嫌われ者は異世界で王弟殿下に愛される

希咲さき

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番外編

やきもち

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※アシュレイがやきもち妬く話。

          ♢♦︎♢

「それじゃあ、行ってくるね!!」
「……ああ」

 軽い足取りで駆け出す枢が向かうのは、ミレイアの部屋だ。
 今日は精霊塔の仕事が休みなため、双子のお守りを買って出ていた。

 普通乳母に任せたりするのだろうが、ミレイアが己の手で育てたいと言い、また枢が日本ではそれが当たり前だったと言うと受け入れられ、余程のことがない限りミレイアとウィリアムが世話をしている。
 けれども育児疲れもあるだろうと気を利かせ、こうして枢が手伝いに行っているわけなのだ。

「ミレイア様!」
「カナメ様! いつもありがとうございます」
「いいえ、僕も二人に会えるのが楽しみなのでっ」

 言いながら揺りかごに近づく。
 中を覗き込めば、両親と同じアクアマリンが見つめ返してくる。

「こんにちは、イリアス、アリア」
「カナメ様がいらっしゃると、二人ともいつもご機嫌なんですのよ」
「えぇ? またまた。そんな事ないですって」

 キャッキャと笑い声をあげる赤子たちに、日々の疲れが癒されるのを感じる枢。
 他愛もない話をしながら、泣きだす子供たちをミレイアと一緒に一人ずつあやしたり、寝かしつけの手伝いをしたりと長い時間を彼女たちと過した。
 そんな中唐突にミレイアが切り出す。

「カナメ様、殿下は拗ねておられませんか?」
「へっ? アッシュ殿下ですか? どうして?」
「お休みになられる度こちらにいらしてくれるでしょう? 構って差しあげてるのかと思いまして」
「構うって……」
「あら。意外とやきもち妬きだと思いますわよ、殿下は」
「えー? ……あ、そういえば」

 そう言われて思い出したのは、ミレイアの妊娠がわかってすぐの出来事だ。
 アシュレイの子供を産んでやれないと悲しむ枢に、子供にばかり構われたら拗ねる、といったようなことを彼は言っていた。

「なにか思い当たる節があるみたいですわね?」
「う、まぁ。はい……」
「ふふふっ。カナメ様のおかげで、私とても助かってますわ。いつもありがとうございます。でも、自分の伴侶はもっと大切にして差し上げなければダメよ?」
「……はい」

 今日も普通に送り出してくれたが、内心はどうだったのだろう。そう考えたら、なんだか無性に会いたくなった。

「あの、ミレイア様」
「もちろん、戻られて大丈夫ですわ。今日も一日ありがとうございました」
「っはい! また今度伺いますね!」

 お昼寝をしている双子を優しく撫でると、それから枢は慌てて部屋に戻っていく。その背を見ながら優しく微笑むミレイアは、母でありそして枢の姉のようであった。

          ♢♦︎♢

「ただいま……っ!」
「おや、今日はいつもより早かったな」

 枢が飛び込んだのはアシュレイの私室。
 机に向かって書類仕事をしていたアシュレイは、少し驚きながらも笑顔で迎え入れてくれた。
 室内にはリオンもいたが、彼らに気を使い退室している。
 それから二人はソファに腰を下ろす。

「珍しいな、こんな時間に戻ってくるのも、私を訪ねてくるのも」
「う……。ごめん、仕事邪魔しちゃった?」
「邪魔なはずがあるか。休憩も取りたかったからちょうど良かった」
「あのね、あの……。アシュレイ、寂しかったり、した?」
「…………なに?」

 モジモジしながら問いかけた枢に、アシュレイは首を傾げる。

「いや、あのね? ミレイア様が、休みの度に双子を構ってたらアシュレイがやきもち妬くんじゃないかって、言ってて……」
「……!」
「いつも普通に見送ってくれてたけど、本当はどう思ってたのかなって、思って」
「それで戻ってきた?」
「うん……」

 チラと上目遣いに隣を見れば、アシュレイは両手で顔を覆って、深いため息をついていた。

「アシュレイ?」
「っはぁ~~。ミレイアには敵わんな……」
「そ、れって……!」
「こんなの、大人気ないしみっともないから、言うつもりなんてなかったんだが」

 言いながら手を退けたアシュレイは、ほんのり頬や耳を赤く染め、なんとも言えない複雑な表情をしていた。

「……ミレイアや子供たちと仲良くしているのはもちろん嬉しい。カナメが楽しそうなのもいい。ただ、その……。もう少し、私のことも構ってくれると、嬉しい」
「ーーアシュレイっ!」

 気恥しそうに視線を逸らすアシュレイに、堪らない気持ちになって思い切り抱きつく。そのまま勢いで膝に乗り上げた。

「ほんとは、行かないで欲しかった?」
「……ああ」
「寂しかった?」
「少しな」
「やきもち、妬いた?」
「……小さい子供になにを、と自分でも呆れた」
「あはははっ! アシュレイ、可愛いっ」

 彼の頭を自分の胸に押し付けるようにして抱きしめ、柔らかな銀髪に頬擦りをする。
 それから体を離して、少しだけ高い位置からアシュレイを見つめる。

「ごめんね、気付いてなくて。でも、もっと早くに言ってくれたら良かったのに」
「お前の楽しみを奪いたくはないからな」
「でも、僕の一番好きな人はアシュレイだよ? 大切な番を寂しくさせちゃダメでしょ?」
「カナメ……」
「遊びに行くのは楽しいから、やめられないけど、回数は減らすね。それで、もっとアシュレイと一緒にいる」
「……我慢は、してないか?」
「っもう! 僕のことばっかり! 全然我慢なんてしてない。むしろ、アシュレイが我慢してるでしょ?」
「それは、その」
「我慢しなくていいから。行かないでって言ったらちゃんと考えるから、ね? だからアシュレイ。ーー今は、どうしたい?」

 コテンと首を傾げる枢。その瞳は愛しさと愉しさ、それから誘うような輝きを放つ。

「……そうだな。じゃあ、寂しくさせた分たっぷり甘やかしてくれ」
「ふふ、いいよ……」

 そうして重なる唇。この後アシュレイが満足するまで、存分に彼を甘やかすことになったのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ということでアシュレイやきもち回です。
ハッキリとやきもち妬いてる描写はないですが、
心の中では「また行くのか」「双子にばかり構ってないで、私も構え」などと思っているアシュレイです。
段々と枢の男前度?包容力?が上がって、積極性も増してきてますね……。
幸せな環境にいるからでしょうね!
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