リグレットの炎怨

キリン

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とってもむかしのおはなし

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とっても、とっても。
人間にとっては人生の半分ぐらいの時間で、神様にとってはほんの一時の間の、奇跡の時代のお話です。
世界は人間に支配されていました。
この広くて狭い世界の半分以上を支配した人間は、もう半分を支配する魔物を皆殺しにすることを決めました。
もっと贅沢がしたい、広い家に住みたい、そんな理由でです。
人間の強い戦士や魔法使いが集められ、世界の十分の一に死体の山が築かれました。
魔物たちは抵抗しませんでした、話せばわかると、一生懸命人間に訴えかけて死にました。
でもある時、強力なまものが現れました。
霧の集合竜、ノウムです。
ノウムは幻を見せる霧で魔物の国を覆いました、霧の中の人間たちは、傷つくことなく追い払われました。
魔物たちは喜んで、ノウムにありがとうを伝えました。
ノウムは喜びを覚えました。
でも、ノウムは勇者に殺されてしまいました。
幻を見せる霧が効かなかったのです、ノウムは大好きな皆を守るために勇者と戦い、死にました。
勇者はノウムの血を仲間に浴びせました、ノウムが倒れても霧が残るので、霧の耐性のあるノウムの血を浴びせました。
それから、勇者はたくさんの魔物を殺しました。
毒ガスを巻きました、無抵抗な魔物を切りました、ひどい殺し方をし続けました。
それが正義だから、そう信じて。
でも、勇者はある時、剣が握れなくなりました。
勇者の仲間もそうです、杖や盾を落とし、その場で膝を突きました。
魔物たちは相変わらず無抵抗でした、隙だらけの勇者を殺そうともしませんでした。
大丈夫か、そう言って手を差し伸べる始末です。
―――――こんな人たちを悪だと決めつける自分は、何だ?――――
その時、勇者のちっぽけでくだらない正義は、砕け散りました。
勇者はその後、その場で頭を下げ続けました。
三日間、雨が降っても、少しも動かないまま。
四日目の朝、勇者は魔物一人一人に頭を下げました。
魔物たちは笑って許してくれました。
勇者は仲間たちと魔物の国を去りました。
勇者は自分の生まれ故郷には帰りませんでした。
遠く遠く、凄く遠くの小さな村で、こう名乗ったそうです。

勇者が大嫌いなおじいさん、ブレイバ、と。


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