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【第一部】第一章 憤怒の黒炎
憤怒の黒炎
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屋根の上を走る。
斜めに傾いた屋根を走り、次の屋根へ飛び移る。
飛び移る度に体が痛むが、そんなに気にしてはいない。
不思議と痛くないのだ。
腫れ上がった顔面も、体中のいたるところも、全然痛くないのだ。
だが、それでも痛いものがあった。
あの少女が泣いた、その事実が心を焼き尽くす。
頭の血管がはち切れる程、腸が煮えくり返った。
許せない。
自分が何より許せない。
何故忘れていた?。
なぜあの時倒れた?。
許すな、自分を。
お前はもう、罪人だ。
「来ましたか、織田信長殿」
振り向きざまに、軍師の男は腰の刀を抜き、怒りと憎悪に満ちた刀を受けた。
ガキィン!、と、力任せの一太刀が軍師の男に炸裂し、後方へ勢い良く吹っ飛ばされた。
錐揉み回転した軍師の男は、着地する瞬間に受け身を取り、背中の弓矢に手を掛けた。
信長はそんなこと気にもせず、怒れる猪の如く向けられる矢先に突っ込んだ。
一歩、たったそれだけで間合いに飛び込む。
横薙ぎに腕を振るえば、刀が相手の肉を裂くだろう。
真っすぐ、綺麗に。
だから死ね、今すぐ。
さっさと自分を、この暑い熱い炎から解放してくれ。
死んでくれ、頼むから。
これ以上自分を、怒り狂った真のうつけ者にしないでくれ。
「アァァァァァァァアアアァァァアアアアッッ!」
叫びながら、信長は刀を握り締め、獣の如く猛進する。
刀が振るわれる直前、軍師の男は弓を弾き絞り、掴んでいた矢を離した。
閃光の如く速度で矢は信長の眉間へと向かい、真っすぐと突き刺さった。
「・・・・・最早人間ではありませんね、フンッ!」
軍師の男は懐から刀をもう一度抜き、振るわれる憎悪の剣を受け止める。
ジィイン!、と、振るわれた憎悪を受け止めた瞬間、火花が散った。
散った火花が軍師の男の頬をかすり、焼け焦がす。
「死ね」
ドォン!、と、鍔迫り合いの中、信長の膝蹴りが軍師の男の鳩尾に炸裂し、勢い良く吹っ飛ばされた。
軍師の男はギリギリのところで蹴りを受け、宙を舞いながら信長を見据える。
「・・・・・・バケモノめ」
歯噛みするのも無理はないだろう、軍師の男の言葉は紛れもない真実であった。
体は炎で包まれていた。
足の先から指の先まで、隅から隅までが包まれ、鎧のようにも見える。
炎の色は黒、焼かれる信長を象徴したような黒煙。
眉間に放たれた矢は刺さらず、今もなお信長の口によって嚙み砕かれていた。
その姿、魔王の如し。
全てを捻じ伏せ、怒りと憎しみのまま全てを蹂躙する者なり。
持つ刀だけではなく、その身すら炎に飲まれる。
即ち、うつけ。
自らですらも見失い、ただすべてを破壊する愚か者。
やりたいことなど、とうに消え失せた。
殺した命など、山のようにある。
自分など、とっくに燃やし尽くした。
「もう、儂は戻れない」
ブゥン!、と、黒く燃える炎に包まれた刀身を振るい、燃える魔王は言う。
「涙は乾き、心は焦げ、全ては塵と成った」
真っすぐ、歩く。
軍師の男は持っていた刀を構え、後ずさりする。
「儂を止めたければ明智を連れて来い、貴様のような貧弱モノが相手は出来ぬ」
魔王の気迫に押され、軍師の男は矢を撃った。
矢は先ほどよりも早く、鋭く、魔王の未見へと吸い込まれていく。
そして、魔王を包む炎によって塵と成った。
「・・・・・・・バケモノめぇっ!」
軍師の男は弓を何度も引き絞り、矢を放つ。
届くことはない、全ては塵になる。
一射、二射、確実に当たったはずの矢は燃え尽きていく。
そして、矢が底を尽きた。
「では死ね、弱き塵めが」
そう言って、魔王は黒く燃える刀を振るった。
抗う間もなく、綺麗に。
軍師の男の肩から腰にかけて、斜めに切られた。
何かを言おうとはしたが、もう間に合わない。
魔王は軍師の男を屋根から落とす。
べちゃあっ!、と、何か気持ち悪い音が響いた。
同時に魔王の頬に何か生暖かいモノが付き、頬が赤く染まった。
動じないまま、魔王は振り返る。
もう殺した男など忘れ、次の殺害対象を脳裏に浮かべる。
殺す。
ああ、殺す。
明智、裏切り者め。
燃やしてやる、四肢を切ってから。
話など聞かぬ、蹂躙してやる。
誰も儂に逆らうな、誰も儂に刃を向けるな。
儂は王である、日ノ本の神である。
儂に従うは民、従わぬは愚民、塵である。
殺す、明智も、何もかも。
特にあの女子だ、アメリアとか言う不敬者だ。
不敬不敬!、不敬なるぞ!。
嗚呼、殺す。
不敬なる、愚民共。
我が炎にて、骨まで燃えるがいい。
斜めに傾いた屋根を走り、次の屋根へ飛び移る。
飛び移る度に体が痛むが、そんなに気にしてはいない。
不思議と痛くないのだ。
腫れ上がった顔面も、体中のいたるところも、全然痛くないのだ。
だが、それでも痛いものがあった。
あの少女が泣いた、その事実が心を焼き尽くす。
頭の血管がはち切れる程、腸が煮えくり返った。
許せない。
自分が何より許せない。
何故忘れていた?。
なぜあの時倒れた?。
許すな、自分を。
お前はもう、罪人だ。
「来ましたか、織田信長殿」
振り向きざまに、軍師の男は腰の刀を抜き、怒りと憎悪に満ちた刀を受けた。
ガキィン!、と、力任せの一太刀が軍師の男に炸裂し、後方へ勢い良く吹っ飛ばされた。
錐揉み回転した軍師の男は、着地する瞬間に受け身を取り、背中の弓矢に手を掛けた。
信長はそんなこと気にもせず、怒れる猪の如く向けられる矢先に突っ込んだ。
一歩、たったそれだけで間合いに飛び込む。
横薙ぎに腕を振るえば、刀が相手の肉を裂くだろう。
真っすぐ、綺麗に。
だから死ね、今すぐ。
さっさと自分を、この暑い熱い炎から解放してくれ。
死んでくれ、頼むから。
これ以上自分を、怒り狂った真のうつけ者にしないでくれ。
「アァァァァァァァアアアァァァアアアアッッ!」
叫びながら、信長は刀を握り締め、獣の如く猛進する。
刀が振るわれる直前、軍師の男は弓を弾き絞り、掴んでいた矢を離した。
閃光の如く速度で矢は信長の眉間へと向かい、真っすぐと突き刺さった。
「・・・・・最早人間ではありませんね、フンッ!」
軍師の男は懐から刀をもう一度抜き、振るわれる憎悪の剣を受け止める。
ジィイン!、と、振るわれた憎悪を受け止めた瞬間、火花が散った。
散った火花が軍師の男の頬をかすり、焼け焦がす。
「死ね」
ドォン!、と、鍔迫り合いの中、信長の膝蹴りが軍師の男の鳩尾に炸裂し、勢い良く吹っ飛ばされた。
軍師の男はギリギリのところで蹴りを受け、宙を舞いながら信長を見据える。
「・・・・・・バケモノめ」
歯噛みするのも無理はないだろう、軍師の男の言葉は紛れもない真実であった。
体は炎で包まれていた。
足の先から指の先まで、隅から隅までが包まれ、鎧のようにも見える。
炎の色は黒、焼かれる信長を象徴したような黒煙。
眉間に放たれた矢は刺さらず、今もなお信長の口によって嚙み砕かれていた。
その姿、魔王の如し。
全てを捻じ伏せ、怒りと憎しみのまま全てを蹂躙する者なり。
持つ刀だけではなく、その身すら炎に飲まれる。
即ち、うつけ。
自らですらも見失い、ただすべてを破壊する愚か者。
やりたいことなど、とうに消え失せた。
殺した命など、山のようにある。
自分など、とっくに燃やし尽くした。
「もう、儂は戻れない」
ブゥン!、と、黒く燃える炎に包まれた刀身を振るい、燃える魔王は言う。
「涙は乾き、心は焦げ、全ては塵と成った」
真っすぐ、歩く。
軍師の男は持っていた刀を構え、後ずさりする。
「儂を止めたければ明智を連れて来い、貴様のような貧弱モノが相手は出来ぬ」
魔王の気迫に押され、軍師の男は矢を撃った。
矢は先ほどよりも早く、鋭く、魔王の未見へと吸い込まれていく。
そして、魔王を包む炎によって塵と成った。
「・・・・・・・バケモノめぇっ!」
軍師の男は弓を何度も引き絞り、矢を放つ。
届くことはない、全ては塵になる。
一射、二射、確実に当たったはずの矢は燃え尽きていく。
そして、矢が底を尽きた。
「では死ね、弱き塵めが」
そう言って、魔王は黒く燃える刀を振るった。
抗う間もなく、綺麗に。
軍師の男の肩から腰にかけて、斜めに切られた。
何かを言おうとはしたが、もう間に合わない。
魔王は軍師の男を屋根から落とす。
べちゃあっ!、と、何か気持ち悪い音が響いた。
同時に魔王の頬に何か生暖かいモノが付き、頬が赤く染まった。
動じないまま、魔王は振り返る。
もう殺した男など忘れ、次の殺害対象を脳裏に浮かべる。
殺す。
ああ、殺す。
明智、裏切り者め。
燃やしてやる、四肢を切ってから。
話など聞かぬ、蹂躙してやる。
誰も儂に逆らうな、誰も儂に刃を向けるな。
儂は王である、日ノ本の神である。
儂に従うは民、従わぬは愚民、塵である。
殺す、明智も、何もかも。
特にあの女子だ、アメリアとか言う不敬者だ。
不敬不敬!、不敬なるぞ!。
嗚呼、殺す。
不敬なる、愚民共。
我が炎にて、骨まで燃えるがいい。
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