声劇台本集

独身貴族

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砂絵のセンセー二次創作 落語 風呂敷

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落語「風呂敷」砂絵のセンセーver
二次創作声劇用台本

!注意!
この台本は、二次創作のため、以下の場所での発表はお控えください。
・収益の発生する場所(投げ銭など)
・舞台や野外イベントでの使用(大衆の目につく場所での発表)そんなことは滅多にないと思いますが
少人数の配信などで楽しむ用にご利用ください。

《キャスト》
長屋の住人
センセー:砂絵師。住人からセンセーと呼ばれ慕われている。
オヤマ:女の格好をして芝居をし稼ぐ住人。いがぐり頭だが、カツラを被れば美人に化ける。
マメゾー:大道芸人。いろいろ道具を持っている。
(アラクマ):クマの真似をして金を貰う乞食芸人。cvなし。

男(あの人):最近オヤマと仲良くしている。かなり酔っている。

さて、今回のお話は落語「風呂敷」を下敷きにしました、「血みどろ砂絵」という小説の二次創作でございます。原作を知らない方もお楽しみ頂ける内容となっておりますゆえ、ご安心ください。

……………

ナレーション(マメゾーが兼ねる)
さてさて、本日はどうも、お集まりいただきありがとうございます。30分ばかりのお話となりますゆえ、どうぞ、楽な姿勢でくつろいで、お聴きくだされ。
今から始まります、お話に登場する者たちは、おそらくご存知の方は少ないと思いますので、少し紹介させていただきます。
舞台は江戸時代。神田にあります「なめくじ長屋」には、一癖も二癖もあるものたちが住み着いております。晴れた日には芸やら何やらで小銭を稼ぎ、雨の日にはジメジメと屋根の下で過ごす。よってなめくじ長屋と呼ばれているわけでございます。
本日、登場します住人は、クマの真似をして見せ物となり小銭を稼ぐ「アラクマ」、カツラを被り化粧をして、女に化けて一人芝居をする「オヤマ」、色とりどりの砂で地面に絵を描く「砂絵のセンセー」。そしてあっし、大道芸人のマメゾーでございます。
時は、もう陽が傾き、そろそろ夜が訪れるという頃、カツラも被らずいがぐり頭のままのオヤマが、血相を変えて砂絵のセンセーの元へかけこんできました………。

○なめくじ長屋のセンセーの部屋

オヤマ
センセー、どうしましょ、どうしましょ!

センセー
いやに騒々しいな、オヤマ。いくら急ぎだからといって、下駄をあちこちに脱ぎ散らかして、飛び込んでくるなんて、お前らしくもねえ。昨夜、もっとしおらしく生きるんだと話してたのは、ありゃ嘘かぇ?

オヤマ
だってぇ、センセー! 大変なことが起きちゃったんですよぉ!

センセー
お前の「大変だ」はだいたい想像がつく。痴話喧嘩だろう? 昨日の今日で、俺に頼られちゃあ、商売も考え事もできやしない。たまには自分でどうにかしてみちゃどうだね?

オヤマ
それができないから、センセーのところにきてるんじゃないの。もう、ね、今日はただの喧嘩じゃないの。下手をすれば、血を見るんじゃないかって冷や冷やしてるんですから!

センセー
そりゃ、穏やかじゃないな。何があった?

オヤマ
いえね、昨日も話してた、最近仲良くしているお方がいるんですけれど、その人が、今晩うちへきてくれって言うもんですから、あたしゃ嬉しくなって支度して行ったんですよ。「ちょいと用事があって、朝から出かけてくるから、帰りが遅くなる、勝手に入っててくれ」ってんで、湯に入って綺麗にして、あの人の住んでる長屋に上がらせてもらって、入り口を開けたまま、ちょっと涼んでいたの。そうしたら、アラクマが表であたしを呼んでるんです。「人ン家でなにしてんだ」って。ちょうどその時、雨も降ってきたもんだから、あの人は帰りが遅いっていっていたし、雨が上がるまでと思って、アラクマを中へ入れてお喋りしてました。そうしたら、あの人がいきなり帰ってきたじゃありませんか! しかもへべれけに酔っ払って! あたしゃもう、びっくりしちゃいましたよ!

センセー
家主が帰ってきて驚く奴がいるか。それじゃあ、お前はその人の顔を見る度、寿命縮めなきゃならないぜ。まさか今朝、その人は死んでいて、化けて出たってわけじゃなかろう?

オヤマ
だってさ、遅くなるから先に入って待ってろ、って何度も言ってたくせに、あんまり早いから、そりゃあ驚くしかないですって。

センセー
そこは素直に、無事に帰ってきたことを喜ぶところだろ。「ちょっと湯へ行ってくる」と手拭い引っ掛けて、ひょぃと出かけたまま三十年帰らねえ、そういう時に驚くんじゃないかぇ?

オヤマ
でもさ、聞いてくださいセンセー! あの人ったらさ、大変なヤキモチやきでね、あたしが他の男の人と話をしてるだけで、カーッと頭に血がのぼっちゃうんでさ。もう、あんなヤキモチやきの人は、日本中探したってどこにもいやしませんよ。
あたしがね、こないだその人と一緒に歩いていて、道でマメゾーとすれ違ったもんだから、挨拶がわりにニコッと笑ったら、「てめぇ、さっきの男とあやしいなっ」と、あれこれ詮索するんです。もう、うっかり誰とも話ができないんですって!
それで、ね、マズイじゃありませんか。アラクマが部屋の中にいるでしょ、ねぇ? もう、あの人ったら、カーッと頭に血が上っちゃうと、なにがなんだかよく分からなくなっちまうんです。口より先に手がでる方ですから、喧嘩にでもなったら大変だと思いましたんで、アラクマを三尺の押入れン中に、文字通りギュウギュウ押し入れました。それからあの人を中へ入れて、寝かしてからアラクマを出そうと思ったら、なんと、あの人が押入れの前にあぐらかいちゃって。しかも、へべれけなくせに、ちっとも寝ないんですよ~! 中にいるアラクマは生き物ですから、咳もすればくしゃみもします。それで見つかっちゃったら大変です。軒下にいるならまだ雨宿りをしていたって誤魔化せますけど、隠しちゃっただけ具合が悪いじゃありませんか。なんとか寝かそうと一生懸命骨ぇ折ったんですけど、どうしても寝てくれぁしない。もう、いま、仕方が無いから、「ちょっと待っといで、お酒を買ってくるから」って、あたしゃ飛び出してきたんですけど。ねぇセンセー、このままじゃほんとに大変なことになっちまいますから、なんとか収めていただきたいんです。お願いします!

センセー
なるほどねえ。まぁ、わかったよ。……なあ、お前さん。普段から、おれも言ってるだろう。もう少し相手を見たほうがいい、慎重になれ、と。だが、意見しようとすると、お前はうるさがって、「その話はまた今度」と誤魔化して逃げるだろう。だから今日こういうふうな災いを呼ぶんだよ。しかも、三尺の押入れに隠したのはあの図体のでかいアラクマときた。その人を寝かしてから出そうと思ったっていうけどだよ、もし寝なかった時のことまでは、頭が回らなかったみたいだな。

オヤマ
センセー。そんなこと言わないで、お願いしますよぉ。なんとか、ね?

センセー
分かったよ、こうなってしまったもんはしょうがない。なんとか収めてやるから、先にその人の長屋に戻って、場をつないでおくんだ。いや、ダメだよ、一緒に帰ったんじゃ、またその人にうたぐられるじゃねえか。だから、いいから、お前が先に帰って、なんとか気をそらしておくんだ。おれがすぐに行くから。大丈夫だよ、心配しなくていいから。ほら、行ってこい。(促す)

センセー
まったく、しょうがないやつだ。……みんなして、おれを宛てにしやがる。(ため息)さて、どうしてくれようか……
三尺の押し入れの中にでかい男が押し込められていて、家主がその前にどっかりと座ってる……あぁ、そうだ。いい策がある。マメゾー。いるか?

マメゾー
(隣の部屋から)はいはい、いますぜセンセー。ついでに話も壁の節穴から、全部聞いちまいました。

センセー
なら話が早いね。しかし、いかんな。このなめくじ長屋はあちこち穴だらけで内緒話の一つもできないときた。まあ、おれには隠して恥じるようなこともないが……と、マメゾー。お前確か、唐草模様の風呂敷を持っていたな。

マメゾー
へい、持っていますよ。

センセー
ちょいと、貸してくれないか。安心しろ、破いたり汚したりすることはねえからよ。

マメゾー
ちっとぐらい汚れたって構いはしませんよ。
お待ち下せえ、ただいま、そっちに持って行きますからね。
(外へ出て、センセーの部屋へ来る)

マメゾー
はい、お持ちしやしたよ、センセー。

センセー
ああ、ありがとう。で、ついでなんだが、ちょいと頭を貸してくれないか。

マメゾー
頭ですかぇ?

センセー
(風呂敷をかぶせる)

マメゾー
わ! な、なにをするんですか! いきなり風呂敷なんぞ、あっしの頭にかぶせて……真っ暗でなにも見えやしませんよ!

センセー
は、は。なにも見えまいか。そうかそうか。いや、すまなかった。ありがとう。

マメゾー
ふう……センセーも人が悪い。それで? この風呂敷を使って、なにをしようってんですかぇ?

センセー
ふふ。なに、悪いようにはしないさ。


○男の長屋の前

ナレーション(マメゾー)
さて、ところ変わって、とある長屋の前の路地。

センセー
さて、オヤマが言っていた長屋の前まできてみたが……おや、大きな声がしているな。家主はかなり酔ってるようだね……まぁ、その方がこっちは仕事がしやすいけどな……まだ喧嘩になってないといいが、と……あっ、オヤマが張り倒された。こりゃいけねぇな。おい! ちょっと待ちな!

○屋敷の中


んああ~~? あぁ、うぇ~い、誰かと思ったら、うっへへっ、兄ぃじゃねぇか! 上ってくれ、上ってくれぇ!

センセー
ん……?


最近、顔を見せねえから、どうしたんだと思ってたんだよぉ~。元気そうでよかったよかった。ヘヘッ。

センセー
どうやら、おれのことを自分の兄貴だと勘違いしているらしいな。こりゃ相当酔っているぞ。


おうおう、兄ぃ。いいところへ来やがった。ちょいと俺の話、聞いてってくれぇな? な?

センセー
(調子を合わせて)なんだよ、えらくご機嫌だが、人を張り倒したりして、穏やかじゃねぇな。どうしたんだぇ?


どうしたじゃねぇよ、兄ぃ。おれぁ、世の中で、こんなに悔しい思いをしたこたぁねぇよ。聞いてくれぇ、ここにいる、このオヤマ! えぇ?  おれぁ、こんな嫌なやつだとはツユ知らず、今日ただ今まで世話して来たけども、いや、今日は驚いた。まぁ、聞いてくんねぇ! 
いやねぇ、おれぁ、今日、仲間の寄り合いがあって、早くに出かけたんだ。そいでもって、遅くなるといけねぇから「先に入って待ってろよ」と、おれぁ親切でそう言って出かけた。ところが、向こう行ったら、用がトントントーンっと片付いちまってよ。「遅くなるよ」と言ってあいつを待たせちゃいるが、早く帰ったらそりゃあ喜ぶだろう、そう思って、俺の家だ、ただいまぁ!帰ぇって来ましたぁ!って入ろうとしたんだよ。そしたら、戸が閉まってやがんだ! 家主が帰ってきたってぇ言うのに! こりゃ変だと思って、ドンドンっと戸を叩くってぇと、こいつがガラッと戸を開けて、人の顔見て、親の仇きに出くわしたような面ぁしやがってよぉ、「お前さん、もう帰ってきたのかーぃッ!?」と、こう言うんだ。
「なんでぇ、帰ぇってきちゃいけねぇのかい!?」って聞いたら

オヤマ
「いけないことはないけど、お前さんは、遅い遅いって言いながら、あんまり早過ぎるじゃないかい?……早いから、ねえ、もう寝たらどうかぇ?」


とこう言いだすもんだから、
「どうしてそういう分らねぇことを言うんだ、『遅いから寝なさい』ってなぁ聞いてことがあるが、『早いから寝なさい』ってなぁどういうわけだ」っつったら、

オヤマ
「いいじゃないかさぁ、お前さん、あたしが寝ようってんだから、寝ようよ」


とこう言いやがる。だから俺は
「自分の顔をみやがれ。お前の顔は人を寝かせるどころか、寝てるものが飛び起きて駆け出す顔をしてやがる」って、こう言ったんだ。
でぇぃち、俺が帰ってきて、いきなり「寝ようよ」なんてなぁ、今の今までこいつから言われたこたぁねえ。えぇ? こいつだって、可愛かったよ、おれの帰ぇりを待ちかねて、長屋の路地ン所まで迎えに出てやがって、おれの顔を見るってぇと、ニコーっと笑いやがって、「お前さん、遅かったじゃないかよ~」って人の手を取るようにして、家んなか引き入れて、戸を閉めてぇっと、「何してんだよ、早くこっちへおほひでよほうへほへほうぁはは……(ヘラヘラする)なんてなぁ! いろんなことがあったよ、そん時は。だが、帰ってくるなり口から出た言葉が「寝ようよ」たぁ何事か、ってなんだろ!? こんなの、初めてだ! なにか悪いものを飲んだんじゃねぇかと、疑っちまうぜ。
でぇいち、寝ようってぇからには、なり、かたち、がらってぇものがあんだ。湯上がりでもって、洗い髪をちょぃと束ねて、薄化粧なんかしてよぉ、長襦袢のところへ伊達巻を胸高にきゅっと締めて、おれのそばへ「くの字」なりンながら寄ってきて、「お前さん、もう寝ようよ~」てなこと言われれば、おれぁ「フはぃはぃはぃ~」とすぐ寝ちゃうよぉ。それが、おめぇ、頭ぁいがぐりのままで、白粉もろくに叩かず、そいで持って色気もない声で「お前さん、もう寝ようよ!」ったって、相撲取ろうってわけじゃねぇんだよ。寝る気も酔いも覚めちまうってもんだろ。えぇ?

センセー
は、は。それはそれは……(つい苦笑する)


で、兄ぃ。お前さんはどうしたよ。何かあってきたんじゃないかぇ?

センセー
おれか? おれぁ、今、ちょっと仲間にごたごたがあってな、収めての帰りだよ。
近くを通ったから、お前のところに顔を出したってわけさ。


ふーーん?どんなごたごただ?

センセー
どんなごたごたって、下らねぇ話なんだが、まぁ、話のタネに聞いておけ。おれの友達に、大変なヤキモチな奴がいてね、そいつが、なんだか知らねぇが、今朝早くにね、仲間の寄り合いがあるっていうんで、ちょいと遠くに出かけてったんだ。


はあぁー、なるほどぉ……似たような話があるもんだ。

センセー
そうなんだよ。出かけるときに、遅くなるといけねぇから、「先に寝ちまいなよ」とかみさんにいって、そいつは出かけた。言われたとおり、かみさんは湯へ行き、寝る支度をしてくつろいでると、知人の若い衆が長屋へやってきた。「兄貴、いるかい?」ってな。そこへ、雨が降ってきたらしい。主人はいないが、追い返すのもなんだ。雨が上がるまでと若い衆を中へ入れると、そこへヤキモチやきの亭主がな、へべれけに酔っ払って帰ってきたんだそうだ。


……う~ん、マズイところへ帰ぇってきたじゃねぇか、そいつぁ。

センセー
そうなんだよ。仕方ねぇから、かみさんは若い衆を三尺の押入れに押し込み、亭主を寝かしつけてから出そうと思ったら、この男がまた、押入れの前にあぐらかいて、ちっとも寝ようとしなかった。


始末に悪りぃ野郎だねぇ。

センセー
そうなんだよ。それで、かみさんがおれんところに来て、なんとか収めてくださいって言うから、今、行って収めてきたってぇわけだ。


へーぇ……。そういうのは、どぉやって収めるんだよ。兄ぃ?

センセー
ワケねぇことさ。ネタはここにある、この風呂敷だ。この風呂敷をもってな、その家に入って行くと、ちょうどそのヤキモチな亭主が、大きなあぐらかいて、ふんぞりかえってやがった。


そん畜生が!?

センセー
そうそう。それで、そいつの後ろに三尺の押し入れ……おやっ、お前のうちにもあるじゃないか。この家はその家と作りが似てるなぁ、そっくりそのままだ。で、お前がそいつだとするだろ、すると、お前の後ろの押入れに若い衆が隠れてる……いや、この家じゃない、その男の家の話だよ! で、しょうがねぇから、この風呂敷をフワッと広げて、その男の頭にかぶせてやった……こんな風に。おい、ほら、ちょっと、こっちへ頭を出してみな。いやいや、教えてやるから。こういうことは、いつ役に立つかわからない。口で言ったところで分らねぇ、やってみたら一発で分かるから。そうそうそう、その男もぶつぶつ文句言いながら頭を出してきたよ。いいかい? 一回しかやらねえから、よく覚えときなさい。おれはいきなり、こう、ふわっと、風呂敷を被したってわけだ。ね? それから、こうして、端を全部集めて、こう、ぐるぐるぐるとねじって、ぎゅっと絞ってから、男の頭を抱え込んだ!……え? 「痛ぇ」だって? そうだよ、そいつも「痛ぇ」って言ってたねえ。どうだ、何か見えるか? 何も見えない? ほんとに見えないか? そうかそうか。こうして、見えねぇようにしといて、それからおれは、後ろの三尺の押入れの戸をスッと……開けて中を見ると……若い衆がね、でかい体を頑張って小さくして、足を痺れさせながら息を殺して丸まっていたんだよ。………しょうがないから、おれが「早く出ろよ」って、言ってやったのさ。そしたらノコノコ出て来たから、「忘れ物するんじゃねぇよ」そう言ってやったんだ……どうも、忘れものはないらしい。あぁ。……「下駄間違えるなよ!」とも、言ってやったんだ。下駄は間違ってないらしい……うん……オホン……「いつまでもそんなところでお辞儀なんかしてないで、さっさといけ!」って言ってやったら……そしたらスーッといなくなったんでね……それでこうして、風呂敷を取ってやったというわけさ!


なるほど~こりゃぁ、うまいこと逃しゃぁがったな!!兄ぃ!

おしまい。
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