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「第七章」誘われし者達
「第三十四話」チャンスをください
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ニンベルグ家が所有する巨大な屋敷、その屋根の上にて、二人の『剣聖』は刃を交えていた。
「だぁああああっ!」
片方はスルト・ニンベルグ。ニンベルグ家の『剣聖』であり、しかし当主であるジグルドの謀略によって殺されかけた男である。彼は握るはずであった『聖剣』の代わりに、ただの鉄剣を強く握り、力一杯に振るっていた。
「っ……オラァ!」
対するはセタンタ・クランオール。クランオール家の『剣聖』であり、『聖剣』の他に『魔槍』をも有する『四公』最強と噂される男。彼は呪われた槍を軽々と振るいながら、しかし鍔迫り合いに感じる力強さに顔をしかめていた。
(こいつ、本当に人間か!?)
金属音とは思えないほど鈍い音が響きつづける。スピードであればセタンタのほうが圧倒的に上ではあるが、生憎スルトにとってそれは「速い」と感じる程の速度には届いていなかった。スルトは既に知っていたのだ、雷の如き速度で繰り出される無数の斬撃の……その速さと重さを。
「──フンッ!」
弾き、弾き、そして振り下ろす。槍の柄で受けたセタンタの足が、そのまま屋敷の屋根にめり込む。踏ん張るための足場が不安定になったところを、スルトは見逃さない。彼は振り上げた剣を天に掲げ、雄叫びとともに振り下ろした。──しかし、それもまたセタンタにとっては甘い剣である。
「チェスト返しっ!」
「!?」
力強く振り下ろされた剣を、セタンタはなんと真横から殴り飛ばしたのである。しかも、勢いは殺しきらず……あくまで下に振り下ろされたそれは、目標を見失ったまま空を切った。
双方、次の一撃を練り上げるべく武器を握る。お互いに不安定な姿勢のため、避けることなどできやしない。──最大の攻撃を繰り出し、決着をつける。二人は同じことを思い、同じように全霊を振るった。
「チェェェェストォォォォオオッッッヅヅッ!!!!」
その刹那。二人の間に割って入る人影が一つ。
落下、鳥肌が立つほどの雄叫びとともに繰り出された一撃は、セタンタとスルトの武器を地面に叩きつけたのである。二人は、一瞬混乱した。
「……アイアス!?」
「アブねぇアブねぇ、間に合ったぜ」
はじめに口を開いたのは、スルトだった。
「なんで、こんなところに……」
「テメェ……どっちの味方だ!?」
スルトの声を遮るかのように、セタンタの手がアイアスの胸ぐらを掴んだ。彼は歯を食いしばり、アイアスに怒鳴りつける。
「着いてくるだけならまだいい、だが……時間がねぇんだ、邪魔するならお前も──」
「だー放せ! ったく小便くせぇな……仕方ねぇだろ! 俺の相棒が止めろって五月蠅かったんだよ!」
「相棒……?」
アイアスは、胸ぐらを掴んでいたセタンタの手を振りほどき、人差し指をある方向に指をさした。──そこには、並々ならぬ迫力を携えたソラが、こちらに歩いてきていた。
セタンタは眉を顰めながら、ソラを睨んだ。
「……どういうことだ」
「話し合いがしたくて、アイアスには戦いを止めてもらいました」
「話し合い? 何がだ、こうしてる間にもアリスは……!」
言いかけたセタンタの口が、それ以上言葉を紡ぐことはなかった。普段の彼女からは想像もつかないほど、今のソラの覇気は尋常ではなかった。怒りでもない、悲しみには近い、しかしこれほど激しい感情を、セタンタは真正面から踏みつけにはできなかった。
「お願いします、セタンタ・クランオール殿」
深々と頭を下げ、ソラは言う。
「私に今だけ、ジグルドさん……いいえ、お義父様に謝るチャンスをください」
「だぁああああっ!」
片方はスルト・ニンベルグ。ニンベルグ家の『剣聖』であり、しかし当主であるジグルドの謀略によって殺されかけた男である。彼は握るはずであった『聖剣』の代わりに、ただの鉄剣を強く握り、力一杯に振るっていた。
「っ……オラァ!」
対するはセタンタ・クランオール。クランオール家の『剣聖』であり、『聖剣』の他に『魔槍』をも有する『四公』最強と噂される男。彼は呪われた槍を軽々と振るいながら、しかし鍔迫り合いに感じる力強さに顔をしかめていた。
(こいつ、本当に人間か!?)
金属音とは思えないほど鈍い音が響きつづける。スピードであればセタンタのほうが圧倒的に上ではあるが、生憎スルトにとってそれは「速い」と感じる程の速度には届いていなかった。スルトは既に知っていたのだ、雷の如き速度で繰り出される無数の斬撃の……その速さと重さを。
「──フンッ!」
弾き、弾き、そして振り下ろす。槍の柄で受けたセタンタの足が、そのまま屋敷の屋根にめり込む。踏ん張るための足場が不安定になったところを、スルトは見逃さない。彼は振り上げた剣を天に掲げ、雄叫びとともに振り下ろした。──しかし、それもまたセタンタにとっては甘い剣である。
「チェスト返しっ!」
「!?」
力強く振り下ろされた剣を、セタンタはなんと真横から殴り飛ばしたのである。しかも、勢いは殺しきらず……あくまで下に振り下ろされたそれは、目標を見失ったまま空を切った。
双方、次の一撃を練り上げるべく武器を握る。お互いに不安定な姿勢のため、避けることなどできやしない。──最大の攻撃を繰り出し、決着をつける。二人は同じことを思い、同じように全霊を振るった。
「チェェェェストォォォォオオッッッヅヅッ!!!!」
その刹那。二人の間に割って入る人影が一つ。
落下、鳥肌が立つほどの雄叫びとともに繰り出された一撃は、セタンタとスルトの武器を地面に叩きつけたのである。二人は、一瞬混乱した。
「……アイアス!?」
「アブねぇアブねぇ、間に合ったぜ」
はじめに口を開いたのは、スルトだった。
「なんで、こんなところに……」
「テメェ……どっちの味方だ!?」
スルトの声を遮るかのように、セタンタの手がアイアスの胸ぐらを掴んだ。彼は歯を食いしばり、アイアスに怒鳴りつける。
「着いてくるだけならまだいい、だが……時間がねぇんだ、邪魔するならお前も──」
「だー放せ! ったく小便くせぇな……仕方ねぇだろ! 俺の相棒が止めろって五月蠅かったんだよ!」
「相棒……?」
アイアスは、胸ぐらを掴んでいたセタンタの手を振りほどき、人差し指をある方向に指をさした。──そこには、並々ならぬ迫力を携えたソラが、こちらに歩いてきていた。
セタンタは眉を顰めながら、ソラを睨んだ。
「……どういうことだ」
「話し合いがしたくて、アイアスには戦いを止めてもらいました」
「話し合い? 何がだ、こうしてる間にもアリスは……!」
言いかけたセタンタの口が、それ以上言葉を紡ぐことはなかった。普段の彼女からは想像もつかないほど、今のソラの覇気は尋常ではなかった。怒りでもない、悲しみには近い、しかしこれほど激しい感情を、セタンタは真正面から踏みつけにはできなかった。
「お願いします、セタンタ・クランオール殿」
深々と頭を下げ、ソラは言う。
「私に今だけ、ジグルドさん……いいえ、お義父様に謝るチャンスをください」
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