刀匠令嬢の最強証明

キリン

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「終章」ここから

「第零話」アイアス・イア・ダルクリース

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「……ほんとに生き返りやがった」

三度目の死を迎え、初めて生き返ったアイアスの第一声がこれである。あの気味の悪い感覚は何処にもなく、地に足……いいや、正確には背中をフカフカのベッドに密着させながら、彼女は自分が「生きている」ということを認識する。

「っ……」

アイアスが起き上がろうとすると、胸辺りに鈍い痛みが走った。着ていた寝間着をたくし上げてみると、そこには血の滲んだ包帯が巻かれている。

アイアスが横を見ると、そこには見覚えのある少女がベッドに突っ伏していた。散らかった薬や魔導具、目の下にできた大きなくま……それらは、若いなりに必死に手を尽くした痕跡であり、軌跡だった。

(責任でも感じてたのか? はっ……本当に、世話の焼ける小娘だな)

そっと手を伸ばして、頭を撫でる。
ああ、やっぱり同じだ。

自由奔放に剣を振るい、剣で人を救えると信じ……自分の剣にそれを見出し、教えを請い……その果てに、人斬りとしての才能を開花させ、呑まれてしまった可哀想なあの子に。

(ごめんな、蛍。俺ぁ……ちょびっと寄り道をしたくなっちまった)

どうやらこの死にぞこないは、あれだけやってもまだ未練があるらしい。自分を呼び戻した存在に与えられた使命を盾に、ほんの少しでもこの少女の行く末を見届けようとしている。

──ああ、なんと未練がましく諦めの悪い。アイアスは自分自身の意地汚さに思わず笑ってしまう……だがまぁそれでいい。二度も娘を斬り殺し、同じく二度も正面から向き合っていなかった自分に、今更マトモな道を歩めるはずもない。──だったら、せめて。

「おうい、起きろ」
「……アイアス?」

せめて、「アイアス」として生きることが許されても良いはずだ。

そうだ、あの瞬間……あの立ち会いにおいて、刀匠「正重」は自分の娘と相打った。刀だけを見つめ、刀だけのために全てを犠牲にしてきたあの魂は……娘も、因縁も、前世で成し遂げられなかった未練をも両断して霧散した。

「アイアスなの? 本当に? ねぇ……本当に、あなたは生きてくれているの……?」

故に、ここにいる最高の刀匠は「正重」に在らず。
修羅でもなく、外道でもなく、ましてや道を踏み外してすらいない。

「ああ、見ての通りピンピンしてらぁ!」

(こっからだ)

 これはあくまで、当の本人しか知らない話。
(こっからが俺の、アイアスとしての……最強証明の始まりだ!)

そう、彼女こそはアイアス・イア・ダルクリース。
『四公』ダルクリース家に生まれた、史上最強にして最優の刀匠令嬢である。




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