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番外編
彼らへのお礼
しおりを挟む精霊にやっとお礼をする話です。
♢♦︎♢
「ーーというわけで。精霊さんって、なにが好きだと思いますか?」
枢がいるのは精霊塔だ。仕事の合間、食事をしながらユリウスや他の術師、さらにはヘルベールをも巻き込んで相談をしている。
「うーん……。そう言われましても、彼らの好きな物など聞いたこともございませんし」
「そもそも、好き嫌いとかあるんですかね?」
「神子様がなさる事なら、なんでも喜んでくれるような気がするのですが……」
「確かに」
皆真剣に話を聞いてくれるのだが、なかなかいい案が出ない。それどころか、枢がすることならなんでもいいのでは? という雰囲気で纏まってしまいそうだった。
「それじゃ今までと変わらないじゃないですか‼︎ 僕はあの子たちにお礼がしたいんです!」
この世界に来た時からずっと枢の傍にいてくれた。刺された時も、攫われた時も、この間のミレイアたちの結婚式にだって力を貸してくれた。
そんな彼らにきちんとした形でお礼がしたいと思ったのだ。
「そうでございますねぇ……」
真面目な顔の枢を見て、ゆっくりとヘルベールが口を開いた。
「彼らが物を食べるかはわからないですが、精霊の森でお茶会などいかがです?」
「お茶会……? っ、それいいかもです‼︎」
閃いたとばかりに表情が明るくなった枢は、午後の仕事に張り切って取り組んだ。
そして翌日。
「では、よろしくお願いします……‼︎」
「はい。クッキーですね。どのような物をお作りになりますか?」
本日は以前も来たことのある厨房に来ていた。
あの時と同じで護衛たちも引き連れ、さらに今回はアシュレイやミレイアまでいる。
「えっと、バタークッキーとか、チョコクッキーとか。とりあえずシンプルな物がいいかなと。あと、形は精霊さんモチーフにしたくて……」
「ほう……」
事前準備してきた精霊のイラストを料理長に見せると、一つ頷いた。
「わかりました。では、早速取り掛かりましょう」
にっこり微笑んだ彼に手解きを受けながら、枢と、なぜか一緒にやると言って参加してきたミレイアとで、クッキーを量産していった。
「ーーあとは焼き上がりを待つだけです」
「ふー! 意外と疲れた……」
「こうやってお菓子作りをするの、楽しいですわね‼︎」
「そうですね! 出来上がったら陛下にお渡しするんでしょう?」
「もちろん! カナメ様も殿下に差し上げますでしょう?」
「それは、はい。もちろん……。でも、あくまでも主役は精霊さんなので‼︎」
「えぇ、わかっておりますわ! お茶会喜んで下さいますかしら」
オーブンの傍に準備した椅子に座って、二人で楽しくお喋りしていると、焼き上がりを告げる音がした。
「っ、できた!」
「お熱いですから、ゆっくり取り出しましょうね」
言いながら料理長が天板を取り出し、台の上に広げて見せる。
芳しい香りと、出来立ての湯気が立ち上り、こんがりと黄金色に焼けたクッキーは美味しそうだった。
「おいしそうにできましたね」
「はいっ!」
「良かったですわ‼︎」
風魔法で熱くない程度に冷ますと、枢とミレイアはいくつか取り分けていく。調理を見守ってくれていた彼らと、未だ仕事に精を出しているウィリアムに食べてもらうためだ。
残りは全部皿に盛り付ける。料理長に準備してもらったお茶をジュードに運んでもらって、一同は精霊の森へと向かう。
開けた場所につくと、いつの間に準備してくれていたのかテーブルが設置してあり、そこに諸々を置くと精霊たちを呼んだ。
「精霊さんたち来て‼︎」
彼らの住処ということもあり、いつも以上にたくさんの数の精霊が、一気に集まる。
「あのね、これクッキーって言うんだけど。いつも君達にお世話になってるから、お礼にと思って作ってきたんだ! 食べれる……のかな?」
キラキラ輝く精霊に、ひとつ摘んで差し出してみる。動きを止めてクッキーを見つめていた彼らのうち、一匹が動いた。
小さな口でひとくち齧り付いた、かと思うと飛び上がって枢たちの頭上を回り出す。
「っえ⁉︎ どうしたの……っ⁉︎」
「カナメ様‼︎」
頭上の一匹に気を取られていたら、ユリウスに呼ばれる。はっとして視線を戻すと、枢の差し出したクッキーにたくさんの精霊が齧り付いており、なんなら皿の上のクッキーにも群がっていた。
「これは……喜んでくれてる……?」
「そうみたいですわね……‼︎」
クッキーを齧ると飛び上がって、いつも以上に煌めいては、枢やミレイア、さらには精霊が見えないアシュレイやマクシミリアンにも擦り寄り、喜びを表現していた。
「よかったぁ‼︎ たくさんあるからいっぱい食べてね‼︎ お茶もあるよ!」
「私たちも座って食べませんこと?」
「そうですね、食べましょうか‼︎」
「同じテーブルに着くことなどできない」と言った侍従と護衛に、ミレイアとアシュレイが「座らない人にクッキーはあげませんわ」「命令だ。いいから座れ」と言い放ち、逆らえなかった彼らと全員で席に着く。
キラキラキラキラ、いつまでも眩しく光る精霊たちと、それを見ながら楽しげにクッキーを摘む枢たち。そこには優しく穏やかな空気が流れていた。
ーーそうして精霊の森での少し不思議なお茶会は幕を開け、以来不定期ではあるが、時折メンバーを変えながらも継続して行われることになったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ということで、以前から枢が「精霊さんにお礼してあげるからね!」と言っていたことが、実現しました。
精霊の声は誰にも聞こえたことありませんが、目や口などはあるので、食べることは可能です。
これから人数が変動しつつも、精霊の力をたくさん借りたなぁと思った時には、お菓子を作ってはお茶会を開くというのが恒例になると思います。
みんな仲良しファミリー感出てて良いですね!
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