リグレットの炎怨

キリン

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第七話

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市場から歩いて五分、そこには真っ白な教会があった。 



 別に自分はこの教会の信徒という訳ではない、むしろこの教会の教えが、僕は嫌いだ。



 この教会が祀っているのは『勇炎教』という。

 平たく言えばこの教会は、炎大好き集団だ。



 理由は簡単だ、炎とは勇者の象徴、世界を脅かす存在があるならば、その対抗策としての何かが合ってもおかしくない、それを信仰するモノも然り、だ。



 でも僕は炎が嫌いだ、だから、この教会も嫌いだ。



 そんな嫌いな教会の門をたたき、僕は中に入った。



「ウィッシュさん、僕です、リグレットです」



 広い教会に自分一人の声が響く、ちょっとだけ恥ずかしい。



「あら、その声はリグレットかしら?」



 椅子に座っていた一人の女性が立ち上がり、こちらに歩いてきた。

 歳はブレイバさんと同じぐらいのとてもきれいなお婆さんだ。



「お久しぶりですウィッシュさん、ブレイバさんの預け物を受け取りに来ました」



「お久しぶりリグレット、偉いわねぇあんな枯葉のお手伝いだなんて」



「いやいや、買い物のついでですよ」



 にこやかに笑うウィッシュさん、まるで聖母のようだ。



「それで、ブレイバさんの預け物というのは?」



「あらあら、話が長かったかしら、ごめんなさいね」



 恥ずかしそうに口元を抑えながら、ウィッシュさんは自分の座っていた椅子へと歩いて行った。



「これよこれ、はい、どうぞ」



「おっと・・・・・これは、剣?」



 別に剣が珍しい訳ではない、ただ、渡された剣が余りにも意を放っていた。



 まず、鞘も柄も見えなかった。

 鎖によって封印されている、ぐるぐる巻きにされたその剣は、軽く力を加えたぐらいではその刀身を拝む事さえままならない。



「変な剣よね、その子」



 ウィッシュさんの声に肩が震えた。



「でも、何となくいい子だとも思う」



 言っている事の意図が分からない。



「それは・・・・・・・よく切れるってことですか?」



「ううん、逆よ」



 困った顔の僕をクスクスと笑うウィッシュさんは、そのまま言った。



「さあ、もう日が暮れるわ、早くお帰りなさい」



「あっ、はい、ありがとうございました」



 僕は軽く頭を下げた後、教会を後にした。



 そして僕の人生は、少しずつ燃え始めていた。

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