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愛妻家の上司にキスしてみたら
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社内の大会議室。
15時からの全体会議の準備をしていた時だった。
お互いに期待をしていたのか、手早く準備を終えて、会議開始まで30分はある。
窓からも死角になる部屋の角、出来るだけ壁に身を寄せてキスをする。
「係長もう一回していいですか?」
「それよりも、もう少しだけ欲しいんですが、どうでしょうか?」
今までのキスでは、物足りなくなったのか、係長が困ったように告げる。
わたしも随分前から実はそう思ってた。
係長の顔がやばい。
笑った顔はかわいいのに、キスの時に見せる男の表情。
もっと見たいと思ってしまっていたのだ。
「例えば、どんなことですか?」
わたしは係長の質の良さそうな上着の袖口を引っ張って、少し距離を詰める。
「そうだね…」
わたしの目を見ながら、次第に近づく係長の顔。
この近づいてくる唇をじっと見ているこの時が、わたしはとても好きだ。
係長の少し開いた口が、初めてわたしの下唇を啄む。
わたしはそのお返事として、係長の上唇を啄む。
あぁ。気持ちいい。
脳にまでしびれる背徳のキス。
無意識に、舌で係長の唇をぬるっとなぞる。
そのままお互いの舌が絡まる。
なんか溶けそう…
キスってこんなに気持ちよかったっけ?
「キスってこんなに気持ち良かったっけってくらい、水川さんとのキス、やばい。」
唇を離して係長が小さな声でいう。
すごい。同じこと思ってた。
「係長、なんか、やっぱりこれはダメです。
わたし、ドキドキしてしまって。顔赤いかも…このままデスク戻ったら、何かあったかと、バレちゃいそうです…」
「それは困りましたね…僕もですけど。」
そう言いながら少し笑みを浮かべただけの、いつものポーカーフェイス。
ずるい。
再び、ゆっくり近づいてくる係長の顔は、もう、色気溢れる男の表情だ。
ちゅっちゅっと音が鳴る。
広さのある大会議室では、音が、響く。
「か、かりちょ、さすがにもうダメです。人がくるかも。わたしも、もう、だめです。」
しかも、上手い。
このまま、会社であることも忘れて、そうなってはダメな人ということも忘れて、この先を望んでしまいそうになる。
「ごめん、も、少し…」
それからしばらくはむはむと堪能され、解放されたわたしが、顔が隠れるマスク姿で、会議に参加したのは言うまでもない。
いつのまにか主導権がわたしから係長に替わってる。
魔が刺した一瞬からの悪戯心が、少し戸惑いに染まり始めている。
実は、最近彼氏と〝そう〟なるときも、少し罪悪感を感じている。
係長とキスをする時に彼に対して罪悪感を感じるのではなく、彼氏とキスをする時に感じてしまうということは、それはきっと係長のこと…
だめだめ。ないない。やめやめ。200%ない。
世界がひっくり返らない限り、私が勝つことのない負け試合。
そんな勝算のない試合絶対しない。
わたしはスリルを楽しんでるだけ。
ダメだ。
わたしは絶対にそっち側にはいかない。
ーーーーー
次の休みの前日。
さすがにもう、これ以上は無理だ、やめようと思って、係長を呼び出した。
車で家に送るから、その間話をしようっていうことになった。
仕事終わり、こっそりと車の影で係長を待つ私。
ピピッ、とロックが外れる音と同時に、
「お待たせ。乗ってください。」係長の声がする。
助手席に乗り込み、シートベルトをする。
それを確認し、係長はさっと車を発進させる。
しばらく無言の車内。
呼び出したのは私だ。
このまま無言で家に着いてしまったら、何のために呼び出したのか。
頑張れわたし!意を決して口を開く。
「係長、あの、、このままじゃまずいと思うんです。
私たち、今まで唇がちょっと触れるだけのキスだったから、あんまし悪いことしてる感覚がなかったんですけど、やっぱりそれ以上はダメというか…この間の会議室とか、なんか気持ちよくって…勘違いしちゃいます。」
「…この間はすみませんでした。僕も、歯止めが効かなくなってしまって…水川さんとのキスは気持ちよくて、ついやめられなくなってしまいます。本当にどうしたらいいんでしょうね。」
渋滞なくスムーズに進む車の中、
私と係長の声が響く。
まるで別れ話をしている恋人のようだけれど、
私と藤沢係長は、決して付き合っているわけではない。
ただただ、キスを交わす仲だ。
海外ならただの挨拶じゃないか。
その関係に終わりを作らなければならない。
ふと、運転席の係長を見る。
右肘をウィンドウの縁に置き、指を口元に持ってきて、指先で下唇をなぞる…
仕事中、考え事をするときに係長がよくやる癖だ。
昔は何も思わなかったのに、係長とキスをするようになってから、その姿を見るたびに心がざわめくようになった。
そして、その姿に、また、係長とのキスを思い出してしまい、自分もふと唇で指を挟む。少し熱い。
何度も何度も係長の唇に触れた私の唇。
もう、終わりにしないと…本当に取り返しのつかないことになってしまう。
「藤沢係長、もう、こういうことやめませんか?
最初にしてしまったのは私なので、係長を弄ぶ形になり、大変申し訳ないとは思うのですが…っ!
信号待ち、運転席に座る彼が突然助手席に座るわたしにキスをした。
「…話をするのに、こんな簡単に男と密室で2人きりになったらダメですよ。
どちらかと言うと、弄んでるっていうのは僕の方だね。だから君は謝る必要なんてないんです。
ここ、高速に乗りますから、
少し帰りが遅くなりますけど…いいよね?」
ーーーーー
高速道路のパーキングに停めて、口付けを繰り返す。
平日の夜、車もまばらだ。
車内には、相手の唇を貪るリップ音と、漏れ出る吐息が響く。
「耳触ってもいい?
髪の毛、一つに結んでる時に後ろから出てる耳が気になってた。ちっちゃくてかわいいね。」
そう言いながら係長は私の耳たぶのピアスを弾く。
くすぐったい。首の後ろがゾワゾワってなる。
「あっ、やだっかかりちょ、くすぐったいです…」
「こっちは?」
耳の中に指が入る。
耳が塞がれて、ちゅっちゅっというリップ音が頭の中に響いておかしくなりそうだ。
どうしよう。
拒否できないし、したくもない。
この行為の終わりが見つからない。
欲しいと思ってしまったら最後だ。
それだけは絶対にダメだ。
でも、このまま係長の背中に手を回して抱きしめたいと思う。係長の熱を直接感じたい。
ピピピピッ、ヒピピピッ_____
突然車内に鳴る電子音。
「はい、藤沢」
なにもなかったかのように電話に出る係長。
空気が一気に変わる。
「あぁ、…うん、うん…そうそう、…それは明日連絡するから大丈夫だよ。わざわざ報告ありがとう。お疲れ様。」
ほてった顔のわたしに対して、係長はいつもの藤沢係長の顔だ。
「残念。邪魔が入っちゃいましたね。続きはまた今度にしましょう。」
そういってエンジンをかけて車を出す。
なんで…
なんで、こんなに中途半端で…
気持ちの波が大き過ぎて、余韻が苦しい。
係長はずるい。あんないつもと同じ顔、わたしのことどう思ってるの?
この関係を終わらせるためにこの車に乗ったはずなのに。
なにも変わらない。
いや、感情のない、ただの気持ちのいいキスだったはずなのに、もっともっとその先を望んでしまうキスを知ってしまった。
今は完全に係長のペースだ。
わたしは開けてはいけない扉を開けてしまったのかもしれない。
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