嫌われ者は異世界で王弟殿下に愛される

希咲さき

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番外編

ウィリアムとミレイアの結婚式

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「ミレイア様……、とっても素敵です!!」
「ありがとうございます、カナメ様!」

 枢は瞳を潤ませながらミレイアを見ていた。
 本日は彼女とウィリアムの結婚式当日だった。

 この日のために、ひと月かけて用意されたウェディングドレスを身にまとったミレイアは、かつてないほど美しかった。
 プリンセスラインのドレスは何枚もチュールを重ねてあり、縫い付けられた宝石がキラキラと輝いている。トレーン部分にも細やかな刺繍が施してあり、陽の光に反射して、美しい模様を浮かび上がらせていた。
 編み上げられた髪の毛には青色の花が飾られ、彼女の豊かな金髪をより一層彩っている。
 愛するウィリアムと同じ銀色の輝きを放つジュエリーや、ティアラ。それらに嵌められた二人の瞳と同じ青色の宝石。眩く輝くそのどれもが、ウィリアムとミレイア、二人の結婚を祝福しているようだった。

「なんだか、ドキドキしてきましたわ……!」
「僕もですっ」
「カナメ様が緊張してどうするんですの?」
「そうなんですけど~!!」

 ミレイアにクスクスと笑われながら話していると、控え室の扉が開く。

「準備は出来たか? ……ミレイア、とても綺麗だな」
「アシュレイ殿下、ありがとうございます! ですが、そういうことは私ではなくカナメ様に言ってあげてくださいまし」
「うぇ……!?」
「おっと、そうだな。愛しのつがいの前で、人のつがいを褒めるのは良くないか」
「そうですわ!……っと、そろそろ式が始まりますわね。お二方とも席にお戻り下さいませ」
「あぁ、そうさせてもらう」
「待ってますね……!」

 にこやかな笑みをこぼすミレイアに手を振り、二人は教会の中へ戻り、席へと腰を下ろした。

「アシュレイ、準備は大丈夫?」
「もちろんだ。カナメは大丈夫か?」
「っ僕は、言っても精霊さん呼ぶだけだし……」
「緊張してるだろう? 本当に大丈夫か?」
「大丈夫……!! でも、ドキドキし過ぎて不安だから、手は握ってて欲しい……」
「わかった」

 ヒソヒソと話していると、足音が聞こえる。顔を上げるとそこには司祭が立っていた。

「……始まるな」
「うん……ッ」

 しんと静まりかえった室内。ややあって重厚な扉が開く音が聞こえた。
 そちらに目をやれば、腕を組んで歩いてくるウィリアムとミレイアがいた。

 王冠を戴きジュストコールに身を包んだウィリアムは、凛々しく威厳に満ち溢れていた。その傍らのミレイアは先程見た通りだが、頬をバラ色に染めており、幸せそうな様子が伺える。

 一時は揃って攫われ、身の危険を感じたこともあるからだろうか、そのミレイアを見ると、涙が浮かんでくる。

(ふたりが幸せそうで、本当に良かった……)

 祭壇の前に並び立つ二人の背を見ながら、アシュレイと繋いだままの手に力を込める。
 彼は優しく握り返してくれて、それにホッと息をつく。

 厳かな雰囲気のまま式は進む。

「ウィリアム・アーノルド・ネオブランジェ。汝はミレイア・エルチェットを生涯の伴侶とし、愛し抜くことを誓いますか?」
「はい。誓います」
「ミレイア・エルチェット。汝はウィリアム・アーノルド・ネオブランジェを生涯の伴侶とし、愛し抜くことを誓いますか?」
「はい。誓います」
「では誓のキスを」

 言われて向き合った二人が、小さく微笑みあったのが見えた。
 ウィリアムがミレイアのベールを持ち上げる。その下から覗いた美しい青色は、涙でキラキラと輝いていた。
 それがゆっくりと閉じられると、触れるだけのキスがおとされた。

「っ、アシュレイ」
「あぁ」

 目を開け、唇を二人が離した瞬間。枢は小さな声で精霊を呼んだ。

「精霊さん、お願い」

 ふっと現れた十匹ほどの精霊たちは、新郎新婦の頭上へと飛んでゆく。
 気づいたミレイアが「あ、」と小さく声をあげると同時に、精霊たちはくるくると踊りだし、二人に黄金色の煌めきを降らせた。
 かと思えば、今度はどこからか吹いてきた風に乗り、真っ赤な薔薇の花びらが宙に舞う。

 その幻想的な光景に、式場にいる誰もが感嘆のため息をもらした。

 自分たちのサプライズが成功したことを確信し、枢は大きく息を吐く。それからミレイアたちを見ると、彼らもまたこちらを見ていた。

『ありがとう』と口の動きだけで伝えられたそれに、枢はアシュレイと顔を見合せ、嬉しそうに微笑んだ。

 ーーこうして、国王夫妻の結婚式は幕を閉じる。

 式が終われば今度はパレードだ。二人を乗せた馬車が街に繰り出せば、盛大な歓声が上がる。
 誰も彼もが二人を祝福する声が響き、その日はネオブランジェ国内が賑わい続けていたのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ということで、ウィリアムとミレイアの結婚式でした。
ジューンブライドってね!
(水の一の月は現代日本でいう六月)

精霊が降らせたのはなんでしょうね?魔法使う時も
金色の粒が舞ってましたけども、これはそれとは関係ないです()
薔薇の花びらは、アシュレイが風魔法に乗せて振らせました。
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