45 / 46
「第九章」最凶と最強
「第四十五話」三度目の死
しおりを挟む
感覚は無い、身体も無い。
しかしアイアス「だった」魂は確かに其処に在った。
「地獄にしてはまぁ、生ぬるい気がするけどなぁ」
あちら側とは少し違う自らの在り方に戸惑いを覚えつつも、アイアスはすぐに自らの形に慣れて、適応した。実態があるわけではない、されど確かに其処にある……あやふやであるものの、存在はしている。そんな感じである。
「ま、おっ死んだのには変わりねぇ。とっとと蛍の野郎を……おい、誰だそこにいるの」
──おやおや、バレてしまいましたか。
背後にそれは佇んでいた。見えもしない触れられるモノでもない……しかし、たしかに目の前に立っているということだけははっきりと分かる。──それはそれは、寒気がするほどの存在感を以て。
「そんだけおっかねぇ感じだと、お前さんが閻魔様か?」
──いえいえ、地獄を統べるほどの力は私にはありません。少なくとも、今の私には。
「へぇ……ってか、お前さんも俺と同じか」
──流石は、最優の刀匠。少し言葉を交わしただけで見破られてしまいました。
アイアスはその会話に違和感を持っていた。確かに音で声を作り上げ、それを認識しながらコミュニケーションを成立させてはいる。だが……どこか靄のかかったような不透明さが、実に不可解で気持ちの悪いものだった。
「んで、俺になんか用でもあんのか?」
──まぁ、そうですね。
目の前のそれは、アイアスにサラッと言い放った。
──つまるところ、貴女を生き返らせようと思いまして。
「あ?」
──勿論タダではありませんよ? 貴女をあちら側に送り返す対価として、ちゃんと私のお願いも聞いてもらいますから。
「待て待て、話についていけねぇ……お前は、神様仏さんみたいな何かか?」
──どうなんでしょうねぇ、あっちで私がどう扱われているかわかりませんが……まぁ、それに近いとは思いますよ? そんなことよりもう時間がありません、さっさと貴女を送り返さなくては。
そう言うと、急に目の前が暗くなっていく。ようやく掴んだこちら側での感覚が薄れていき、段々とおかしく……アイアスはこの苦しみと焦燥を知っている。紛れもない、死ぬ直前に味わう絶望感だ。
──いいですか? とにかくあちらに戻ったらまずは『聖剣』を探してください。ダルクリースの『剣聖』アキレスは生きています……どうか彼を倒し、『聖剣』を在るべき場所に戻してください。約束ですよ?
反論する時間も、抵抗する気力も力も消え失せた。閉じていく歪な五感を俯瞰しながら、アイアスは三度目の『死』を経験した。何も感じない、何も考えられない……そんな空っぽの状態で、しばらく彼女の無意識の旅が始まった。
しかしアイアス「だった」魂は確かに其処に在った。
「地獄にしてはまぁ、生ぬるい気がするけどなぁ」
あちら側とは少し違う自らの在り方に戸惑いを覚えつつも、アイアスはすぐに自らの形に慣れて、適応した。実態があるわけではない、されど確かに其処にある……あやふやであるものの、存在はしている。そんな感じである。
「ま、おっ死んだのには変わりねぇ。とっとと蛍の野郎を……おい、誰だそこにいるの」
──おやおや、バレてしまいましたか。
背後にそれは佇んでいた。見えもしない触れられるモノでもない……しかし、たしかに目の前に立っているということだけははっきりと分かる。──それはそれは、寒気がするほどの存在感を以て。
「そんだけおっかねぇ感じだと、お前さんが閻魔様か?」
──いえいえ、地獄を統べるほどの力は私にはありません。少なくとも、今の私には。
「へぇ……ってか、お前さんも俺と同じか」
──流石は、最優の刀匠。少し言葉を交わしただけで見破られてしまいました。
アイアスはその会話に違和感を持っていた。確かに音で声を作り上げ、それを認識しながらコミュニケーションを成立させてはいる。だが……どこか靄のかかったような不透明さが、実に不可解で気持ちの悪いものだった。
「んで、俺になんか用でもあんのか?」
──まぁ、そうですね。
目の前のそれは、アイアスにサラッと言い放った。
──つまるところ、貴女を生き返らせようと思いまして。
「あ?」
──勿論タダではありませんよ? 貴女をあちら側に送り返す対価として、ちゃんと私のお願いも聞いてもらいますから。
「待て待て、話についていけねぇ……お前は、神様仏さんみたいな何かか?」
──どうなんでしょうねぇ、あっちで私がどう扱われているかわかりませんが……まぁ、それに近いとは思いますよ? そんなことよりもう時間がありません、さっさと貴女を送り返さなくては。
そう言うと、急に目の前が暗くなっていく。ようやく掴んだこちら側での感覚が薄れていき、段々とおかしく……アイアスはこの苦しみと焦燥を知っている。紛れもない、死ぬ直前に味わう絶望感だ。
──いいですか? とにかくあちらに戻ったらまずは『聖剣』を探してください。ダルクリースの『剣聖』アキレスは生きています……どうか彼を倒し、『聖剣』を在るべき場所に戻してください。約束ですよ?
反論する時間も、抵抗する気力も力も消え失せた。閉じていく歪な五感を俯瞰しながら、アイアスは三度目の『死』を経験した。何も感じない、何も考えられない……そんな空っぽの状態で、しばらく彼女の無意識の旅が始まった。
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。
※諸事情により3月いっぱいまで更新停止中です。すみません。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
婚約破棄された悪役令嬢。そして国は滅んだ❗私のせい?知らんがな
朋 美緒(とも みお)
ファンタジー
婚約破棄されて国外追放の公爵令嬢、しかし地獄に落ちたのは彼女ではなかった。
!逆転チートな婚約破棄劇場!
!王宮、そして誰も居なくなった!
!国が滅んだ?私のせい?しらんがな!
18話で完結

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

破滅を逃れようとした、悪役令嬢のお話
志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥その恋愛ゲームは、一見するとただの乙女ゲームの一つだろう。
けれども、何故かどの選択肢を選んだとしても、確実に悪役令嬢が破滅する。
そんなものに、何故かわたくしは転生してしまい‥‥‥いえ、絶望するのは早いでしょう。
そう、頑張れば多分、どうにかできますもの!!
これは、とある悪役令嬢に転生してしまった少女の話である‥‥‥‥
―――――――
(なお、この小説自体は作者の作品「帰らずの森のある騒動記」中の「とある悪魔の記録Ver.2その1~6」を大幅に簡略したうえで、この悪役令嬢視点でお送りしています。細かい流れなどを見たいのであれば、どちらもどうぞ)

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる