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「第四話」最後の魔女と最優の魔術師
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王女シエルの衝撃的な出馬表明から一夜明け、王国中に激震が走った。あの『風の魔術師』ウィジャスが弟子だと認めた魔女と、王位継承権をほぼ確実に有しているイザベラ第一王女の最側近である魔術師ハルファスが、なんと魔法の腕を競うべく戦うとの事である。
こんな噂が王の言葉として出されたのも、全てはウィジャスの力であった。
「交渉を承諾していただき、ありがとうございます」
「私はあまりいい案だとは思いませんがね、今からでも撤回をお勧めしますが」
「何を今更、絶対に勝って見せますとも。──頼みましたよ、ロゼッタ」
唐突の決定、しかも全て私に丸投げ! シエルの意外な一面に苦笑いを浮かべながら、私は小刻みに頷いた。ウィジャスは心配そうな顔でこちらを見ている、まぁもっとも、それで何か手を尽くしてくれるわけではないだろうが。
「では、私はこれで」
「ご足労をおかけしました、すみません……馬車も用意できなくて」
「いえいえ、私はこのフェンリルに乗って帰りますので」
そう言ってウィジャスは、城の前でお利口に座っている巨大な狼を撫でた。相当懐いているのか、警戒している様子は一切なかった。ウィジャスはそのまま狼にまたがり、あっという間に走り去って行った。
そこに、見知らぬ男がやって来た。
「おや、もうお帰りになられたのですか?」
「──ハルファス殿」
背後から声が聞こえ、シエルがお行儀よく頭を下げた。私も見よう見まねで頭を下げ、すぐに面を上げた。そこには、紫色の髪の青年がいた。赤いローブを纏い、いくつもの勲章やら何やらをぶら下げている……どうやらこのハルファスとか言う男、魔術師として相当な腕の持ち主らしい。
「世界最強の魔術師と名高い『風の魔術師』殿と言葉を交わしたかったのですが、残念です。──そこにいるのが、噂の?」
「ええ、私の友達のロゼッタです」
「どうも~ロゼッタで~す」
細めた目のいやらしさに、私は嫌な感じがした。このタイプの魔術師はプライドが高い、自分より下だと決めつけた相手に対しては、徹底的に侮辱の言葉を投げかけるのだ。これだけの勲章を持ち、王女直属の魔術師ともなれば、そのプライドの高さは計り知れない。
「……何か?」
「いや何、取るに足らないような小物だなと思いまして。私はてっきり、ウィジャス殿を味方に付けようとしていたのでは、と、考えていたのですよ。彼ならば私の、この国の王に認められたエーデルハイド家の魔法の腕にも対抗できますからね、ですがまぁ……安心しましたよ」
「まるで自分の方が上とでも言いたげですね」
「失礼、慢心が過ぎました。では、また近いうちにお会いしましょう……魔女殿、泥臭い王女様」
去っていくハルファスの背中、シエルは何も言わなかった。ただ、暗い顔でうつむいていたのだ。反論も怒りもしない、ただ、それが当然だと受け入れていた。
「……ムカつく」
私は髪の毛を一本抜きとり、それを丸で弓矢のように引き絞る……手を離すとそれは一本の矢のようになり、そのまま真っ直ぐ向かって行く。──ハルファスの隣にある、茶色い水たまりへと。
「っ!?」
「土臭いのは貴方の方じゃない? 綺麗な洋服のまま土遊びをしちゃいけないって、お母様に言われなかったのかな~?」
「──殺す」
抜き放った杖からぼんやりと白い球が放たれる。私が懐から出したのは、杖ではなく櫛……つまりは、母が使っていた形見である。
「ふんっ!」
櫛で髪を梳くと、抜け落ちた髪の毛から炎が躍り出る。それらは壁となり、放たれた白い球を相殺したのである。
「下がってて、シエル」
シエルは胸に手を置きながら、一歩、二歩と下がる。ハルファスは怒りを露にした表情で、杖を握りしめていた。
「いいだろう、貴様との決闘は此処で執り行う! 私が勝てば、貴様は問答無用で縛り首だ! ──魔女狩りの時間だ!」
「受けて立とうじゃないの。──その代わり、私が勝ったら土下座しな」
頂点に達した怒りは、全て高等な魔法として放たれた。私はそれらを全て捌き切った。
王国中を震撼させる戦いの火蓋は、たった今切られたのである。
こんな噂が王の言葉として出されたのも、全てはウィジャスの力であった。
「交渉を承諾していただき、ありがとうございます」
「私はあまりいい案だとは思いませんがね、今からでも撤回をお勧めしますが」
「何を今更、絶対に勝って見せますとも。──頼みましたよ、ロゼッタ」
唐突の決定、しかも全て私に丸投げ! シエルの意外な一面に苦笑いを浮かべながら、私は小刻みに頷いた。ウィジャスは心配そうな顔でこちらを見ている、まぁもっとも、それで何か手を尽くしてくれるわけではないだろうが。
「では、私はこれで」
「ご足労をおかけしました、すみません……馬車も用意できなくて」
「いえいえ、私はこのフェンリルに乗って帰りますので」
そう言ってウィジャスは、城の前でお利口に座っている巨大な狼を撫でた。相当懐いているのか、警戒している様子は一切なかった。ウィジャスはそのまま狼にまたがり、あっという間に走り去って行った。
そこに、見知らぬ男がやって来た。
「おや、もうお帰りになられたのですか?」
「──ハルファス殿」
背後から声が聞こえ、シエルがお行儀よく頭を下げた。私も見よう見まねで頭を下げ、すぐに面を上げた。そこには、紫色の髪の青年がいた。赤いローブを纏い、いくつもの勲章やら何やらをぶら下げている……どうやらこのハルファスとか言う男、魔術師として相当な腕の持ち主らしい。
「世界最強の魔術師と名高い『風の魔術師』殿と言葉を交わしたかったのですが、残念です。──そこにいるのが、噂の?」
「ええ、私の友達のロゼッタです」
「どうも~ロゼッタで~す」
細めた目のいやらしさに、私は嫌な感じがした。このタイプの魔術師はプライドが高い、自分より下だと決めつけた相手に対しては、徹底的に侮辱の言葉を投げかけるのだ。これだけの勲章を持ち、王女直属の魔術師ともなれば、そのプライドの高さは計り知れない。
「……何か?」
「いや何、取るに足らないような小物だなと思いまして。私はてっきり、ウィジャス殿を味方に付けようとしていたのでは、と、考えていたのですよ。彼ならば私の、この国の王に認められたエーデルハイド家の魔法の腕にも対抗できますからね、ですがまぁ……安心しましたよ」
「まるで自分の方が上とでも言いたげですね」
「失礼、慢心が過ぎました。では、また近いうちにお会いしましょう……魔女殿、泥臭い王女様」
去っていくハルファスの背中、シエルは何も言わなかった。ただ、暗い顔でうつむいていたのだ。反論も怒りもしない、ただ、それが当然だと受け入れていた。
「……ムカつく」
私は髪の毛を一本抜きとり、それを丸で弓矢のように引き絞る……手を離すとそれは一本の矢のようになり、そのまま真っ直ぐ向かって行く。──ハルファスの隣にある、茶色い水たまりへと。
「っ!?」
「土臭いのは貴方の方じゃない? 綺麗な洋服のまま土遊びをしちゃいけないって、お母様に言われなかったのかな~?」
「──殺す」
抜き放った杖からぼんやりと白い球が放たれる。私が懐から出したのは、杖ではなく櫛……つまりは、母が使っていた形見である。
「ふんっ!」
櫛で髪を梳くと、抜け落ちた髪の毛から炎が躍り出る。それらは壁となり、放たれた白い球を相殺したのである。
「下がってて、シエル」
シエルは胸に手を置きながら、一歩、二歩と下がる。ハルファスは怒りを露にした表情で、杖を握りしめていた。
「いいだろう、貴様との決闘は此処で執り行う! 私が勝てば、貴様は問答無用で縛り首だ! ──魔女狩りの時間だ!」
「受けて立とうじゃないの。──その代わり、私が勝ったら土下座しな」
頂点に達した怒りは、全て高等な魔法として放たれた。私はそれらを全て捌き切った。
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