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【第一部】第一章 憤怒の黒炎
明にて光秀は笑う
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秦良玉襲来の2日前 中国 明にて
その髭を生やした派手な格好の男は、花に水をやっていた。
愛する民が営む町の花屋に出向き、買ってきた花と植木鉢に、町の子供たちと一緒に集めた土を入れて。
男は金のコップに入った水を花にやり終わり、暫く花を見つめていた。
「万歴帝様、日本から光秀と名乗る男がここに来ております」
自分の真後ろのドアを開け、初老の男が入って来た。
腰に日本刀を携えたその老人は男に跪き、頭を下げた。
ひらり、と、老人の付けていたマントが宙を舞い、地に落ちる。
それと同時に男は立ち上がり、振り返らずに言った。
「良い、通せ、光秀は余の盟友、この万歴帝を皇帝である象徴である」
「はっ、偉大なる皇帝の御言葉ならば、迅速に」
短く返事をした老人はゆっくりと立ち上がり、そのまま小走りで部屋から出て入った。
「・・・・・・・・・・・相変わらず、お前は信用が足りないな」
誰もいないはずの場所で、万歴帝は声を出す。
「すみません、如何にあなた様の忠臣とはいえ、そう簡単には信用ができません、あいにく、人間不信なもので」
万歴帝の後ろに跪いたその男は、先程までどこにもいなかった。
だが確かにここにおり、万歴帝はその男の方を振り返った。
「言いたいことは何だ、お前は盟友とは言えど所詮人、天子なる余といつまでも話せるわけではない」
それを聞いた男が、ハッとしたように肩を震わせ、その後深く頭を下げた。
「・・・・・・・申し訳ございません」
「冗談だ、友よ、冗談だと許してくれ」
んで、要件は何だ?、と、尋ねる万歴帝に、男は言う。
「私の元主君である織田信長のことです」
「首でも見つかったか?、我が明が誇る軍を頼りに来たのなら構わないが・・・・・・」
万歴帝は言いかけたが、男の顔を見て眉をしかめた。
「・・・・・・お前のその顔、何か良からぬことでもあったか?」
「はい、しくじりました」
「何?」
漢の予想外の回答に、万歴帝は驚きの声を出す。
「しくじった?、たった数人の部下の相手に対し、数万の部下を持った貴様が?」
「恥ずかしながら、左様でございます」
「・・・・・・・・・・・・・・」
万歴帝は少し不機嫌そうな顔をするが、男は気にせず話を続ける。
「本能寺には火を放ちましたが、遺体は見つかりませんでした、見つかったのは愛用していた太刀と焼け焦げた小刀だけです」
それを聞いた万歴帝はため息をつき、近くの椅子に座り込む。
顎に手を置き、少し悲しそうに。
「・・・・・事情は分かった、秦良玉と奴を向かわせる、心配はいらん」
「居場所が分かるので?」
「明の力を見くびるな、世界中に情報網があるのでな」
そう言って、万歴帝は男を横切る。
「余は戻る、民に威光を示さなければならないからな」
せっせと万歴帝は扉に手をかけ、部屋から出ていく。
「・・・・・なあ、光秀」
一度だけ振り返り、万歴帝は言う。
「復讐は何も生まない、今お主が倒すべきは大うつけにあらず、羽柴の軍ではないか?」
それを聞いた光秀は、ゆっくりと立ち上がり。
「ご心配、ありがとうございます」
そう言って、笑顔で言うのだ。
「ですが、私はもう戻れません」
「そうか」
万歴帝はそう一言言ってから、部屋を出て入った。
がちゃん、と、ドアが閉まる音が響くと同時に、光秀の口の端が吊り上がる。
邪悪で、楽しそうに。
「楽しみですよ、信長様」
自らの愛刀、明智近景を抜き、それに映る自分を見る。
その表情は、まるで。
「あなたへの復讐は、何とも難しく楽しい」
貪欲に遊びを楽しむ子供のようだった。
それでいて、復讐者のような。
そんな、表情だった。
その髭を生やした派手な格好の男は、花に水をやっていた。
愛する民が営む町の花屋に出向き、買ってきた花と植木鉢に、町の子供たちと一緒に集めた土を入れて。
男は金のコップに入った水を花にやり終わり、暫く花を見つめていた。
「万歴帝様、日本から光秀と名乗る男がここに来ております」
自分の真後ろのドアを開け、初老の男が入って来た。
腰に日本刀を携えたその老人は男に跪き、頭を下げた。
ひらり、と、老人の付けていたマントが宙を舞い、地に落ちる。
それと同時に男は立ち上がり、振り返らずに言った。
「良い、通せ、光秀は余の盟友、この万歴帝を皇帝である象徴である」
「はっ、偉大なる皇帝の御言葉ならば、迅速に」
短く返事をした老人はゆっくりと立ち上がり、そのまま小走りで部屋から出て入った。
「・・・・・・・・・・・相変わらず、お前は信用が足りないな」
誰もいないはずの場所で、万歴帝は声を出す。
「すみません、如何にあなた様の忠臣とはいえ、そう簡単には信用ができません、あいにく、人間不信なもので」
万歴帝の後ろに跪いたその男は、先程までどこにもいなかった。
だが確かにここにおり、万歴帝はその男の方を振り返った。
「言いたいことは何だ、お前は盟友とは言えど所詮人、天子なる余といつまでも話せるわけではない」
それを聞いた男が、ハッとしたように肩を震わせ、その後深く頭を下げた。
「・・・・・・・申し訳ございません」
「冗談だ、友よ、冗談だと許してくれ」
んで、要件は何だ?、と、尋ねる万歴帝に、男は言う。
「私の元主君である織田信長のことです」
「首でも見つかったか?、我が明が誇る軍を頼りに来たのなら構わないが・・・・・・」
万歴帝は言いかけたが、男の顔を見て眉をしかめた。
「・・・・・・お前のその顔、何か良からぬことでもあったか?」
「はい、しくじりました」
「何?」
漢の予想外の回答に、万歴帝は驚きの声を出す。
「しくじった?、たった数人の部下の相手に対し、数万の部下を持った貴様が?」
「恥ずかしながら、左様でございます」
「・・・・・・・・・・・・・・」
万歴帝は少し不機嫌そうな顔をするが、男は気にせず話を続ける。
「本能寺には火を放ちましたが、遺体は見つかりませんでした、見つかったのは愛用していた太刀と焼け焦げた小刀だけです」
それを聞いた万歴帝はため息をつき、近くの椅子に座り込む。
顎に手を置き、少し悲しそうに。
「・・・・・事情は分かった、秦良玉と奴を向かわせる、心配はいらん」
「居場所が分かるので?」
「明の力を見くびるな、世界中に情報網があるのでな」
そう言って、万歴帝は男を横切る。
「余は戻る、民に威光を示さなければならないからな」
せっせと万歴帝は扉に手をかけ、部屋から出ていく。
「・・・・・なあ、光秀」
一度だけ振り返り、万歴帝は言う。
「復讐は何も生まない、今お主が倒すべきは大うつけにあらず、羽柴の軍ではないか?」
それを聞いた光秀は、ゆっくりと立ち上がり。
「ご心配、ありがとうございます」
そう言って、笑顔で言うのだ。
「ですが、私はもう戻れません」
「そうか」
万歴帝はそう一言言ってから、部屋を出て入った。
がちゃん、と、ドアが閉まる音が響くと同時に、光秀の口の端が吊り上がる。
邪悪で、楽しそうに。
「楽しみですよ、信長様」
自らの愛刀、明智近景を抜き、それに映る自分を見る。
その表情は、まるで。
「あなたへの復讐は、何とも難しく楽しい」
貪欲に遊びを楽しむ子供のようだった。
それでいて、復讐者のような。
そんな、表情だった。
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