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愛妻家の上司とキスがしたい
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しおりを挟むーーーーーside Mizukawa
ポタッ______ポタッ_____
光沢のある大理石調のフロアに、落ちる水音が響く。
上着から、髪の毛から、次々につたって、落ちる。
外の雨音も、今ここでは気にならない。
静かな空間に聞こえるのは、落ちる水音と、互いの呼吸ぐらい。
少しでも早く、と、2人、雨の中を走った。
ドクドクと鳴る心臓は、運動不足の知らせなのか、それとも、今、自分がここにいることに緊張をしているのか。
ここにいるという結果はあるけれども、理由や理屈なんてここに至るまでは朧げだ。
ただ、
衝動。
言葉を発してしまうと、だめになってしまいそうで、2人とも一言も喋らなかった。
といっても、何を喋ったらいいのか、何が必要なのか、もう、わからない。
さっきまで私を雨から守ってくれて、すっかり色の変わってしまったグレーのコートを目の前に、歩く。
静かにゆっくりと、でも、どこか忙しなく。
はやく。
はやく。
ランプが灯る、一枚の扉。
暗い色をしたそれは、正解の扉なのか、それとも不正解のそれか。
とは言っても、初めから選択肢なんてないのだけれど。
その扉を選んだのは私達だ。
たとえ棘のある蔓が巻き付いていたとしても、きっと、その扉を開けるのだろう。
私達は、傷を伴い、先に進む。
金属製のドアノブに手を掛け、室内に入る。
まるでコンサートホールのような呼吸音さえも憚られるような空間から解き放たれ、少しだけ薄まる緊張感。
ダークブラウンの床に、白の壁紙。
想像していたより、シックな内装の部屋で少し安心する。
深呼吸しながら、ぐるりと見渡す視界の中、部屋の中央にあるのは、部屋に対して主張しすぎてる大きなベッド。
薄まったはずの緊張がまた戻ってくる。
そう、
私が、私たちが今、ここにいる訳は…
グイッ
突然、横から掴まれる腕。
顔を上げた私の目に映るのは、濡れた前髪から覗く、2つの瞳。
その瞳で、何を伝えたいのかは分かってしまった。
それは、私も同じ。
あなたが言わないなら、私が告げてた。
「ごめん、キスしたい___」
言い終わるや否や、濡れた唇が合わさる。
それぞれを濡らしてた雨水は、一緒になって床を濡らす。
溢れた水滴が頬を伝う。
大きな手が私の後頭部を支え、私の唇を追いかける。
濡れた髪の間に通る長い指で、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でながら、まるで、私を逃がさないように。
逃げるつもりなんて全くないのに。
それは、
ずっと、ずっと、望んでいたこと。
ずっと、ずっと、欲しかったもの。
何度も求め合った唇、
舌の熱さ。
この感触、覚えてる。
体が覚えてる。
溶けそうで、
溶けたくて、
もうどうでもよくて。
何も考えたくなくて。
「___欲しくてたまらなかった」
「あたしも、です…」
互いの腕を首に回して、耳元に唇を寄せる。
熱を孕んだ小さな声が、私を耳から犯す。
あの時聞いた係長の声。
会社では聞くことのない、係長のオスの声。
お胎の中を掻き回されるような、そんな感覚が体を駆け巡る。
再び唇を合わせながら、係長は自分のコートとジャケットを脱いでソファへ投げる。
雨に濡れた重みで、ドサっと、重量感ある音が部屋に響く。
「あっ、服、シワに、なっちゃいます、」
「そんなの、後でいいから__」
そして、私のボタンに手をかけ、コートとジャケットをまとめて肩から落とし、そのまま濡れたブラウスの上から膨らみに触れる。
「あっ、やっ!」
「お願い…水川さんの声、聞きたい、聞かせて…」
そう言いながらも、
キスで唇を塞ぐから、思うように息ができず漏れる声。
酸欠のように思考能力が低下して、ただただ与えられる快楽に身を任せる。
私も係長の濡れたシャツに手をかける。
指先が思うように動かなくて、シャツのボタンを外す時間が惜しい。
いっそのこと破ってしまいたいくらいの衝動に駆られるほどに。
「…腕上げて。」
「あっ、待ってください、今日、下着、かわいくなくて、見せるの、恥ずかし…」
「大丈夫、かわいいよ。
それに、すぐ、そんな理性、なくなる…」
そう言いながらブラウスを首から抜き取り、そのまま背中に回した手でプチン、と器用にホックを外す。
そして、私の体をギュッと抱き締める。
係長の匂いだ。
ほんの少しだけするいつもの香水の匂いと、トクトクと聞こえる、少し早い胸の鼓動に安心させられる。
私を緊張させるのも、落ち着かせるのも係長だなんて…
もう、ずっとこのままでいたい。そんなふうに思わせる安心感。
どうして…これが間違いだというのだろう。
「水川さん、体冷たい…」
「係長もですよ。」
「寒い?」
「大丈夫です。
だって…これから熱くしてくれるんでしょ?」
「また君は…俺を煽る天才だね。
言っとくけど、もう、俺、戻れないよ。」
「あたしは、もう何も、考えたくないです。ただ、目の前の係長が欲しい__ね、キスしてください。いっぱい、」
私の額に触れる、係長の濡れた前髪。
濡れた首筋に這う、熱い唇。
冷たい背中をなぞる、冷たい指先。
熱い口の中をかき回す、熱い舌。
私の目の前にいるのは、藤沢係長。
一度きりのはずだった、あの日の想い。
思い出す、あの満たされた日の夜を。
「係長、あたし、係長のこと…
ポツリとこぼした言葉の続きは、熱い唇で遮られてしまって。
言葉を紡ごうとする私の口は、係長に気持ちよく支配され、言葉なんてどうでもいいと思わされる。
やっぱり係長ずるい。
…でもわからなくもないから。
係長は、家族があるから。
それは手放すことなんてできないし、私もそれを望んでいない。
私は、係長をただ求めるだけでいいけど、もし係長が私のこと、本気になってしまったら、この関係も、藤沢係長と水川かえでとの関係も終わりを告げるだろう。
ずるいのは私だ。
求めるだけ求めて、この関係の行方を、全て係長に委ねてる。
自分じゃ、もう決められない。
また、肌が触れ、触れた部分から熱を持つ。
吸い付いて離れない、気持ちいい肌の感触。
唇が肌を這う。
もっと、触れたい、キスしたい。
「か、係長、あっ、もう、立ってられない、っ」
激しいキスと、肌をなぞる係長の指に、ゾクゾクして。頭のネジが全部飛んだようで、頭の中の全てが気持ちいいしか感じなくて。
膝の力が抜けて崩れ落ちる私の腰を、係長の腕が抱く。
「ごめん、俺、急ぎすぎてるね。」
「や、じゃないんです。嬉しくて。本当はもっとしてほしくて。
ね、早く、ベッドに、連れていってくれませんか。」
雨を理由に手に入れた、2人だけの空間。
何も考えずに求め合いたい。
忘れられないあの時のように。
覚えてる熱を、確かめ合いたいとカラダが叫ぶ。
早く、早く、
もう、どうなっても構わないから___
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