機械殺しのカルナ

キリン

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鉄仮面の「機人」

ポツンと一軒家

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「随分とあれだな……何というか、うん」

 言葉にしにくい、と思った。ゴミや鉄くずが溢れ返った環境……その中にポツンと一軒家、そこら辺にある木材や鉄版を重ねた、手作り感満載の小さな家があった。

「凄いだろう、三日で作り上げたんだ。家づくりが趣味なんだ、よくこうやってゴミを使ってね……作っては捨てるを繰り返しながら、旅をしてたものさ」

 懐かしむようなレインの声。……趣味? 旅? 何度もこんなことをしていたのか?

「ああ、色んなものを見て来た。大きな建物、陸の見えないほど大きく綺麗な海、ここよりずっと緑のある土地……まだ私は見ていないが、空を飛ぶ乗り物なんてものがこの世には存在するらしい」
「空を飛ぶ? 冗談だろ『機人』じゃあるまいし、人間にそんなものが作れるわけない」

 まぁ、俺も空飛ぶ「機人」を見た事は無いのだが。だが、もしそんな夢のような乗り物が存在するのであれば、乗れなくてもいいから一目見てみたいなぁ、そんな事をつい考えてしまう。

「エルメスへの復讐が終わったら、私と来るかい?」
「――」

 少し和らぐような息を吐いた。強張っていた表情筋が解れ、握りしめていた拳の蒸れが晴れる。……復讐が終わったら。考えた事が無かったかもしれない、家族を全員殺されて、目の前の「機人」を壊すことだけ考えて来た……。振り返ってみれば俺は空っぽだと言う事に気づいた、このまま進んで復讐が成就しても、俺はきっと、本当にやりたいことが見つからないまま、エルメス以外の「機人」を探し続けるのだろうか?

「君のような用心棒が居てくれると非常に助かる。何せ私は、美女だからな……恋人とかなんかだと間違えてくれれば、手を出してくることは無いだろう」

 やけに力を込めて胸を張った。怪しい程薄い胸板を俺が笑った後、レインはしかめっ面のままボロボロの家に入った。中も汚い、床は地面を固めただけの土間、最低限ランタンの明かりが部屋の中を灯してはいるが、日が沈みかけている外の方が明るく感じた。

「文句があるなら外で寝たまえ」

 胸、気にしているのだろうか。薄暗いボロ屋の中でもはっきりと、レインの不満そうな表情が見える。安直に謝るのは良くないと思い、素直に「ごめん」と言った。レインは「あんなもの、肩が凝るだけだ」と、吐き捨てるように言った。溜息と同時に軽い音がする。すると部屋の中が一気に明るくなり、思わず目を細めた。

「勿体ないので普段は付けないんだが……君の治療をするんだ、明るい方がやりやすい」
「説明すると言っていたが、具体的には何をするんだ? 薬か? 体の中をいじるのか?」

 あー違う違う。思いっきり笑われた、さっきの発言をまだ根に持っているのだろうか、人差し指をこめかみに押し付けながら、レインはねばつくような笑みで言った。

「君のその左腕、機神エルメスに首輪を付けてやるのさ」
「そいつはいいな。比喩表現を止めて具体的に説明してくれ」
「君が苦しんでいる原因は、『機人』にとっての血液の様な赤い油によるものだ。あれは人間にとっては麻薬のようなものでね……肌を鉄レベルに硬質化させたり、身体能力を底上げする効果を持つ。……効果は体に現れる黒い痣が広がれば広がるほど強くなる。だがその代わり、一定周期で痣が赤く光り、体中に激痛が走るのさ。まぁ、痛がってる様子を見たのは君が初めてだけど」

 何となく理解が出来た。要するにこの腕から流れているその油とやら、この忌々しい腕の機能を抑制すれば、多少はあの痛みもマシになるという訳か。

「だが一度体の中に入れば、油は抜くことができない。君を救う訳じゃない、君が復讐をするまでの寿命をエルメスから分捕り返してやるだけだ」
「そんなに上手い話だとは思っちゃいねぇよ。俺はあいつさえ壊せれば……あとはどうでもいい」

 穏やかだった心の中が荒れて来た。懐かしく悲しい感覚……でも、これが俺の10年間なんだ、エルメスに父親を殺された瞬間から、俺は問答無用で復讐鬼に変わってしまったのだ。

「……これは私の推測に過ぎないが、腕の本体であるエルメスを破壊すれば君の黒痣が消えるかもしれない。だから――」
「だから、どうした?」
「――いや、なんでもない」

 硬い肉を嚙み切るように、喉に絡んだ痰を吐き捨てるように。レインは俺に背を向け、背負っていたカバンを土間に降ろし、中身を漁った……中から出てきたのは、ガラガラと音を立てる工具箱だった。

「カルナ、そこに寝そべってくれ。じっとしていてくれよ? やり方が分かっているとはいえ、実際に処置を施すのは初めてだからな」

 若干の不安を抱えるものの、俺はレインを信じて寝そべった。土の上は意外とひんやりしていて、初見の汚いイメージとは様変わりして、ゆっくりと身体の力が抜けていくのを知覚し、だんだんと瞼が重くなっていき……目を開くのが、億劫になってしまった。
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