3 / 11
「第二話」『風の魔術師』
しおりを挟む
風よりも早く空気を裂きながら、空飛ぶ騎獣はものの数分で目的地へと降り立った。
「とうちゃーく!」
「……死ぬかと思った」
青ざめた表情のシエルは口元を押さえながら、軽く私の事を睨んでいた。本当に高い所が苦手なのだろう、冗談ではないその様子に、私はおろかノリノリで空を駆けていたイルもしょんぼりしてしまっている。
「ご、ごめんね」
「……まぁ、いいでしょう。それより師匠の家とやらは何処なんですか?」
シエルがそう言うのも無理はない。辺りを見渡しても家どころか、人が住んでいるかどうかも分からないような野原が広がっている。のどかではあるが、とても人がいるような場所とは思えないだろう。──そう、普通は。
「ねぇシエル。面白い物見せてあげるからさ、魔法使ってもいい?」
「何を言っているんですか? 駄目ですよ、娯楽の為に魔法を使うなんて」
「いいからいいから~」
私はにんまりと笑みを広げ、困り顔のシエルにおねだりをした。彼女は始めこそ厳しい顔をしていたものの、徐々に表情が解れていき、溜息と共に軽く頷いた。
「では見せましょう! ロゼッタちゃんの大スペクタルをっ!」
自慢の赤い頭髪を抜き取り、それを人差し指にぐるぐると巻く。髪の毛が巻かれた指で、空中に星を描く……すると空間が揺れ始め、光が歪に反射していくではないか。
「なっ、これは!?」
「師匠はとっても用心深い人なの。だから家に入れるのは信用してる魔術師か、愛娘の私だけなんだよね~。あっ、義理の娘って意味だよ?」
「これだけの隠蔽魔法、相当な腕の魔術師ではありませんか? もしかして魔法を使えるのは、貴女の師匠から教わったのですか?」
「うん、凄く教えるの上手なんだよ~」
人差し指で星を描き終わる頃には、私たちの目の前には立派な木造建築があった。私はドアノブに手をかけ、開きっぱなしのドアを開いて中に入る。
「ただいま~。お客様いるんだけど、家の中に入れてもいい~?」
『ロゼッタが人を連れて来るとは珍しいな、門限を過ぎて、連絡も無く他人を連れてきたことにはいろいろ言いたいが……まぁパーティに行かせたのは私だしな。今回は見逃してやろう、そこで待っていなさい』
そう言って、奥から足音がかつかつと響いてくる。私はシエルの方を見て、にんまりと笑って見せる。
「交渉とかは任せたよ、シエル」
「え、ええ……」
「? どうしたの、豆鉄砲喰らったみたいな顔してるけど」
瞬きの回数がやけに多いシエルに小首をかしげていると、背後から肩に手を置かれた。振り返ると、そこには私の育ての親が優雅に佇んでいた。
「──貴方は」
「おやおや、これは驚きましたな」
「え?」
深く頭を下げてから、師匠は地面に膝をついた。深い敬意を示すその態度に、私は思わず声を漏らした。
「お久しぶりです、シエル王女。私はウィジャス……『風の魔術師』と名乗った方が、分かりやすいですかな?」
不敵に笑う義父の言葉、困惑するシエル、二人に接点があったことに驚く私。お互いに状況を飲み込めていない私たち三人は、しばらくの間、玄関前で硬直していた。
「とうちゃーく!」
「……死ぬかと思った」
青ざめた表情のシエルは口元を押さえながら、軽く私の事を睨んでいた。本当に高い所が苦手なのだろう、冗談ではないその様子に、私はおろかノリノリで空を駆けていたイルもしょんぼりしてしまっている。
「ご、ごめんね」
「……まぁ、いいでしょう。それより師匠の家とやらは何処なんですか?」
シエルがそう言うのも無理はない。辺りを見渡しても家どころか、人が住んでいるかどうかも分からないような野原が広がっている。のどかではあるが、とても人がいるような場所とは思えないだろう。──そう、普通は。
「ねぇシエル。面白い物見せてあげるからさ、魔法使ってもいい?」
「何を言っているんですか? 駄目ですよ、娯楽の為に魔法を使うなんて」
「いいからいいから~」
私はにんまりと笑みを広げ、困り顔のシエルにおねだりをした。彼女は始めこそ厳しい顔をしていたものの、徐々に表情が解れていき、溜息と共に軽く頷いた。
「では見せましょう! ロゼッタちゃんの大スペクタルをっ!」
自慢の赤い頭髪を抜き取り、それを人差し指にぐるぐると巻く。髪の毛が巻かれた指で、空中に星を描く……すると空間が揺れ始め、光が歪に反射していくではないか。
「なっ、これは!?」
「師匠はとっても用心深い人なの。だから家に入れるのは信用してる魔術師か、愛娘の私だけなんだよね~。あっ、義理の娘って意味だよ?」
「これだけの隠蔽魔法、相当な腕の魔術師ではありませんか? もしかして魔法を使えるのは、貴女の師匠から教わったのですか?」
「うん、凄く教えるの上手なんだよ~」
人差し指で星を描き終わる頃には、私たちの目の前には立派な木造建築があった。私はドアノブに手をかけ、開きっぱなしのドアを開いて中に入る。
「ただいま~。お客様いるんだけど、家の中に入れてもいい~?」
『ロゼッタが人を連れて来るとは珍しいな、門限を過ぎて、連絡も無く他人を連れてきたことにはいろいろ言いたいが……まぁパーティに行かせたのは私だしな。今回は見逃してやろう、そこで待っていなさい』
そう言って、奥から足音がかつかつと響いてくる。私はシエルの方を見て、にんまりと笑って見せる。
「交渉とかは任せたよ、シエル」
「え、ええ……」
「? どうしたの、豆鉄砲喰らったみたいな顔してるけど」
瞬きの回数がやけに多いシエルに小首をかしげていると、背後から肩に手を置かれた。振り返ると、そこには私の育ての親が優雅に佇んでいた。
「──貴方は」
「おやおや、これは驚きましたな」
「え?」
深く頭を下げてから、師匠は地面に膝をついた。深い敬意を示すその態度に、私は思わず声を漏らした。
「お久しぶりです、シエル王女。私はウィジャス……『風の魔術師』と名乗った方が、分かりやすいですかな?」
不敵に笑う義父の言葉、困惑するシエル、二人に接点があったことに驚く私。お互いに状況を飲み込めていない私たち三人は、しばらくの間、玄関前で硬直していた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。


私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる