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introduction
ぐしゃぐしゃのレシート
しおりを挟むーーーーーside Woman
トイレの前の衝撃の出会いがあって、
少しだけ話をして、
全然変わってないところに安堵して、
耳に心地よい、落ち着いたテノールも、
久しぶりに触れたあの人の手も、あいかわらず大きくて、あったかくて。
最初は背の高いひとだなって、そう思った。
子供みたいに笑うんだなって、目で追った。
事あるごとに声掛けてくれて、冗談言い合ったりした。
あの人の声がすると、ドキドキして、
あの人の足音、わかるようになって
あの人が来ると、嬉しかった。
すごく好きだった。
でも。なにもできなかった。
あの頃、好きで好きでたまらなかった、人だった。
あの後、何度かチラッと彼の方を見たけど、やっぱり目が合うことはなかった。
私、なんか期待してる?
ただ、久しぶりに昔の後輩に結婚式で会っただけって、きっと、そう向こうは思ってるから。
ただそれだけ。
でも、
もう少し話がしたかった。
もう、二度と会えないと思ってた。
まさかまた会うなんて、どんな運命のいたずらなんだろう。
『まさかまた会えるなんて思わなかった。』
彼の言った言葉が頭の中で無限ループしてる。
会いたいと思っててくれたのだろうか?
私の自惚なんだろうか。
どうしよう、声かけようか。
でも不自然?
自然にできる?
自然ってどうやってするの?
そもそもただ話しかけるのに自然ってなんだ?
あの後の披露宴の内容も、料理の内容も、申し訳ないけどほとんど覚えてない。
覚えてるのは、ドリンクメニューのお酒の種類と後輩のカラードレスは赤だったなってことぐらい。
トイレの前のあの数分が、式の時間より長かったように感じた。
一気にあの人数が会場を出て、人々が行き交うホテルの正面ロビー。
私は壁にもたれて、動けないでいた。
ザワザワとする中で、私の耳は敏感に拾う。
どこかであの人の声がする。
やめて、わたしの心、乱さないで。
ぎゅっと目を瞑り、耳を塞いだ。
でも、頭の中でもするのはあの人の声。
メモを渡すのはどうだろう。
それならなんとか!
名案だ、と、
バッグの中からちょうどいいタクシーの領収を見つけて、裏に書く。
話がしたい。
…なにこれ。こんなん渡されてもわからないでしょ?しかもレシートって。
レシートを手で握りつぶし、
そのままズルズルとしゃがみ込み膝を抱える。
はあっ。
いい歳して、自分のバカさ加減に呆れる。
なにも考えずに、あの頃みたいに普通に、話しかければいいじゃない。
変な期待してるから、もし違ったらって、怖くなって動けないんだよ。
もーーーー。
目の前が影になり、ふと顔を上げる。
「大丈夫??」
彼が、いた。
「めちゃめちゃお酒飲んでたもんね。
具合悪いの??」
そう言いながらしゃがんで私と目線を合わせる。
「なんで、そんなこと、知ってるの?」
そう、口から出た声は震えていた。
「さて、どうしてでしょう?」
意地悪な顔をして、私の耳元でささやくと、
私の腕を持って立ち上がらせる。
「高宮さーん、大丈夫ですかー?」
「うん。酔っ払って気分悪くなってたみたい。
大丈夫そう!」
行っちゃう…
もう会えなくなっちゃう。
もう、最後なの?
嫌、これで最後なんて嫌!
私は握り締めたままだったぐちゃぐちゃのレシートを、無言で彼の手のひらに押し付けた。
彼は掌にのったその紙を見つめ、そして丸まったレシートをそっと開いて、そしてまたぎゅっとメモを握った。
「…少し、待てる?
後輩送ったら戻ってくるから、ちょっと待ってて。」
そう、また耳元でこそっとささやいて、
すぐに出口に向かって行った。
うなずくので精一杯。
あっという間。
一生分のミッションをクリアした気持ち。
はぁーーーーーーーっ、長いため息をつき、
体の力がふっと抜け、また、その場にしゃがみ込んだ____
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