン。ヴィティスという街で、小さな出版社の雑誌記者をしている。駅や道端の売店とかで『ヴィティス・マガジン』って雑誌が売られてるのを見かけたら、その数ページは僕が担当したやつだ。今回もその記事を任されたのだけれど……」
アイレン
「はあ、ヴィティスについての特集、かあ。今更って感じもするけれど、そうだな、ちゃんと取材した記事も今までになかったから、僕なりにまとめてみるのも、面白いかも知れない」
アイレンN
「補足をしておくと、僕の暮らしているヴィティスという街は、ヨーロッパにある小さな都市国家だ。名前から想像できたかも知れないけれど、この街ではワインが流通の主流を握っている。通貨と同じぐらいに重要な存在だ。そしてもう一つ。この街の住人のほとんどが、ワインに使われる葡萄品種の名前を受け継いでいる。……僕、アイレンも例外なく。知ってる人がいてくれたら嬉しいな。僕って、生産量は世界一なのに知名度はどん底だからね」
アイレンN
「さて、今回の記事のテーマである『ヴィティスについて』だけど、それはこの街のことというよりも、僕らヴィティスで暮らす住人について、取材しろということなのである」
♪車の停車音
アイレン
「まずはあの男から取材するべきなのだろうけれど……。大丈夫かなあ」
♪車のドアを閉める音
***
○ヴィティス警察署
♪電話の音
カベルネ
「はい、こちらボルドー警察局……はい、はい。ええ」
♪別の電話の音
フラン
「はい、ボルドー警察……ああ、メルローか。どうだった?……ああ」
♪別の電話の音
アイレン
「い、忙しそうだな……」
カベルネ
「ああ、すまない、アイレン。急ぎの用事か?」
アイレン
「あ、いや、雑誌の記事のことで、取材をしたいんだけれど……」
カベルネ
「後でも構わないか? 今ちょっと立て込んでてな……」
アイレン
「構わないよ。忙しい時に悪いね、カベルネ。出直すよ」
カベルネ
「ああ、頼む。午後なら少し時間が取れるかも知れない」
♪電話の音
アイレン
「いやーははは……大繁盛だね……」
***
○警察署の外
アイレン
「はあ、やっぱりなー」
♪車に乗り込む
アイレンN
「僕が最初に思い当たったのは、今やワイン界を引っ張っていると言っても過言ではない、ヴィティスの代表的存在、カベルネ・ソーヴィニョンだ。彼は優秀な警察官として活躍している。力強さと信頼性を持つ彼にはぴったりの職業だ。一番最初に取り上げるべき、と思ったけれど、今日はちょっと間が悪かったみたいだ」
アイレンN
「僕はコーヒーを買って、車の中で飲みながら、今後の取材方針について考えることにした」
♪手帳をめくる音
アイレン
「(コーヒーをすすって)あち!」
アイレンN
「もちろんカベルネは一番に取り上げるべき男だ。だが、他にも注目したい品種はたくさんいる。例えば、シャルドネとか、ピノ・ノワールとか。二人のことを書く時は、2、3ページじゃ足りないな。特集の最後に持っていくのもありだろう。それから、カベルネを取り上げるならメルローも外せない。上司であるカベルネ・フランもそうだ。……そういえば、この記事は全品種について取材する方針なのだろうか? もしそうだとすれば、かなり大掛かりなことになる。大体この街に何百品種が暮らしていると……」
♪車のサイドガラスを叩く音
アイレン
「ん?」
男
「開けろ、開けてくれ」
♪窓ガラスを開ける
アイレン
「な、なんでしょう? ここは駐車禁止区域じゃないはず……」
男
「頼みがある。急いでんだ。街の外まで俺を乗せてって欲しい」
アイレン
「え、なぜ!?」
男
「頼む、ガソリン代は出すから」
アイレン
「え、ええっと……僕、仕事があるんで……」
♪ドアを開ける音
アイレン
「え、な、何勝手に乗り込んでるんですか! 困りますよぉ!」
男
「急いでんだ、お願いだ、乗せてってくれ! 妹が死にそうなんだ!」
アイレン
「わ、わかりましたよ! よくわからないけれど……」
♪ドアを閉める音
男
「すぐ車を出せ。で、その先の角を右に曲がるんだ。そっからは道なりに真っ直ぐ、市街地を抜けて欲しい」
アイレン
「いきなりすぎて頭が追いつかないけれど……言う通りにするしかないのかな……」
♪車の発車音
男
「なるべくスピードを出してくれ。早く街から出てぇんだ」
アイレン
「えっと、どこに向かえば……」
男
「とりあえず、西区に向かって走れ。街を出たらまた行き先を言うから」
アイレン
「は、はいぃ……」
♪車の走行音
アイレンN
「何が何だかよく分からないまま、僕はいきなり車に乗ってきた男の言う通りに、車を走らせるのだった」
***
○郊外
男
「ふう、市街地は抜けたな」
アイレン
「あの、聞いてもいいですか」
男
「なんだ」
アイレン
「街の外へ行きたいなら、電車を使えばいいじゃないですか。どうして見ず知らずの僕の車なんか……」
男
「車が一番早い。けど、俺は車を持ってねぇ」
アイレン
「誰かに借りるとか……」
男
「免許書も持ってねぇ」
アイレン
「そ、そうなんですね……」
男
「……」
アイレン
「で、でも、僕じゃなくても……」
男
「偶然目に止まったんがあんたの車だったんだ。運が悪かったな」
アイレン
「はは……」
アイレンN
「確かに、僕は何かと運が悪い。何をやっても上手くいかないし、ドジは踏むし、話の地雷も踏む。この運の悪さのせいなのか、努力してもあまり報われることがなかった」
男
「(独り言)……大丈夫か」
アイレン
「あの、さっきから後ろを気にしてるようだけど、まさか、その革の鞄の中身って……」
男
「ああ?」
アイレン
「あ、いえ、なんでもありません。はい。すみませんでした!」
男
「……ああ、そうだよ。こん中には大金が入っとる」
アイレン
「や、やっぱりぃ……! 危ない金ってことですよね、つまりは!」
男
「妹の病気の治療費に大金がいるんだ。……俺のいた組織から盗んできた。どうせろくでもねぇとこから入ってきたやつだ。一人の命を救うのに使ったってバチは当たらねえ」
アイレン
「うわあ……」
男
「お、そうだ。あんた、ヴィティスのやつだろ。これ、見てくれねえか」
アイレン
「え?」
男
「ほら、このワイン。一緒にかっさらってきたんだけどな。高いやつなんじゃねぇのか」
アイレン
「え、え! 運転中だからじっくり見れないけれど、それ、シャトー・ラフィット・ロートシルトのグレートヴィンテージじゃないですか!?」
男
「いくらに変えられっかな?」
アイレン
「んんん~。売ったとしたら680ユーロは下らないかと……」
男
「ほーお。これも売ればなんとか足りそうだな……」
アイレン
「……妹さんを助けたい気持ちはわかります、でも他に方法はなかったんですか?
人から盗んだお金で救われたって、妹さんもきっと嬉しくはないはずだよ」
男
「だからって死んじまったら何も残らんだろ!? 俺のたった一人の肉親なんだ。……俺はどうなったっていい。あの子だけは……生きて欲しい。生きて、笑ってて欲しいんだ」
アイレン
「……ガソリンスタンドによってもいいですか? なくなりそうなんで……」
男
「ああ、いいよ。迷惑かけたからな、ガソリン代ぐらい出す」
アイレン
「いや、いいです。受け取りたくない……」
男
「そうかよ」
***
○ガソリンスタンド
♪車の停車音
♪給油
アイレン
「はぁあ。長いドライブになりそうだ……」
♪電話の着信
アイレン
「あ、カベルネからだ……どうしよう……」
♪電話に出る
アイレン
「は、はい、アイレン……」
カベルネ
『アイレンか? ひと段落ついたから話ができそうだが、近くにいるのか?』
アイレン
「あ、いや、今ちょっと別の用事が入って、警察局の近くにはいないんだ」
男
「警察?」
カベルネ
『そうか。また別の日にするか?』
男
「警察と電話してんのか? おい!」
アイレン
「(男に)いや、そうじゃないんだ、友人と話していて……」
カベルネ
『アイレン?』
男
「今すぐ切れ! ほら、電話かせ!」
アイレン
「ちょ、ちょっとくらい話させて……」
男
「いいから切れ!」
アイレン
「わ! ちょ!何する……」
♪ツーツーツー
***
○警察署
カベルネ
「……アイレン?」
フラン
「どうした、カベルネ」
カベルネ
「いや、何か問題に巻き込まれてないといいのだが」
***
○車の中
男
「いいか、もう電話かけんなよ!」
アイレン
「人と会う約束があったんだ! 連絡取るくらいいいだろう!?」
男
「(ナイフで脅す)ダメだ。もう一切電話はすんな!」
アイレン
「わ、いきなりナイフなんか出さないでくださいよ! わかりました! もう電話はしないから!」
男
「さっさと乗れ!」
アイレン
「言われなくたって、僕の車だからな!」
***
♪車の走行音
アイレン
「……もうすぐ街の外に出ますよ」
男
「ああ、ありがとな。トンネルを抜けて、10分ほど走れば、妹のいる病院が見えてくる。馬鹿でかい建物だからすぐわかるさ。……世話になったな」
アイレン
「……そういえば、どうして僕がヴィティスのやつだってわかったんです?」
男
「ああ……お前ら、なんだか独特な香りがするじゃねぇか。特にお前のは……馴染みのある香りだった。親父がよく飲んでいた、白ワインと同じ香りだ」
アイレン
「え、そいつは嬉しいな。ということは、君はスペイン出身? そういえば少し訛りもあるね」
男
「そうだ、元はスペインにいた」
アイレン
「そっかそっか。いやあ、僕たちは人から愛されることが、1番の喜びだからなあ。人々の生活に寄り添い、その地に根付くことで、僕らは生きていけるんだ。……今度その親父さんに、ぜひ会ってみたいですね」
男
「それは無理だな。……去年の冬、天国に逝っちまった」
アイレン
「え……」
男
「いい父親だった。人が良すぎたんだ。病気の妹のために、でかい借金こしらえて、首括って死んじまった。……せめて、好きだったワイン、一緒に飲みたかったのによ……」
アイレン
「……そっか」
男
「だから、親父に代わって、今度は俺が、妹を助ける。次の手術さえ乗り越えれば、妹は元の生活ができるようになるんだ。だから、だから……」
アイレン
「……手術が成功しても、君がいなかったら、妹さん、寂しいんじゃないですか」
男
「……」
アイレン
「今からでも遅くない、来た道を引き返そう。わけを話して、お金も返せば、盗んだ罪もきっと軽くしてもらえる。もちろん僕も口添えする。だから、今度はちゃんとしたお金で……」
男
「今更引き返せってか!? もう、時間がねぇ
んだよ! 金を用意すると医者と約束したんは今日なんだ! 時間があれば、俺だって……!」
アイレン
「……ちょっといいかな?」
男
「なんだよ!」
アイレン
「後ろの車がずっとぴったり付いてくるんだ。……警察の車じゃなさそうだけど……」
男
「あ! あ! あいつらだ! なんで俺がこの車に乗ってるってわかったんだ!?」
アイレン
「まさか、だけど……札束の中にGPS、隠されてたりしないですか……?」
♪ゴソゴソ
男
「え? あ! これのことか!?」
アイレン
「それだよおおおおおおおお!!」
♪銃撃音
アイレン
「うわあ!」
男
「横に並んで銃で撃ってきたぞ!! ど、どうすんだ!」
アイレン
「僕に聞くなよ! 僕だって知りたい!」
男
「全速力で突っ走れ! 信号なんか構うな!」
アイレン
「僕のシトロエンのミニが、相手のランボルギーニに敵うとでも!?」
男
「いいから! とにかく踏み込め! 苦情は後で聞く!!」
アイレン
「後があればな!!!」
♪加速音
♪銃撃音
男
「また撃って来たぞ!」
アイレン
「これでも時速ギリギリなんだ……! これ以上は公道じゃ出せない!!」
男
「おい、銃でタイヤ狙ってきてるぞ!」
♪破裂音
男
「うわああ!」
アイレン
「あああああ!!」
♪ブレーキ音
♪ガシャーン
男
「いてて……」
アイレン
「きっ……木にぶつかって止まった……。よかった……生きてる……。君は? 大丈夫ですか」
男
「ガラスの破片でちょっと切っちまったが……なんとか無事だ」
アイレン
「よかった……ってわけでもなさそうだけれど」
♪近づく足音
グラサン男
「チャオ、アミーゴ。素敵な再会やないか。え? よくもウチの金、持っていってくれたなぁ」
アイレンN
「ひええええええ怖いよ怖いよ絶対まともな道の人じゃないよおおおおお!!」
グラサン男
「お陰で予定しとった取引がパアや。どないしてくれるんや。え?」
男
「すんませんすんません出来心だったんですすんません許してくださいすんませんすんません」
アイレンN
「ええええええええ!? そこで潔く頭下げちゃうのおおおお!?」
グラサン男
「謝って済むんやったらこっちも楽なんやけどなあ。……お前さんが開けた穴、えらいでかいんやわ。落とし前、付けてもらわなあかんなあ」
男
「金は!ここにあります!!だから、命だけは!勘弁してください!!」
グラサン男
「どうしようなあ。取り敢えず、帰ってじっくり話聞こうか。な? ……そこのメガネも」
アイレン
「え!? 僕もですか!?!?」
グラサン男
「せや。一緒に逃げとったんやし、当然やろ」
アイレン
「ええええ……」
男
「違う! あの男は、俺が脅して車走らさせただけで! 全然関係ないんです! だから、あいつのことは! 見逃してやってください!!」
アイレン
「え……」
グラサン男
「それはこっちで決めることやからなあ……連れてけ」
男
「(飛びかかる)させない!」
グラサン男
「な、何すんのや!」
男
「今のうちに! 逃げろ! お前だけでも!」
アイレン
「そんな……!」
男
「俺のことは! いいから! 早く、行ってくれ!!」
アイレン
「ご、ご……ごめんよおおおおおお!!」(走り出す)
グラサン男
「行かせんで! 早よ、捕まえや!!」
アイレン
「うわあああああ怖そうなお兄さんたちが追ってくるううううう!!」
♪サイレン
カベルネ
「そこまでだ。全員、銃を地面に置いて両手を上げろ!」
アイレン
「か、カベルネぇ……!」
カベルネ
「間に合ってよかった。アイレン」
アイレン
「どうして……」
カベルネ
「嫌な予感がしてな。お前の携帯のGPSで追跡させてもらった。この近くのガソリンスタンドでも、お前がナイフで脅されているのを見たと、店員が証言してな。それで駆けつけたんだ」
グラサン男
「なんや、お前サツに通報しよったんか?」
男
「お、俺は、なんも、知らんです……!」
カベルネ
「いいから手をあげて、その男から離れろ!」
グラサン男
「悪いが、サツ相手にしとる暇ないんやわ。帰ってもらえんか」
カベルネ
「こっちはお前に用があるんだ。偽装罪、恐喝罪で指名手配が出ている。署まで同行願おうか」
グラサン男
「あいつら、チクリやがったんか。チッ。ずらかるぞ」
カベルネ
「待てっ!」
♪銃撃戦
グラサン男
「クソッ、全部お前のせいやぞ!」(銃で狙う)
男
「うわああああ!! 撃たんでぇええええ!!」
カベルネ
「メル!」
♪投げ技
グラサン男
「ぐへえっ!」
メルロー
「ふう。あなたを偽装罪、恐喝罪、加えて傷害事件の現行犯で逮捕します」
♪手錠の音
グラサン男
「ぐううう………」
カベルネ
「ありがとう、メル」
メルロー
「逃走していた窃盗罪の男も逮捕、と。間に合って本当によかったね。アイレン?」
アイレン
「カベルネ、メルロー、助かったよおおおおおおおありがとおおおおおおお(泣)」
メルロー
「ははは……」
***
○警察署
アイレン
「ということで、カベルネ! 今回のことを記事にしてもいいよね? ね!?」
カベルネ
「差し障りない程度にしておいてくれ……」
アイレン
「『ヴィティスのヒーロー、カベルネ・ソーヴィニョンの、手に汗握る逮捕劇! いやあ、写真写りもいいよ、最高にかっこいいよ、カベルネ!」
カベルネ
「はは……」
フラン
「メディアに公開している範囲にしてくれよ。まだ事件の判決も出ていないんだからな」
アイレン
「そこは抜かりはないさ! かける範囲で、存分にカベルネとメルローの武勇伝を記事にして見せるよ!」
メルロー
「そういう趣旨の特集なんだっけ? それ……」
***
○拘置所
男
「面会だっていうから誰かと思えば……あんたか」
アイレン
「ああ。妹さんのことで話に来たんだ」
男
「い、いやだ、聞きたくない……!」
アイレン
「妹さんね、無事、手術は成功したよ」
男
「……!」
アイレン
「僕の方で色々声かけまわって、なんとか手術費を集めたんだ。約束の日にはちょっと遅刻しちゃったんだけれど。でも、手術を乗り越えて、少しづつ良くなってるみたいだから、君が出所する頃には、元気になった妹さんに会えるよ」
男
「あんた……(泣)すまねえ、俺なんかのために……」
アイレン
「君のためだけじゃないよ。だから……、出所したら、一緒にワインを飲もう。親父さんが好きだった、僕の白ワインを一緒に。もちろん、妹さんも連れて、ね」
男(鼻を啜りながら)
「……ああ!」
end
《キャスト》
アイレン
カベルネ
メルロー
フラン
男 スペイン出身。少し訛りがあると良い。
グラサン男 スペインの密売人。ガラ悪い関西弁。
ーーーーーーーーー以下台本
♪(電話の着信音)
アイレン
「はい、こちらアイレン。はい。え?次の記事の内容が決まった? ええ。え、ーー」
アイレン
「ヴィティスについての特集、ですか……?」
***
♪車の走行音
アイレンN
「僕はアイレン。ヴィティスという街で、小さな出版社の雑誌記者をしている。駅や道端の売店とかで『ヴィティス・マガジン』って雑誌が売られてるのを見かけたら、その数ページは僕が担当したやつだ。今回もその記事を任されたのだけれど……」
アイレン
「はあ、ヴィティスについての特集、かあ。今更って感じもするけれど、そうだな、ちゃんと取材した記事も今までになかったから、僕なりにまとめてみるのも、面白いかも知れない」
アイレンN
「補足をしておくと、僕の暮らしているヴィティスという街は、ヨーロッパにある小さな都市国家だ。名前から想像できたかも知れないけれど、この街ではワインが流通の主流を握っている。通貨と同じぐらいに重要な存在だ。そしてもう一つ。この街の住人のほとんどが、ワインに使われる葡萄品種の名前を受け継いでいる。……僕、アイレンも例外なく。知ってる人がいてくれたら嬉しいな。僕って、生産量は世界一なのに知名度はどん底だからね」
アイレンN
「さて、今回の記事のテーマである『ヴィティスについて』だけど、それはこの街のことというよりも、僕らヴィティスで暮らす住人について、取材しろということなのである」
♪車の停車音
アイレン
「まずはあの男から取材するべきなのだろうけれど……。大丈夫かなあ」
♪車のドアを閉める音
***
○ヴィティス警察署
♪電話の音
カベルネ
「はい、こちらボルドー警察局……はい、はい。ええ」
♪別の電話の音
フラン
「はい、ボルドー警察……ああ、メルローか。どうだった?……ああ」
♪別の電話の音
アイレン
「い、忙しそうだな……」
カベルネ
「ああ、すまない、アイレン。急ぎの用事か?」
アイレン
「あ、いや、雑誌の記事のことで、取材をしたいんだけれど……」
カベルネ
「後でも構わないか? 今ちょっと立て込んでてな……」
アイレン
「構わないよ。忙しい時に悪いね、カベルネ。出直すよ」
カベルネ
「ああ、頼む。午後なら少し時間が取れるかも知れない」
♪電話の音
アイレン
「いやーははは……大繁盛だね……」
***
○警察署の外
アイレン
「はあ、やっぱりなー」
♪車に乗り込む
アイレンN
「僕が最初に思い当たったのは、今やワイン界を引っ張っていると言っても過言ではない、ヴィティスの代表的存在、カベルネ・ソーヴィニョンだ。彼は優秀な警察官として活躍している。力強さと信頼性を持つ彼にはぴったりの職業だ。一番最初に取り上げるべき、と思ったけれど、今日はちょっと間が悪かったみたいだ」
アイレンN
「僕はコーヒーを買って、車の中で飲みながら、今後の取材方針について考えることにした」
♪手帳をめくる音
アイレン
「(コーヒーをすすって)あち!」
アイレンN
「もちろんカベルネは一番に取り上げるべき男だ。だが、他にも注目したい品種はたくさんいる。例えば、シャルドネとか、ピノ・ノワールとか。二人のことを書く時は、2、3ページじゃ足りないな。特集の最後に持っていくのもありだろう。それから、カベルネを取り上げるならメルローも外せない。上司であるカベルネ・フランもそうだ。……そういえば、この記事は全品種について取材する方針なのだろうか? もしそうだとすれば、かなり大掛かりなことになる。大体この街に何百品種が暮らしていると……」
♪車のサイドガラスを叩く音
アイレン
「ん?」
男
「開けろ、開けてくれ」
♪窓ガラスを開ける
アイレン
「な、なんでしょう? ここは駐車禁止区域じゃないはず……」
男
「頼みがある。急いでんだ。街の外まで俺を乗せてって欲しい」
アイレン
「え、なぜ!?」
男
「頼む、ガソリン代は出すから」
アイレン
「え、ええっと……僕、仕事があるんで……」
♪ドアを開ける音
アイレン
「え、な、何勝手に乗り込んでるんですか! 困りますよぉ!」
男
「急いでんだ、お願いだ、乗せてってくれ! 妹が死にそうなんだ!」
アイレン
「わ、わかりましたよ! よくわからないけれど……」
♪ドアを閉める音
男
「すぐ車を出せ。で、その先の角を右に曲がるんだ。そっからは道なりに真っ直ぐ、市街地を抜けて欲しい」
アイレン
「いきなりすぎて頭が追いつかないけれど……言う通りにするしかないのかな……」
♪車の発車音
男
「なるべくスピードを出してくれ。早く街から出てぇんだ」
アイレン
「えっと、どこに向かえば……」
男
「とりあえず、西区に向かって走れ。街を出たらまた行き先を言うから」
アイレン
「は、はいぃ……」
♪車の走行音
アイレンN
「何が何だかよく分からないまま、僕はいきなり車に乗ってきた男の言う通りに、車を走らせるのだった」
***
○郊外
男
「ふう、市街地は抜けたな」
アイレン
「あの、聞いてもいいですか」
男
「なんだ」
アイレン
「街の外へ行きたいなら、電車を使えばいいじゃないですか。どうして見ず知らずの僕の車なんか……」
男
「車が一番早い。けど、俺は車を持ってねぇ」
アイレン
「誰かに借りるとか……」
男
「免許書も持ってねぇ」
アイレン
「そ、そうなんですね……」
男
「……」
アイレン
「で、でも、僕じゃなくても……」
男
「偶然目に止まったんがあんたの車だったんだ。運が悪かったな」
アイレン
「はは……」
アイレンN
「確かに、僕は何かと運が悪い。何をやっても上手くいかないし、ドジは踏むし、話の地雷も踏む。この運の悪さのせいなのか、努力してもあまり報われることがなかった」
男
「(独り言)……大丈夫か」
アイレン
「あの、さっきから後ろを気にしてるようだけど、まさか、その革の鞄の中身って……」
男
「ああ?」
アイレン
「あ、いえ、なんでもありません。はい。すみませんでした!」
男
「……ああ、そうだよ。こん中には大金が入っとる」
アイレン
「や、やっぱりぃ……! 危ない金ってことですよね、つまりは!」
男
「妹の病気の治療費に大金がいるんだ。……俺のいた組織から盗んできた。どうせろくでもねぇとこから入ってきたやつだ。一人の命を救うのに使ったってバチは当たらねえ」
アイレン
「うわあ……」
男
「お、そうだ。あんた、ヴィティスのやつだろ。これ、見てくれねえか」
アイレン
「え?」
男
「ほら、このワイン。一緒にかっさらってきたんだけどな。高いやつなんじゃねぇのか」
アイレン
「え、え! 運転中だからじっくり見れないけれど、それ、シャトー・ラフィット・ロートシルトのグレートヴィンテージじゃないですか!?」
男
「いくらに変えられっかな?」
アイレン
「んんん~。売ったとしたら680ユーロは下らないかと……」
男
「ほーお。これも売ればなんとか足りそうだな……」
アイレン
「……妹さんを助けたい気持ちはわかります、でも他に方法はなかったんですか?
人から盗んだお金で救われたって、妹さんもきっと嬉しくはないはずだよ」
男
「だからって死んじまったら何も残らんだろ!? 俺のたった一人の肉親なんだ。……俺はどうなったっていい。あの子だけは……生きて欲しい。生きて、笑ってて欲しいんだ」
アイレン
「……ガソリンスタンドによってもいいですか? なくなりそうなんで……」
男
「ああ、いいよ。迷惑かけたからな、ガソリン代ぐらい出す」
アイレン
「いや、いいです。受け取りたくない……」
男
「そうかよ」
***
○ガソリンスタンド
♪車の停車音
♪給油
アイレン
「はぁあ。長いドライブになりそうだ……」
♪電話の着信
アイレン
「あ、カベルネからだ……どうしよう……」
♪電話に出る
アイレン
「は、はい、アイレン……」
カベルネ
『アイレンか? ひと段落ついたから話ができそうだが、近くにいるのか?』
アイレン
「あ、いや、今ちょっと別の用事が入って、警察局の近くにはいないんだ」
男
「警察?」
カベルネ
『そうか。また別の日にするか?』
男
「警察と電話してんのか? おい!」
アイレン
「(男に)いや、そうじゃないんだ、友人と話していて……」
カベルネ
『アイレン?』
男
「今すぐ切れ! ほら、電話かせ!」
アイレン
「ちょ、ちょっとくらい話させて……」
男
「いいから切れ!」
アイレン
「わ! ちょ!何する……」
♪ツーツーツー
***
○警察署
カベルネ
「……アイレン?」
フラン
「どうした、カベルネ」
カベルネ
「いや、何か問題に巻き込まれてないといいのだが」
***
○車の中
男
「いいか、もう電話かけんなよ!」
アイレン
「人と会う約束があったんだ! 連絡取るくらいいいだろう!?」
男
「(ナイフで脅す)ダメだ。もう一切電話はすんな!」
アイレン
「わ、いきなりナイフなんか出さないでくださいよ! わかりました! もう電話はしないから!」
男
「さっさと乗れ!」
アイレン
「言われなくたって、僕の車だからな!」
***
♪車の走行音
アイレン
「……もうすぐ街の外に出ますよ」
男
「ああ、ありがとな。トンネルを抜けて、10分ほど走れば、妹のいる病院が見えてくる。馬鹿でかい建物だからすぐわかるさ。……世話になったな」
アイレン
「……そういえば、どうして僕がヴィティスのやつだってわかったんです?」
男
「ああ……お前ら、なんだか独特な香りがするじゃねぇか。特にお前のは……馴染みのある香りだった。親父がよく飲んでいた、白ワインと同じ香りだ」
アイレン
「え、そいつは嬉しいな。ということは、君はスペイン出身? そういえば少し訛りもあるね」
男
「そうだ、元はスペインにいた」
アイレン
「そっかそっか。いやあ、僕たちは人から愛されることが、1番の喜びだからなあ。人々の生活に寄り添い、その地に根付くことで、僕らは生きていけるんだ。……今度その親父さんに、ぜひ会ってみたいですね」
男
「それは無理だな。……去年の冬、天国に逝っちまった」
アイレン
「え……」
男
「いい父親だった。人が良すぎたんだ。病気の妹のために、でかい借金こしらえて、首括って死んじまった。……せめて、好きだったワイン、一緒に飲みたかったのによ……」
アイレン
「……そっか」
男
「だから、親父に代わって、今度は俺が、妹を助ける。次の手術さえ乗り越えれば、妹は元の生活ができるようになるんだ。だから、だから……」
アイレン
「……手術が成功しても、君がいなかったら、妹さん、寂しいんじゃないですか」
男
「……」
アイレン
「今からでも遅くない、来た道を引き返そう。わけを話して、お金も返せば、盗んだ罪もきっと軽くしてもらえる。もちろん僕も口添えする。だから、今度はちゃんとしたお金で……」
男
「今更引き返せってか!? もう、時間がねぇ
んだよ! 金を用意すると医者と約束したんは今日なんだ! 時間があれば、俺だって……!」
アイレン
「……ちょっといいかな?」
男
「なんだよ!」
アイレン
「後ろの車がずっとぴったり付いてくるんだ。……警察の車じゃなさそうだけど……」
男
「あ! あ! あいつらだ! なんで俺がこの車に乗ってるってわかったんだ!?」
アイレン
「まさか、だけど……札束の中にGPS、隠されてたりしないですか……?」
♪ゴソゴソ
男
「え? あ! これのことか!?」
アイレン
「それだよおおおおおおおお!!」
♪銃撃音
アイレン
「うわあ!」
男
「横に並んで銃で撃ってきたぞ!! ど、どうすんだ!」
アイレン
「僕に聞くなよ! 僕だって知りたい!」
男
「全速力で突っ走れ! 信号なんか構うな!」
アイレン
「僕のシトロエンのミニが、相手のランボルギーニに敵うとでも!?」
男
「いいから! とにかく踏み込め! 苦情は後で聞く!!」
アイレン
「後があればな!!!」
♪加速音
♪銃撃音
男
「また撃って来たぞ!」
アイレン
「これでも時速ギリギリなんだ……! これ以上は公道じゃ出せない!!」
男
「おい、銃でタイヤ狙ってきてるぞ!」
♪破裂音
男
「うわああ!」
アイレン
「あああああ!!」
♪ブレーキ音
♪ガシャーン
男
「いてて……」
アイレン
「きっ……木にぶつかって止まった……。よかった……生きてる……。君は? 大丈夫ですか」
男
「ガラスの破片でちょっと切っちまったが……なんとか無事だ」
アイレン
「よかった……ってわけでもなさそうだけれど」
♪近づく足音
グラサン男
「チャオ、アミーゴ。素敵な再会やないか。え? よくもウチの金、持っていってくれたなぁ」
アイレンN
「ひええええええ怖いよ怖いよ絶対まともな道の人じゃないよおおおおお!!」
グラサン男
「お陰で予定しとった取引がパアや。どないしてくれるんや。え?」
男
「すんませんすんません出来心だったんですすんません許してくださいすんませんすんません」
アイレンN
「ええええええええ!? そこで潔く頭下げちゃうのおおおお!?」
グラサン男
「謝って済むんやったらこっちも楽なんやけどなあ。……お前さんが開けた穴、えらいでかいんやわ。落とし前、付けてもらわなあかんなあ」
男
「金は!ここにあります!!だから、命だけは!勘弁してください!!」
グラサン男
「どうしようなあ。取り敢えず、帰ってじっくり話聞こうか。な? ……そこのメガネも」
アイレン
「え!? 僕もですか!?!?」
グラサン男
「せや。一緒に逃げとったんやし、当然やろ」
アイレン
「ええええ……」
男
「違う! あの男は、俺が脅して車走らさせただけで! 全然関係ないんです! だから、あいつのことは! 見逃してやってください!!」
アイレン
「え……」
グラサン男
「それはこっちで決めることやからなあ……連れてけ」
男
「(飛びかかる)させない!」
グラサン男
「な、何すんのや!」
男
「今のうちに! 逃げろ! お前だけでも!」
アイレン
「そんな……!」
男
「俺のことは! いいから! 早く、行ってくれ!!」
アイレン
「ご、ご……ごめんよおおおおおお!!」(走り出す)
グラサン男
「行かせんで! 早よ、捕まえや!!」
アイレン
「うわあああああ怖そうなお兄さんたちが追ってくるううううう!!」
♪サイレン
カベルネ
「そこまでだ。全員、銃を地面に置いて両手を上げろ!」
アイレン
「か、カベルネぇ……!」
カベルネ
「間に合ってよかった。アイレン」
アイレン
「どうして……」
カベルネ
「嫌な予感がしてな。お前の携帯のGPSで追跡させてもらった。この近くのガソリンスタンドでも、お前がナイフで脅されているのを見たと、店員が証言してな。それで駆けつけたんだ」
グラサン男
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カベルネ
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グラサン男
「悪いが、サツ相手にしとる暇ないんやわ。帰ってもらえんか」
カベルネ
「こっちはお前に用があるんだ。偽装罪、恐喝罪で指名手配が出ている。署まで同行願おうか」
グラサン男
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カベルネ
「待てっ!」
♪銃撃戦
グラサン男
「クソッ、全部お前のせいやぞ!」(銃で狙う)
男
「うわああああ!! 撃たんでぇええええ!!」
カベルネ
「メル!」
♪投げ技
グラサン男
「ぐへえっ!」
メルロー
「ふう。あなたを偽装罪、恐喝罪、加えて傷害事件の現行犯で逮捕します」
♪手錠の音
グラサン男
「ぐううう………」
カベルネ
「ありがとう、メル」
メルロー
「逃走していた窃盗罪の男も逮捕、と。間に合って本当によかったね。アイレン?」
アイレン
「カベルネ、メルロー、助かったよおおおおおおおありがとおおおおおおお(泣)」
メルロー
「ははは……」
***
○警察署
アイレン
「ということで、カベルネ! 今回のことを記事にしてもいいよね? ね!?」
カベルネ
「差し障りない程度にしておいてくれ……」
アイレン
「『ヴィティスのヒーロー、カベルネ・ソーヴィニョンの、手に汗握る逮捕劇! いやあ、写真写りもいいよ、最高にかっこいいよ、カベルネ!」
カベルネ
「はは……」
フラン
「メディアに公開している範囲にしてくれよ。まだ事件の判決も出ていないんだからな」
アイレン
「そこは抜かりはないさ! かける範囲で、存分にカベルネとメルローの武勇伝を記事にして見せるよ!」
メルロー
「そういう趣旨の特集なんだっけ? それ……」
***
○拘置所
男
「面会だっていうから誰かと思えば……あんたか」
アイレン
「ああ。妹さんのことで話に来たんだ」
男
「い、いやだ、聞きたくない……!」
アイレン
「妹さんね、無事、手術は成功したよ」
男
「……!」
アイレン
「僕の方で色々声かけまわって、なんとか手術費を集めたんだ。約束の日にはちょっと遅刻しちゃったんだけれど。でも、手術を乗り越えて、少しづつ良くなってるみたいだから、君が出所する頃には、元気になった妹さんに会えるよ」
男
「あんた……(泣)すまねえ、俺なんかのために……」
アイレン
「君のためだけじゃないよ。だから……、出所したら、一緒にワインを飲もう。親父さんが好きだった、僕の白ワインを一緒に。もちろん、妹さんも連れて、ね」
男(鼻を啜りながら)
「……ああ!」
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