リグレットの炎怨

キリン

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「怨」第二十二話

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「…………」

地面に膝を突き頭を垂れるブレイバを、王は酷く憐れんだ。
当然だ、10年間も人生を歩んだ家族が、あんなことになってしまったのだから。

「ブレイバよ」
「ハッ」

小さい返事と共に、さらに深く頭を下げるブレイバ、王は目を細めて言った。

「余は勇者が嫌いじゃ、無論そなたの息子であるリグレットも、だが、お主は別なんじゃよブレイバ」
「いいえ陛下、私は真名を偽るという武人にはありえない所業を数年に及び行いました、私は勇者でもない武人でもない、ただの終わった人間でございます」

頭を上げないまま、拳を強く握りしめたブレイバは言った。
王の顔がさらに曇った、何をどういえばいいか、分からない様子だった。

「‥‥…この話はまた今度だ、余が言いたいのはなブレイバ、お主が剣を握らなくてもいいのではないかという点だ」
「と、仰いますと」
「あまりにも可哀そうだ」

ストレートに王は言い放ち、今も尚上げられないブレイバの後頭部を見据えながら言った。

「シルドから聞いている、家の玄関はリグレットが毎日掃除していたそうだな、しかも、お主が何も言わずとも、自分からだ」
「‥‥‥それがどうかしたのですか」
「お主に一度会った時、シルドはお主が笑っているのを久しぶりに見たと言っていたぞ」
「‥‥‥‥」

黙り込むブレイバ、王は歯噛みしたが、それでも意を決した。

「ブレイバ、かつて儂の大嫌いな存在だった男よ、お主は殺せるのか、自分を責任と罪の沼から救い出した、最後の希望を」

静かな王の声が響き渡り、空間が静まり返る。

「ええ、殺しますとも」

立ち上がり、ブレイバは自分の胸に手を当てた。

「私はあの子に罪人として死んで欲しくない、ならいっそ、私が終わらせてやるべきなんです」

深く頭を下げ、ブレイバは大きな扉を開け、出て入った。

「‥‥…」

王は黙ったまま、閉まるドアの向こう側を見ていた。
ガチャン、しまったドアの先で、話し声が聞こえてくるが、聞こうとは思わない。
聞きたいとも、思わない。

「これだから、勇者は嫌いなんだ、クソッタレ」

吐き捨てるように言ってから、王は鼻で笑った、何かとは言わないが。
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