【完結保証】葡萄牙の大うつけ~金平糖で何が悪い~

キリン

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【第一部】第一章 憤怒の黒炎

ケンカするほど仲がいい

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昨日という日から時間がたち、太陽が昇り朝が来た。
覗き込むように水平線から昇ってくる日の光は、とても眩しい。
そんな夕日を、屋根の上で少女は見ていた。
槍を小脇に挟み、何処からともなく吹いてくる風を受ける。
風は自分に当たり、霧散し、後ろへと流れていく。
懐かしい感じだった。
友が、あいつが自分を呼んでくれた時のような、自分が死をも恐れず英雄になりたいと願った時のような。
あの時に乗った船での旅は、とても有意義で夢に溢れていた。
これでこのひらひらしたダサい服装からおさらばだとか、これで後世に名を残せるだとか、頑張れば父と母は仲直りしてくれるのかなだとか。
そんな希望を抱きながら、空を飛ぶ鳥のように手を広げ、自由に空を走る風を楽しんだりしたのだ。
「・・・・・・・ま、現実そんなに甘くないよな、うん」
少女はそのまま立ち上がり、屋根から降り着地する。
そのまま振り返り、ドアノブに手を添えて中に入る。
ひらひらした服装が結局似合った、女だから。
父と母は最期まで仲良くしてくれなかった。
出来たのは、名を残したことだけ。
大英雄、ギリシャ最強、トロイア最強。
そんなもの、耳にタコができるほど聞いた。
でも、忘れないでほしい。
どれだけ強かろうが、どれだけ後世に名を残そうが。
結局は、自分は人殺しで名を残したのだから。







「うまい!、お代わり!」
「んーんー!」(特別意訳・みーとぅ)
日曜朝の7時という神聖なる時間に、どでかい声を発する二人がいる。
一人はほっぺに米粒を七粒くっつけている信長、もう一人は食べながら喋る行儀の悪いジャンヌ。
空になった茶碗を二つ同時に向けられたアメリアは、一瞬たじろぐ。
「えっと・・・・・もういいんじゃないですか?、二人とも食べすぎだと・・・・・・・」
いつもは冷静で無表情なアメリアの顔が、がっつりドン引きしている顔になっている。
しかしそんな事はこいつらに関係ない、容赦なく茶碗をアメリアに突き出す。
「悪いのはお主じゃ!、こんなにうまい飯を作るお主じゃ!」
「ん~んん~んんん!」(特別意訳・いいからさっさとして)
鬼のような気迫を持った二人に押され、アメリアは茶碗にほっかほかの白米をてんこ盛りにした。
それはもう山の如く、小顔のアメリアの頭ほど盛った。
これで腹いっぱいになるだろう、いやならないと私はもうこの家から出ていく、そんなことまで思考するほどあの二人の食欲と殺気(笑)はアメリアに恐怖を与えた。
がつがつ食べている二人をチラ見し、様子をうかがう。
二人はがつがつ白米を口に運び、山ほどあったスクランブルエッグをブラックホールの如く飲み込む。
「・・・・・・・・・はぁ」
思わずため息をつくアメリア、自分が育ち盛りだった頃、母もこうだったのかなぁと改めて母親の偉大さを拝むほど知るのであった。
「・・・・母親、ですか」
少しだけ、昔のことを思い出す。
料理を教えてもらった、好きな服を買って貰えた、得意のボクシングを教えてもらった。
笑顔が素敵で、髪が綺麗で、家族を愛していて。
自分が空を飛びたいと言った時も、反対する父親と対立してまで私を後押ししてくれた。
私が初めてちゃんと空を飛んだ時も、地上から見ていてくれた。
それから帰ってくると、私を抱きしめて母は言うのだ。

凄いわアメリア、私の自慢よ。

私が最後の空の旅に出ようと思ったのは、母の言葉の影響もある。
自分が飛びたいという理由もあったが、自分の挑戦を肯定してくれたのが嬉しかったのだ。
でも、その結果自分は死んだ。
空から落ちて、潰れて。
・・・・・・・あの後、母はどうしたのだろう。
泣いてないと良いな。
怒ってないと良いな。
ああ、本当に。
私はーーーーーーーーー
「アメリァッ!、聞いておるのかこの馬鹿もぉん!」
「ふぇやぁっ!?」
耳元での大きな声に驚き、アメリアの口から変な声が出た。
それだけではなく、その場に尻もちを付き、後頭部を壁にぶつけて打った。
くらくらする後頭部を押さえながら、アメリアはその場にうずくまる。
だが宙に浮いたような状態の思考は怒りで正気に戻り、アメリアは勢いよく立ち上がる。
「いきなり耳元で叫ぶとか馬鹿じゃないですか⁉」
珍しく声を張り上げ、無表情な顔は太陽のように真っ赤である。
そんな太陽のように赤いアメリアの訴えを超至近距離で受けた信長は、一瞬目を丸にしてから正気を取り戻す。
「なぁっ・・・・・・何度話しかけても返事しないお主が悪いんじゃ!、儂は悪くない!」
腕を組み、その場に座り込むさまは頑固おやじの如く、「私は絶対に動きません」と主張しているようなイメージが自然と出てくる。
なんか横目でこちらを伺う信長、その態度にアメリアの何かが切れた。
がしっ!、と、信長の耳を人差し指と親指でつまみ、思いっきり引っ張る。
「な・に・が!?、自分は悪くない?、じゃあ私が悪いんですか⁉、耳が千切れる前にお答えした方がよろしいかと!」
「aaaaaaaaaaaaッッ!、分かった!、分かったから手を離せ離してくださいお願いします弁天しゃまぁaaaaaaaaaaaaaaaaa」
ドタバタギャーギャーうるさいこの状況を読者の皆様に見せるのは大変心苦しいのだが、大人の事情でこうしなければいけない時が作者にはあるのだ、男には、やらねばならない時があるんです。
もんのすごく底辺な争いをしている二人を、金平糖を貪る二人は見世物のように見る。
「なぁ、面白そうだから俺も混ざっていいか?、素手でやるからよ」
「いやダメだよ君があそこに入ったらこの家壊れるよ?」
鋭いナポレオンのツッコミにウキウキしているアキレウス、少ししょんぼりしてテーブルに肘をつく。
だが、その表情はすぐに笑みへと変わった。
「・・・・・・いいな、この家」
「え?、別にそこまで良い家でもない・・・・・・」
ふと横を見ると、言いかけていた戯言は宙に消えていた。
アキレウスの顔はいつも通り笑っていて、気迫があって。
どこか寂しそうで、悲しそうで、羨ましそうだった。
その表情を見て、ナポレオンは少しだけ笑みを崩した。
でも、瞬きする頃にはいつも通り笑っていた。
「そうだね」
かちゃ、と、持っていたコーヒーカップがテーブルに置かれ、ナポレオンは大乱闘している二人を見る。
アキレウスの目と、似たような目で。
「僕もそう思うよ」
そう言って、ナポレオンは黙って二人を眺めた。
端から見れば、仲が悪く見えるだろう。
お互いの耳を引っ張り、暴言を吐き散らし、いがみ合う。
でも、そこに殺意はない。
よく見ればどちらも笑っていて、楽しそうだ。
そういえば、日ノ本にこんなことわざがあったかな。

ケンカするほど仲が良い、この状況がまさにそうなのだろう。











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