嫌われ者は異世界で王弟殿下に愛される

希咲さき

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番外編

愚か者の末路①

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 ーー夢を見た。
 温かくてふわふわした心地の夢。キラキラ光っている「何か」が自分に語りかける。

 『あの子を僕達のところに送ってくれてありがとう。キミには感謝しているよ』
『でも、あの子を傷つけたことは許さない』
『あの子の苦しみを味わうといい』

 (何を言っているんだ?お前は誰だ?あの子って…?)

 言いたいことは沢山あるのに、声にはならずに消えていく。
 夢から覚める直前、その光るモノが飛んで行った先に、見覚えのある黒髪の後ろ姿を見た気がした。

ーーーーーー
ーーーー
ーー


 「……なんだったんだ?あの夢」
「どうしたんだ瑞希?」
「えっ?いや、何でもないぞ!」

 肩を抱き寄せられながら白戸瑞希は答える。
 ここは元生徒会長の部屋のベッドの上だ。昨夜瑞希はこの部屋に泊まった。寝起きから構いたがる元会長に若干ウンザリしつつ、瑞希は身支度を始める。

 「もう起きるのか?もう少しゆっくりでいいだろ……?」
「そんなこと言って、誰かに見られたらどうすんだよ!」
「見せつけてやればいいじゃねぇか。俺たちが付き合ってるって」

 昨夜の情事を引き摺るように、艶っぽい気だるげな声で元会長は言う。

 「はぁ?別にお前と付き合ってるわけじゃねーだろ?最初に言ったよな?」
「いい加減俺のモノになれよ、瑞希」
「やなこった」

 口も手も動かして準備していれば、元会長も起きてくる。登校の用意が出来ると、彼に構わずさっさと部屋を後にした。

 「あー、つまんねぇな。彰俊も忍も……元生徒会全員か。セックスするのは気持ちいいから良いんだけど、鬱陶しいんだよな~」

 ボヤきながら廊下を進む。
 近頃瑞希は退屈していた。それと言うのも楽しいが居なくなってしまったからだ。

 「まっさか、死んじゃうなんてな~。ほんと、つまんねー」

 ーーー枢が階段から落ちたあの日。食堂は騒然としていた。
 瑞希は落ちていった枢に対し、「どうせ大怪我するくらいで学校には戻ってくるだろ。次はどうやってイジってやるか」と最低なことを考えていたのだが。

 それがどうしたことか、病院に運ばれたあと亡くなったと聞かされた。
 これにはさすがの瑞希も驚いたものだ。

 「イジる相手居なくてつまんねーな……。どっかにアイツの代わりになりそうなやついねーかな……」

 瑞希は枢の死に対し、とくになんの感情も抱いていなかった。ただオモチャを失ったというだけ。

 「……お?」

 いつもより少し早い時間に登校してみれば、自分のクラスより手前の教室に、ポツンと席に座っている人影を見つけた。
 モッサリとした黒髪は重く、野暮ったく見える。前髪は長く目が隠れていた。若干猫背になりつつ、手元でなにかしているようだ。

 (見るからに根暗だな……。んー、しばらくコイツで遊んでみるか?)

 コイツはどんな反応をするだろうか?最後の方の枢は反論も抵抗も何も無くて、正直つまらなかったのだ。

 (泣いて喚いて、楽しませてくれたらいいなぁ)

 ニヤリと笑って自分の教室を目指す。まず先にすることはあの根暗の名前を知ることだ。

 「あとで彰俊に聞こうっと!」

 また楽しくなりそうな学園生活に、瑞希の気分も上昇した。




          *      *      *





 「なぁ!待てって稔!」
「っや、やめてくださ……ッ!来ないで…!!」
「なんでそんなこと言うんだよ!友達だろ!?」
「っ、ちがう……!」

 あの日見つけた根暗男子の名前は「早河稔はやかわみのり」だと教えてもらった。
 それからすぐに瑞希は行動を起こす。親友を失って悲しいと、心にもないことを言っては稔に近づき、枢の時と同じように絡んだ。……だが。
 稔が周囲から孤立するように立ち回るが、今回はなかなか枢の時のようにはいかなかった。

 「おっかしいなー?なーんか上手くいかない……」

 まず元々稔は一人だった。高等部からこの学園に来たらしいが、この三年間誰ともつるんでいないらしい。常に孤立し、グループワークの時ですら滅多にクラスメイトと口を聞かないのだとか。これでは孤立させるも何もないわけだ。
 それに、いくら瑞希が友達だと言って迫ろうと、決して折れなかった。絶対に否定してくるし、瑞希から逃げている。
 構い始めて一週間ほど経つ為、元生徒会の面々や親衛隊が動いているはずだが、これといって稔に変化はなかった。

 「どうなってんだ?制裁は……?」

 枢が居なくなって一人になった部屋で呟く。
 想像していた展開と違いすぎるのだ。枢の時はもっと予想通りに事が運んでいた。

 「これはこれで面白くねー。まだ枢の方が遊びがいあったわ……」

 うーん、と頭を悩ませる。
 こんなくだらない事、辞めてしまえばいいものを、それは考えていない瑞希は次の作戦を考える。

 「しばらく親衛隊使って様子見るか。最悪襲われでもしたら大人しくなるかな?」

 くふくふと笑いながら、絶望に歪む稔の顔を思い浮かべる。「やめて」と懇願する稔を想像するだけで楽しかった。
 瑞希の心にはただ、自分の快楽を満たす事しか存在しない。
 裕福な家庭で育ち、顔立ちの良さから周りにチヤホヤされ、何でも望むまま与えられてきた彼にとって、周囲の人間は自分の欲望を満たす道具でしかない。そこに相手の感情なんて存在しない。あったとしても、自分の願いや行動ひとつで変えられるものなのだ。

 そうして親衛隊に稔の事を話し、うまく彼らを誘導、そして稔を襲わせることに成功した日。
 再び夢を見た。
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