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愛妻家の上司と行く社内旅行
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大盛り上がりとなったガールズトークも、早朝からの移動と、観光で疲れた体にお酒も入って、早々に眠くなってお開きとなった。
そして、今、0時半。
私は旅館の廊下を1人歩いていた。
実は宴会が終わった後、メッセージが一通。
〝0時半頃、葵の湯
良かったら一緒にどうですか〟
葵の湯?
施設マップで確認したら、大浴場の先にある、貸切露天風呂だった。
係長からのお誘い、断らないわけがない。
一緒に、温泉なんて、
嬉しい。
会える。
〝0時半、葵の湯〟
何度も時計やスマホで時間を確認しながら、こっそりお風呂の準備をしたり、ソワソワとその時間を待った。
だって、係長と2人で会うとき、こんな、待ち合わせなんか、事前にしたことなかったから。
少し緊張する。
一応、周囲を確認して“葵の湯”の戸に手をかけた。
カラカラ、と音が鳴る。
中はシーンと静かで、気配もなく、水音もしていない。
まだ来てないのかな?
「かかりちょー?」
小さく声をかけながら扉を閉めたところで、口の前に人差し指を立てた係長に肩を叩かれた。
「ごめんね、こんな時間に呼び出して。眠たくない?」
「…係長、とりあえずぎゅっとしてもいいですか?」
「はい。どうぞ。」
笑って頭を撫でようと手を伸ばした係長の背中に手を回す。そして胸に顔を埋めて息を吸い込む。
いつもの係長の匂いに安心する。
「…さっき、宴会の時、係長の態度、冷たかったから、ちょっと怒ってたはずなのに、もう忘れちゃいました。
メッセージ、嬉しかったです。ありがとうございます。」
顔を上げると、ちゅっとキスを落とされる。
いつもと違う、お酒とタバコの味がする。
「あれ?係長、タバコ吸うんですか?」
「あー、ちょっと付き合いでね。まぁ、吸えるだけで普段は吸わないよ。苦かったね。ごめん。」
「いえ、なんか、係長の知らなかったところ知れて嬉しいです。それに、旅行中に係長とキスできるなんて思わなかった。」
「僕もです。
誘ったものの、ここに水川さん来るまで少し現実味なくて、今会えて、触れることができて、すごく嬉しい。
僕と一緒に温泉、入ってくれますか?」
「それを楽しみにきたんですよ。」
2人並んで羽織を脱ぎ、脱衣所の籠の中に入れていく。
「なんか、並んで脱ぐの恥ずかしいです。」
「今更?」
「だって、いつもは…
今日は社内旅行だし、浴衣だし…
わたし、係長が脱いでるの見て、鼻血出そう…」
「褒め言葉かな?
本当は俺が脱がしたい気持ちでいっぱいなんだけどね。」
大きなガラス戸を開けると、
手前にシャワーのある洗い場と、
外に向かって大人2人と子供3人くらいは入れそうなちゃんとした岩風呂で、大浴場にも劣らない、充分に満足できる露天風呂になってる。
「向かいに見える山と、その下には海が広がって、昼間だったら眺めも絶景らしいよ。
夜だから、何も見えないけど…」
「でも、夜だから、とっても星が綺麗に見えますよ。」
「おー、本当だ、すごい…
でも、さすがに夜は寒いね。ほら、星見るならあったまって、空見よう。」
湯桶にお湯をとり、さっと体を流して、湯船に入る。
「綺麗…
まさか係長と一緒に、こんな景色見れるなんて思ってもなかった。」
「すごい数だね。ここだから見えるんだろうね。吸い込まれそう…あ、流れ星とか見えるかな?」
「どうしよう、何お願いしよう。
わたし、今日のこと、一生忘れられないと思います。」
山の上に位置するここは、周りに明かりがないから
、澄んだ空気の中、漆黒の空に広がる星が宝石のようにキラキラと白く輝く。
2人並んで空を見るなんて、いつかの夏、帰り道でたまたま見た花火以来だ。
あの時はただ尊敬してる上司で、隣にいる係長と「「おー」」と2人揃って口に出して、顔を見合わせて笑ったこと、それだけなのに少し嬉しかったのを覚えてる。
「さっきは…いつもと違う係長がいて、本当に本当に抑えるの大変だったんです。
普通にしようって思うけど、普通ってなんだろうって、意識してしまって。
会社だと全然普通でいられるのに、社内とはいえ旅行だし、でも会社の人たちいるし、お酒注ぎに行ったりとか、不自然じゃないかなとか。
話もしたかったし、近くにいたかったけど、2人にはなれないから。」
「大丈夫。おんなじチームだし、普通だよ。不自然じゃない。いつも会社で一緒にいるけど、誰も何も言わないじゃない。
明日、留守番組に一緒にお土産選ぼう?」
隣に並ぶ係長の手がお湯の中で私の手に絡む。
「俺も正直、さっき宴会場で、嫉妬した。
浴衣姿とか反則だし、すっぴん晒してるし、、本当ずるい。」
「お酒注ぎに行った時、なんか機嫌悪かったのはそれでですか?」
「俺だけしか知らないと思ってた君が、あんな大勢の目に晒されてされてるんだもの。気が気じゃなくて。
見せたくなかったんだ。周り男ばっかりだったから。ごめん、つい、…
仲介の山田とか、佐藤とか、
水川さんが魅力的だって、
喫煙所とかで、水川さんの話題で持ちきりだったんですよ…
俺のって言えればよかった。
俺だけ知ってれば良かったのに。
赤くなりやすい肌も、みんな見たかと思うと悔しくて、
「あっ、係長こないだ首にっ!」
「虫除けのつもりだったんだけどね、逆に惹きつけてしまうことになって後悔してるんです。」
そう言って繋いだ手が解けて、私の首の後ろの跡に添う。
見えないけど、確かにそこにあるんだなと確信できる。
係長の跡。
「係長も同じですよ?
わたしも嫉妬しました。あれだけだめって言ったのに。
前髪とか、浴衣とか…
女子社員の間で係長の色気がやばいって、話題になってました。」
「休みの日だし、スーツじゃないですし、お風呂入ったんだし、それはしょうがないじゃない。」
「また係長ばっかりずるい。
わたしもお風呂入ってから宴会行ったからしょうがないじゃないですか。
いや、です。
あたしの、です。
あたしだけ知ってればいいんです。」
「水川さんの独占欲、初めて聞いたかも。
くすぐったくて、なんかめちゃくちゃ嬉しいです。」
「ね、係長、キスしたいです。」
2人向かいって、キスをする。
係長の前髪から落ちる雫がとても綺麗で、
体が動くたびに、真夜中の静けさに響く水音は、どんなBGMより今は美しいと思う。
目の前にいる人が愛おしくて、現実だけどまるで夢みたいで、もう、離れたくない。
そのまま抱きついて、係長の首筋に唇を這わす。
「んっ、」
「あれ?かかりちょ、首弱いんですか?」
「そうかな?思ったことなかったんだけど、気持ちいい。なんかゾクっとしました。」
「係長の感じてる声、やばいです。
なんで…こんなの、かわいいって思っちゃいます。」
また抱きしめて、いつも私がされてるみたいに首すじから胸元にかけて、ちゅっちゅっとキスをして、時折舌先で舐める。
「んっ、水川さん、くすぐったいです。」
「係長、それ、わたしを喜ばすだけですよ。」
肩と首の間あたりにチュウッと、強めに唇をつける。
「水川さん、跡は…ダメだよ…」
「軽くです。すぐ消えます。残ったら全力で隠してください。
…これはお仕置きなんで。」
ダメと言いながら抵抗しない係長。
私の頭をそっと撫でてくれる。
舌を這わせてチュッと吸い付いた口を離すと、見慣れた赤い跡より小さくて、虫刺されの跡みたいな淡いアザが残る。
「あ、ついた。
なんかハートマークみたいになった。かわいー。」
「あーあ、やっちゃいましたね。どうしよ。
…でも、なんか想像以上に嬉しいかも。
いつも、こんな気持ちでいてくれたの?水川さん、俺の跡、嬉しい?」
「本当は皆んなに見せびらかしたいくらいですよ。」
「もう、この後温泉入ること、ないよね。俺も、つけてもいい?」
「はい。嬉しいです。」
私を抱きかかえてお風呂のフチに座らせる。
「寒くない?」
「いっぱいあったまったから、大丈夫です。」
そのまま唇へのキスから、頬、首、胸と、下に向かってキスを落としていく。
「あれ?こないだしたとこ、まだきれいななままだね。」
お腹にキスをした係長が、下腹部を撫でながら言う。
「あっ、それは…
係長があんなことするから、チクチクして…
今サロンに通ってるんです。
別に、係長のためとかじゃなくて、あのっ、ラクだから。」
「ふーん。
サロンって女の人ですか?」
「もちろんです!」
「今日、温泉でみんなに見られちゃったんじゃない?」
「さすがに、、みんなに見られるの、恥ずかしくて、それでご飯の前の人が少ない時に入ったんです。」
「で、すっぴんで宴会に参加した、と。
ほんと、化粧、マナーなんじゃなかったの?
俺しか知らないと思ってたのに…」
腕を回し、ぎゅうとお腹に抱きつく。
「あはは、昔は化粧下手だったし、私のすっぴんなんて、苗ちゃんとか、私の同期とかは見飽きてますよ。
でも、拗ねる係長、かわいい。初めて見ました。」
私に甘える大人の係長がかわいくて、ついつい頭を撫でる。
「…じゃあ、その拗ねてる俺がどうなるか、教えてあげるよ?」
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