Ice in love

白銀狼

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赤の葛藤

赤の思い

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「やっぱりか…」

 部屋はもぬけの殻だった…
(あいつの事だから、こうなるとは思ったが…一体何処に行ったんだ?)
 様子を見に行った時、ユリアの表情が暗かった。あいつ…何考えていたんだ?


 屋敷のリビングに全員を集め、ユリアが来るのを待っていたがなかなか来なかった。その為、アイリが探しに行き俺とカイトは待っていた。
「女性同士で話をしているんじゃないかな?」
 カイトが言う。俺は、少しだけ胸がキリッした。
(あいつは、一度倒れて目が覚めなかったんだぞ!なのに…)
 俺は、叫びたいのを我慢してアイリ達の帰りを待った。
 しかし、待ちきれず俺は屋敷中を探し歩いた。カイトは、何かを悟ったようにその場から動きもしなかった。それが悔しくて、足に力を込めて歩いた。全ての扉を開きユリアの姿を探した。何故かユリアの姿を見つけないとこのまま居なくなる気がしてならなかった。リビング、書斎、客間全てを探した。だが、誰も居なかった…人が居た痕跡も無かった…
 俺は、焦った。すぐに見つけないとと焦るばかりだった。
(後は何処に行ってない?あいつが行くなら?)
 走れっ走れっ…とにかく急げ!あいつを一人にしてはいけない…いけなかったんだ!
 次第に俺は、俺自身にイラつきを覚えた。屋敷の扉を出て外へ飛び出した。ふと、頭に浮かんだ場所。…あの丘へ行った。ユリアが倒れた場所。
(彼処に行けばユリアに会える!)
 しかし、ユリアは居なかった…
 俺は、その場に座り込み考えて考えて…次にあいつが居るだろう場所を考えた。でも…思い当たらない…これ程までに思い当たらない事が悔しかった。そしてこんなにも俺は…

 
 仕方なく屋敷に戻る事にした…ユリアが入れ違いに帰って居るかもしれない。アイリがユリアを見つけてくれている筈。そんな事を思いながら屋敷への道を歩いた。
 すると、扉を開けた後カイトが走って俺の所へ来た。
「ユリアがっ…ユリア様が帰って来た!」
「なんだって!!」
 カイトからテラスに行ったと聞き、急ぎ足で向かった。近づく程に二人の声が聞こえて来た。
(安心した…ユリアはちゃんとここに居る。)
 詰まっていた息が吐かれる。肺が緊張を解かれたように楽になり、脈打つ心臓がようやくそのリズムを取り戻した。
 その場をゆっくりと離れる。彼女達の空間を乱さない為にゆっくりと離れる。しかし…話の雰囲気はどんどん暗くなる…
「…あなたの力を借りるよ。」
 何のことだ?アイリは何を言っているのだろうか?
 アイリの言葉を聞いてしまって良いのだろうか?何が起こるのか?

(…俺は…知ってる…?)
 何故か自分は謎に思っていた事が紐解かれるようにスッキリしてきた。
 これからアイリの告げる事を俺は知ってる。ユリアが知りたい内容も俺達皆知っている。ユリアが聞きたくなるのも当然だ。俺がして来た事…ユリアが自分でして来た事…彼奴らが何を知って来たか…
(そうだ、俺は知っているんだ。)

 だったら俺は…どうするべきだ?全てを知った俺があいつを…ユリアを受け入れる為にするべき事は?
 ユリアは、ユリア自身が知りたいと願って知ろうとしている事実に立ち向かおうとする。何かを知りたい為なんだろう。
 俺は、ユリアが何を知っても受け入れたい。側に居たい。
 その感情と共に俺は、何故アイリに大役を任せてしまったのかが悔やまれた。アイリはアイリなりに考えたと思う…でも何故俺じゃない?何故見ていることしか出来ない?
 そんな事を考えていたら、テラスから遠ざかって居た。
(全てをあいつの全てを受け入れるったのに…何してんだ俺は…)
 
 今思うと単純な話だ。だが、あの時の俺は自分が許せなかった。いつもあいつを思っているのに何故…そんな感情が渦を巻く。カイトが心配そうな顔をして俺に駆け寄る。
(ユリアやアイリを心配してたのは俺だけじゃねぇ…)
 カイトは、俺の胸倉を掴んで言った。
「しけたツラしてんじゃねぇよ」
「すまねぇ。ユリアもアイリも無事に帰って来たんだな。良かったよ。」
「んな事じゃねぇ!なんで止めなかった!?」
「は?」
 俺は、耳を疑った。何故カイトは怒っている?何故俺が怒られている?不思議だった。
 理由を聞こうとした時気付いた。
(また、繰り返すのか?今度は俺が…くそっ)
 カイトは知っていた、だから俺に期待した。ユリアの記憶を取り戻したらどうなるかをだが、ユリアは記憶を取り戻す事を望んでいる。
「お前だけなんだよ…止められるのは…っ」
 俺の目の前でカイトは、うなだれる。柄にもなく、昔の恋敵と思っている奴に背中を押されている。
 
 俺は、きびすを返しテラスへ向かった。
 しかし…遅かった。また、負の連鎖は繰り返される。誰も求めていないのに、時は過ぎて行く。
 
 光の柱が見え、あいつがアイスが現れた。
 もぅ、手遅れだった…窓からテラスを見ると昨日までのユリアは居なかった…
 俺にとっても確かに望んで居た。好きな奴が帰って来たんだ。これ以上に嬉しい事は無い、筈なのに…今は喜べない…
 気づくとユリアはこっちを見ていた。何かを伝えなくてはいけない。気持ちはあったが決して俺は、ユリアの所へ行かなかった。行けなかった…
 確かにユリアは昨日までのユリアじゃないが…俺の知っているユリアだが…足が動かなかった。
 ユリアは目を伏せて、言葉を紡いだ。
(ご め ん ね…)
 そう聞こえた。
 そうしてユリアは俺から目を逸らし前を見据えた。
 過去を振り返らないと言うかのように…俺は、その言葉を聞きたくなくてテラスから離れた。

 愛する人の涙を見ることなく走り去った。
 その時俺は彼女の顔を見れず、彼女の思いを知ること無くひたすらに走っていた。
 
                                            ~赤の思い Fin~
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