40 / 46
「第八章」ジークの遺言
「第四十話」ダルクリースの『剣聖』
しおりを挟む
「息子を、誇りに思っていた」
ジグルドは蹲るソラの元にしゃがみ込み、その背中を擦った。
「優しく、強く……殺すという選択を取らない事を決めた、ジークが誇りだったんだ」
だが。ジグルドは、吐き出すように言う。
「君の言う通り、例え殺してでも生きていてほしかった。どれだけ手を汚しても、どれだけ外道になろうとも……生きたまま、帰ってきてほしかった」
ジグルドは、そっと顔を上げた。彼が目を向けたその先には、静かに涙を流すスルトがいた。ただ黙って、自分の父親の本音を見ている息子である。
「今まで、本当に済まなかった。私は大馬鹿者だ……失った者ばかりに目を向け、残ってくれていたお前を蔑ろにしてしまった。許してくれとは言わん、だが……どうかまだ、私の息子でいてくれないだろうか?」
「……っ!」
スルトは激しく頷いた。抑えていた感情は溢れ、そのままスルトは崩れ落ちる。ジグルドは顔をクシャクシャにしながら、ただその頭を下げていた。深く、深く……これ以上無いぐらいに、深く。
「セタンタ……いいや、クランオール殿」
「な、なんだよ」
「たった今、呪いは解除した。同盟も解消する」
「……いいのかよ、それで」
「ああ」
ジグルドはゆっくりと立ち上がり、残る最後の一人に目を向けた。冷めた目でそれらを見ていた、アイアス……憎きダルクリースの人間に。
「……私が憎んでいるのは、あの日のダルクリースの『剣聖』だ」
「ああ」
「だから、今ここで謝罪を。入学式の日に、私の息子が危害を加えたこと。……本当に申し訳なかった」
アイアスは浅い溜め息を付き、ジグルドの方を見る。その様子は不機嫌でも上機嫌でもなく、ただ淡々と言うべきことを言っている……そんな感じだ。
「そのことに関しては、水に流してやる。人間は馬鹿だから間違える、だから誰かがそれを正してやらにゃあならねぇんだ。──だから、な」
アイアスは持っていた刀に手をかけ、ジグルドを横切って走り出した。
向かう先は、光が差してくる窓ガラスである。
「俺はお前の性根を叩き直すぞ!」
斬撃、アイアスの抜刀と同時に部屋の壁が吹き飛ぶ。爆風とともに全てが吹っ飛んでいき、爽やかな風が入ってくる。誰もがアイアスの突然の行動に驚き、しかし、ただ一人……ソラだけは腰の刀に手をかけていた。──鬼のような形相で、こちらを見る一人を睨みつけながら。
「ダルクリースの……『剣聖』……!」
空中に佇むその少女は、ニヤリと笑った。険悪に、獲物を捉えた捕食者のように。
それと対峙、刀を構えるアイアスは、恐ろしく低く……その場にいる誰もが震えるような声で、その名を口に出した。
「やっぱお前だったか、蛍」
「──ええ、お久しぶりです。師匠」
殺意に満ちた声は、氷のように冷たく冷徹だった。
ジグルドは蹲るソラの元にしゃがみ込み、その背中を擦った。
「優しく、強く……殺すという選択を取らない事を決めた、ジークが誇りだったんだ」
だが。ジグルドは、吐き出すように言う。
「君の言う通り、例え殺してでも生きていてほしかった。どれだけ手を汚しても、どれだけ外道になろうとも……生きたまま、帰ってきてほしかった」
ジグルドは、そっと顔を上げた。彼が目を向けたその先には、静かに涙を流すスルトがいた。ただ黙って、自分の父親の本音を見ている息子である。
「今まで、本当に済まなかった。私は大馬鹿者だ……失った者ばかりに目を向け、残ってくれていたお前を蔑ろにしてしまった。許してくれとは言わん、だが……どうかまだ、私の息子でいてくれないだろうか?」
「……っ!」
スルトは激しく頷いた。抑えていた感情は溢れ、そのままスルトは崩れ落ちる。ジグルドは顔をクシャクシャにしながら、ただその頭を下げていた。深く、深く……これ以上無いぐらいに、深く。
「セタンタ……いいや、クランオール殿」
「な、なんだよ」
「たった今、呪いは解除した。同盟も解消する」
「……いいのかよ、それで」
「ああ」
ジグルドはゆっくりと立ち上がり、残る最後の一人に目を向けた。冷めた目でそれらを見ていた、アイアス……憎きダルクリースの人間に。
「……私が憎んでいるのは、あの日のダルクリースの『剣聖』だ」
「ああ」
「だから、今ここで謝罪を。入学式の日に、私の息子が危害を加えたこと。……本当に申し訳なかった」
アイアスは浅い溜め息を付き、ジグルドの方を見る。その様子は不機嫌でも上機嫌でもなく、ただ淡々と言うべきことを言っている……そんな感じだ。
「そのことに関しては、水に流してやる。人間は馬鹿だから間違える、だから誰かがそれを正してやらにゃあならねぇんだ。──だから、な」
アイアスは持っていた刀に手をかけ、ジグルドを横切って走り出した。
向かう先は、光が差してくる窓ガラスである。
「俺はお前の性根を叩き直すぞ!」
斬撃、アイアスの抜刀と同時に部屋の壁が吹き飛ぶ。爆風とともに全てが吹っ飛んでいき、爽やかな風が入ってくる。誰もがアイアスの突然の行動に驚き、しかし、ただ一人……ソラだけは腰の刀に手をかけていた。──鬼のような形相で、こちらを見る一人を睨みつけながら。
「ダルクリースの……『剣聖』……!」
空中に佇むその少女は、ニヤリと笑った。険悪に、獲物を捉えた捕食者のように。
それと対峙、刀を構えるアイアスは、恐ろしく低く……その場にいる誰もが震えるような声で、その名を口に出した。
「やっぱお前だったか、蛍」
「──ええ、お久しぶりです。師匠」
殺意に満ちた声は、氷のように冷たく冷徹だった。
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
婚約破棄された悪役令嬢。そして国は滅んだ❗私のせい?知らんがな
朋 美緒(とも みお)
ファンタジー
婚約破棄されて国外追放の公爵令嬢、しかし地獄に落ちたのは彼女ではなかった。
!逆転チートな婚約破棄劇場!
!王宮、そして誰も居なくなった!
!国が滅んだ?私のせい?しらんがな!
18話で完結

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる